仮面ライダーに変身して運命は変えられるだろうか? 作:神浄刀矢
ショッピングモールを出て、和真はモノレールの駅に着く。
見ると、丁度モノレールがIS学園方向に出発する所であった。
後ろからはサツが追いかけて来ているし、決断しなければならない。
「...やってみるしか、ねえな」
地面を蹴って飛び上がり、和真は空を舞う。駅の屋根の上に着地し、助走をつけて再びジャンプ。
激しい衝撃が体を襲うが、なんとか車体の後面につかまることに成功する。車内からは悲鳴が聞こえるが、知ったことではない。
「ってて...まぁ冒険はしてみるもんだな。もうやりたくねえけど」
ぼやく和真と共にモノレールは加速、駅を後にした。
(IS学園って警察入れんのかな?)
当然ながら怪しまれて落とされかけたりもしたが、なんとかIS学園に
辿り着く。先に情報が届いていたのか、和真をとらえようと駅員(?)が飛びかかって来たのでとりあえず殴って眠らせておいた。
原型はとどめているので、さして問題にはなるまい。
それはそうとここで時間を取られるわけにはいかない。バイクを確保する為、和真は駐車場に向かって走りだした。
(我ながらすげえ事考えたもんだなァ...篠ノ之束に喧嘩売るとか。ま、織斑一夏の為にもなるわけだし、やるしかねえよな)
駐車場に着き、専用バイクブルースペイダーを発見。どうやら調子は問題はなさそうだ。
「おい生きてんだろ、AI」
『AIという名前ではないのだがね。せめて別の名を』
「分かったよ、ベルトさん」
『...結局あだ名なのかね?まあ構わないが』
ベルトさん(以後これで統一)の言葉を聞きつつ、バイクに跨る。
エンジンを掛けて発進させ、出口まで来たが、割と大きな問題にぶち当たった。
「えーと...これどうやって外に出れば良いんだ?」
そう、問題は外に出る為の経路なのだ。
ここIS学園は島であり、基本的にモノレールによって外部と繋がっている。港もあるし、船の出入りもあるといえばあるが。
出航まで待つわけには行かないし、かといってレールの上を走るというスリル満点のアトラクションを体験するなど真っ平ごめんだ。
「やべーよ、時間もねえのに出る道が無いとか。笑えてくるぜ」
『お困りのようだね。助けてやろうか』
「うるせえよ。口調微妙に変わってるしなんで上から目線なんだよ、ぶっ壊すぞこのAI」
『すまない。しかし外に出るのが目的なのだろう?』
「まぁな。策でもあんのか?」
『ディスプレイにある『フルーツバスケット』と表示されているボタンを押してみると良い』
「マジか、知らねえよンなもん。つかフルーツバスケットって何?」
『まあ押してみれば分かる』
「えーっと...これだな」
押してみると、突如バイクが振動し始めた。
壊れるのかと思ったが、どうやら違ったらしい。なんとバイクの両サイドに戦闘機チックな翼が付いており、全体的にバイクの原型は保っているが、飛行に適した形へと変化している。
ただし、変な音声が入ったのだが。
『ロックオープン!極アームズ!大・大・大・大将軍!』
「ナニコレ?何この音声?大将軍?!しかもこの形ブルースペイダーっていうか、ハードタービュラーに近くね?」
『まあ、うむ、そんなものだな。飛べば向こう岸にすぐ着くぞ』
「そんな便利な物があるなら先に言えよ、ったく」
ぼやきながらもエンジンを始動させ、ブルースペイダータービュラー(以後これに統一)は上昇する。
そして対岸に向かって加速していった。
途中で警察官が乗ったモノレールが見えたが、和真にとってはもう関係のないことである。
今度は出て来たは良いが、また問題が浮上した。
「おいベルトさん。このタービュラーってどうやって戻すんだよ。さっぱり分かんねえぞ」
『ディスプレイにもう1つボタンがあるはずだ。使ってないものが』
「あーこれか。『カチドキ』ってやつ?今度はまともなんだろうな?」
『...とにかく押してみたまえ。元に戻ることだけは保障しよう』
「はあ...そうですかい。まぁいい、時間ねえから押すぞ!」
それを押すと、確かに元には戻った。戻ったのだが、今度も明らかに変な音声が入っていた。
『カチドキアームズ!いざ出陣、エイエイオー!』
