ぜひ残していってください!
まだ小さかった頃。
親の転勤で引っ越しを繰り返していた私は、一人でいることが得意だった。一人遊びの天才だった。人付き合いが苦手だった。
そんな時に、ふと出会ったのがタロットカード。それは、私が何か決定に迷った時、指針をくれるものになった。
穂乃果ちゃんからきたメール。
私は迷った。それは、マルかバツか、ではない。そんなの、マルに決まっている。
ただ、今すぐ、かそれとも・・・
タロットカードは今ではない、と言っていた。
朝起きると私は必ずタロットカードを引く。
今日は出社することにした。
手早く身支度を整えて、マンションを出る。
職場から徒歩で15分。我ながら完璧な立地のマンションを選んだと思う。
あっという間に会社の中のひんやりとした空気にあてられた。
オフィスにはもう何人か人がいた。
「おはようございます。」
「ああ、東条さん。おはよう。今日は大丈夫なのかい?」
「はい、何とか。」
もう入社して5年ほどになるだろうか。
仕事にも慣れ、成果をあげることもできてきた。フリーダムが売りのこの会社は、自宅業務もかなりできる。
だからこそ、休暇が許されているのもある。
席で、パソコンをいじっていると、あっという間に昼を回った。社会人というのは時間が経つのが早すぎる。
思えば、高校生の時間はそれに比べて随分長かったように感じる。それが、多分青春って時間なんだろう。
その時だった。
ドアが開いて、誰かが入ってきた。
ふと顔を上げて、びっくりした。
「こんにちは、あのー東条さん、いらっしゃいますか?」
それは、紛れもなく穂乃果ちゃんとことりちゃんであった。
「あー!穂乃果ちゃん、あそこ、希ちゃんいたー!」
「二人とも、何をしてるん?」
「決まってるじゃん、ちょっと話そ?」
なるほど、そういうことか。
あのことについて二人は話に来たのね。
「あー、えっとね。」
「何だ、東條。知り合いか?」
「ええ、社長。ごめんなさい。穂乃果ちゃん、ことりちゃん。わるいけど、今仕事してるんよ。」
「いいよ、行ってきな。」
「え?」
「社長さん、いい人ー!」
「気にしないでくれ。東條はこの会社にたくさん貢献したしな。こんな美人のお友達が来たら、追い返すわけにもいくまい。」
「ちょっとー、照れますよ!」
この二人はいつのまにおじさんキラーになったのだろうか。
まあ、何の話かはわかっている。
私たちは私の馴染みの、近くの喫茶店に入った。
コーヒーを頼む。二人はなぜかオレンジジュース。子供みたい。笑ってしまった。
まもなく飲み物が届く。それまで、私の会社のことについて話していたのに、二人の目が変わった。
「希ちゃん、返事くれなかったの、何で?」
「随分単刀直入やねえ?」
コーヒーをすすりながら、できるだけのんびりとした声で話す。
「そう、きっと希ちゃんならわかってくれるんじゃないかなーって思ってたんだけど。」
ことりちゃんは言った。
穂乃果ちゃんは、ちょっと暗い顔をした。
「ねえ、何かあったの?私たち、ほんとにもう一度挑戦してみたい。色んな事情はみんなあると思う。でも、諦めたくないの。
私たちなんか、頼りにならないかもだけど、話くらい聞くよ?」
ーーー私は、何もない。私は。
「そう、ありがとね。でも、うちは大丈夫。」
「それなら、何で・・・」
「穂乃果ちゃん、ことりちゃん。うちが高校の時、どうやってメンバーになったか覚えとる?」
「えと・・・確か絵里ちゃんが入った後に・・・」
「そう。私は最後に加入した。絵里ちをメンバーに入れてから。
そこから色んなことがあった。私は下から支えることしかできない。でもね、それに誇りもあるんよ。私の一番得意で、ずっと守りたい役割なんよ。
二人とも、私はまだやることがある。
その時が来たら、私は必ず戻ってくる。だから、待っててほしい。」
やることをやる。それが、今私のすべきこと。
私がμ'sにいるためには、その役割を全うするしかない。
「じゃあね、また今度。」
出来るだけ素早く立ち上がる。
なんだか、このままだと泣いてしまいそうだった。
「待って、希ちゃん!」
ことりちゃんに呼び止められた。
「嘘じゃ、ないよね?ちゃんと帰ってくるよね?」
私は、その泣きそうな顔を見て、覚悟を決めた。
ーーーもう終わらせよう、と。
「勿論や。またね。」
その週末に、私は超朝早くから身支度を整えた。
ていうかまだ夜だ。
目指す場所は、東京から遠く離れた群馬の山奥。
とはいえ、今日中には帰る。いや、帰ってみせる。
そう決めて、駅へ向かった。
改札前は朝ということもあり、比較的混んでいる。
電車は確認済み。
行こう。
「希、待ちなさい。」
後ろから声がした。振り返ると、そこには随分長いこと見ていない顔があった。
真姫ちゃんだった。思考が一瞬ストップする。
「真姫ちゃん、一体どうしたん?」
できるだけ平然と聞いた。
その時、缶コーヒーを飲みながら近づいてくる人影があった。
「西木野さん、東条さんは・・・
あ、見つかったみたいですね。よかった。」
それは身長が180はあろうかという大きな男だった。
細身の体にぴったりとあったスーツ。そして、切れ長の目が印象的な人。誰?
完全にあっち系の人にしか見えない。とっさに身構えてしまった。
「どうも、こんにちは。いや、おはようございます、ですね。これは失礼。それはそうと、こんな朝早くからどちらまで?」
その男は聞いた。
「えーっと、いや、ちょっと・・・
そもそも、あなたは?」
「まあ、ゆっくり話しましょうよ。
我々も、準備して来たんですから。
では、行きますか?」
「希、さあ、早く行きましょ。」
手を真姫ちゃんに引っ張られる。
「ちょ、ちょっと真姫ちゃん?私、すぐそこまで買い物行くだけ・・・」
その時、男がずいっと私と真姫ちゃんの間に割って来た。そして、目を合わせて来た。
その瞬間のなんとも言えない感覚を、私は忘れない。まるで、その人に命を握られているような、そんな気がした。
怖い、と感じたのはいつ以来だろう。
動悸が激しくなる。
何?
「嘘はよくありませんね?もう隠す必要もありません。とは言え、僕も西木野さんも知りませんから。」
「希、後で説教だから。」
そう言って、真姫ちゃんは改札を指差して、
「それじゃあ、連れて行って。にこちゃんのところへ。」
図星だった。その男の目と、真姫ちゃんの有無を言わせない口調は私に案内するしかない。という気を起こさせた。
黙って、引かれた手に従って歩き出すことしかできなかった。
それぞれの役割を全うする。それは大切なことだ。ただ、それと一人で背負いこむことの違いも、また紙一重なのだ。
はい。後味悪く終わっちゃいました・・・。
こういうの、書いてみたかっただけですw
ちゃんと続きも書きます!その時はまたゆっくりとご覧になっていってくださいね!