ソードアート・オンライン ヒーロー・ガール   作:城田 海光

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(日を跨いでるけど)本日二話更新…………テストがどんどん悪化しそうな予感がします。
今回は前三話と比べて長めです。
漢数字と英数字にブレがあって迷う……
今回も寛容な心でお付き合い下さい


三話『自己犠牲が生むもの』

『自己犠牲が生むもの』

 

 

 夜の暗さを星明かりが照らすトールバーナの街。

 第一層攻略会議を終えたプレイヤー達は、噴水広場の一角を貸し切ったディアベルさん主催の『第一層ボス戦勝利祈願パーティ』なる食事会を楽しんでいた。

 会議でプレイヤーとベータテスター達の間に若干の不和をもたらしかけたツンツンヘアの彼が、ディアベルさんと肩を組んで仲良くやってるのを提供されている黒パンを手に取りながら眺める。やっぱり彼のリーダーシップはすごいな、なんて思いながら騒がしい広場から離れる。

 

「……それで、話ってなに?」

「うん、その前にこれ。少しは食べないと」

 

 話がある、という名目で連れ出した彼女を放置しパンを取りに行った私に、彼女は冷たく言い放つ。

 けど負けはしない。取り敢えずご飯を食べよう。美味しいものを食べて少しリラックスしてもらわなきゃ。決して、餌付けなんかじゃない。……本当だよ?

 私が差し出した黒パンを一応受け取りはするも、彼女は食べようとしない。

 まあ、私が食べなきゃ食べないよね。しかもお世辞にも美味しいとは言えないし。

 

「えーっと……あった。これこれ」

「……?」

 

 彼女が座る段差に一人分の隙間を開けて私も腰掛ける。システムウィンドウを呼び出して、アイテムストレージから『とっておき』を見つけると、二つ分オブジェクト化した。

 

「はい、どうぞ」

「……なに、これ」

「その小瓶をパンに使うんだよ。それだけでそれなりに食べられるようになる」

 

 手軽に手に入るこの黒パンは、硬くてぼそぼそで食べるのがものすごくしんどい。しかもそんなに美味しくないので食べるのには工夫が必要だったりする。

 そこで使うのがこれ、とあるクエストの報酬で貰える『消費アイテム』だ。

 訝しげにパンと小瓶を見つめる彼女に見せるように、小瓶に指を付ける。ポゥ、と光を灯してポリゴン化し砕け散った小瓶を尻目に指でパンをなぞれば、パンの上にごってりと黄色いクリームが盛られた。

 

「……うん、美味しい」

 

 そのパンをもぐもぐ食べる私を見ると、彼女も恐る恐るパンにクリームを盛って、一口齧った。

 

「!」

 

 はむはむはむはむはむ。

 口に入れた瞬間、一瞬だけフリーズして、そして血相を変えてパンを一心不乱に食べる。

 硬くて不味かったパンがあら不思議、名店も真っ青な美味しさの絶品クリームパンに早変わりだ。

 

「……ご馳走様」

 

 ふう、と一息ついた彼女に、苦笑いを浮かべながら話しかける。

 

「今の小瓶、クエスト報酬なんだ。一つ前の街で起こる『逆襲の雌牛』っていうんだけど、よかったら受けてみたら「いい」……そう」

 

 単調な声で首を振られてしまった。ちょっと悲しい。餌付けだったら失敗だよ、これ。餌付けじゃないけど。

 

「……美味しいものを食べるために来たわけじゃないから」

 

 その割にはあっという間に食べたなぁ、と笑いそうになるのをこらえて、問う。

 

「じゃあ、何をしにここへ来たの?」

 

 彼女は少しの間を開けて、小さく、それでもしっかりと答えた。

 

「私が、私でいるため」

 

 その声には、幾らかの決意が滲んでいた。

 

「最初の町の宿屋に閉じこもって、ゆっくり腐っていくぐらいなら最後の瞬間まで自分のままでいたい。たとえ怪物に負けて死んでも、このゲーム、この世界には負けたくない。……どうしても、絶対に」

 

