残ったメンバーたちの物語。そして、残されたメンバーの物語。篠原さんは皆に何を語るのか。
復活はこれからです。
アメリカ。ニューヨーク。
私の家は、世界最大の都市の郊外にあった。
私の名前は絢瀬絵里という。歳は28歳。
日本から3ヶ月前にこの地にやってきた。
なぜここにいるかって、元々は、とある大学で研究をしながら、会社に勤めていたのだが、趣味でやっていたバレエが転機になった。
東京のバレエ教室でいつものように踊っていた時。同僚が、悪ふざけで私の演技の動画をとっていた。
「ねえ、ちょっと投稿してみない?」
「え、やめてよ、恥ずかしいわ。」
「いいじゃん、絵里すっごくうまいし!
それに、あのμ'sの一員ってだけあって、すっごくスタイルいいし!」
そう言って勝手にその子が投稿したニューヨークのコンテスト。それに通ってしまった。
まさか。と思った。でも同時に、チャンスかも、とも思ったのだ。
心が動くのを感じた。
私の演技が、誰かに評価された。
チャンスがあるなら。ずっとやってきたこの競技で、生きていけるなら。
やってみたい、かも。
そして、そこそこの規模の養成施設に入ることになった。住む場所なども手配してくれるという。
私は残っていたお金を注ぎ込んで、アメリカに渡った。
ただし、そのことは、家族以外誰にも言わなかった。
今はアイドルを、雪穂としている亜里沙にも、硬く口止めしておいた。
μ'sのメンバーにも、希にも、言わなかった。
きっとみんななら、私を喜んで送り出してくれただろう。でも、大切なみんなに会って、むしろ決意が揺らぐのを恐れた。
絶対、みんなにいい報告をしてみせる。
私は、何かしら結果を出すまでは帰らない。そう決めたのだ。
最近は少しずつだが、結果もで始めた。舞台にも何回か出ることができている。
そのたびに、私は、舞台で一人で歓声を受けた。
周りには誰もいない。
当たり前なのに、すごく不思議な感じがした。
高校生の頃を、やたらと思い出した。
不思議な感覚だった。
部屋に入ると、まずお風呂に入る。暖かいシャワーを浴びて、体の疲れを取る。明日も忙しいのだ。
そして風呂から上がったら少しのお酒を飲みながらテレビを見る。この瞬間が何とも言えない。至福の時だ。
私は少しずつ前に進んでいる。
うん、大丈夫。
気のせいだよね。
ーーー高校の頃が、忘れられない、なんて。
「…もう寝よう。」
それを噛み締めて、ベットに入った。すぐに、眠りについた。
次の日。
その日は、午前中から練習の予定だった。まず事務所に挨拶に行かなければならない。
ドアを開いて中に入れば、段々と見慣れてきた光景が広がっている。およそニューヨークっぽくない、日本みたいなビルのドアを開ければ、1日が始まる。
はずだった。
部屋は真っ暗だった。
そして、誰もいなかった。
おかしいな、と思った。
今日に限って、誰もいないはずはない。
電気をつけようと、スイッチを入れた。電気は、つかなかった。
みるみるうちに不信感が私を襲った。
"Hi,Eri! What'up?"
