女神再び   作:resot

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こんにちは、resotといいます。
Pixivで投稿しているのですが、こちらでも上げてみようと思います。コメント、ぜひお寄せください。
内容はμ's復活ものです。
それでは、どうぞ!


第1シーズン μ's復活編
第1話 超人の憂鬱


「はぁ……」

 

 

思わずその男はため息をついた。

 

 

電車が音を立てて通り過ぎていく。

それに合わせるように、男の脇を通り抜けていくスーツを着たサラリーマンらしき人々が駅のホームを小走りに走る。

男はそれをチラリと見ながら、再び目を前に戻す。

 

彼もまた、前を歩く女の人に続いて少しずつ歩を進めていた。

高い身長のせいで女の人のスマートフォンが見えてしまう。仕事の連絡でもしているのだろう、メッセージアプリが起動されていた。

 

 

相変わらず横をすり抜けていく人たち。

とっくに電車は行ってしまってるのに、まだ人は多い。走る人混みの中にはヒールを履いてる女性もいる。

皆忙しそうだ。こんな蒸し暑い朝に、汗やしんどさを引き換えにしてどうしたって走る気になるのか。

 

チラリと時計を見る。

 

 

(ったく・・・。)

 

 

正直この人たちと同じように、走らないと間に合わないかもしれない。

出社時間ギリギリにしか家を出てこれないのは、何よりも出社時のラッシュを避けることが理由だ。まあこの通りこの時間でもそこそこ人は多いわけだが。

 

おかげで毎日ここでは時計を見て、遅刻しそうだと舌打ちしかける。

毎朝おんなじことを考えるわけで。

 

 

 

人の人生は長い。

しかし、その中で人間が感じること、思うことはそれほど多くはないはずだ。

特にこの歳になってしまうと惰性の毎日になっている人が多いだろから、考えてることなんてもっと限られてくるだろう。

 

 

男はまた、そんな屁理屈みたいなことを考えながら歩いている。

 

 

そしてまた、息を吐くようにため息をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

篠原浩介。

そんな何の変哲も無いような名前が、この余りにも何の変哲も無い、少し背の高い男の名前だった。

 

しかし、彼は普通の人間では無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

言ってみれば彼は「天才」なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがそれを感じさせないような淡白な、血の気の通った顔で歩きながら、またため息をつく。

 

 

 

それにしても、朝から何回目のため息だろうか。

まだ朝8時半だというのに。

一日というのは、本当に長い、と篠原は思う。

 

 

今日は事務所の社長に呼ばれているのだ。

早くせねば、と思いながら改札を抜け、正面に見える出口を目指す。

 

奥にはたくさんのタクシー。そして朝の通勤を目指して早歩きで移動する人。

いつもと何も変わらない光景だ。

 

急がねば、と足を早めたその時だった。

 

 

ドンッ

 

 

男性とぶつかった。

 

 

「あ…すみません。」

 

咄嗟に彼は謝ると、向こうもすみません、と返してきた。

 

でも、今のはおかしい。

だって俺は普通に歩いてただけだし、周りには十分にスペースがある。

そんで電源入れっぱなしの携帯が側に落ちてるってことは、どうせ歩きスマホでもしてたんだろう。

 

 

明らかにそっちからぶつかって来ただろうが、と思いながら、ふと顔をあげると、目があった。

 

 

 

(やば・・・)

 

 

 

しまった、と思った時には遅かった。

 

不快と、それから軽蔑

 

 

いつものように、頭の中に文字が流れ込む。

 

 

「・・・すみませんでした。」

 

 

もう一度返し、逃げるようにその場を立ち去る。

 

 

少し歩く速度を速めた。

さっき頭の中に転がり込んできた文字列を振り払うようにしながら、更に歩く速度を上げた。

発動した能力の効果が、歩いている間も消えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2、3分歩くと、ビル群に混じって無機質な4階建ての建物が現れる。

 

 

 

 

 

ここが俺の勤める事務所だ。

いわゆる芸能プロダクションである。

時計をもう一度見る。ギリギリセーフだろう。何とか間に合った。

自動ドアが開いて、中に足を踏み入れる。

入った途端、心地よいクーラーの冷気が体を包んだ。

 

 

 

7月。もうすっかり夏だ。

 

 

 

周りの人に軽く挨拶をしながら、2階へ向かう階段を登る。 学校のような階段を登っていると、もう上には人の気配。

 

 

(仕事熱心なこって、皆さん。)

 

 

案の定、上の階では、既に何人かが仕事をしていた。

すれ違うたびに、おはようございます、と声をかけ、奥へ向かう。

 