 きっとその考えは、誰にでも出来ることじゃないってことを、私は知っている。

 普通なら、一般的な人なら、わけも分からない世界に閉じ込められて、死ぬ危険を冒して進めと言われても、できない。私達は訓練された軍人でも、強い力を持ったヒーローでも何でもないからだ。

 彼女の意見には、強さも危うさもある――――そんな感想を持った。

 

「そっか。……なら、明日の攻略線は頑張らなきゃ、だね」

 

 ぽつねんと呟いたその言葉は、きっと彼女だけにむけたものでは無かった。

 

「…………あ、そうだ」

「……?」

 

 今度は何? とこちらを見る彼女に、当初の目的を伝える。

 

「一応、話しておかないとって思って。今朝、宿屋で目覚めたと思うんだけど」

「……! あ、あれってもしかして」

「他人に言われる義理は無いと思うんだけど、適度に休みは取らなきゃダメだよ。……あ、なにもしてないからね? ……本当だよ?」 

 

 だから黙って距離をとるのやめて欲しい。

 

「……一応、お礼は言っておきます。……ありがとう」

「そう言うならさらに距離とるのやめよう!?」

 

 かなり傷付くからね、それ!

  

 

※※※※※

 

 

 第一層のボス部屋の前に、フルレイドには少し足りないくらいの人数のプレイヤー達が、パーティ毎に隊列を組んでいた。

 ボス部屋に続く扉の前に立つのは、発見したパーティのリーダー、ディアベルさんだ。

 

「改めて、だけど、今日は誰一人欠けることなくボス攻略に集まってくれてありがとう! もう俺から言える言葉は一つしかない。みんな……勝とうぜ!」

『おおおおぉぉぉ!!!!』

 

 迷宮区で誰かが欠けることなく、そもそも朝十時の時点で逃げ出した者も居らず、皆が『アインクラッド完全攻略』への一歩を踏み出すべく、その地に集まった。

 ディアベルさんがその言動で士気を上げ、そして代表して扉に手を掛ける。

 そこを開けば、待つのは恐ろしいボスモンスター、そしてその先には第二層への転移門が待っている。

 

「…………」

 

 隣で黙って扉を見つめるアスナさんを盗み見ると、その手は少しだけ震えていた。

 ……怖い、か。怖いよね、怖い。

 もしかしたら数秒後には死んでるかもしれない。

 そんなことを考えたら、足は竦むし、腕は動かない。剣を持つ手が震えて、歯はカチカチと音を鳴らすだろう。

 

(……それでも、私は)

 

 言葉にしない決意を胸に、私はアスナさんに話しかける。

 

「ね……なぁ」

「っ……なに?」

 

 務めて普通に、なんでもない体を装って。

 

「さっき教えたスイッチ、忘れてないよな?」

「……大丈夫」

「俺達の役目は取り巻きを潰すだけだから、大丈夫だよ。肩の力を抜いていこう、力んでたら失敗しそうだ」

 

 へらっと笑う私に、彼女は何も言わなかった。

 フードで顔が隠れてるから見えないけど、少しは気を抜いてくれればいい。手の震えは、いつの間にか治まっていた。

 

「よし……行くぞ!」

 

 ディアベルさんの手により、重厚な扉は開け放たれた。

 そしてボス戦は、幕を開ける。

 

 

 

「A隊、体力減ったやつは後ろに下がって回復に務めてくれ! B隊はスイッチしながら着実にダメージを与えるんだ!」

 

 ディアベルさんの支持がボス部屋に響く。

 盾持ちのプレイヤー達がボスの攻撃を受け止め、遊撃隊のプレイヤー達が余裕を持ってダメージを与えていく。

 ボス攻略戦は、誰がどう見ても着実に進んでいた。

 

「よっと……これで十八体、か」

 

 そしてそんな感想を持てるくらいには、私達の役割は暇極まりないものだった。

 ボスである【イルファング・ザ・コボルトロード】の取り巻き、【ルインコボルド・センチネル】がポップする度に葬る。いわゆる露払い、それが私たちに与えられた役割だった。

