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本編ですがどうにかキリ♀アスイチャイチャを書きたいなぁ……と思った結果、リズのターンが先延ばしになりました。全国のリズベットファンの方、ごめんなさい。
『お日様日和』
暖かな陽の光が木の葉の隙間を通り、さらさらと春風が小さく髪を揺らす。草木は凪いで、さぁっと涼し気な音を鳴らした。
第五十九層主街区『ダナク』は、長閑な田舎町を思わせるような街だ。自然に囲まれ、放牧な高地のような地形のこの街は、今の季節と今日の気候によって、最高にのんびりとした空気を漂わせていた。
「いい天気だなぁ……」
ダナクの中央広場はさながら大きな森林公園のような広場だ。広がる草原と、所々植えられている広葉樹。
寝転がって空を眺めれば、青々とした天井に白い雲が点々と存在し、遠くの方にはこの階層の迷宮区の塔がその晴天の空を突き抜けている。
ああ、このままずっと寝ていたい……。
目を瞑って(寝てないけど)そんな夢を見ていると、誰かがこちらへ近づいてくる気配を感じた。
「……君、こんな真昼間から攻略サボってなにしてるの?」
「……あっ」
見慣れた白と赤の目立つアーマーが視界に入る。……ついでに、怒っているような
「こ、こんにちは、アスナ」
「こんにちはじゃないでしょう、こんなところで……」
第一層で距離を置くことに失敗し、今までズルズルと関係が続いている彼女……アスナは、とあるギルドに入ってからはその才能をさらに開花させ、その容貌からは考えられないほどの攻略に対する熱意――焦りにも似た何か――故に、一部のプレイヤー達から攻略の鬼、と呼ばれるようになった。
そんな彼女はもちろん、こんな所で油を売っている私を見て放置するわけがない。……中々に短い夢だったなぁ。
「いやさ、今日って丁度アインクラッドの気候パラメータの中でも特に最高の数値に設定されてる日なんだ。こんな日に迷宮区に篭ってたら勿体ないよ」
一応最後の悪あがきをしてみる。気候パラメータ云々の話は嘘じゃないし、私にだってモチベーションというものがある。……はい、正直にいえばちょっと今日は眠かったんです……春の暖かい季節ってどうしても眠くなって辛いよね。
ダメかな、と思って彼女をちらっと見上げてみれば、意外な事に何やら思案顔をしてこちらを見ていた。
あれ、もしかしてこれはいけるのでは?
「ほら、君もこっちおいでよ」
「ちょ、ちょっと――きゃっ!」
アスナの手をくいっと引くと、どうやら力を入れすぎてしまったらしく、いい感じに私の胸元に倒れ込んできた。すんでのところで身体を起こして受け止められたから良かったけど、失敗してたら蛇も固まるような目で睨まれていた事だろう。……成功してよかった。
「もう、いきなり何す……!?」
「あはは、ごめんごめん」
顔を真っ赤にして怒るアスナに、笑いながら謝る。目が合えば凍るような目で睨まれているわけではないので、あまり怖くない。
というか逆にアスナの方が固まっていた。……どうしたんだろう?
目の前でこちらを見て目を白黒させる彼女をじーっと観察してみる。
琥珀色の瞳は不安や困惑を浮かばせ私の姿を映して、頬は妙に紅い。すっと通った鼻筋に、いつもは凛々しい眉はへにゃりと曲がっている。そしてそのきゅっと結ばれた唇は薄い桜色のような色彩で、見るからに柔らかそうなそれについ手が伸びて――
「き、キリトくん、顔! 近いよ!!」
「うわぁ! ごっ、ごめん!!」
反射的に伸ばしかけていた手を引っ込め、できる限り顔を離す。……今、私は何をしようとしていたの……!?