そのまま、社長室と書かれた小さなドアの前に立ち止まる。

口からまた溜息が漏れた。

何を言われるかはわかっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうせーー褒められるんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン、とノックをすると、どうぞ、と声が返ってきた。

 

「失礼します」

 

「おお、待っていたよ、篠原くん。

まあ座りたまえ」

 

 

社長が男に声をかけてくる。 50代だというが、その若々しさは明らかに40代。

紺のスーツが似合いすぎている。

 

赤いソファに座って、社長と向かい合う。

この向かい合うという動作が篠原は一番嫌いなのだ。

なぜなら、嫌でも目を見なくてはならないから。

 

 

 

一応目上の、社長なら、なおさら。

 

 

 

そして再び、頭の中に文字が流れ込んでくる。

今度は「期待」と「感謝 」だ。

 

 

 

本当にうっとおしい、と心の中で吐き捨てるように叫ぶ。

 

 

「篠原くん…。君のプロデュース力には本当に恐れ入った。おかげで、あの子たちも輝いているよ。

本当に助かったよ篠原くん、感謝している。これからも事務所を盛り上げていってくれ。」

 

「はい・・・ありがとうございます。」

 

 

とりあえず俺は簡単に礼を言った。

 

 

「で、今日明日はあの子達は休みだったな?

じゃあこれからのことだが・・・。」

 

 

話はものの数分で端的に終わった。

これからの打ち合わせだけだった。

 

失礼します、と社長室を出て、自分の机へ向かい、席に座る。

 

 

(・・・疲れたな。)

 

 

パソコンを開く気になれない。

まだ朝だというのに、酷く疲れた。 そりゃそうだ。朝から能力を使いすぎた。

 

 

 

 

 

 

篠原の歳は28。

 

その人生は、順風といっても差し支えなかった。

理由は簡単。彼は「天才」だった。

大学は言わずと知れた名門校だ。

頭脳明晰、家も裕福。

あらゆることに完璧だった。

 

こんな奴は本来もっと名のある仕事について、順風満帆な生活を送るのが当然だと自負するレベルで自分の力には自信がある。

 

だが、彼には秘密がある。

それがさっきの能力。

 

 

 

 

 

テレパシーだ。

 

 

 

 

 

 

篠原は小さい頃から成績がよく、更に生意気だと何度も無視やいじめにあってきた。

 

別に大して彼は何も感じなかったが、面倒ごとに巻き込まれないよう、人の観察をするようになった。

 

 

 

 

その人間観察のスキルに、持って生まれた天才の脳が、手を貸したらしい。

 

 

 

 

気付いた時には、篠原は目を見ることで目の前の人間の考えている事がわかっていた。

頭の中に文字として浮かんでくる。

それは篠原の意思と関係なく、強制的に発動される。

 

 

 

 

今までだって、俺は散々多くの人の感情を読み取ってきた。

おかげで面倒ごとを回避する力だったら誰にも負けないだろう。

 

 

 

 

ただ、この力は人間には必要ない能力でもある。

たとえば、自分の何気ない一言で空気が変わるのが手に取るようにわかる。

 

 

わからないから人間は幸せなのだ。

気づかない事がいっぱいあるから、人は普通に生きていけるのだ。

 

だから、こんなチカラはいらない。必要ないと心底思う訳で。

 

それに、とても体力を使う。

多くの人の感情が流れ込むというのはそれだけ疲れるって事だ。

他人の心を読めてもいいことなんて特にない。

それに、自分に向く感情なんて尊敬か期待か不快感くらいのものである。

 

 

 

 

大学卒業後も、篠原には特にやりたいことなんて見つからなかった。だから俺は、同級生と一番会わなさそうな、ついでにラクそうな、この芸能プロダクションへの道へと進んだのだ。

 

 

当然、芸能人などに興味は何もない。

まして、アイドルなどほぼ知らない。

 

 

ただ、グループを有名にする、というだけならちょっと学べば簡単だった。

彼は天才だったのだ。

 

 

 

あっという間に担当したグループは売れた。

 

 

 

そんなに大きな会社では無いウチにとっては、かなり大きな稼ぎだったはずだ。しかし、やりがいは微塵も感じない。

むしろまた目立って、周りから冷たい目で見られるだろうとうんざりしている。

 

 

この仕事が楽しいなんて、一ミリも考えていなかった。

 

 

その日もいつもと何も変わらない一日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、そのはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

午後7時。

篠原はいつもより少し早く玄関の前に立っていた。

 

 

「さてと・・・。」

 

 

