仮面ライダーに変身して運命は変えられるだろうか? 作:神浄刀矢
結局その日の放課後、帰る時になってしまうと全てが元通りになっており、何事もなかったかのように1日は終わりを告げた。
まったく何がどうなっているんだか。
家に着き、やはりというかさっさと寝た。装備の点検はする必要はないし、実際やる事はないのだった。
また数日が過ぎた。変えてしまった運命の歯車はそのまま回り続けていた。マミとさやか、杏子は生き残り、まどかも魔法少女に更に憧れるようになっていった。暁美ほむらから再度の忠告を受けたが、無視をした。
そしてある日、鹿目家のカズマの部屋に彼女達(暁美ほむら抜き)+和真と小動物が集まっていた。どうもワルプルギスの夜がやってくるのが、明日らしいのである。
司会を買って出たさやかが声を上げた。
「今日は集まって貰ってありがとうございます。1名金髪の変な人がいる気がしますけど、進めましょう」
「あら、青い髪の変な人がいるわね」
早速言い争うな、少女達よ。問題は他にあるだろう、ワルプルギスの夜とか戦力の低下とか。
そう...実はさやかのソウルジェムを壊した後、彼女は魔法少女ではなくなってしまったのだ。それに伴い、明らかな戦力低下が魔法少女サイドで起きていたのである。
「それよりも...あの、話し合うべきだと思うんですけど」
「確かにまどかの言う通りだね」
「そうね、今は話し合いましょう」
などと言いながらもお互い睨み合っている。そろそろやめて頂けないだろうか。
「暇だなぁ、キュウべえ」
「そうだねぇ...お菓子ある?」
「クッキーくらいならあるぜ、ほらよ」
結果的に部屋の隅でクッキーをつまんでいた和真とキュウべえは、出番がなくなってしまったのであった。
そんなこんなでぐだぐだに時間だけが過ぎていき、気付けば午後6時を
まわっていた。流石に長居もアレだし、遅くに帰すのもいかんだろうと思い、帰ってもらうことにした。
マミだけは家まで送っていけと聞かなかったので、仕方なく送っていく羽目になったが。
やっとマミの家から帰宅し、寝られると思えばそうでもなかった。
「やぁ、鹿目カズマ」
「....なんでまだ居るんだよ、ほむらの前につき出すぞ」
「酷いなー何回殺されたと思ってるんだい?」
「知らん。だいたいキュウべえさんよ....お前ここ家だと思ったんじゃねえだろな?」
「ここ僕のホームだお」
「よし今投げ捨ててやる待ってろ」
さっとその尻尾を掴んで、和真は思いっきり投擲した。全開の窓から投げられたインキュベーターは、綺麗な直線を描き、飛んでいった。
多分アレはビルか何かに当たるんだろう。
今夜はすっきりと眠れそうな気分である。
翌日になり、さっさと着替えて下に降りた。テレビでは速報が流れており、キャスターが焦るように喋っていた。やはり台風や大雨やらくるらしい。
「今日は仕事休みだってさ」
「そうかぁ...なんかさっき放送入って、町内の人たちは避難しなさいって言ってたよ」
親達が不安げな表情を浮かべて言い合っている。昨日のぐだぐだな話し合いは意味を成していないが、情報だけは確かだったようだ。
大方インキュベーターが情報でも流したのだろうか。そんなことは今はどうでも良いが。
「まどか、カズマ、避難しなきゃいけないらしいから。出よう」
「うん....わかった準備してくる。」
「やれやれ...避難かよ....(避難する必要なんかねえのに)」
仕方なく部屋に戻る。自分の荷物などリュック1つである。この世界では学校指定のヤツばかり使っていたが、自身のリュックもあるのだ。中身は出してないので、背負うだけで済む。まどかは女子なので
色々準備するかもしれないけれど。
しばらくするとまどかも準備が終わったようで、皆で避難所に行くことになった。
和真はバイクを押して、残りの3人は歩いて向かって行く。