 まぁ、メンバー二人の弱小パーティだから仕方ないよね……弱小だなんて微塵も思ってないけど。

 

「っと、同時に倒したみたいだね」

 

 チラッとアスナさんの方を見れば、丁度彼女も倒し終えたところで、私達は暇ができてしまった。

 

「……ねぇ、貴方」

「ん?」

 

 暇を持て余した私に、彼女が話し掛ける。

 

「貴方、武器……片手剣なのに、なんで盾を使わないの?」

 

 それはふと思いついたような、そんな何気ない質問だった。

 ……何気ない質問だからこそ、返答に困る。

 

「あぁ、それは……」

 

 『片手剣』、という武器カテゴリーの最大のアドバンテージは何か? と聞かれれば、それは同時装備で『盾』が使えることにある。つまり一人で攻撃も防御も出来るから、盾役のタンクなどいないソロプレイヤーは防御を固める為にも、盾を装備できる片手剣を選ぶ傾向にある。

 では盾を装備しない片手剣プレイヤーというのは一体何なのか、という疑問の答えには、幾つかパターンがある。

 

「ほら、盾を装備したら遅くなるでしょ?」

 

 まずは単純明快、敏捷命で『速さ』をウリにしている場合だ。盾を装備すればその分機動力が落ちるから、この意見は理にかなっている。だから私も表向きは(・・・・)この理由で片手剣しか装備していない。

 

「……そう」

 

 そう言えば彼女は興味なさげに返事をした。うん、やっぱりただの思い付きだったようだ。深く聞かれなくて助かる。

 

「…………」

 

 私は手持ち無沙汰に手にしていた片手剣、『アニールブレード』を眺める。……私が盾を装備しない本当の理由は、とある『バグ』のためだ。

 

 一ヶ月前、このデスゲームが始まったあの日、私は茅場晶彦から贈られた醜悪な【プレゼント】の使用を拒否した。

 その【プレゼント】、手鏡は使用すれば作成したアバターが削除され、スキャニングで再現された己の現実の姿をしたアバターに戻されてしまう。その効果はネカマ・ネナベプレイヤーの本来の性別の露見を引き起こした。性別の比率が極端なこのゲームでは『女性である』というだけでトラブルに巻き込まれかねない。この『ゲーム内犯罪』を危惧した私は、敢えて使用しないことを選んだ。

 そしてその選択肢を選んだ私に待っていたのは、アイテム『手鏡』に備わっていた『パッチ』の恩恵を受けられないこと。

 ソードアート・オンラインでは『カーディナル・システム』と呼ばれる二つのシステムにより、常時バグ・ゲームバランス修正が行われている。しかしそのカーディナルでも治せないバグがこの、私を悩ます【両手装備禁止】だ。

 あの悪魔の『チュートリアル』のすぐ後、『手鏡』を使用しなかった私にあるメッセージが届く。それは『称号』の付与を伝えるものだった。

 

【称号:偽りの剣士】

『自らを偽り続ける剣士に贈られる称号。称号【覚醒者】を手に入れない限り、圏外において【両手装備禁止】のバッドステータスを付与する』

 

 そんなふざけた文面が記されたメッセージを読んだ後、私はすぐさま手持ちの『盾』を装備しようと試みた。

 結果は不可能、装備しようとするとシステムに遮られてストレージに送られてしまう。

 盾装備と身体的危機への恐れを天秤に掛けても変わらずに後者が勝ったので、私は敏捷と筋力に極振りをするという力技で対応するハメになった。ステータスは完全にソロプレイ専用なので、多分これ以降パーティを組むことはないんだろうなぁ、なんて目線が遠くなったのは言うまでもない。

 

 そんなことを思い出していると、気付けば【イルファング・ザ・コボルトロード】の四本あったHPバーは残り一本を切っていた。

 ベータテスター時代の情報によれば、ここで武器が斧から曲刀カテゴリーのタルワールに変わるはずだけど……。

 

「……ん、あれは……」

 

 ここでふと、ボスの腰に下がっている武器をよく見てみれば、それが曲刀であっても『タルワール』でないことに気が付いた。

 

 

「よし、オレが前に出る!」

 

 突然、後方で司令官をしていたディアベルさんがそう叫び、武器を構えて前に出た。

 わからなかった。

 なぜ、今、このタイミングで、彼が出る?

