女神再び   作:resot

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さあ、いよいよラストへ向かいます!


第16話 みんな その3

「し、篠原さん、ごめんなさい・・・」

 

「いいから、早く乗って。そしてシートベルトしめてしっかり掴まってるように、いいですね?」

 

ドアを閉めながら篠原さんが言う。そのまま運転席に回って、ドアを開けて篠原さんが飛び乗る。

 

私も、シートベルトを締めた。

 

ああ、やってしまった。

 

 

 

 

今朝だった。簡潔に言えば、思い切り遅刻が確定した。

混乱する頭で、辛うじて鳴り響く電話の音を拾った私の耳。

出ると、篠原さんからだった。

 

「高坂さん、何してんですか!?」

 

「ね、寝坊しました!すいません!」

 

「はあ。わかりました。バカなんですね?あなたは想像の上をいくバカだったんですね!?ほんっとに、もう・・・

もういいです!

いいですか、15分後、家の前で。朝ごはんは食べてくださいね!」

 

そう言って、電話は切れた。

 

思い切り罵倒されたけど、それに頭を費やしてる暇はない。15フンゴ…15分!

 

私も大慌てで準備して、きっかり15分後に外に出ると、玄関に前も見た黒い外国車が乗りつけた、というわけだ。

ちなみに、多分母はもう会場にいる。いい席取るために朝早く行くから、何とか自分で起きてと言っていたのを忘れていた。

 

今日は一段と寒い。車の中にも冷気が浸透している。

でも、手袋すらちゃんと着けてる暇はない。

 

「うう〜どうしてこんな日に・・・」

 

「いいから!出発しますよ、掴まっててください!」

 

今日はいよいよ本番の日。

前の日は緊張と焦りで寝付けなかった。そして、今、こうなってしまったというわけだ。

 

ああ、やってしまった。ほんとに。

 

ちなみに、海末ちゃんには連絡した。

 

「穂乃果!あなた、何やっているのです?今日がどれだけ大事か!」

 

「ごめんね、海末ちゃん。でも、どうしよう?ほんとにやばい!」

 

「篠原さんから連絡は来ています。とにかく、私たちは準備していますからね!篠原さんの言うことちゃんと聞いてくださいよ!あと、朝ごはん、ちゃんと食べてくださいね!」

 

二人とも、私の母親か父親か何かなんだろうか…

 

「はぁ・・・って、うわわ?!」

 

車が急発進した。ぐんぐん路地の中、スピードが上がる。ガコガコと手元のレバーを動かす篠原さん。

私はちなみに、免許を持っていない。東京ではあんまり使わないし、自転車で十分。

 

だから、よくわかんないけどさ・・・

あの…明らかにこれ、制限速度超えてるような・・・。

 

路地を抜け、大通りでもどんどん車を追い越して行く。これなら、花陽ちゃんにぶつからなかったのも納得だ。すごい。改めて、この人は凄すぎる。そう思った。

 

 

わずか5分足らずで学校に到着した。

ちなみに、学校まで普通に車に行くと12、3分はかかる。速すぎる。

 

後で篠原さん、捕まったりしないだろうか…

 

だけど、目を高校の方へ向けて驚いた。

小さな会場には、お客さんがつめかけていた。

 

見た感じ、年齢はまちまち。

10年前のアイドルの復活に、これだけの人が集まってくれた。

 

笑顔が溢れるのが自分でもわかる。

 

よかった。

 

このライブに関わってくれた人たちのために、絶対成功させたかった。

人が集まるのはとりあえず大きな壁。でも、それは乗り越えたっぽい。

 

ライブをやるのは屋上。一番の思い出の場所。

でも、映像で講堂や外のステージでも見られるようになっていた。

 

<任せろ、最高の機材、揃えてやったからな!>

 

希ちゃんの会社の社長さんの、おかげだ。

あとで饅頭を持って行ったらすごく喜ばれた。

ついでに、飲み会にも誘われたけど遠慮しておいた。

 

すごく残念そうな顔をされたのはなんでだろ。

 

 

 

そんなお祭り騒ぎの会場。会場の小ささ故、お客さん自体は、そんなに多くないと言えるだろう。でも、この賑わいだけで、十分だった。

 

私たちのことなんか、気にもとめてもらえなかったあの頃。

私たちは、長い年月の後、また帰って来て、こうして応援してもらえている。

 

裏口から入って、控え室にした教室に飛び込むと、みんなが待っていた。

 

「みんな、本当にごめん!」

 

「穂乃果ぁぁ!なにしてんの!」

 

真姫ちゃんに怒られる。

 

「ごめんなさい!」

 

思い切り頭を下げる。これは完全に私が悪い。

 

「穂乃果、いいから着替えるのです。」

 

よく見ると、すでにみんな着替えが完了していた。

 

ことりちゃんのデザインの衣装は、一人一人特徴があって、どれも鮮やかにまとまっている。

 

「みんな、綺麗!」

 

「いいから早く着替えなさい!」

 

「そうや、遅刻したのは仕方ないやん。」

 

「早く着替えてくるにゃ!」

 

「穂乃果。私たち、先に裏に行ってる。早く来てね。」

 

「うん、絵里ちゃん。ごめん!…って、篠原さんは?」

 

「いいから、早くしてね穂乃果ちゃん!」

 

みんなが出て行く。

 

ガヤガヤという音が消えていく。

 

「さて…着替えよっと。」

 

 

 

すぐに一人で着替えを始める。

って、篠原さんいつのまにかいなくなってるし。

相変わらず、不思議な人だ。

 

 

<あなたたちが、答えを持ってると思ったんです。>

 