一口に避難所とは言うが、この街の人口は意外と多い。避難所避難所と言ってつくったものは、結果的に体育館並みの大きさとなってしまっていた。だがこの場合はそれが幸いとなっていた。
全員が全員避難してきているわけだから、十二分にその機能を生かせていたのだ。
「避難....とか、要らねーのにな」
だが和真の呟きも、降り始めた雨に掻き消されていく。
4人で避難所の中に入りひと息ついていると、マミやさやか、杏子の姿も見えた。まだ戦闘はしていないのか。
さっそく打ち合わせといこう。
「ついに今日が来たなぁ」
「まあわたしは戦闘できないんだけどね」
「私はカズマを守るために戦うわ」
その必要はない気がする。むしろマミを守れると思う。状況によるが。
「暁美ほむら...彼女も来たのね...」
「なんで分かるんだ?」
「魔力を感じるのよ...相変わらずこの感じは嫌ね」
「はあ」
考えるな、感じろと言うヤツだろうか。無理がある。だが彼女が来た以上、ワルプルギスは近い。むしろすぐそこにいると言っても過言ではないかもしれない。
「行ってくるか」
「私も!」
「ダメだ!3人とも来ちゃいけない!....いやそれは言い過ぎか、でも見るだけに留めてくれないかな?」
「「「何故?」」」
「まぁ付いて来いよ、良いだろ?母さん」
「危ないからやめ...」
初めて赤の他人を、母さんと言ったかもしれない。よし、これであの家族にはお別れと言っても良いだろう。
そして3人を引き連れ、和真は外へ出た。さっそく雨が体に打ちつけてくる。
なんとか空を見上げると、何とも形容しがたいモノが浮かんでいた。
あれは間違いない。あれが、まどかを神にしてしまった魔女であろう。だから...
「ここで決着をつけてやる。変身!」
『Turn Up』の音声と共に、青い光のカードが現れて体を通過する。
そしてそこに居たのは青と銀の騎士。仮面ライダーブレイド。
「ここからあの魔女見えるか?」
「ええ」「まぁ見えるね」「見えるけどなぁ...」
「よし、ならオッケー。じゃあ初めてだけど、やってみるか!」
ラウズアブソーバーを開き、クイーンとジャックのカードを取り出した。
『アブソーブ・クイーン』『フュージョン・ジャック』
そしてそこに居たのは先程の姿のブレイドではなく、背中に翼が生えた騎士だった。装甲も金色が混ざっている。
「その姿は....?」
「説明する暇はないぜ。手っ取り早くやっつけねえと」
オリハルコンウィング(たった今命名)を展開し、和真ブレイドは暗い空へと飛翔した。
飛行に関しては割とすぐ慣れたが、問題はあの魔女であった。
何度も斬りつけてはいるが、なかなかに傷がつけられていない。多少は傷はついているのだが、大したダメージになっていないと言った方が正しいだろうか。
「いっちょ試してみますか!」
『ビート』『サンダー』『マッハ』の3枚をラウズ、剣崎一真も使ったことのないであろう技を発動する。
『ライトニングスマッシュ』のボイスと共に和真は加速。ワルプルギスの下へと潜り込み、拳を握りこむ。
そして、思いっきり殴りまくった。
「オラオラオラオラオラオラァ!」
マッハで繰り出される、雷を纏わせたラッシュがヒットするたび、ワルプルギスの体はどんどんと上空へと殴り上げられていく。
ちょくちょくほむらのランチャーやらタンクローリーやらが飛んで来たが、そんなものはワルプルギスを盾にして防ぐ。むしろダメージ受けて貰いたかった。
高度がどれくらいになったかわからない。周りにまだ雲があるのだから、少なくとも地球であろう。
下を見ると、見滝原の上空に未だにいることが推測できた。
だんだんと高度が下がり、はっきりとモノを見えるようになってくると正確にはそれが、避難所の上であることが理解できた。
(くそ、やべえなァ....キングフォームしか倒せる当てはないけど、変身したことないしなァ)
だが迷っていても進まない。キングフォームになることを決意する。