数秒前の自分を省みるも、全くもって意味がわからない。今の、もし止められなかったら、多分……。
そこまで考えて強制的に思考を遮る。だって有り得ない。彼女は同性だもの。私今男の子だけど。
なんとか人一人分ほどアスナから距離を取り、お互い落ち着いてから改めて寝っ転がるように進める。なぜだか素直に応じた彼女にギクシャクしながらも、自分も何も考えないように努めてみる。無理だった。
本当に何をしているんだろう、私。
未だ鳴り止まぬ鼓動に悩まされて、意味も分からず先ほどの事故がリフレインする。少しだけ彼女の頬に触れた人差し指が、何故だか熱い。
このソードアート・オンラインというゲームに参加し始めてから、約一年半の月日が経ち、それなりにこの『男性アバター』というものにも慣れたけど、未だに慣れないものがある。
それは女性としてのものがない代わりに、男性としてのそれが備わっているソレのこと。
排泄欲はなくともお風呂に入りたい、という欲は女の子である以上、ゲームの世界でも同様にあった。……あったから、ソレの存在に気付いてしまった。
何故だかこのアバター、ちゃんと『そういうところ』まで存在してるのだった。もちろんモザイクが掛かってるというか、そんな細かくデザインされているわけじゃないけど、ちゃんと作られている。
何だったか、ベータテスト前の完全秘匿、内部テストであるアルファテストの段階では存在しなかったらしいのだけど、男性プレイヤーの多くがその『あるべき所がない』という違和感で気持ち悪くなってしまい、結局それらが搭載されるようになったとか。
加えて、リアル同様に暮らせるこのゲームにおいて、現実で性別違和を引き起こす可能性とかを考慮した結果にあの『手鏡』というアイテムを用いた『リアルアバターに切り替えられる』事件が起きたのかもしれない、という説もまことしやかに囁かれていたりする。
……長々と何言いたいのかな、って言うと、それはつまり、私は今ものすごく危ない状況にいるのでは、ということである。
私の
「……すぅ……すぅ……」
割と重要な懸念事項に頭を悩ませているうちに、やがて隣から規則的な呼吸音が聞こえてくることに気付く。……寝てしまったようだ。ぐっとお腹に力を入れて腹筋の要領で上体を起こして彼女を見れば、穏やかな表情で安眠する姿があった。
「……疲れてるんだろうなぁ」
街中で会えば常に疲労の色をどこかに隠している彼女は、実は休んでいる日なんてないのではないか、と思うほどの攻略脳だ。
そんな彼女のことを誇らしく思う反面、私はどこか心配だった。寝て起きたら行く、みたいな今のハイペースで迷宮に篭ってたんじゃ、それこそいつ死んでもおかしくない。
「……ん……」
彼女の目にかかる髪を指でそっと払い、じっと顔を見つめてみる。たかがゲームのグラフィックの範疇に収まらないほどの現実味を帯びた顔に、治まっていた胸の高鳴りがまた私を悩ませる。……これもきっと、男性アバターを使っている弊害に過ぎないのだろう。深くは考えないことにした。
「さて、私も少し寝ようかn「ニャはっ!」ぬぇあっ!?!?」
身体を倒そうとして後方の『柔らかい何か』にぶつかり、ついでに腕で拘束までされたので予想外の出来事に奇声が上がる。な、何事!?
そろっと後ろを向くと、そこには特徴的なペイントを頬に付ける
「……アルゴぉ〜!」
「せーかい! 久しぶりだナ、キー坊」
私をガッシリと抱いて上機嫌に笑うプレイヤー――アルゴは、私の贔屓にしてる情報屋だ。
三本ラインのネズミ風ヒゲペイントを施し、茶色のマントを被るこの人も、れっきとした女性プレイヤーであり、また私の唯一のベータテスター時代からの知り合いで、そして私にとって姉のような存在でもある。
「もう、いつからそこに居たのさ」
「さっきだヨ。アーちゃんがキー坊を押し倒s「ストップオーケー分かった把握理解したからちょっと黙ろう!?」むふぅ」
