え? 僕だけ異世界に? トリコさああああん!?   作:キヒロ

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1話

 ここは東京都の外れ、都心から田舎よりの自然が溢れる森林外。

 都心と比べると空気が美味しく、森に、森林に囲まれ穏やかな風が流れ、外の世界とは隔離されたような場所。

 

 そんな場所にひとつだけ場違い……いや、森林に溶け込むかのようにポツンとある、木造で作られた小さな店。

 

 人の気配がしないこの隔離された場所に、溶け込むかのように建てられたお店からひとりの男の人が出てくる。

 

「う~ん、今日もいい天気だ!」

 

 腕を空に伸ばし、朝の清みきった空気を吸いながら出て来たのは白いエプロンを着た、頭には少し高いコック帽を被った男の人。

 

「よ~し、まずは朝の仕込みを始めるぞ!」

 

 男は腕をまくり、意気揚々とお店に戻っていくが、店内に入ったとたんに立ち止まり肩を落とす。

 

「……はぁ、仕込みを始めるのはいいんだけど、今日はお客さん来てくれるだろうか…」

 

 ため息を吐きながら肩を落とす男。

 

 この男の正体はコック、料理人だ。

 

 訳あって今はこの場所、ひとっけが全く無い所に店を構えている。

 

 普通に考えればこんな場所でお店を構えても、誰ひとりとしてこのお店が存在することすら知らないだろう。

 

「はぁ……」

 

 それでも男はため息を吐きながらも、この人里離れた場所で店を続ける。5年前に自分がこの世界の常識を知らずにやらかしてしまった事を思い出しながら。

 

「……よし! 何時までもくよくよしてないで前に進もう。さあて、今日も朝の仕込みを始めるぞ! 誰が来店してもいいように!」

 

 ふんぬ!

 と、力強くポーズを取りながら男は店内の奥、調理場へと戻っていく。いつ訪れるか分からないお客様を待ちわびながら。

 

「あっと、のれんを出すのを忘れてた、いけないいけない」

 

 男はしまったと顔を崩しながら、三文字の漢字が書かれたのれんを玄関の外入口に掛ける。

 

「よし、じゃあ今度こそ頑張って仕込みを始めるぞ!」

 

 元気よくそう大声で叫び男は調理場に戻っていく。まだ見ぬお客様の事を思いながら。

 

 

 

 

 

 

 男が仕込みを始めて2時間後。 

 

「先生、本当に申し訳ありません。私がちゃんと車をチェックしていれば…」

 

「もういいと言っている、仲川。お前は料理人なのだから責はない。悪いのは車の手入れを怠っていた整備の者の責任だ」

 

「いえ、しかし先生。私が不甲斐ないばかりに足を進ませてしまって」

 

「仲川、私はもういいと言っている。一体何度言えば分かるのだ!」

 

「は、はははあ! 申し訳ありません、先生」

 

 この森林に店の男以外の声が、二人の男の人の声が響いてくる。実に5年ぶりの事だ。

 

 声のする二人のうちのひとりは、紫の着物を着こなし、声を荒らげて体が大地に根付くかのように力強く歩く男で、先生と呼ばれる者。

 

 もうひとりは茶色の着物を着た、声を震わせながら頭を下げて歩く仲川と呼ばれる者。

 

 この二人はどうやらこの森林の近くで車が故障し、ここまで歩いて迷いこんできた者のようである。

 

 

「まったく……お前は昔から変わらんな。料理人としての腕は一流なのだが、どうも昔から私に遠慮ばかり………これは」

 

 先生と呼ばれる男は、どうやら昔ながらの付き合いであろう仲川を睨み付けながら愚痴をこぼす。しかし、それは突然流れてきた匂いによって切れる。

 

「どうかされましたか? 先生」

 

「この匂い………味噌の香りだ」

 

「ほ、本当ですか先生!」

 

 仲川は先生の言葉を聞き、辺りを嗅ぐ。

 

「ああ、この香り………ほぉ、中々の香りを出しているではないか」

 

 突然流れてきた香りを嗅いで先生と呼ばれる者の眼が鋭くなる。それはこの香りを出す物の品定めをするかのように。

 

「せ、先生! あそこ、あそこに店が、店があります!」

 

 仲川の声を聞き、先生の意識が仲川の見る先に変わる。

 

「……こんな所に料理屋があるとは」

 

 森林に囲まれたこんな人里離れた場所に、まさか料理屋が建ってるとはと、先生が驚く。

 

「ささ、先生行きましょう! あそこなら電話もあるでしょうし、迎えを呼べます」

 

 仲川はやっと電話で迎えを呼べると声をあげながら先生の背中を押し始める。

 

 今現代は1985年、携帯電話がまだ一般的に普及してない時代だ。

 2000年代なら、一般に普及している携帯電話で簡単に助けを呼ぶことができるが、今は1985年、携帯電話が日本に存在しない時代だ。いや、正確には携帯電話はあることにはありはするのだが、それはとても大きい無線式に似たデカい箱のような物しか存在しない。値段も高く、何十万円もするレンタル式の物だ。

 

 

 少し話しがそれたので話しを戻します。

 

 

 先生は仲川に背中を押され、森林に溶け込むかのような料理屋を見て言葉を漏らす。

 

「うむ、中々に素晴らしい店構えだ………しかし、こんな人里離れた場所に店を構えるとは一体何を考えて、ここでは人も来ないだろうに」

 

 この香りを出すことができる料理人、一流の料理人がそこにいると確信して先生は顔をしかめる。

 これだけの料理人が何故にこのような人里離れた場所で料理屋をやっているのかと、人は訪れるのかと。

 

 

「す、すみません、誰かいらっしゃいますか?」

 

 先生が料理屋を前に考えふけっていると、仲川が店ののれんをくぐり抜け、ドアを引き声をかける。

 

「ふむ、『小松屋』か」

 

 のれんの三文字の漢字、小松屋ののれんをくぐり抜け先生が店内に足を進める。

 

 

 実に5年ぶりの小松屋の料理人以外の者が………いや、この店を開店して以来の初めての人がこの『小松屋』に足を踏み入れた。

 

 

 

「いらっしゃいませ! って、え? うえ? うえええええええええええ!! お客様が、お客様がついに来たああああああ!!」

 

 そして小松屋の料理人、小松の叫び声が辺りに響きわたる。

 

 

 

 

 

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