後ろから声。見ると、一人の同僚が立っていた。事情を説明すると、その子も何も聞いていないという。
隣の事務所に声をかけてみた。
茶髪の若い青年から聞いた言葉は、信じがたいものだった。
bunkruptcy
和訳は容易だった。
昨晩、すぐに荷物を引き払って、出て行ったという。いやに冷たいその言葉は、耳に残って離れなかった。
昨日、そんなそぶり一切なかったじゃない。
手から何かが滑り落ちていく。いや、違う。全てだ。手が、どんどん軽くなる。
待ってよ。
いかないで…
煌々と照る明かり。
私を襲う不幸は、それだけではなかった。生活は、会社側が援助してくれていた。家もその中のものも、ほとんどが会社のもの。それがもぬけの殻、ということは、言わなくてもわかるだろう。
帰る場がない。多少はいていいらしいが、その先に当てがない。日本に帰ろうにも、お金がない。
私は全てを失った。
助けてくれるものなど、誰もいない。
たった一人でここまで来た。
チャンスをつかもうと。
連絡手段まで絶って。
そのチャンスは、手から滑り落ちていった。もう少しで届きそうなところで。
きっと報われると思っていた。
甘かったのだ。
ぼうっと歩いていると、いつの間にか郊外へ入っていた。緑が見えた。
ところどころ、街灯が灯っている。
植え込みの奥には、散歩する何人かの人影。
どうやら、公園のようだ。
ふと思った。
あれ…この公園は・・・。
私は走り出した。
詳しい場所なんか覚えてない。走れる格好でもない。
何度もつまづいて、草に引っかかって。
何も考えてなくて。
でも、私の身体は、まるで何かに繋がれているように、ある場所に辿り着いた。
そこには、見覚えのある小さな石の舞台があった。ところどころ崩れているけれど、当時のままだった。
ああ、覚えてる。ここを。むしろ、なんで忘れてたんだろう。こんなに近くにあったんだ。
上に登ると、遠くに煌々と照る街の光が見える。もう10年も前。みんなと、ここに立ったのを思い出した。そして、ライブをした。
Ah もしもは欲しくないのさ
もっとが好きangel
μ'sとして歌った歌詞は、全て覚えていた。私がセンターをやった歌。
アメリカでのみんなとの生活も鮮明に思い出せた。穂乃果が電車を間違えた。海末はホテルで泣き叫んだ。花陽はお米が食べたいとわがままを言っていた。あれは面白かったわね。そして、希が、隣にいてくれた。あれだけの思い出をくれたみんな。大切な仲間たち。
その人たちに黙って、ここへ来た。
簡単だ。バチが当たったのだ。
そんなことを考えながら、ぼんやりと街灯の中、走っている人々を見ていた。これからのことどころか、頭はぼんやりとして何も考えられない。ただ、思い出だけが体を、頭の中を、駆け巡る。
あまりの自分の愚かさに、むしろ笑みがこぼれる。もう、どうしてこうなっちゃうかな。うまくいかないもんだな。
夜のランニングに励む、明らかに異国の人々。
私のことなんて、何も知らないひとたち…のはずだった。
その中に、明らかにおかしな格好をした人がいた。
その人は、周りの人がランニングウェアを着ている中、なぜかスーツを着ていた。
ん?
こっちに向かってくる。街灯に照らされて、顔が見えた。日系の顔だ。整った顔は、イケメンの部類に入るだろう。その人は舞台で立ち尽くす私を見ると、立ち止まって、ゼエゼエ言いながら、
「やっと、見つけました・・・」
と言った。日本語だった。
「だれ、です?」
細身のスーツにぴったりと合った細身の身体。整えられた髪の毛に切れ長に怪しく光る目。こんな人は知らない。
「絢瀬絵里さん。そうですね?」
名前を当てられた。
「はい、そうですが。」
咄嗟に答えてしまう。
あまりいい予感はしない。明らかに、マフィアにしか見えない。しかも私は絶賛ホームレスの身。
咄嗟に身構えた。何かあったら声をあげよう。
「僕は篠原といいます。高坂穂乃果さんの知り合いです。」
だが、懐かしい名前が出て、私はびっくりしてしまった。
は?へ?