とんでもないことを言い出すアルゴの口を塞ぐ(もちろん手で)。本当に真昼間から何を言い出すんだろうか。
「ぷはっ。……酷いじゃないカ、キー坊。オレっち嘘は言ってないゾ?」
「決してアスナには押し倒されたわけじゃないし
「……そこまでは言ってないけどナ、オイラ」
「あ」
……ごほん。今のは聞こえなかったふりをしよう、私は何も言ってナイ。
「……キー坊、アーちゃんにぞっこんじゃないカ」
「ぞ、ぞっこんて! 違うよ! だいたい私たち同せ「ストップ、ここ街中」……ありがとう」
アルゴにやり返しとばかりに口を抑えられて爆弾発言が飛び出るのを防がれた。……気を抜きすぎだね、今日。
アルゴは私の『本当の』性別を知っているから、ついつい素が出てしまう。気を付けないと、またいらぬ事を話してしまいそうだ。
「……とにかく、違うからね」
「どうだカ。……で、キー坊達はこんナ時間ニこんナ所デお昼寝カ?」
「そうだよ……誰かさんのせいで寝られなくなったけどね」
恨みがましくアルゴを睨めば、ニャははと笑って流されてしまう。貴重な睡眠時間を奪っておいて楽しそうだなぁ。
「珍しいネ。アーちゃん、以前ならこんなコト許さなかっただろうニ」
「それが危ないんだよ。たまには、ゆっくり休まないと」
「攻略組最速の剣士が良く言うヨ。キー坊は今のレベル、幾つなんダ?」
「えーと……84、かな? って、つい答えちゃったけどあんまりばらさないでよ?」
「客がいなけりゃナ。ホラ、情報料」
「ほっと」
ちんっとコイントスで飛ばされた百コル硬貨を掴み、目の前に開かれたトレードウインドウのボタンをクリックする。チャリーンという小気味いい効果音と共に増えたコルを確認して、アルゴの方を向き直った。
「で、いつこの拘束解いてくれるのさ」
「アーちゃんが起きたラ?」
「やめてよ!? なんか知らないけどそういう時のアスナ機嫌悪くなるんだよ!?」
「ニャはは、おもしろそーだネ」
「面白くない!」
ぱっと離された隙に全力でアルゴから距離を取る。……いい人なんだけどね、いじり方が怖い。ついでに、女性プレイヤーが絡んでる時のアスナも怖い。あれはなんなのだろうか。
「そんなに嫌がられるとオネーサン傷つくナ」
「歳そんなに変わらないでしょう……」
「ありゃ、ンじゃオネーチャン?」
「……否定出来ないのが辛いところだよ」
いじられさえしなければいい人……いい人だ、多分。
幾度となくお世話になっているのに、それを上回る回数でいじられてるからか、若干の苦手意識すらある。……まあ、それでもやっぱり人間的には好きだけども。
「キー坊は変わったナ。アーちゃんも、第一層の頃が懐かしいヨ」
「アルゴは変わらないね……」
「情報屋がそんナにコロコロ変わったラ困るだロ。オイラは『鼠のアルゴ』で通してクつもりダヨ、キー坊」
にしし、とイタズラが成功した子供みたいな顔で笑うアルゴに、今後への薄い不安と分厚い確信めいたなにかを感じながら、苦笑いで返答した。
「それもそうか……できるなら、完全攻略のその瞬間までそのキャラでいてほしいよ。もちろん、今と同じように、近くにね」
一瞬だけ脳裏に浮かんだ薄幸の少女の影が、私に頑張ってと遺してくれたのを思い出して、小さく微笑む。もう絶対に、誰も亡くさないって決めたから、目の前の彼女だって絶対に守ってやる。もちろん、アスナだって――
「……ソーユーコト、他の誰かにモ言っテ回っテるのカ?」
「え、いや別にしてないけどって何その幻滅したような顔!? してないよ!?」
「キー坊とはちょっとキョリとらせテ貰おうかナ……」
「物理的に距離取るのやめよう!? 後ろに下がらないでよ!!」
スススと後ろに下がるアルゴに同じペースで近づく私。
アルゴの悪ノリは加速し、ついでに離れる勢いも後ろ走りレベルにまで加速する。どんどんアスナと二人寝転がっていた大きな木から離れ、ついにレンガ造りの壁に背中をぶつけて静止して――
「いきなり止まるのは危なッ!?」
「ひゃっ……!?」
ドンッ!