 

「っ待って、ディアベルさんッ!!」

 

 ボスが『曲刀』を握り、そのままスキルを使用する。

 あれは、あのスキルは『刀専用スキル』……広範囲スタン技、《旋車》だった。

 ボスの武器は、『野太刀』だったのだ。

 

「だ、ダメだよ、下がって!! 全力で後ろに跳ばないと!!!!」

 

 私の声が聞こえてないのか、ディアベルさんは動かなかった。

 スタン、してるの……?!

 周りにいたプレイヤー達はディアベルさんが倒れた事で動きを止め、攻撃も止まってしまっている。

 どうにか動けるプレイヤーがディアベルさんを助けようと近付こうとするも、ダメだ。

 もう、遅い。

 

『ギャアアアアアアアアアアアァァァァッッッッ!!!!』

 

 咆哮、立ち上がるスキルは連続攻撃技である《浮舟》だ。

 一振りで相手を浮かせ、次の攻撃を叩き込むコンボスキルの、その攻撃力は計り知れない。初見じゃまず見切れないスキルだった。

 なす術なく空中で切りつけられ、スタンが解けても身体が固定されていないからスキルも出せない。

 ディアベルさんは、なす術なくトドメの突き技《緋扇》をクリティカルで喰らって、地面に伏した。

 

「ディアベルさんっ!!」

 

 全力疾走で駆け寄り、ディアベルさんに回復ポーションを使おうとするが、それは当の本人に遮られてしまった。HPバーを見れば…………もう、欠片も残っていない。

 

「なんで、あんな…………」

「君も……ベータテスターなら、分かるだろう……?」

 

 その言葉にハッとする。

 どうして、という言葉は出てこなかった。

 

「ラストアタックボーナスの、レアアイテム狙い……」

 

 各階層毎のボスを倒す際、一番最後に攻撃を加えた者には一品もののレアアイテムを授けられる。彼は……ディアベルさんは、そのことを知っていたのだろう。

 力なく笑うディアベルさんは、私にある願いを掠れた声で託した。

 

「……キリト、くんと言ったね……頼む、ボスを……ボスを倒してくれ……」

 

 その言葉を最後に、彼は私の腕の中でポリゴン体となり、砕け散った。

 

 

「ディアベルはん……?」

 

 すぐ側であのツンツンヘア……キバオウ、と名乗ったプレイヤーが呆然とその光景を見つめていた。キラキラと、もう二度と元に戻らない残光が、虚しく天へ昇る。

 

「……うん……うん……! やるよ、やってやる……絶対倒す……倒すから……!」

 

 空に溶けたディアベルさんに、今更ながら答えた。

 泣いてる場合じゃない。

 悲しんでる時間はない。

 私が彼に代わって、やらなきゃいけない。

 

「っエギルさん! みんなを下げて!!」

「っ……お、おう! お前ら、死にたくなかったら下がれ!」

 

 近くにいたあの黒人プレイヤーに頼み、指示出しをしてもらう。エギルさんのその一言で、ポカンと動かなかったプレイヤー達が一斉にボスから距離を取った。

 本当は頼まれた私がやるべきだけど、流石に一人じゃ無理だ。

 近くに立ち竦む『彼女』に、酷な願いを告げる。

 

「君、行ける?」

「……行ける」

 一部始終を見ていたアスナさんは、静かに私の懇願に応えてくれた。

 目の前で人が死んだのに、彼女の声は、まだ死んでいなかったのが、私の頭に残っていた弱さや躊躇いを消し飛ばす。

「……ありがとう。戦闘方法はセンチネルと大して変わらないから」

 

 手短に戦闘のスタンスを変えないことを伝え、攻撃態勢を整えた。

 二人で息を揃えて、一斉にボスに向かって走り出す。

 

