仮面ライダーに変身して運命は変えられるだろうか? 作:神浄刀矢
さやかのソウルジェムを壊し、魂をコネクトして和真は家に帰った。
珍しく親にバレずに部屋に入ると、ベッドの上に白い小動物がちょこんと座っていた。
「どうした、キュウべえ。何か報告でもあるのか?」
「はぁ...まったく鹿目カズマ、君はなんて事をしてくれたんだ」
「なんて事、とは?」
「美樹さやかの事だよ。彼女が魔女になる運命は避けられなかったはずなんだ。佐倉杏子も同時に消えるのが、本来のシナリオのはずだったのに....」
なるほど。つまりこの小動物はシナリオが書き換えられたことに、怒っているわけだ。実に単純な野郎である。
「あのな、インキュベーター。運命ってのはね、それに抗い、書き換えてこそ意味があるんだよ。ま、お前らみたいなヤツには分からないだろうがな」
「....前から思っていたんだけど、鹿目カズマ。君は何者なんだい?全てを既に知っているような感じの口振りだ。かと言って暁美ほむらとも違う。何者なんだ?」
ここの世界に来てからその質問は何回目だろうか。毎回はぐらかして来たが、こいつには答えても良いかもしれない。どうせこの世界からは、もうすぐおさらばなのだから。
「そうだなぁ....通りすがりの仮面ライダーとでも言うかなぁ.....」
「そういう意味じゃない、もっと違う意味でだよ。君は...鹿目カズマじゃないだろう?」
やはり見抜かれていたか。こいつなら見抜くだろうとは思っていた。
「ああ、そうさ。俺は...いや、今は言わないでおこう。」
「何故?」
「どうも聞かれてるらしい。俺たちの会話がな....」
ゆっくりとドアを開けると、「ふぎゃ!」という情けない声と共に、額をおさえたまどかが現れた。
「ってて....あ、あはは....コンバンワ」
「コンバンワ、じゃないぞまどか。寝なきゃ駄目だろ?」
「まぁうん、だけどさっきのお兄ちゃんがお兄ちゃんじゃないってどういう...」
「あーもう、それに関しては後で細かく説明するから!とりあえず寝なさい、寝ないと成長しないぞ?」
「.....分かった、今日は寝るよ」
そうしてまどかを部屋に帰し、再びインキュベーターと向き合う。
「で、どうするつもりだ?俺を別の世界に送るのか?それともヨグソトースに差し出すか?」
「別に僕に出来ることは何もないよ。ヨグソトースとは面識はあるけど、何かできるわけじゃない。当面は何もしないよ。」
「そうかよ。お前も別の世界じゃツインテのロリなのにな。ったくよォ.....」
「どういうことなんだい?」
「さぁね?お前の知る事じゃないさ、インキュベーター。せいぜい暁美ほむらに殺されないようにしろよ。」
「いや何回も殺されてるから」
それだけ言ってインキュベーターは、窓からひょいと飛び降りた。
今夜はゆっくりと熟睡出来そうだと思った。
そして夜は更けていく。
次の日になり、予想通り朝の迎え的な感じでマミがやってきた。
だが予想に反した奴が1人。美樹さやかである。何故いるのだろうか。
「おはよ...って何でさやかが?」
「えっ....それは....居た方が良いかなぁって...」
「あたしは付き添いな」
「あらぁカズマ....随分と好かれているのね....」
かなり目が怖いマミであった。その感じは、ヤンデレの域だと思うのは和真だけなのだろうか。
「あ、あはは....偶然だろう?後輩から好かれるのは良い事じゃあないか?作者は後輩から呼び捨てされてたらしいけどサ!」
「そんなこと聞いてないの....あの娘のあの目、明らかに貴方に向いてる目よね?何があったの?」
「いや、別に何もないよ!昨日確かに家行ったけどさ!」
「....何で、私を置いていったの?寂しかったのに....」
そろそろというか、もうヤンデレではないか?こんなになるとは思ってなかったのだが。まあ指輪がバレてないのが幸いであろう。
こちらも手袋をして誤魔化しているわけだし。
「まぁまぁ、そうならないそうならない。ご飯出来てるし、佐倉さんも美樹さんも上がって。コーヒーくらいは出せるからね」
なんて言いながらも割り込んでくる父親。今回はかなり助かった。
あのままだとバレかねなかったので、命拾いのレベルである。
そして既に上がっているマミも合わせ、和真とマミと杏子、さやかで
テーブルを囲むことになった。父親はキッチンに立っているので、ほぼその点外野に等しい。
「じ、じゃあ、いただきます。」
「いただくわ」
残りの2人はコーヒーを飲んでるだけ。なんだよこれは。
食事の間もマミからの視線がきつく、食べるのが大変だった。
なんとか食べ終えて、いざ出発となった。
通学路の途中、左腕にぴとりとくっつくさやか。右腕に抱きつくマミ。しかもちょくちょく睨み合っている。
「あのさ...なんでそう睨み合うかなぁ....」
「仕方ないでしょう、あの娘が離れないからよ!」
「あたしは先輩を支えてるだけだから!」
「てか先輩、あんたさやかに何したんだ!さやかは....」
流石にイラっときたので。
「はい静かに!静かにしないと俺、先に行くからな。」
「「「ごめんなさい」」」
3人が謝る。よろしい、それで良いのだ。ただでさえ周りが殺意をタイプフォーミュラにしているので、それに耐えるのもキツイのである。
そんなこんなで学校に着いたわけだが。
「んじゃ先輩、また後で...」
「じゃーな、先輩」
ついでにほっぺにキスしたさやか。昨日の一件で好感度上がってしまったのだろうか。処置が必要だったとは言え、流石にありえ....
