女神再び   作:resot

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最近涼しくなってきました。
この話は、あまり考えなくても、μ'sのメンバーが作り上げてくれたような、そんな話です。

真姫ちゃん視点です。


第10話 才能

頑張れば報われる。

努力は報われる。

 

勝手な言葉だ。ふざけた、破綻した理屈だ。それを言ったのは、報われた人だけじゃん。

 

全員に、全ての場合で、それが当てはまるとは限らない。

 

私は西木野という家に生まれて、真姫という名前をパパとママからもらって、医者になりたくて勉強をした。

それが全てだった。それだけでいいと思ってた。

 

それでも、音楽だけが、そして、小さい頃からテレビに映るアイドルと呼ばれる存在だけが、私に尋ね続けた。

 

それでいいのーーーー?

 

そして高校生になって、おかしな人たちと出会った。

その人たちは、勝手に私をアイドルに勧誘した。

そして、私に今まで見たことのなかった世界を見せてくれた。私の作った歌を歌ってくれた。

みんなで踊った。練習して、練習して、苦しさを乗り越えて、ラブライブで優勝した。

 

嬉しかった。音楽がずっと投げかけていた、問いへの答えをくれた。

それだけじゃ、なかった。大事なものがあった。

 

まだ、やりたいことがある。仲間がいる。

 

その思い出が、どんな困難にも立ち向かう勇気をくれた。努力の理由をくれた。

頑張れば、最高の結果が得られる。助けてくれる人もいる。

そう信じる理由をくれた。

 

だから、μ'sが解散した後、必死に勉強できた。

本当にやりたいことに向き合った経験。

それがあったから、医療への道も、たしかにやりたいことなんだって気がつけた。

アイドルやってたころくらい、頑張れたから。ほとんどトップの成績で医学部に受かって、医療の世界に飛び込んだ。

 

 

なのに。

なぜ?

 

 

その結果がこれだった。才能があることで、疎まれ、嫌われ、孤立した。

 

私が、いかに恵まれた環境にいたかわかった。

困っても、誰も助けてくれない。

失敗したら、喜ばれた。

成功したら、貶められた。

頑張っても頑張ってもダメだった。認められなかった。

 

私が何をしたっていうの?

 

私が信じて来たものは、あそこだけのもの?

 

世界で、一つしかないのかな……?

 

あんな暖かい場所は。

 

ある日、いつものように手術に立ち会った。私は補助として手術に立ち会っていた。先輩が執刀を行った。

 

そして、患者は死んだ。私がやっていれば、とも思ったし、悔しかった。でも、それは医師として乗り越えるべきこと。そう思っていた。

 

そこからだった。私は何もしていない。それなのに、患者の死は私のせいになった。

何が起きているのか、わからなかった。だけど、すぐに悟った。はめられた、と。

 

勿論、反論した。院長にまで言いにいった。だが、聞き入れられることはなかった。

努力は報われないのだ。必死にやっても、報われないのが普通。出る杭は普通うたれる。

 

高校生の時の成功は偶然だ。もう起こることではない。

私は、今この病院にいられなくなろうとしている。近いうちに、辞令が下るだろう。よくて異動だな。うん、間違いないわね。

 

そんな時に、穂乃果からメールが来た。μ'sをもう一度。

 

心が動かないわけない。

私がたしかに信じている、たったひとつのもの。

捨ててしまった気持ちが残る、ただ一つの場所。

努力が報われ、失敗が成長の糧になる場所だ。

 

そして、大切な、かけがえのない人たちがいる場所。

 

私は、メンバーが大好きだ。

彼女たちは、絶対に自分を裏切らない。そう信じている。

大切なんだ。

 

ーーーーだからこそ、自分のような辛い思いをしてほしくない。

 

必ず困難が待っている。

大人になったからこそ、高校生の時のような甘い困難ではない。

人間の醜さが、一心に現れるのが「社会」だ。

 

 

だから、μ'sの復活だけは止めなければならない。私は、不参加の道を選んだ。

 

 

約束の日。勿論私は行かなかった。

すると、夕方になって、来訪がある、と受付の方から伝えられた。

 

ソファに座っていたのは、花陽と凛だった。

 

遠くから見てすぐわかった。

ああ、多分私を説得に来たのだな、と思った。

嬉しい。嬉しいよ。

 

こんな私を、やっぱり信じてくれてる。

何もかも捨ててしまった私を。

しっかりしなきゃ。

取り戻さなきゃ。彼女たちに失礼のないように。

 

あの時の、気持ちをーーー。

 

2人とも、当時とあまり変わっていない。その可愛らしさは、失われていなかった。私の、大切な親友たち。

 

ストレートに、自分の思いを話せばよかったのだ。絶対に、彼女たちは受け止めてくれたはずだ。

 

 

 

 

それなのに、私は逃げた。嘘をついた。また、自分らしく人と付き合って、裏切られる。

 

その感情は、大切な人たちを前にして、突然現れた。

手を広げて、私を真っ黒に染めようとしてくる。

負けたくない。負けるな。こんなものに負けるほど、私の高校時代の思いは弱くないはずだ。

この子たちへの想いは、弱くないはすだ。

耐えろ、耐えて。

 

話せば、わかってくれるから。

 

だけど、結局は、その思いに、飲み込まれてしまった。

 

結果、大切な友人を失った。別れ際の彼女たちの顔。もう、来ないと思う。

 

もう、何も残されていない。

ああ、何でだろう。

 

失いたくなかったのに。

 

なんでよ。

 

素直になることすら、私は捨ててしまったの?