 

篠原さん。

私は、あなたが欲しがった答えの内容を知りません。

 

教えてくれないでしょうし。

 

でも、一つ聞きたいです。

 

見つかりましたか?って。

 

私たち、何かしてあげられましたか?って。

 

だから、このライブをやりきって、尋ねたいと思います。

 

 

 

衣装台の服と向き合う。オレンジの衣装。胸の真ん中にはリボンが付いていて、私好みだ。

 

「って、急がなきゃ。」

 

ああ、もう。

ライブで遅刻なんてしたことなかったのに。

 

でも、私らしい結果だと思ってしまった。

不思議と笑顔で着替えられた。

ライブ前なのに、昨日の夜とは嘘みたいに緊張していない。

 

散々みんなに迷惑をかけても、みんなは全部受け入れてくれた。ライブできちんと恩返ししなきゃな。

最高の笑顔で。みんなの、μ'sのリーダーとして。

 

みんなの前で、ライブをやりきること。

 

それが、1番の償いで、お礼だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舞台裏には、みんなと、篠原さんが待っていた。

相変わらず表情がない篠原さん。

 

「あ、来た!」

 

「もう、ギリギリではありませんか。」

 

「ほら、リーダー!早くこっちへ!」

 

「急ぐにゃー!」

 

「全く、もう…」

 

「焦らせるのはやめてほしいわ…」

 

「まあまあ、ええやん?な、えりち。」

 

「まあ、結果オーライね。ハラショー!」

 

「あはは…ごめん。」

 

さっきの覚悟を反芻する。みんなの元に駆け寄った。

 

奥を見ると、ちらりと見えたステージ。

たくさんのお客さん。

 

そして、思い出の屋上。

 

「「穂乃果、遅れてますよ。凛も。」」

 

「「海末ちゃん厳しいにゃ〜」」

 

「「凛ちゃん、頑張って!」」

 

「「絵里ち、水は飲まなあかんよ?」」

 

「「希、ありがと。」」

 

「「真姫、新しいにこにこにー見たい?」」

 

「「いやよ、また気持ち悪いんでしょ。」」

 

「「穂乃果ちゃーんお疲れ様!」」

 

屋上での思い出。

目の前に蘇ってくるあの日々。

復活を決めたあの日から、町中どこででも思い出した。

この街には、一つ一つ、どこにでもたくさんの思い出が転がっている。

 

私たちのために、動いてくれた篠原さん。

納得してくれた家族。

手伝ってくれた同級生。

みんなの手を借りて完成したライブ。

みんなで叶える物語、か。

 

みんなで、叶おうとしている。

 

だから、後は私たちがこの物語を完成させる。

 

そして、新しい物語を始めるんだ。

 

きっと。必ず!

 

「それじゃあ、行こう!」

 

「うう、緊張してきました・・・あの、こんな短いスカートでこんな歳の人が踊るのは・・・ババアが踊るというのは……。」

 

「海末ちゃん、さっきからそればっかりだにゃー?」

 

「うう、でも私もすっごい恥ずかしいんだけど・・・」

 

「ま、まあ、大丈夫・・・」

 

「声が震えてるわ、真姫。」

 

「にこっちも、震えてるやん?」

 

「みんな、落ち着きなさい!」

 

って、みんな!?

 

「みんな、緊張してるの!?」

 

「そ、そりゃそうやん!」

 

みんなの目を見る。嫌、覚悟は決まってるはず。

なのに、最後の緊張の、糸がほぐれてない。

不安な顔が、それを語っていた。

 

「みんな、目を閉じて。」

 

だから、これしかないって思った。

私が、そうやっておまじない、かけてたから。さっきからずっと、それで元気をもらってたから。

 

みんなが、黙って目を閉じる。

 

「助けてくれた人たちの顔、思い出してみよ?」

 

それから、しばらく待つ。

みんなの口が、閉じていく。

 

そして、みんなの顔がほころぶ。

 

そして、目が開く。

うん、大丈夫。

 

「みなさん。」

 

不意に、口を開いたのは篠原さんだった。

 

「頑張ってください。」

 

ただ、一言だった。

その一言が、空気を変えた。

 

この人が、答えをくれたことは一つもない。

 

 

 

でも、たしかに。私たちの背中にいてくれた人。

 

 

いつだって、逃げそうな私たちを、支えて、声をかけて、ここまで連れてきてくれた人。

 

 

 

μ'sの、道しるべをしてくれた大切な人。

 

「篠原。本当に、感謝してる。」

 

「ありがとうございました!」

 

篠原さんは、表情を変えなかった。

代わりに、うんと頷いた。

この人の表情は、結局ずっと変わらなかった。

 

でも、その言葉だけで、私たちはまた歩き出せるんだ。

 

ーーーもしかしたら、これからも。

 

「さあ、行くよ!」

 

手を出すと、みんなも手を重ねた。

もう不安な顔はみんなにはない。みんな、笑顔で、自信に満ちた表情で手を重ねる。

 

いよいよ、復活!

 

「1!」

「2!」

「3!」

「4!」

「5!」

「6!」

「7!」

「8!」

「9!」

 

みんな一斉に篠原さんを見た。

 

「はい?」

 

「みんな、を代表して!さあ!」

 

「・・・10?」

 

いろんな思いを載せて、私たちは。

 

「μ's、ミュージック、スタート!」

 

 

そして、私たちの復活は果たされたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢が叶った瞬間の感動は、何にも変えられない。そして、その先の人生すら、変えてしまう感動にもなるのだ。




さあ、第1シーズンもいよいよ大詰めです!
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