「はああああああああっ!!!」

 

 スキル使用で未だ硬直状態のボスに、まずはアスナさんが先制攻撃を加える。あのめちゃくちゃに早い《リニアー》が、ボスの身体を貫いた。

 その反動でフードが取れ、長い栗色の髪の毛が美しく舞う。琥珀色の瞳は透き通り、恐れも嘆きも映さない。一片の迷いもなく正確に繰り出される剣技と、またアンバランスな彼女の美貌に、誰もが息を呑む。

 が、残念ながら見惚れてる場合じゃない。

 

「アスナさん、スイッチだッ!」

「ッ――――?!」

 

 その言葉で彼女は絶妙なタイミングでバックステップをし、ボスから距離を取る。

 スイッチ、というのはシステム外スキルの一種で、攻撃を加えるプレイヤーを交代することでモンスターのアルゴリズムに一瞬の隙を作る戦闘技術を指す。ここに来る前の迷宮区で散々練習をしたそれは、ちゃんとその成果を果たしてくれた。

 引いたアスナさんに代わり、今度は私のソードスキルをボスにヒットさせる。

 攻撃されて起こるノックバックの隙にボスから離れ、スキル硬直を回復する時間を稼ぐ。今のでHPバーを三割ほど削れたけど、まだ半分近く残っていた。

 このままじゃ、ジリ貧だよ……!

 

 極度の緊張状態にいる私に、その希望は駆け付けた。

 

「オレも手伝うぜ」

「エギルさん!」

 

 プレイヤー達を退避させ終えた、エギルさんだった。

 安心感と共に戻ってくる闘志が、まだまだ諦める時じゃない、と告げている。今までの戦闘パターンを思い返しながら、改めて戦闘態勢を整えた。

 

「刀スキルはダメージ量が若干少ない代わりに、硬直時間が短い。一発スタン技を喰らえば死ぬ。……その前に、畳み掛けるよ」

「「了解!」」

 

 硬直から抜け出したボスが繰り出した刀スキル《辻風》を私が片手剣突進技《レイジスパイク》で相殺し、その隙に二人が攻撃を加える。

 スキルを相殺され、ダメージを受けたボスは今度は通常攻撃を繰り出そうとし、私は片手剣基本スキルの《バーチカル》で迎撃しようとするも――――

 

「ぅわっ!!」

「きゃっ!!」

 

 通常攻撃と見せかけた上下フェイント技、《幻月》をアスナさん諸共くらい、倒れ込む。ボスはその隙を逃さない。

 

「させるかよッ!!」

 

 スキルが発動するギリギリのところでエギルさんの両手斧ソードスキル《ワールウインド》が炸裂し、ボスのスキルはキャンセルされる。

 

 今の、ソロだったら確実に死んでいた――――

 

 ぞくり、と自分の体を支配しようとする恐怖を振り払い、自分を鼓舞して、立ち上がる。

 

「ああああああああああああッッッ!!!」

 

 無我夢中でノックバック中のボスに飛びかかり、叫びながら片手剣突進技《ソニックリープ》で切り付け、そのまま次のスキルに繋げる。

 上方向に強烈な斬撃を加える、片手剣縦二連撃――《バーチカル・アーク》がボスの胸を深く抉り、それが致命傷となった。

 

 ピシリ、という亀裂音。そして数秒の間にガラスが割るような音。

 ディアベルさんを殺したボスが、息絶えた瞬間だった。

 

 

※※※※※

 

 

『うおおおおおおおお!!!!』

 

《Congratulation!》

 

 ボス部屋上空にボス討伐完了を讃える英字の文字列が並び、プレイヤー達は勝利の雄叫びを上げる。

 

「お疲れ様、見事な剣技だった。この勝利はアンタのものだ」

「いや……うん、ありがとう。エギルさんも、助かったよ」

 

 エギルさんが手を差し出したので、握手を返す。お互いにお疲れ様と言い合う。

 ちらりと自身のHPバーを見れば、ぎりぎりイエローゾーンで収まっていた。……本当に、危なかった。

 