 

溢れる涙が、止まらなかった。

 

不甲斐ない自分に、死んでしまえと何回思ったろう。

 

でも、その勇気すら出ない。

 

死んでしまえば楽なのに。でも、私は今だに弱虫のままだった。

 

どうしたらいいの?

 

 

 

 

どこかの病院で、きっとそのまま働いて、死んでいく。

私の人生は、そういう風になるのだろう。

 

そして、その日は訪れた。

 

朝。医者は仕事が多い。仕事をしていれば、一人でいる口実ができる。

 

もはや、何が正解かわからない。

 

でも、患者さんと話をしていれば、辛い気持ちも少しは紛れる。そのすがるような思いだけが、私を毎日病院へ向かわせていた。

 

昼を回った頃に院長に呼ばれた。

 

とうとう来たか、と思った。私の人生はほとんど終わった。

 

高校時代からの努力の成果は、最悪の形で現れた。

 

「失礼します。」

 

ドアをノックして、入ると、院長にソファに座らされた。

 

「西木野くん、どういう理由でよばれたか、わかるね?」

 

私は唇をぎゅっと結んで、

 

「はい。」

 

そう言った。

 

「それなら、これを。」

 

院長のポケットから出た封筒。

 

全部終わりだ。

 

ガチャリ。

不意に、扉が開いた。

 

ーーーその音が、私の人生で2番目の、「本当の」扉を開く音だった。

 

現れたのは、一人の真っ黒なスーツの男。

細身の体にぴったりと撫で付けた髪。

黒いカバンを持って、さながらサラリーマンといった格好。

そして、切れ長の目が印象的な男。

 

サラリーマンだよね?マフィアにも見えるんだけど…

 

 

「誰だね、君は!ノックくらいしなさい!」

 

 

院長が叫んだ。

その男はそれを無視して、

 

「ああ、間に合いましたね、あなたが西木野真姫さん。そうですね?」

 

ただただ、驚きで頷くことしかできなかった。何で私の名前知ってんの、この人?

 

誰?

 

「おい、ふざけるな!お前は誰だと聞いている!」

 

「あーっと、ノックの件については失礼。あなたが院長さんですね?へえ、イケメンだ。

まあ自分が誰とかは地球が今まで何周回ったかくらいどうでもいいですから。ともかくこれを見ていただきたい。」

 

その人のカバンから出て来た書類。それは、一枚のメールのコピーだった。

 

「いいです?ここにあるのが、ここの一人の医師の名前。そしてもう一人。つまり、この2人のやりとりです。

そして、この2人は術中に患者が亡くなった、あの事件の執刀医とその先輩。いいですね?間違い無いですね?さて、ここにはなんて書いてあるでしょうね?」

 

「何だ、君!今話してるだろう!」

 

「いいから見ろ」

 

今までの丁寧な声とは思えない、脅迫者のような声で、男はそう命令した。

やっぱりマフィアのようで、私の背筋は凍りついた。

 

その人は、私にもコピーを渡してきた。慌てて目を落とす。

 

そこには、私に罪をなすりつける、その決定的なやり取りの内容が書いてあった。

 

「それだけではないです。

これを聞いてください?」

 

<今日は飲むぞー!俺の時代だ!姉ちゃん、酒、酒ついで!

西木野め、俺をコケにするから、>

 

ぷつんとその男はボイスレコーダーを切って、

 

「さて、誰の声でしょう?」

 

と言った。

それは、先輩の、あいつの声だった。やらしい顔を思い出した。

 

院長は呆然としていた。

 

その男は、

 

「さ、行きますか。もういいでしょう?また話を今度西木野さんにしてあげてくださいね?それでは、西木野さん、こちらへ。」

 

私も呆然として、動けなかった。

罪が晴れた。それもあっさりと。誰、ほんと誰?あなた。

 

「早く、こちらへ」

 

再度促されて、無言で立ち上がる。ドアの前で立ち止まった彼は、

 

「あの人たちに話をするなら言っておいてくださいね?お酒の席で仲良くなった女の子がどんなに可愛くても、ベラベラ喋っちゃダメだよーってね。」

 

そう言い捨てて、部屋を出て行った。

 

ロビーで前を歩く男に、思い切って話しかけた。

 

「あ、あの・・・ありがとうございました。」

 

「あーどうも。僕は篠原といいます。」

 

「さっきの、一体どうやって・・・」

 

「まあ、気にしないでくださいよ。それよりね。僕は、高坂さんの知り合いです。μ'sが復活する話。それを助けているんです。」

 

混乱している。何が何だかわからない。このマフィアが、穂乃果の知り合い?