と、そこに鬼が居た。
「どういうことかしら、カズマ?」
「あ....こ、これには意味がっ!ちょ、おまっ!?」
ナイフが空を切る。いつの間に隠し持っていたのか、という疑問と共に先日見た『恋愛暴君』の緋山茜を思い出してしまう。
アレはガチなヤンデレであった。確か声は沼倉愛美だっただろうか。
「待てよ、おい!おまえキャラ変わりすぎじゃないか?確かにヤンデレ感が何話か前からあったけどさ!っとぉ!」
今度は二本投擲され、イナバウワー宜しくかわしていく。
「吐いて貰うまでやめないわよ」
「マミちょっ....学校だからな!?他の人に当たるぞ!」
「大丈夫、貴方にしか当てないから」
「怖え!なんだよ....っとまたか!」
三本同時の投擲を、今度はそれぞれの指で挟むようにキャッチする。
それをズボンに差し、教室へと逃げ込む。
「よ、よう!おはよう!」
「「「「あ?」」」」
どうしたことだろう、全員ヤクザのようになっている。昨日まで普通だったではないか。
「どうしたんだよ、お前らおかしいぞ?」
「鹿目テメェ、マミさんだけならず、さやかたんにまで手を出すとはなぁ.....」
「さぁ、お前の罪を数えろ!鹿目ェ!」
「絶望がお前のゴールだ、死ぬがいい」
「は?意味わかんねーよ!」
転げるように教室から出ると同時、クラスを確かめてみると。
《8年93組》
なんだこれ。こんなクラスあっただろうか?だがよく見ると、《3年13組》を上書きしたものであることがわかった。
これならば納得である。だが現状は変わらない。
アサシンマミにバーサーカー複数に対処せねばならないのだ。ここは
いっちょ先生に協力を求めよう。と、偶然にも通りかかった先生がいた。まどか達の担任である。
「あ、すいません!助けてください!ちょっと今皆おかしくなってて...」
「はあ、別におかしくないと思いますよ?普通に歩いてるだけじゃないですか」
「へ?」
見やると、確かに歩いてるだけである。先程までのバーサーカーとアサシンはどこに行ったのか。マミだけは違ったが。
「では遅れないようにしましょうね」
立ち去ると同時、彼らが再び飛びかかってくる。
何故だろうか、この世界はロクなことが起こらない。特に急に変なことが起こる。もう嫌である。そろそろ最終回に飛んでくれないだろうか、などという望みも効果はないのだ。
「あ、そうだ!」
ふっと手を空に突き上げると、そこに飛来したのは赤いカブトムシ型のアイテム。カブトゼクターであった。
「変身」
『HENSHIN』
音声に続き、和真の体がアーマーに包まれる。マスクドフォームである。これに傷をつけられる者などいない。
ゆっくりと彼らに向かい合い、飛びかかるバーサーカーに腹パンを叩き込んで行き、気絶させていく。
だが、マミだけにはこれが効かないであろう。
ジャックザリッパーよろしいスピードを出しているのだ。あの巨乳で
よくスピードが出せるなぁ、などと思ってはいけない。
今の目標は彼女に落ち着いてもらい、和真自身の言葉を理解して頂くことなのである。
「キャストオフ」
『CASTOF』『CHANGE BEETLE』
キャストオフしてライダーフォームへと変わる。巴マミタイプスピードを抑える為に、やるしかないのだ。
「クロックアップ」
『CLOCKUP』
全てが低速化した。ほとんど動いていない。だが時間が遅くなっているのではない、和真が加速しているのだ。その中を動いてマミへと近づく。そしてマミを抱え、屋上へと来た。
『CLOCKOVER』
変身を解き、マミに向かい合う。いきなりの屋上に驚きを隠せていないマミ。
「ここならゆっくり話せるだろ、マミ」
「...どうして...いえ何が....起きたの?」
「いや確かにそりゃわかるけど...人の話聞こうや」
「そうよ!カズマ貴方、説明してもらえるんでしょうね!?」
「ああ、分かってるよ。説明するから....」
そして和真はゆっくりと昨日の事を話し出した。
話し終えて、マミはうーんと悩んでいる。
「理解できた?」
「一応理解はしたわ、でも許せない」
「ですよね!」
指輪の件に関しては遠回しにぼかして言ったので、なんとか殺されることはないだろうが。ただ問われるのは、時間の問題であろう。
「なんで貴方彼女の家に行こうと思ったの?」
「またそこから?!」
「そうよ、なんで?そもそも貴方言ってないはずの事を色々と知ってる。教えて、私になら言えるでしょう?妻なのだから」
「まだ婚約とか言ってた気がするけどな......まぁそうだな....理由なら簡単さ。俺は全てを知ってるからだよ。」
「はい?何を言ってるのかしら...あいつに変なこと吹き込まれたとか....」
「違う違う!だからなぁ...あーもう、良いよ言ってやるよ!」
「何を?」
「俺はな、ここの世界の人間じゃないんだよ。鹿目カズマとも関係ない、八坂和真っていう別の人間なんだ。だから....」
「カズマ、発想力豊かになったわね」
分かってもらえていない。別に理解されようとは思わない、ただ一度の敗走もないし、ただ一度の勝利もないのだが。
「ああ、そうだよ。俺は発想力豊かだろうさ。だけどな、違うんだよなぁ...まあそのうち話すよ」
「貴方の妄想を?良いわ、全部聞いてあげるわよ」
また変な風に理解されていないか。ワルプルギスの夜がくるのもそう遠くないと言うのに。