女神再び   作:resot

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ついに天才篠原さんが活動を開始します。
残ったメンバーたちの物語。そして、残されたメンバーの物語。篠原さんは皆に何を語るのか。
復活はこれからです。


第9話 バチ

アメリカ。ニューヨーク。

私の家は、世界最大の都市の郊外にあった。

私の名前は絢瀬絵里という。歳は28歳。

日本から3ヶ月前にこの地にやってきた。

 

なぜここにいるかって、元々は、とある大学で研究をしながら、会社に勤めていたのだが、趣味でやっていたバレエが転機になった。

 

東京のバレエ教室でいつものように踊っていた時。同僚が、悪ふざけで私の演技の動画をとっていた。

 

「ねえ、ちょっと投稿してみない?」

 

「え、やめてよ、恥ずかしいわ。」

 

「いいじゃん、絵里すっごくうまいし!

それに、あのμ'sの一員ってだけあって、すっごくスタイルいいし!」

 

そう言って勝手にその子が投稿したニューヨークのコンテスト。それに通ってしまった。

まさか。と思った。でも同時に、チャンスかも、とも思ったのだ。

 

心が動くのを感じた。

私の演技が、誰かに評価された。

チャンスがあるなら。ずっとやってきたこの競技で、生きていけるなら。

やってみたい、かも。

 

そして、そこそこの規模の養成施設に入ることになった。住む場所なども手配してくれるという。

 

私は残っていたお金を注ぎ込んで、アメリカに渡った。

ただし、そのことは、家族以外誰にも言わなかった。

今はアイドルを、雪穂としている亜里沙にも、硬く口止めしておいた。

 

μ'sのメンバーにも、希にも、言わなかった。

きっとみんななら、私を喜んで送り出してくれただろう。でも、大切なみんなに会って、むしろ決意が揺らぐのを恐れた。

 

絶対、みんなにいい報告をしてみせる。

 

私は、何かしら結果を出すまでは帰らない。そう決めたのだ。

 

最近は少しずつだが、結果もで始めた。舞台にも何回か出ることができている。

 

そのたびに、私は、舞台で一人で歓声を受けた。

周りには誰もいない。

当たり前なのに、すごく不思議な感じがした。

高校生の頃を、やたらと思い出した。

 

不思議な感覚だった。

 

部屋に入ると、まずお風呂に入る。暖かいシャワーを浴びて、体の疲れを取る。明日も忙しいのだ。

そして風呂から上がったら少しのお酒を飲みながらテレビを見る。この瞬間が何とも言えない。至福の時だ。

 

私は少しずつ前に進んでいる。

うん、大丈夫。

 

気のせいだよね。

 

ーーー高校の頃が、忘れられない、なんて。

 

「…もう寝よう。」

 

それを噛み締めて、ベットに入った。すぐに、眠りについた。

 

次の日。

その日は、午前中から練習の予定だった。まず事務所に挨拶に行かなければならない。

ドアを開いて中に入れば、段々と見慣れてきた光景が広がっている。およそニューヨークっぽくない、日本みたいなビルのドアを開ければ、1日が始まる。

はずだった。

 

部屋は真っ暗だった。

そして、誰もいなかった。

 

おかしいな、と思った。

今日に限って、誰もいないはずはない。

電気をつけようと、スイッチを入れた。電気は、つかなかった。

 

みるみるうちに不信感が私を襲った。

 

"Hi,Eri! What'up?"

 

後ろから声。見ると、一人の同僚が立っていた。事情を説明すると、その子も何も聞いていないという。

 

隣の事務所に声をかけてみた。

茶髪の若い青年から聞いた言葉は、信じがたいものだった。

 

bunkruptcy

 

和訳は容易だった。

昨晩、すぐに荷物を引き払って、出て行ったという。いやに冷たいその言葉は、耳に残って離れなかった。

昨日、そんなそぶり一切なかったじゃない。

 

手から何かが滑り落ちていく。いや、違う。全てだ。手が、どんどん軽くなる。

 

待ってよ。

いかないで…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

煌々と照る明かり。

私を襲う不幸は、それだけではなかった。生活は、会社側が援助してくれていた。家もその中のものも、ほとんどが会社のもの。それがもぬけの殻、ということは、言わなくてもわかるだろう。