今日は早めに帰ってOKサインが出た。

担当の子達は3日ほど休みをあげている。

 

その間に仕事を押し付けられたわけだが、彼の力なら何の問題もなかった。

とはいえ、帰ってやりたいことも特にないわけで。せいぜい気に入っているゲームをやる程度だろう。

 

 

「・・・久々に行ってみるか。」

 

 

久しぶりに、あそこに行ってみようか、と篠原は思い立った。

 

 

篠原は、まだ蒸し暑い往来を駅に向かう。

勿論顔はあげない。

無駄に誰かと目を会わせないためだった。

 

これ以上能力を使ってしまったら、疲れのせいで明日の朝は確実に寝坊だ。

 

すぐに駅に着いたが、改札の横の階段から連絡通路へ。あっという間に駅の逆側に降り立った。

 

 

こちらは駅の逆側と随分と雰囲気が違う。歩き出すと、途端に背の高い建物はなくなった。

せいぜい5階建の背の低い建物たち。

下町情緒溢れる、とでもいうのか。

 

年季の入った建物が立ち並ぶ。 雑貨屋や鋳物屋なんて、東京という街に残ってるんだな、と初めて見た時は中々に驚いた。

少しだけ歩を速める。

朝とは違う、少しだけ気分の良い早歩きだ。

いくつかの角を曲がり、歩いて行った先に目当ての店があった。

 

 

「変わんねえなぁ。」

 

 

篠原はつぶやいた。

 

それは、特に年季の入った一軒家だ。家の軒には「穂むら」と書かれた幕が掲げられている。

もう何十回と来ているけれど、ここがこの風貌以外だったことは一つもない。

 

 

ここは篠原の行きつけの和菓子屋だ。

 

 

横開きのドアをガラガラと開けて中に入ると、事務所以上の心地よい冷気がおそってきた。

 

 

「いらっしゃいませ!

あ〜!いつもありがとうございます!」

 

 

途端、元気のいい声がやってきた。

店内にはカウンターに立つその子以外誰もいない。

今日はあの子か、と気がついた。

 

 

ここの看板娘の女の子だ。

背はそこまで高くないが、スラっとした体型。

まっすぐに下ろした茶色の髪の毛。

もちろん感情を読みたくないので、目はちゃんと見たことがないが、大きな青い目をしているようだ。

 

かなりの美形である。

 

街を歩いていたら、少なくともうちの事務所の者なら、放ってはおかないだろう。

間違いなくスカウトだろう、という程に美人だと思う。

しかし、俺はスカウトになど興味はない。 あんな世界に誰かを放り込むのはまあ面白いこともあるかもだが、めんどくささが勝つ。

 

 

 

(それで俺が担当なんてなったらめんどくさいにも程があるしな・・・)

 

 

 

「いつもすみません、まんじゅう5個ください」

 

「はい、穂むらまんじゅう5個で!

400円になります!」

 

 

いつも通りのオーダーをする。

入社した後、このあたりをブラブラしている時に見つけたのだが、その中でもここのまんじゅうはダントツに美味しい。

皮もモチモチしているし、あんこもこしあんで割と俺好みだ。

 

 

それだけじゃなくて、何だろう、何か温かい味がする。

好きなものはあまりないが、ここのまんじゅうは自信を持って好きといえる。

美味しいだけじゃない。

何だか、少しだけだけれど、胸の奥で何かが、声を上げる。

 

 

 

その感覚が、どうしても忘れられないのだ。

 

 

 

「はい、ご注文の品です。いつもありがとうございますね、また来てください!お仕事頑張ってくださいね!ファイトだよっ!」

 

「どうもありがとう、また来ますね。」

 

 

 

(俺は励まされているのか?よくわからんが・・・。)

 

それにしてもこの子は本当に溌剌と話す。

 

たまに思うのだ。

自分もこんな子に生まれていたら、毎日楽しいんだろうな、と。

 

 

そんなことを思いながら、店を出た。

 

 

「ありがとうございました〜!!」

 

 

ドアを閉めると、今度は熱気。

夜なのにこの気温はうんざりする。

 

可能ならこのままもう一回後ろの扉に入っていきたいところだ。

 

 

彼女のやかましい声が後ろの扉からかすかに聞こえる。

あの子は、本来、自分が交わるべき人ではないと篠原は思った。

店員と客。せいぜいその程度でしかクロスしないし、しなくていい。

 

 

空には満天の星、ではなく真っ暗な新月の夜空。でも、お気に入りのまんじゅうと元気な彼女の声のおかげで、久々に気分のいい夜になりそうだ。

 

 

「明日もまあ、頑張りますか。」

 