「穂乃果の・・・?どういうことです?」
「あなたは連絡手段を断ってここに来た。そうですね?だから知らないでしょう?高坂さんが、もう一度μ'sを復活させようとしていることを。」
私は自分でも鼓動が速くなるのがわかった。
「は・・・?」
「あなたにそれを伝えにきたんですよ。」
「そんな・・・一体どうして・・・それに、あなたは何者?」
「そんなことは本人に聞いてください。ただ、僕はそれをお手伝いさせて頂いています。そんだけの人間ですよ。やっとのことであなたの事務所を探し当てたのですが、事情を聞いて走り回って探してたんですから。全く、どこほっつき歩いんてんですか?話を聞いてください。」
それからその篠原という男の人から説明を聞いた。
穂乃果からのメールの内容。みんなの思い。メンバーが集まらず苦労していること。
申し訳ない思いでいっぱいになった。
「それで、あなたはどうしたいんです?」
そう聞かれた。
答えは決まっていた。
あの時、伸ばされた手を掴んで、見えた景色。
演技中に、忘れられなかった思い出。本当の理由。また目を背けようとしていた、自分の思いは。
「私、もう一回やりたいです。みんなにきちんと謝って、それで償わなきゃダメだと思います。」
ふと、篠原さんと目があった。
その瞳は、何か引き込まれるようで、そうでもないような、不思議な感じがした。何か、見えているような…
見られてるような…
「覚悟は、本物みたいですね。」
篠原さんはそう言った。いや、言い切った。
そして、一つの封筒を出した。
「これを。あなたがこの3ヶ月、あなたなりに頑張ったものと思ってください。」
封筒を開けると、ドルの札束が入っていた。
すご…
「い、いえ。あの、こんな大金、受け取れません。」
「一文無しなのに、律儀すぎますって。それに、それは間違いなく、あなたのものです。つまり、支払われるべき給料です。きっちりと彼らから取り立てておきました。」
「え?」
篠原さんと名乗った男は、表情を変えることなくそう口にした。
「つまり、事務所のやつらを見つけて、取り立てておいた。それだけです。礼なんていりません。日本へ、あなたは行くべきです。それとーーーー」
この人、一体何をどうやってそんなことを。呆然とする私に、篠原さんは携帯を取り出して、画面を見せた。
ボイスメッセージ。一件の録音があった。
<絵里ちゃん?絵里ちゃん?聞こえる?穂乃果だよ!ごめんね、何も相談にのってあげられなくて。私、ちっとも知らなかった。絵里ちゃんのこと。
また、誰かに言われるまで気づけなかった。
また、周り見えてなかった。
本当にごめんね。
それでね、私、また走ってみたいの。
後悔しないように。勝手なのはわかってる。でも、また私は人を笑顔にさせる、そんなアイドルになりたい。
高校の、最高の日々をもう一度すごしたい。だから、応えてくれる?
返事、ずっと、待ってるから。>
「少なくとも、あなたにはまだ帰る場所が、ありますよ?」
そう言って、篠原さんは携帯を閉じた。
飛行機の中で、私は色んなことを考えた。
穂乃果?謝るのは私の方。私は何もわかっていなかった。自分で何でもできる気になって、止めてほしくなくて、勝手に旅立った。その程度の覚悟ならやめるべきだった。
覚えてる?私はあなたが手を伸ばしてくれて、アイドルになった。
私は、またあなたに助けられた。
今度は、私の番。きちんと応える。あなたを、今度こそは導ける先輩になりたい。
そして、隣で新聞を読むこの男。
「あの、篠原さん。」
「はい?」
「本当に、ありがとうございました。何から何まで・・・」
彼は、パタン、と新聞を取り出す。
ポケットからアイマスクを取り出した。
「いいんですよ。
・・・これで、私も答えが見つかるならね。」
「答え・・・?」
「ええ。」
彼は、マスクを取り付けた。
「あなたたちの、本当の力を知りたいんです。」
空港に着くと、懐かしい穂乃果の顔が向こうに見えた。私は帰るべき場所に帰ってきた。
もう一度、チャンスをつかみに。
私は、また走り出した。
友達に、きちんと話をする。
それが大事。
とても、難しいことなのだけれど。
絵里ちゃん復活です。
篠原さんはもぬけの殻の事務所から手がかりを見つけ、事務所社長を脅して金品を強奪、国外逃亡しています。
ぶっちゃけ、こういう人出すと話がラクですね…
まあ、初めての作品なんて許容してください…
篠原さんの言葉は意味深だらけにしてます。
お楽しみに!とかいえる力が欲しい…
次もよろしければご覧くださいー!