帰る場がない。多少はいていいらしいが、その先に当てがない。日本に帰ろうにも、お金がない。

 

私は全てを失った。

助けてくれるものなど、誰もいない。

たった一人でここまで来た。

チャンスをつかもうと。

 

連絡手段まで絶って。

そのチャンスは、手から滑り落ちていった。もう少しで届きそうなところで。

きっと報われると思っていた。

 

甘かったのだ。

 

ぼうっと歩いていると、いつの間にか郊外へ入っていた。緑が見えた。

ところどころ、街灯が灯っている。

植え込みの奥には、散歩する何人かの人影。

どうやら、公園のようだ。

 

 

 

ふと思った。

あれ…この公園は・・・。

 

 

 

私は走り出した。

詳しい場所なんか覚えてない。走れる格好でもない。

何度もつまづいて、草に引っかかって。

何も考えてなくて。

 

でも、私の身体は、まるで何かに繋がれているように、ある場所に辿り着いた。

 

そこには、見覚えのある小さな石の舞台があった。ところどころ崩れているけれど、当時のままだった。

 

ああ、覚えてる。ここを。むしろ、なんで忘れてたんだろう。こんなに近くにあったんだ。

 

上に登ると、遠くに煌々と照る街の光が見える。もう10年も前。みんなと、ここに立ったのを思い出した。そして、ライブをした。

 

 

Ah もしもは欲しくないのさ

もっとが好きangel

 

 

μ'sとして歌った歌詞は、全て覚えていた。私がセンターをやった歌。

 

アメリカでのみんなとの生活も鮮明に思い出せた。穂乃果が電車を間違えた。海末はホテルで泣き叫んだ。花陽はお米が食べたいとわがままを言っていた。あれは面白かったわね。そして、希が、隣にいてくれた。あれだけの思い出をくれたみんな。大切な仲間たち。

 

その人たちに黙って、ここへ来た。

 

 

簡単だ。バチが当たったのだ。

 

 

そんなことを考えながら、ぼんやりと街灯の中、走っている人々を見ていた。これからのことどころか、頭はぼんやりとして何も考えられない。ただ、思い出だけが体を、頭の中を、駆け巡る。

 

あまりの自分の愚かさに、むしろ笑みがこぼれる。もう、どうしてこうなっちゃうかな。うまくいかないもんだな。

 

夜のランニングに励む、明らかに異国の人々。

 

私のことなんて、何も知らないひとたち…のはずだった。

 

その中に、明らかにおかしな格好をした人がいた。

 

その人は、周りの人がランニングウェアを着ている中、なぜかスーツを着ていた。

 

 

ん?

 

 

こっちに向かってくる。街灯に照らされて、顔が見えた。日系の顔だ。整った顔は、イケメンの部類に入るだろう。その人は舞台で立ち尽くす私を見ると、立ち止まって、ゼエゼエ言いながら、

 

 

「やっと、見つけました・・・」

 

と言った。日本語だった。

 

「だれ、です?」

 

細身のスーツにぴったりと合った細身の身体。整えられた髪の毛に切れ長に怪しく光る目。こんな人は知らない。

 

「絢瀬絵里さん。そうですね?」

 

名前を当てられた。

 

「はい、そうですが。」

 

咄嗟に答えてしまう。

あまりいい予感はしない。明らかに、マフィアにしか見えない。しかも私は絶賛ホームレスの身。

咄嗟に身構えた。何かあったら声をあげよう。

 

「僕は篠原といいます。高坂穂乃果さんの知り合いです。」

 

だが、懐かしい名前が出て、私はびっくりしてしまった。

 

は?へ?

