・・・でも結局世界が変わっても辛い事には変わりないのよねってお話。
自分が仮に遊戯王の世界に行けたとして、どれだけ上手くいってもこの程度だろう。というのを文字に起こしてみた。
---僕にとってカードとは、遊戯王とは、青春だった。
1人暮らしの友達の家に集まり、男クサい部屋の中で頭をつき合わさせて何度も何度もデュエルした。真剣勝負とは程遠い。プレイングスキルなんて関係ない。安いお酒とスナック菓子を飲み食いしながら、ただただ好きなカードで気の合う仲間とするこの遊び(・・)は、迫る課題の締め切りや辛い社会人へのカウントダウンを忘れさせた。そして社会に出てからは、仕事のできない自分から、逃れられない職務という名の地獄から目を背ける為の道具になった。
そう考えると、僕にとってこのダンボール一杯のカード達はただの現実逃避の手段だったのかもしれない。
でも、そんな紙束でも。ただ辛い毎日から目を背ける口実だったとしても。カードに触れている間僕は確かに幸せだった。楽しくデュエルをする僕と友人たちのあの思い出は、とても輝いて見えたのだ。
だから僕は願ったのだ。どうか叶うならば、大好きなこのカードを使って生きていける世界に行きたい。好きな物の事だけを考えて生きていけるならば、それは幸せなのだと。そう、本気で考えていた。
だがそんな考えは所詮、努力もできない駄目人間の甘えだということに気がついたのは、本当にそんな世界に来てしまった直後のことであった。
オレ、この戦いが終わったらデュエル辞めるんだ 第0話
この世界に来た時の事はよく覚えてる。今でも夢に見るくらいだ。仕事からの帰宅途中、突然の激しい頭痛の後に目が覚めると僕は知らない部屋に一人立っていた。左腕には身に付けた覚えのない(しかし幾度となく憧れた)デュエルディスク。そして目の前にある小さなモニターには、リアル過ぎて逆に現実味のない見慣れたモンスター達が空を飛び、とてつもない衝撃とともにぶつかりあう光景が映っている。大迫力の映像に見入っているとやがてカメラのアングルが切り替わり、ヤケに体格のいい金髪の青年がスタジアムから溢れんばかりの声援を受けて、憎い位に綺麗な星空を指差してこう叫ぶのだ。
『キングは一人、このオレだ!!』
そうスピーカーからステレオで響いてくる力強い声が、ようやく僕に現実感を与える。ドキドキと動悸が激しくなって、月が眩しく反射する窓を見た。僕の目に飛び込んで来たのは見慣れた住宅街じゃなくて---
遥か遠くにそびえ立つ鋼鉄の外壁と、その上から薄っすらと見える高層ビルだった。
……人間って焦ると何をするかわからないというけど、僕はその場から動きたくなるタイプだったみたいで。モニターから背を向けて、走って走っていつの間にか見知らぬ路地にいた。少し落ち着いた頃の僕はまず----
「お゛ぉ゛ぅ゛えぇ……」
酸っぱい臭いのする路地裏で盛大に吐いた。
目の前で起こっていたスペクタクルが現実で、そして自分が正真正銘世界でただ一人味方のいない人間であることに、きっと心が耐えられなかったのだと思う。
吐いて吐いて、また頭痛が激しくなってしゃがみ込んで。
その時はまだ、頭のどこかでは期待していたのだ。クタクタのスーツ姿の男に声をかけるとしたら、まずは「大丈夫か?」とか「こんなところで吐いてんじゃねえよ!」とかであることを。
だが現実は非情だ。自分の思った通りに運ぶ事なんか一つもない。
「おい。アタシと決闘〈デュエル〉しな!」
この世界に来て初めてかけられたセリフは、混乱する僕にどうしようもなく『ここは遊戯王の世界である』事実を突き付けたのだった。
最近遊戯王ss少ないから誰か書いて。