転ぶような体勢で勢いづいた私の身体を、壁に強めに突いた右腕が止める。左手はアルゴの思いの外華奢な肩を下に押し込み、彼女は抵抗もせずにそのまま滑るようにしゃがみ込んだ。
ぶわっと舞った粉塵が収まる。
悪くなった視界が元通りになると、そこには――
「……」
「……」
――壁ドン状態の私と、ぺたんと座り込んだアルゴが、いた。
「……取り敢えず、どくね」
「――ヨッと」
「!?」
壁を押して身体を遠ざけようとすると、アルゴにコートの襟を掴まれてそのまま引っ張られる。支えの腕は既に離されていたので、下向きの力に逆らうものは何もなく、そのままぽすんと胸に抱かれてしまった。
突然のことに理解が追いつかないでいる私のことは意に介さず、アルゴは優しく私の頭を撫でながら言う。
「あ、アルゴ一体――」
「……キー坊は本当に、いい方向に変わってくれたナ。ベータの時、変ナ輩に絡まれテ泣いてタ
「……そりゃ、泣いてる場合じゃなくなったから」
「第一層のボス戦モ、例の中層ギルドの事モ、よく乗り越えたナ。エラいゾ、キーちゃん」
「……うぅ」
耳元でぽそりと私の名前を呟きながら、アルゴは私を撫で続ける。
「あ、アルゴ……人来ちゃうよ……」
「大丈夫、何のためニ壁際に来たト思ってルのサ。ここナラ街道カラは見えないヨ」
「そうは言っても……」
私、一応男性アバター何だけどなぁ、と変な方向の心配をしながら、それでもずっと張っていた気を抜いてみる。……なんだか、母親に抱かれた時みたいな安心感があったからかな。
「キーちゃんはアーちゃんと同じくらイ頑張ルからナ。……たまには、休まないとダロ?」
「……そうだね。ありがとう、アルゴ」
「ニャはは、礼は要らないヨ」
頭をぽんぽんと軽く叩きながら、彼女は軽快に笑う。……うん、これからも頑張れそうだ。まったく、彼女に頭を上げられる日はいつになるのやら。
「よっと……もう大丈夫だよ」
「ン、そーカ」
しばらくアルゴの胸にお世話になった後、今度こそ身体を起こす。アルゴは見たことないような微笑みを何処かにしまって、またいつものような笑顔に戻した。
適当にアイテムストレージから水か何かを取り出して飲んでいると、アルゴはニヤニヤとしながら口を開く。
「ところでキー坊、アーちゃんにはいつ告白するんダ?」
「んふぅっ!?」
「汚いヨ、キー坊」
飲んでいた水を吹き出した。
キラキラと光るエフェクトがまるで光を反射する水のようだけど、実のところはただの破壊された水オブジェクトが消滅してるだけです……だから汚くないよ!
「な、ななな、だから違うって……!」
「違うナラいーんダけどネ。……キー坊は、あくまでキー坊だゾ。性別とカ、アバターとカ、関係ないってことサ。アーちゃんにしても、他にしてモ」
「……」
木の下に戻りながら飄々というアルゴに、ちくりと胸が痛む。今日は慣れない感情ばかり感じている気がする。
曖昧な笑みを浮かべつつ、私は未だ眠っているアスナの姿を眺める。……ダメだ、どうしても唇に目が行ってしまう。違う違うといいながら、何も違くないじゃないか……。
それでも今は、深く考えるべきじゃない。やっぱりそう思った。
関係を変える必要性も、欲望も、今は特にない。まだこのままの関係で居たい。
それに告白するにしても、付き合うにしても、私はまだ彼女に対して『嘘』をついたままだ。……いつか、『本当』のことを見せられる日は来るのだろうか。
「……さて、オレっちはそろそろ本職のほーニ戻ろっかナ」
「ん、そっか。依頼?」
「そんな感じカナ。んじゃ、またナ、キー坊。PKに気をつけろヨ〜」
「怖いこと言わないでよ……アルゴこそ気をつけてね」
「あいヨ、んじゃナ」
アルゴが広場を離れると、また最初と変わらない静寂が訪れる。今度は隣に眠りこけているアスナが居るので、私も同じように寝たりうるさくするのはナシだ。今回は圏内なので昔の――あのお姫様抱っこの力技は使えないし、使う必要も無い。このまま起きるまで待っている事にしよう。
そう考えると、私は着ていたコートをアスナに掛けてシャツのまま使い捨ての安価なピックを大量にオブジェクト化し、次に小さなクッションも用意してレンガの壁の方へ投げる。
放物線を描いて転々と転がって壁にぶつかり静止したクッションを確認し、銀色のピックを一本手に取る。
「ほっ」
《投擲スキル》を使用した針は一直線にクッションへ突き刺さり、その耐久値を小さく下げる。なかなかいい命中度だ。
あまり使うことのないスキルを使いつつ、適当に熟練度を上げていれば、丁度いい暇潰しにもなるだろう。
山ほどあるピックを黙々と消化しつつ、時折アスナの様子を確認する私だった。
※※※※※
「ん……」
緩やかな覚醒に小さく喉を鳴らす。
久しぶりに、ゆっくりと眠れたような気がする。
けれど私を包んだのは朝日の光ではなく、真っ赤な黄昏時の夕陽だった。
鮮やかな紅とも緋色とも言えそうな光に目を細める。ぼうっと意識が飛ぶ前の記憶を遡り、突然はっと覚醒する。
「って私寝ちゃってたっ!?」
やらかしてしまった、という後悔の念が一気に押し寄せ、まだ少し残っていた眠気を根こそぎ消し飛ばす。
平日の昼間から呑気に眠りこけるとは何たる失態、攻略の鬼が聞いて呆れてしまう。はやく、今からでも、攻略に参加を――!