 

そう呟けるくらいには、元気が出た気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

篠原は埃のかぶったダンボールの山と向かい合っていた。手にはマスク。

スーツも上着は脱いで、カッターシャツ姿になっている。

 

 

「・・・。」

 

 

何でこんなことになっているのか。

話は少し前まで遡る。

 

 

「篠原くん、悪いんだけど、あの倉庫の整理お願いできない?」

 

 

机でパソコンをいじっていると、急に我らが社長が声をかけて来たのだ。

 

いくら期待されているとはいえ、新人は新人。

当然だが、雑用仕事も多い。

だからって倉庫の整理なんて頼まれた試しはなかった。

 

 

「え?どれですか?」

 

「あの部屋なんだけど。」

 

 

指の指された先には資料室1、という札のかかった部屋。

今まであの部屋に入ったことはない。

この会社に入って3年ほどだけど、それでも使ったことないレベルってことは・・・。

 

 

「・・・。」

 

「大丈夫!散らかってるけど汚れてるってことはないからさ!」

 

 

惨状が容易に予測できる。

 

 

「どうすればいいんですか?」

 

 

篠原は頭を押さえたくなる気持ちに駆られながら答える。

 

 

「最近物が増えて、しまう所が足りなくなってきてね。あの部屋にもっと物がいれたいんだ。」

 

「要するに、散らかってるから整理しろというわけですね。

いいんですか?私がやってしまって。」

 

 

多少なりとも大事なものもあるだろう。

それを俺が片付けてしまってもいいものだろうか。この会社の性質からして、そんなに困るということもないかもしれないけど。

いい加減なとこも多い会社なのは知ってるわけで。

 

 

「うん、大丈夫。ものはあんまり捨てないでね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで資料室掃除である。

予想通りの惨状が目の前に広がっていた。

棚みたいなものもあるにはあるが、それも含め、部屋の中がダンボールで埋まっている。

それも中身がいっぱいのやつ。

 

5畳ぐらいの部屋が、完全に足の踏み場を失っていた。

 

 

「・・・やるか。」

 

 

マスクをはめてダンボールの山と向かいあう。

どう積んであるんだこれ、と感じるような恐ろしいバランスで積まれたダンボール。

 

ざっと目を通して作業手順を立てる。

最速で終わる手順を立てることなど、篠原の脳にとっては大した手間ではなかった。

 

 

とは言え、雑然とした棚と所狭しと並んだダンボール。

これは長い仕事になりそうである。

 

 

「ったく、クソめんどくせぇな・・・。」

 

 

1つ1つダンボールから物を出し、仕分けて行く。紙は紙でファイルへ、物は物でもう一度ダンボールへ。 埃と戦いつつ、手際よく進めた。

 

 

まあ、人と関わらなくていいぶんこっちの方が楽である。

あっという間に一つ目のダンボールの中身が仕分けられた。最後にこの紙の山をどっかにまとめて放り込めばいいだろう。

 

 

「次。」

 

 

そして、次のダンボールを手に取った時だった。

1枚の紙がひらりと落ちて来た。

 

 

「おっと。」

 

 

下に落ちそうな紙を咄嗟にキャッチする。

何でこんな風に置いてあんだよ。全くもう。

苛立ちつつも、持ち上げるとその見出しが目に入った。

 

 

「ラブライブ優勝グループ」

 

 

ラブライブ。

手が止まった。

確かスクールアイドルの全国大会だったろうか。聞いたことくらいしかないな…。

 

 

手を止めてざっと目を通すと、聞いたことのある名が並んでいた。

どうやらラブライブの優勝グループをまとめて表にしたやつみたいだった。

これが開催されてからもう10年も立っているらしい。第一回目が10年前。そこから毎年2回は開催されているようだ。

 

 

「へえ。」

 

 

第一回大会の優勝者を見て、思わず声が漏れる。A-RISEが第1回優勝グループだったのか。今でもトップアイドルとして活動している。

よく話題になっている。当時高校生だったはずなのに、ちっとも知らなかった。

そのほかにも耳にする名前が多い。

その時、1つ下のグループに目が止まった。

 

 

「・・・第2回優勝、μ's?」

 

 

それがすべての始まり。

彼と、彼女たちの、長い長い旅路の、スタートだった。




はい、というわけで目を見れば感情が読めるほどの洞察力を持つスーパーマン、篠原さんの登場。
こんな人、周りにいません?何か心を読むのが上手い人。そんな人が今回の主人公です。
そして、穂乃果ちゃんも登場です。
これからの展開にもご期待ください。
それではまた。
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