「キング、俺に力を貸してくれ!」
『エボリューション・キング』という音声と同時、13枚の金色のカードが出現して体の中へ取り込まれていく。
「.....っ....あ、ああああああああああ!」
叫び、なんとか痛みに耐える。輝きが収まった時、和真の体は青でも銀でもない別のアーマーに包まれていた。
金色の重厚な装甲に、各部にはアンデッドの模様の様なものが描かれている。
「なんだこれは....いやこれは剣崎の、あのブレイドのキングフォームか!やった!これなら....」
手頃なビルの屋上へ降り立ち、専用武器重醒剣キングラウザーを構えた。
そして和真の手には、5枚のカードが握られていた。
その5枚のラウズカードをキングラウザーへと読み込ませる。
『♠︎10・J・Q・K・A』
『ロイヤルストレートフラッシュ』
ワルプルギスに向かって5枚の光のカードが現れる。ゆっくりと剣を構え、和真は一気に振り抜いた。
キングラウザーから放たれた光がカードを通り、さらに巨大な光の奔流へ姿を変える。
「吹っ飛べぇぇぇぇぇぇぇ!」
光の奔流がワルプルギスへ直撃し、シールドと思わしきものを破壊し、ボディを貫通した。光線は曇天をも貫き、街に一条の光をもたらした。そして和真は光が出る限り、剣を薙いだ。
魔女を切り裂くように、この街に光をもたらすために。しかしそれも数十秒間しか続かず、変身が解除される。
けれど、それで良かったのだ。ワルプルギスは爆発四散し、空から太陽の光が降り注ぐ。
「やった....か。初めてにしちゃあ、上出来か.....」
思ったよりキングフォームの反動が大きかったようで、身体がふらつき、数歩あるいて倒れ込んでしまう。
「カズマァァァァ!」「ったくよォ...さやかの奴なんでこんな」
「いいから運んでよ!お願い!」
3つの声が聞こえる。だがそれも遠くなっていく。
(やっぱ無理あったかなぁ.....)
それを最後に、和真の意識は途切れた。
目を覚ますと、そこは知らない天井だった。ゆっくりと体を起こす。
隣にはマミが居る。
「ここは....?」
「目を覚ましたのね。3日も寝てるから心配したのよ」
「はあ、3日ね....」
「全て天気も元通りになったから避難は解除されて、皆家に帰ったの。で、貴方も家に運んだのよね」
「ありがとな....」
これでまどかも魔法少女になってないはずだ。少なくともあの時、ピンク色のあの光は確認していない。
一応急ぎ足ではあったが、解決したい事は解決できた。
「そろそろ行かないといけないかもしれないなァ。」
「行くって...何処へ?しかもまだ医者からOK出てないのよ?」
「バイクは?」
「庭にあるけど....」
「了解」
ベッドから出て、アクセルで私服へと着替える。ちなみにこれを使っていると、キチガイでない限り、和真を捉えることは不可能なのである。
リュックを背負い、外に出る。
「待ってよ!まだ貴方....」
「ああ、そうそう。家族全員呼んできてくれ」
「あ、はい」
マミに鹿目家を呼びに行かせ、こちらはバイクを起動させる。
「「「どうしたの?」」」
ハモっている。どうでもいいことだが。どうせこいつらとはもう関係なくなるのだ、別れの1つでもしてやろうではないか。
和真はバットを取り出した。
「悪いな、お前ら」
瞬時に全員の頭を叩いた。このバット、メモリブレイカーといって使用者の望む記憶のみを、対象者から消せるのである。叩けば1時間は起きないので、安心だ。
そしてここで望んだのは、彼女達の鹿目カズマに関する記憶の消去。
「あばよ、鹿目家」
これで鹿目カズマの記憶が消えれば、自然と周りからもその存在は消えて無くなるだろう。さやかと杏子もそうなることを願おう。
再びディスプレイを操作し、今度はこの世界へ行くことにした。
「ウィッチーズの世界へ」
バイクのエンジンをふかし、和真は光の中へと消えていく。
その頰には一筋の涙が流れていた。