コラそこ、当て字キツイとか言わない。
文章力皆無なので生暖かい目で見て頂けると幸いです。
なお、AIDSに関する描写が若干あるので苦手な方はご注意を。
それではどうぞ↓
プロローグ『きっとそれは、物語への序章』
『きっとそれは、物語への序章』
一瞬意識が落ちて、すぐさま微睡みのような緩やかな覚醒をする意識に、不思議な感覚を抱く。眠っていた訳では無いから覚醒は早く、しかし長い間寝転がっていた為に体の節々に力を入れられるまでに多少の時間を要した。
「おつかれさまです、たった今検査が終わりましたよ」
白い検査用ベットの傍に備え付けられた椅子から、眼鏡をかけた白衣の男性に声を掛けられる。システムデスクのパソコンに何やら小難しそうなデータやグラフのタブが表示され、当の本人はニコニコと嬉しさを隠しきれない、と言った様子で文字を打ち込んでいく。論文でも書いているのかな。
「どうでしたか?」
「ええ、今回も本当に助かりました。丁度前回提供してもらったデータから凄い結果が取れまして、今はそのまとめ作業をしているところです」
検査の結果を聞きながら、ベットから起き上がり、胸や手足に貼られた電極を適当に剥がして、ヘッドギア型の検査器具を頭から外す。所定の位置に諸々の道具を戻すと、白衣の彼……倉橋医師は嬉嬉としてこちらに振り向いた。
「やっぱり、君の身体にはAIDSに対する特別な……既存の研究よりももっと重要で大切な遺伝子があるということが分かりました」
「ああ、この前にも話してた……」
「はい、CCR5-Δ32という変異遺伝子です。その中でも君のは、今までとは全く違う、しかし同様にAIDSに対する強力な免疫持つ遺伝子です」
説明を受けながら、今までの『研究結果』を思い返してみる。
そもそもの発端は半年ほど前の定期検診、血液検査でたまたま発覚した私の特異な遺伝子を研究したいと頼み込まれ、以降このように一か月に一度ほどの頻度で病院に通っている。
「君のお父さんは……スウェーデンの人でしたね。実は、この遺伝子は本来欧米の人種にしか発現しない、大変珍しいものなんです。中でもスウェーデン人種にとても多いと言われていてね。しかも、両親から受継がないと完全な免疫なり得ない」
「けど、君の場合はこの遺伝子がさらに突然変異を起こして、片方の変異遺伝子のみで完全な免疫なり得ている。これは本当にすごいことなんです」
興奮した様子で語る倉橋医師とは裏腹に、私の胸はずくりと痛む。
私に父は、両親は居ない。幼い頃に交通事故で亡くなったそうだ。
叔母の家庭に養子として迎えられた事をたまたま知ってしまったあの日以来、『家族』と私の間には大きな隔たりのようなものが生じてしまっている……気がする。主に私のせいだ。
苦虫を噛み潰したような顔をする私に気付いた倉橋医師は、困ったように笑って、それでも話を止めない。
「もしかしたら、君のお陰でAIDSの完全治療法が確立するかもしれないんです。本当に、ありがとう」
「あ、頭を上げてください。私は別に……」
全くの善意で提供している訳では無い、と続けようとして、その声は倉橋医師の笑みにはばかられた。この人には本当に適わない。
「……VR技術の先行体験もさせて貰ってますから、お気になさらず」
目のやり場に困って、先程まで装着していた機械に目を移す。ヘルメットのような風貌のそれは、流線型ヘッドギア《ナーヴギア》だ。
頭から顔まですっぽり覆ってしまうそのインターフェースのみで手軽にバーチャルリアリティの世界を体感できてしまうそれは発売後瞬く間に売り捌かれ、今では何ヶ月も入荷待ちだ。しかもそんな最新技術が詰め込まれた機械はなんと家庭用ゲームハードの役割を果たしてしまっている。
「僕としては、それすらありがたいですよ。アレは、本当に意識から何まで遮断してしまうから、検査もしやすいですし重宝します」
ナーヴギアの凄いところといえば、それは『仮想現実』の体感だ。人間の五感全てに働きかけ、装着者はまさに『仮想現実』の中に入り込んでいるような感覚に陥る。いや、実際にそうなのだ。
ヘッドギアの内側に無数に組み込まれた信号素子が出す電磁波により、ギアは脳に直接接続される。そしてその電磁波は五感全てにアクセスし、あらゆる情報を伝える。加えて脳の全身への命令を遮断・回収するため、装着者が知らないうちに動いてしまうことはない。