 

「え?それは一体、穂乃果とどういうご関係で・・・」

 

「彼女とかそういうのではありませんがね。」

 

「なぜ・・・?なら、一体何でここまでしてくれたんです?あなたは、一体…?」

 

篠原は振り返らない。まっすぐ前を見たまま、

 

「そうですね、一つは、あなたたちに興味が湧いたから。

・・・それと、あなたにはもう一つ。

調べていて、あなたが冤罪をかけられていると知った。その背景もね。そして、自分に似ている、と思った。必死に頑張って、結果得たのは他人の妬み。自分から人が離れていく。そういう苦しみを知っている人だと思ったから。

 

何もかもが失われていく感覚。

自分の存在さえも、ね。

 

これで答えになりますかね?」

 

ただ、と篠原は続けた。

ガラス張りの玄関の前に来ていた。

 

「僕との違いは、あなたには、どんな時でも味方になって、きちんと支えてくれる人がいるってことでしょうね。」

 

外に出ると、そこには、花陽と凛がいた。

もう離れたと思ってた、大切な仲間がいた。

 

「真姫ちゃん!」

 

2人が叫んで抱きついてきた。

 

「ごめんね、真姫ちゃん。私、一方的に自分の気持ちばっかり言って、全然真姫ちゃんのこと考えてなかった。」

 

「凛も一緒だよ、本当にごめんね?」

 

私は、何をしていたのか。

こんなに想ってくれる友人を、忘れようとしていた。疑っていた。信じていなかった。

 

真っ黒な闇が、晴れていく。

 

涙が溢れてきた。

 

本当に伝えたかったこと、今なら。

 

「花陽、凛。あなたたちが謝ることじゃない。悪いのは全部私。一つも本音を言えなかった。昔と何にも変わってなかった。子供だったのは私の方。

ほんと、ごめんなさい。

私は戻る。もう忘れないように。

だから、3人で、9人で、また頑張りましょう?」

 

花陽は泣いていた。凛も泣いていた。

私も泣いた。

 

いつ流したか覚えがないくらいの、暖かい涙だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひとしきり泣いた後、篠原は

 

「さ、行きますよ。皆さん待ってますからね?」

 

と言ってスタスタ歩き出した。

 

「あ、あの・・・」

 

ありがとう、と言おうとした。助けてくれたこの人に、どうしても言いたかった。

 

「ところで、真姫ちゃん?」

 

それを遮るように、凛が言った。

 

「真姫ちゃんのために、強くもないお酒をいっぱい飲まされた私たち二人への借りはきっちり返してもらうからにゃ〜?」

 

「え?」

 

「そうだよ、真姫ちゃん?お金、いっぱい持ってるよね?」

 

「ちょっ・・・なんでそんなこと!ていうか、それとこれとは別じゃない?」

 

「いいや、酒の恨みは怖いよ〜しっかり取り立てるからにゃー?」

 

「ちょっとおおお?」

 

「真姫ちゃんはやっぱりまだ子供ですねぇー?」

 

一体何を言っているのか、二人は。

 

 

 

 

 

・・・まさか。歩いて行く後ろ姿。

飲み会。

そして、あの録音音声。

 

あの男。

まさか二人を使って証言をさせたのか。

 

「ちょっと、篠原さん?まさかあなた・・・?」

 

ふと、目があった。その瞬間、戦慄が走った。まるで、自分の全てが見透かされているような。そんな恐怖にも似た感情。この男…ほんと、何者?

再び、汗が出る。

声が出ない。

 

何か、危険な感覚がする。

 

ーーーまるで、人間じゃないような。

 

まともじゃない、この男。

 

 

「え?ああ、協力して頂きましたよ。そんなに敵意向けないでくださいよ、喜んで二人ともやってたんですよ?あなたのためならーって。」

 

 

この男から感じるのは、間違いなく狂気だった。

 

・・・ただ、悪い人ではないだろう。多分。やっぱマフィアくさいけど、助けてくれたのはこの人なのだし、それに、芸能会社で働いていると言っていたから、身元もはっきりしてるし。

それに、もう二人に迷惑をかけることもない。

 

私は、ここにもういるのだから。

 

「わかったわ。焼肉でも何でも奢ってあげるわよ!それでいいでしょ!」

 

「おお、さすが真姫ちゃん、太っ腹にゃー!」

 

 

この何でもないやり取り。私はまた帰ってきたんだ。

もう間違わないように。

 

 

またあの気持ちで、前へ進んで行くんだ。

 

 

 

 

 

 

 

才能は皆が求めるもの。ただ、手に入れた瞬間に非常に厄介でもある。

才能ある人間に、我々は普通の態度で接しているか。一人の同じ人間として、捉えているか。




一年生3人の友情が、本当に美しいな、といつも思います。

何はともあれ、真姫ちゃん復活です!
次回も見ていってくださいませ!
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