「なにこれ?確かに出陣だけど...マジで要らねえよ、戻ってるだけだかんな!つくづくアト子さんの考えてる事は分からねえよ!」
大きな溜息を吐くが、ブルースペイダーが元の状態に戻るということはできたので、良しとする。
さて、残された時間もあまりない。現在日曜日で、臨海学校が始まるのが翌日の月曜日だ。
篠ノ之束のいると思われる場所は分かるが、目立つのを避けるためにも陸路を使うのでそれなりに時間もかかる。
おまけに今は警察にも追われる身だ。
リミットは明日の午前5時と見ていいだろう。
とにかく間に合わねばならないので、和真はブルースペイダーを発進させて高速道路に向かった。
太陽の光を受け、建ち並ぶビル群。道行く人々の声。行き交う車の騒音。走り去る電車の轟音。都市(まち)の喧騒。
様々な音を聞きながら、和真はバイクを走らせる。
警察のサイレンが聞こえなくなる事はなく、執拗に追いかけて来ているのが判った。
「しつこい野郎共だな...ったく」
インターをすり抜け、高速に入る。ETCなど知ったことか。
目指すは山梨・静岡方面、富士山の麓。そこに篠ノ之束がいると和真は予想している。地球の本棚にて検索した結果、富士山の麓の一角のみ、異常があると判明したのだ。通常の検索機能ならば分からなかっただろうが、地球そのものを使って検索すればすぐ判るのだ。
まあ和真は本来あの本棚は使えないので、短時間しか居られなかったが。
(ま、それで充分だったんだけどな)
空を仰ぎ見、巡ってきた世界に想いを馳せる。
17、8にしてこんな旅をする高校生なんざ珍しいものだろう。
最も高校なんて行っていないも同然なのだが。
などと考えていると、背後からサイレンが聞こえてくる。
これまでの鈍足のパトカーとは違う、高速に対応した車だ。高速パトカーとでもいうヤツなのだろうか。
「マジかよ...サツも本気出してきやがったな、こりゃ」
「「「そこのバイク、止まりなさい!」」」
どうやら警告をするのは忘れないらしい。だがそんなものは無意味だ、今の和真には。
ようやくこの世界で為すべきことが見つかった今、警察などに捕まるわけにはいかない。
「ハッ、知ったこっちゃねえ。それに俺ァてめえらに捕まるほどヤワじゃねえんだ」
言って和真はブルースペイダーを更に加速させる。
法定速度を明らかにオーバーしているが、この世界の住人ではない故、ここの法も当てはまらないのだ。そもそも戸籍がここにはない。
そして走り続けること1時間程だろうか、富士山が見えてきた。
東京から静岡まで1時間って速いのか遅いのか、和真自身分からない。
元々ウチの親の車がオーバースペックだったので、法定基準を知らないのだ。
「そろそろ下りるか」
富士山が見える辺りでブレーキをかけて、和真はバイクを止める。
突っ込んでくる車は蹴っ飛ばして盾にし、後方車両が来るのを防ぐ。
背中に手を突っ込んで取り出したのは、一丁のショットガン。
実はただのショットガンではなく、アト子さん特製の強化ショットガンなのである。
これを脇のコンクリで造られた壁に向けて引き金を引く。
1発で壁は壊れ、下道への脱出経路が確保できた。
「じゃあな、クソッタレ共」
手榴弾を1つ後方車両へと放り、同時にブルースペイダーを加速させて先程開けた穴から飛び出した。
しかしここは高速道路、高さもそれなりにある所だ。
素早くタービュラーにチェンジし、バイクは富士山麓へと飛んで行った。
法定速度を無視して15〜20分ほど飛んだだろうか、しばらくすると都市部の雰囲気は消え去り、木々が生える田舎じみた風景が広がり始めた。
そろそろタイミング的にも下りても問題はあるまいと思い、元の状態に戻してバイクは公道を走りだす。
ある程度行ったところで見えてきたのは、白い外装の建物だ。
通っていく車両は皆、あの建物は見えていないようで、あそこで道が途切れているかのように曲がっていく。
「ステルス機能でも付いてんのか?まぁ付いててもおかしくねえけどよォ....篠ノ之束だしなぁ」
言いながらこれまたアト子さん特製の双眼鏡を覗くと、やはり建物の周囲に何かバリアとでもいうのか、そのようなモノが張り巡らされている。
人間には容易に突破するのは難しいかもしれない。そう、人間には。
「さてと...あれくらいならコレでも消せるかねェ」