「《完全ダイブ(フルダイブ)》技術――――か。便利な世の中になったものだ」
倉橋医師の独り言は、なにか遠くを懐かしむようなものに聞こえた。
「君は検査中、アレで何をしているんですっけ」
「あれ、言ってませんでしたっけ」
実はここまで画期的なハードが登場したにも関わらず、ナーヴギアの評価というのはまちまちだったりする。
それはいくらハードが素晴らしく最先端なものだと言っても、肝心の『ゲーム』そのものの出来がお粗末だからだ。今まで出ているものにはパズルや知育系ソフトしかなく、折角の技術が無駄だと叩かれもした。
そんな中、少し前に発売が決まったパッケージにこんなものがある。
「――――ソードアート・オンラインですよ。β版の」
所謂それは、『VRMMORPG』と呼ばれるジャンルのゲームだった。
各々が武器を持ち、魔法を覚え、道具を駆使し、ダンジョンを駆ける『RPG』の中でも、このSAOというのは魔法というものが存在しない。ゲームの圧倒的大部分を占めるのはタイトルに冠する『剣』それのみだ。例外的に回復手段などでポーションやクリスタルといったアイテム的魔法は存在するも、基本的には『武器』を持ち『剣技』を磨き、そして全百層にも及ぶダンジョン―――《浮遊城アインクラッド》の完全攻略を目的としている。
戦闘の他にも料理や釣りなどの趣味的なスキルもあれば、勿論鍛冶や被服といった作成系スキルも充実しているため、このSAOというゲームは広い世代を沸き起こし、先行体験ができるβ版は十万を超える応募が殺到したという。
「どこぞの先生が用意してくれたんじゃないですか。応募外れた私に差し出してくれましたよね」
「そういえばそうだったね……」
多少の無茶は聞く、と言ってくれた倉橋医師に冗談半分でβ版をプレイしたいと言ったら、本当にベータテスターの権利をもぎ取ってきたのだから驚いた。アレのおかげで本来当たるはずだった誰かが外れたのだと思うと、少し罪悪感を感じないでもない。
「……すごかったですよ、やっぱり。明日で終わりなのが惜しいくらい」
ベータテストは、凄かった。
初めてログインした時、それはそれは感動したものだ。
誰にも何も言われず、好きに走り回って、レベルを上げて、自分の手で異形の敵を屠る。現代社会じゃ絶対出来ない体験を、目いっぱい楽しんだ。だからこそ、ベータテストが終わってしまうのは悲しい。
「ほう、そんなに凄いんですか。それは少し気になりますね」
「すごいですよ。だって、ゲームの中で物が食べられるんですから。不味いものの方が多いですけどね」
唯一残念なのはそこだ。もう少しどうにかして欲しい。特に黒パン、めちゃくちゃ固くてモソモソしてた。
「喜んでくれたみたいで嬉しいですよ。結構苦労しましたから……」
そりゃそうだ。どんな手を使ったのか知らないが、普通取ろうと思って取れる枠じゃない。
「ふふ、ありがとうございます。とても楽しかったです」
「いえいえ、こちらも協力して下さりありがとうございました。今日で諸々の検査はおしまいですので、今後何かあればまた連絡させて頂きますね」
「了解しました。それでは、また」
そんな会話の後、荷物をまとめて部屋を出ると、私は自転車を飛ばして家へ向かう。
刻一刻と迫るベータテストのタイムリミットギリギリまで楽しむために、一刻も早く帰宅せねば。
帰路についた少女を上から見送った医師は机に戻り、作りかけのレポートに向き直る。
カタカタ、と室内にキーボードの音が鳴り響き、画面にはある一節が現れた。
――――『遺伝子保有者である桐ヶ谷和奈とHIV患者Yによる実験的治療について』
「論文発表が終えたら、また確認を取らないとですね」
静かな部屋に、そんな独り言が溶けて消えた。
本編では出し切れなかった主人公、というかキリトさんの設定をここで。
桐ヶ谷和奈(キリガヤ カズナ)
・諸々の事情はキリトくんと変わらず。風貌はGGO編のキリ子ちゃんそのまんまをイメージしてます。
・胸はありません。絶壁です。恐ろしい程ありません。理由は作者の趣味です。
・父親がスウェーデン人、というのは後付けです。亡くなった人だし……公式出てないし……とここぞとばかりに盛りました。
・AIDSに関する情報は素人なので間に受けないでください。