「アスナさんも、ありがとう。お疲れ様」

「え、ええ……」

 

 改めてフードを脱いだ彼女に向き直り、手を挙げて例を言う。……というか、本当に綺麗な人だ。フードでも被ってないと良からぬ輩に絡まれそうなくらい。

 改めて、『手鏡』は使うべきじゃなかったことを理解する。面倒は勘弁です。

 既に主の居ないボス部屋で、皆は友を抱き、剣を抱きしめ、拳を合わせて勝利を祝う。

 そう――――一人のプレイヤーを永遠に失ってしまったことを、忘れたかのように。

 

「なんでや!」

 

 そんな勝利ムードをぶち壊したのは、やはり()だった。

 

「なんで……ディアベルはんを見殺しにしよったんや!」

 

 攻略会議の時とは比べ物にならないほどの怒りを、彼は露わにする。

 

「見殺し……?」

「だってそうやろ! あんさんはボスが使う技を知っていたやないか! ディアベルはんやて、そのこと知ってたら死なずに済んだんや!」

 

 違う。

 知っていたわけじゃない。

 そんな言葉が口から出そうになって、けど結局出なかった。

 

「俺、こいつ知ってるぞ……! こいつは元ベータテスターだ!」

 

 誰かが私を指さして、そんなことを叫ぶ。

 ああ、そういえばこのアバター、ベータテストのときも使ってたなぁ、髪型変えてるのに覚えてる人なんていたんだ、なんて他人事のように思う。

 

「あなたね……」

「おいお前……」

 

 すっ、と私を援護してくれようとする二人を手で制し、はぁ、と心の中で溜息を付く。

 この流れはまずい。

 ディアベルさんが死んだことを引き合いに出して、いや、その悲しみをすべて『ベータテスター』という最初から良い印象を持ってない人たちにぶつけようとしてるんだ。

 ようやく前に進めたのに、これじゃ『次も進める』とは思えない。

 ディアベルさんの死が、無駄になる。

 それだけは避けなきゃ行けない。

 

「……はははっ」

 

 乾いた笑いが、口から漏れる。

 それは悲しみか、あるいは諦めか。

 

「……君――――」

 

 私の様子を見ていたアスナさんが、こちらに手を伸ばそうとしたのを待たずに口を開く。

 

「ははははっ!」

 

 こんどは大きく、嘲るように。

 

「な……何を笑ってるんや……!」

 

 突然笑い出した私を、目の前のキバオウさんは敵意剥き出しで睨んでくる。

 今まで人にそんな目で見られたことなかったよ。

 物凄く、怖い。

 

「元ベータテスターだって? ……俺をあんな素人連中と一緒にしないでもらいたいな」

 

 できるだけ私にヘイトを集めるために、煽るように、言葉にする。

 普段は下手くそな演技だけど、ここぞとばかりに演技力を発揮する。

 

「SAOのベータテストに当選した千人のうちのほとんどが、レベリングのやり方も知らない初心者(ニュービー)だったよ。君らの方がまだマシさ」

 

 私の声が部屋に響く。辺りは静かだ。変な緊張で、足が竦んでいる。

 

「でも、俺は彼らとは違う。俺はベータテスト中に、他の誰も到達出来なかった層まで登った。ボスの刀スキルを知ってたのは、ずっと上の層で刀を使うモンスターと散々戦ったからだよ。他にもいろいろ知ってるさ…情報屋なんか問題にならないくらいにね」

 

 嘘を付き、味方であるはずの彼らにわざと(・・・)敵対するような発言をする。

 こうすれば、『私以外』のベータテスターの人たちが非難される危険が無くなるから。

 

「な……なんやそれ……! そんなん、ベータテスターどころやない! もうチートや、チーターや!!」

 

 キバオウさんの今にも掴みかかってきそうな怒号が飛んでくる。そんなもの私に飛ばしても仕方ないのにな。まあ、そうなるように仕向けたのは私だから、黙って受け取るけど。

 

「ベータテスターのチーター、だからビーターだ!」

 