取り出したのは一見普通のロケット弾。だが中身は全く別の物だ。
それを黒い筒にこめて、肩に担ぐように構え、和真は撃ち放った。
射出されたロケット弾は見事不可視のバリア直撃した。
「おー、バリア消えてやがるぜ。まさかこんなとこで役に立つなんてなァ...驚きだな」
実は先程の弾はただのロケット弾ではなく、アト子さん曰くあらゆるバリアを消し去る効果があると言われてだいぶ前に渡され、使わないでお蔵入りしかけていたものだった。
実際にバリアを消し去れるとは思わなかったし、使う日が来るとも思わなかったので、微妙な気分ではある。
「ま、行くとするか。ベルトさんはここで待っててくれや」
『1人で問題ないのかね?噂に聞いただけだが、奴は人間ではないらしいぞ。それでいて様々な世界で目撃されているとも聞く』
「へえ、面白いな...こりゃあ相手にとって不足はねえ」
和真は双眼鏡と筒をしまい、取り出したのは一振りの刀である。
それをベルトに差し、篠ノ之束がいるであろう白い建物へと和真は歩き出した。
ドアの前まで来たが、特別なにか罠があった訳でもなかった。
しかし和真は知っている。罠よりも強力なヤツが中に居ることに。
この刀はどうせ初戦のみでしか役に立たないだろう。名のある刀らしいが、折れるのは確定だし、本戦である篠ノ之束との戦闘では、変身するしか手はないと見ていい。
しゅらん、と刀を抜く。警戒を怠らず、和真はドアを蹴り開けた。
「どうもー八坂という者なんですがー」
「...お客様でしょうか?先程屋外のバリアが消されたのですが、それと関係しているのですか」
やはり避けては通れないようだ、クロエ・クロニクル。この世界ではメイド的なポジションにいるのか。
「やっぱ避けらんねえよな...篠ノ之束に会うためには」
「どちら様です?本日はめんか」
「だからァ...八坂という者だって言ってんだろうが!」
辛抱堪らず、和真は出迎えて来た灰色がかった銀髪の少女に回し蹴りを食らわせ、奥の壁にまで吹っ飛ばした。
外見中学生レベルではあるものの、この少女はヒトではない。
創られた少女、希少なヒト型のISなのだ。まあ希少だからといって手加減はしないが。
「てめえら人間モドキはあれか、ロボットみてえな事しかできねえのか?」
「...敵性反応。排除します」
「おお、やっぱロボじゃねえか」
閉じていた眼を開くと、その奥にあったのは黒い白眼に金色の黒眼であった。ワールドパージ編の一夏と同じものだ。
刹那、世界が変化した。全てが純白になり、把握が困難な空間へと変貌していく。確かこの少女の能力だったはずだ。元からだったか、束に付けられたものだったかは忘れた。
だが、しかし。
「...んなもん俺に通じねえよ。俺ァ篠ノ之束に喧嘩売ろうってんだ。この程度効きはしないぜ」
瞬時に間合いを詰めた和真の剣が、少女の胸を貫いていた。
「...なん、です、か?人間の速さ、では、ナイ」
途切れ途切れの言葉を吐きながらも、少女の手は刃を掴む。
足掻くのかと思ったが、違うようだ。血を流しながらも両手でその刃を掴み、なんと握力のみでその刃を砕いたのだ。
「...マジかーヒト型IS怖えなぁ」
これに対して和真は首をすくめるだけで、狼狽はしない。
刀が使えなくなることは想定した上で、ここに来たのだ。それにこれまで見てきたのは人智を超えたモノばかりだ。今更何を、という風にしか感じない。
「ま、安らかに眠れよ、クロエ・クロニクル。そのうちラウラがそっちに行くまでの辛抱だぜ」
次の瞬間、少女クロエの頭部が宙を舞い、胴体もボロボロになっていた。クロエが僅かに残る意識を向けると、丁度彼の最後の一撃が頭部へと放たれた時であった。
(ああ、これが“死”なのか。私は初めて“死”というものを知るのか)
そしてついに少女の命の灯火は消滅した。残骸に等しくなったクロエを見下ろして和真は呟いた。
「...すまねえな。お前に罪はねえが...あいつを倒す為なんだ。俺が今言うのもなんだが、安らかにな」
手にかけてしまったとはいえ、葬いの言葉くらいかけてあげたい。
愚かではあると自負しながら、和真は手を合わせた。
まあ少し遅れてしまいましたが、ISの世界最終章突入です。
今回と次回の2話でISの世界は完結させます。
その後はお楽しみということで。