「――おはよう、よく眠れた?」
「っ!?」
焦る気持ちは、その柔らかな笑顔をみて霧散した。
銀色の針を弄び、こちらを見てふわりと笑う彼――キリトくんが、圏内とはいえ軽装にも程がある服装……黒いシャツとパンツルックで木の下に胡座をかいていた。
こちらが完全に覚醒するのを視認すると、彼は苦笑いを浮べながら私に掛けられていた黒いコートを手に取る。
「あ、それ……」
「いやその、寒くはないと思うんだけど……服装が服装だし、迷惑だったらごめんね」
「いや、ありがとう。……うん、助かったよ」
不安そうな顔をして黒いコートを胸に抱く彼に素直にお礼を言う。
ギルド『血盟騎士団』通称『KoB』に属する私は、ホームの外に出る時は常にギルドカラーのアーマー《ホワイトレッドクロス》を身に付けている。……この装備、肩は出るしスカート丈は短いしで見てくれは紙並の防御力なのだけど、数値としての防御力はそれなりに高いのでおいそれと変えられないんだよね。でもたまに恥ずかしく思う。
ので、寝転がると主にスカート周りに気を配る必要が出てくる。それに、彼がコートだけを残してこの場を離れるのも考えられない。きっと、ずっと近くに居てくれたんだろう。睡眠PK防止のために、見張っててくれたんだ。
私の言葉にほっと胸をなでおろすキリトくんを見て、とくんと胸が高鳴った。……気の所為かな、胸が少し痛い。
「えーっと……その、とても気持ち良さそうに寝てるのを起こすのもなんだなぁって躊躇してたら、もうこんな時間なわけでして」
「えっ……ああっ! 攻略!!」
吊られて時間を確認してみると、もうとっくのとうに集合時間を通り越して解散時間すら過ぎていた。今から行っても何をしてたのかと問い詰められるだけだろう。
「昼寝を勧めた挙句起こさなかったわた……俺に問題がありますので、そこら辺は俺をダシにして下さい……」
「そ、それはいいわよ。お礼はしても足蹴にするようなことできないし」
相変わらず自己犠牲に走る彼の提案を断りつつ、片手間に現実逃避の方法を考える。うーん……お礼になるものといえば……。
「そうだ、お礼にご飯奢るわよ」
ぽん、と口をついて出てきたのはそんな誘いの言葉だった。
居眠りしてた私を守ってくれたことへのお礼としては少し足りない気もするけど、そこはとっておきのレストランに行くということで手を打ってほしい。それで足りないかなと思ったら、きっと彼はお金は受け取ってくれないだろうから、行きつけの武具店を紹介するのも視野に入れておく。
「そんな、悪いよ」
「いいの、私の気が済まないだけだから。ほら、行きましょ」
「わわっ」
彼の手を引いて転移門へと向かう。
ふと、昼寝をする前とはまるで立場が逆じゃない、と笑いがこみ上げてきて彼に不思議そうな顔をされたけど、知らんぷりをしておく。
繋いだ手が何故か熱い。
ついでに胸の鼓動も早くなってる気がするけど、それはきっとキリトくんを引いて走ってるからだよね、と気にしないことにした。
夕焼けのせいか、彼の顔が赤く照らされる。女の子のように白い肌に朱が差したように見えるのもきっとこの夕陽のせいだ。だから、私の頬が熱いのもこの眩しい緋色が差してるせいだよね、なんて。
数分前まで眠っていたなんて思わせないような軽い足取りに、キリトくんは苦笑しながら着いてくる。その身はまだ私の半歩後ろを走って、隣合うことはない。
いつか、彼と並んで歩けるようになりたいな、とそんなことが何故か一瞬脳裏に浮かんだけど、次の瞬間には夕ご飯は何を食べようかな、という他愛もない悩みに掻き消されてしまう。……今は、まだ、それだけでいい、よね?
私が彼への気持ちに気付くまであと少し、そんなある暖かな春の日の出来事だった。
アスナのターンと言ったな
あれは(半分くらい)嘘だ。
アルゴさんマジアルゴさん……
ちなみに作中での武器装備の名前は主にゲームやソシャゲを参考にしています。
作者は夏休みに入りましたが、基本補習で学校があるのでいつも通りのんびり投稿となります。
……あ、お題募集は近況報告?の方で随時受け付けてますので目を通していただけると幸いです。
今回も最後まで読んで頂き、ありがとうございました!