 

「穂乃果の・・・?どういうことです?」

 

「あなたは連絡手段を断ってここに来た。そうですね?だから知らないでしょう?高坂さんが、もう一度μ'sを復活させようとしていることを。」

 

私は自分でも鼓動が速くなるのがわかった。

 

「は・・・?」

 

「あなたにそれを伝えにきたんですよ。」

 

「そんな・・・一体どうして・・・それに、あなたは何者?」

 

「そんなことは本人に聞いてください。ただ、僕はそれをお手伝いさせて頂いています。そんだけの人間ですよ。やっとのことであなたの事務所を探し当てたのですが、事情を聞いて走り回って探してたんですから。全く、どこほっつき歩いんてんですか?話を聞いてください。」

 

それからその篠原という男の人から説明を聞いた。

穂乃果からのメールの内容。みんなの思い。メンバーが集まらず苦労していること。

申し訳ない思いでいっぱいになった。

 

「それで、あなたはどうしたいんです?」

 

そう聞かれた。

 

答えは決まっていた。

 

あの時、伸ばされた手を掴んで、見えた景色。

 

演技中に、忘れられなかった思い出。本当の理由。また目を背けようとしていた、自分の思いは。

 

「私、もう一回やりたいです。みんなにきちんと謝って、それで償わなきゃダメだと思います。」

 

ふと、篠原さんと目があった。

その瞳は、何か引き込まれるようで、そうでもないような、不思議な感じがした。何か、見えているような…

見られてるような…

 

「覚悟は、本物みたいですね。」

 

篠原さんはそう言った。いや、言い切った。

そして、一つの封筒を出した。

 

「これを。あなたがこの3ヶ月、あなたなりに頑張ったものと思ってください。」

 

封筒を開けると、ドルの札束が入っていた。

 

すご…

 

「い、いえ。あの、こんな大金、受け取れません。」

「一文無しなのに、律儀すぎますって。それに、それは間違いなく、あなたのものです。つまり、支払われるべき給料です。きっちりと彼らから取り立てておきました。」

 

「え?」

 

篠原さんと名乗った男は、表情を変えることなくそう口にした。

 

「つまり、事務所のやつらを見つけて、取り立てておいた。それだけです。礼なんていりません。日本へ、あなたは行くべきです。それとーーーー」

 

この人、一体何をどうやってそんなことを。呆然とする私に、篠原さんは携帯を取り出して、画面を見せた。

ボイスメッセージ。一件の録音があった。

 

<絵里ちゃん?絵里ちゃん?聞こえる?穂乃果だよ!ごめんね、何も相談にのってあげられなくて。私、ちっとも知らなかった。絵里ちゃんのこと。

また、誰かに言われるまで気づけなかった。

また、周り見えてなかった。

本当にごめんね。

 

それでね、私、また走ってみたいの。

後悔しないように。勝手なのはわかってる。でも、また私は人を笑顔にさせる、そんなアイドルになりたい。

高校の、最高の日々をもう一度すごしたい。だから、応えてくれる?

返事、ずっと、待ってるから。>

 

「少なくとも、あなたにはまだ帰る場所が、ありますよ?」

 

そう言って、篠原さんは携帯を閉じた。

 

飛行機の中で、私は色んなことを考えた。

穂乃果?謝るのは私の方。私は何もわかっていなかった。自分で何でもできる気になって、止めてほしくなくて、勝手に旅立った。その程度の覚悟ならやめるべきだった。

覚えてる?私はあなたが手を伸ばしてくれて、アイドルになった。

私は、またあなたに助けられた。

今度は、私の番。きちんと応える。あなたを、今度こそは導ける先輩になりたい。

 

そして、隣で新聞を読むこの男。

 

「あの、篠原さん。」

 

「はい?」

 

「本当に、ありがとうございました。何から何まで・・・」

 

彼は、パタン、と新聞を取り出す。

 

ポケットからアイマスクを取り出した。

 

「いいんですよ。

・・・これで、私も答えが見つかるならね。」

 

「答え・・・?」

 

「ええ。」

 

彼は、マスクを取り付けた。

 

「あなたたちの、本当の力を知りたいんです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空港に着くと、懐かしい穂乃果の顔が向こうに見えた。私は帰るべき場所に帰ってきた。

 

もう一度、チャンスをつかみに。

私は、また走り出した。

 

 

 

 

 

友達に、きちんと話をする。

それが大事。

とても、難しいことなのだけれど。




絵里ちゃん復活です。
篠原さんはもぬけの殻の事務所から手がかりを見つけ、事務所社長を脅して金品を強奪、国外逃亡しています。
ぶっちゃけ、こういう人出すと話がラクですね…

まあ、初めての作品なんて許容してください…

篠原さんの言葉は意味深だらけにしてます。
お楽しみに!とかいえる力が欲しい…

次もよろしければご覧くださいー!
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