 キバオウさんの糾弾を皮切りに、散々罵倒が飛んでくる。

 ビーター。

 言い得て妙な表現だと思う。

 

「そうだね……俺はビーターだ」

 

 先程、ディアベルさんが狙っていた《ラストアタックボーナス》の獲得を知らせる通知が来ていたことを思い出し、システムウィンドウを開いてとある『アイテム』を装備する。

 

「これからは、元ベータテスターごときと一緒にしないでくれ」 

 

 《コートオブミッドナイト》というコートが、皮系の装備のみだった私の身を包む。

 夜中という名前に恥じないその真っ黒いコートは、さながら悪役(ヒール)そのものだ。

 唖然とするプレイヤー集団に見向きもせず、私は次の階層へと繋がる階段へと進む。

 

「……待って!」

 

 誰も見えなくなった辺りで、あとを追いかけてきた『彼女』に声を掛けられた。

 

「アスナさん……なに、どうしたの?」

 

 正直今はとてもしんどいので、追い打ちをかけるような真似は勘弁願いたいのだけど、と恐る恐る向き直る。

 

「貴方、戦闘中私の名前呼んだでしょ? どこで知ったの?」

 

 次に言われたのは、そんな脈絡のない問いだった。

 

「えっ……と、普通に、カーソルで?」

「カーソル?」

 

 きょとんとするアスナさんに、そういえば『スイッチ』も知らない初心者だったなぁ、と思い出し、空間を指差しながら教えてあげる。

 

「この辺にさ、自分以外のHPバーがあるでしょ? それ、読んでみて」

「……Kirito、キリト? これが君の名前?」

「そう」

 

 不思議そうな顔で私の顔、のすこし右側を見てそう言うと、アスナさんはパッと笑顔になった。

 

「なんだ、こんなところにずっと書いてあったのね」

 

 う、その笑顔は同性の私でもときめくぞ……。

 男の子だったら確実に落ちてた、多分。

 

「アスナさんは、強くなれるよ。だから、もしいつか信頼できる人にギルドに誘われたら断っちゃだめだよ。……ソロプレーには、絶対的な限界があるし、何より危ないから」

「それなら、貴方は?」

「……」

 

 返す言葉がなくなってしまう。

 私か。

 今日の出来事はまず、情報屋を通じてここにいないプレイヤー達にも広まるだろうな。そうなったら、私を入れてくれるギルドなんて無いだろう。誰も鼻つまみ者を仲間にしたいなんて奇特な人間はいない。

 

「……フレンド登録、しましょう。アスナでいいわ、キリトくん」

 

 黙る私に、アスナさんはそんなことを言い出した。

 

「えっ、いやわた……僕、じゃなくて俺と仲良くするのは……」

 

 やばい、焦り過ぎて一人称がめちゃくちゃだ。

 

「今一番信頼出来るのは貴方だもの。しておいて損は無いでしょ」

「あ、う、えっと、それは……」

 

 しどろもどろとする私に、問答無用でフレンド申し込みが表示される。

 ちら、とアスナさん……じゃなくてアスナの顔を見てみると、有無を言わさぬ笑顔が浮かんでいた。

 

「……はぁ」

 

 ウィンドウの《Yes》のボタンを押せば、私のフレンドが一人から二人に増える。改めて自分の友達の少なさを感じた。……ぐすん。

 

「ん、ありがとう。よろしくね、キリトくん」

「あんまりよろしくする気は無いからね……とりあえずパーティも解消しておくから、何かあったらメッセージしてください……」

「ん、了解」

 

 この時の私は知らなかった。

 この出会いが、二年間のアインクラッドでの私を支えてくれる大切なものだった、ということを。

 




キリ子さんの口調が安定しない……。
一応「ふふふ」とか敬語系の口調を使うタイプの子を想定していたので、ネカマによる男口調がぎこちない風に書いてはいるんですけど、やっぱり違和感……。
早く手鏡使わせたい。結婚させたい。
キリ♀アスを誰か補給してください……!
※今頃ですが、この二次創作はちまちまとした原作設定の改変が行われています。ご了承ください。
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