映像に映るかつてのライバル。
割れんばかりの喝采と、歓声。
ついに、μ'sは、今日、復活を遂げた。
A-RISEの綺羅ツバサは、きっちりと変装して、他の二人とそれを見ていた。
「ツバサ、ついに帰ってきたわね。」
メンバー、藤堂英玲奈が声をかけてくる。
「そうね、いよいよ。」
「ほんとよかったわ〜。またみんなが見られることになって。」
あんじゅもだ。
私だけじゃない。二人も、μ'sの復活を願っていた。
たしかに、それは間違いない。
最高のライバルが帰ってきた。でも・・・
「よかった、か。本気で、それ言ってないわよね?」
「え・・・?」
「なぜ、私たちがこんなに長く、トップに立っているのだと思う?」
私の問いかけ、その意味はこれ。
私たちは、この座についてから随分たつ。安定した地位を得て、人気が絶えることはない。
なぜか。それは、私たちの努力。それもあると信じたいし、実際そうだとも思う。でも、それだけじゃない。
「それは、周りがそれに納得していたから。自分の今の人気を、守ることだけしか考えていなかったからよ。
今の『順位』をね。」
アイドル界のマンネリ化、とでもいうのか。とにかく、今の人気でいいや。そういう空気が、蔓延していた。
「でも、それは変わる。彼女たちは、強すぎる。いえ、正確には、潜在的には強すぎる。あれだけの思いを乗せて歌を歌い、踊れる人間は他にいない。
今は当然、足りないとこだらけだけどね。
間違いなく、これからこの世界は動き出す。乗り遅れたら負けるわ。全員ライバルだし、彼女たちは必ずその目になる。そして・・・こんなものもあるしね。」
それは、ついさっき知った新たな情報。二人に一枚のチラシを見せた。
「・・・!これって・・・」
「そう、彼女たちはもう既に歴史を動かし始めている。
アイドルが『順位』によって判断される日は近い。
それにね、」
このグループの復活の裏にいるはずの天才。
あいつが、必ずこの世界を変える。
「篠原浩介・・・彼もまた、それに巻き込まれるでしょうね。」
ーーーーーー
俺は、何をやってるんだろう。
そう思うことは過去何万回もあった。
明らかに自分とは思えない入れ込み方をしてしまった。
このグループを復活させて、俺に何の得があるのか?
俺は、合理的でない行動など取ったことがない。
人と関わるのは大嫌いだ。そのはずだ。それが俺のはずだ。
それなのに、なぜか助けなければ。そういう気になった。そういう気にさせられた。
人脈。脳。そして、この目。
フルに使うと、ここまでのことができるのかと我ながら恐ろしくなる。初めてだった。
多少警察の世話にもなったが、何とかなった。
それでも、不思議と後悔はない。
助けられてよかった。などと、俺らしくもない感情が浮かんでくる。
ああ、モヤモヤする。これが俺?
あんなに人間が嫌いだった、俺なのか?
一体俺は、どうしちまったんだ?
ステージの上では、既にアンコールに呼ばれた彼女たちが、声を発している。いよいよ終盤。彼女たちの努力は実ったのだ。
何とも効率の悪い練習を繰り返し、自分たちで何とか成功させようなどと無謀なことを言って、結局こんな時期にまでライブがずれ込んだ。なのに、まだ下手くそだし。
本当に、意味がわからなかった。
それでも、彼女たちのライブは、あの映像と変わらなかった。
見ている人を瞬く間に引き込んでいくこのライブは、多分この人たちにしかできないのだろう。
今まで感じたことのない感情に、この人たちと出会ってから何度も苛まれる。まるで、人格ごと変えられたみたいだ。自分が気持ち悪くてしかたない。
でも、確かに俺は変わったのかもしれない。
そう考えてしまう。
たしかに嫌いだったはずの人間と関わったのは、もしかしたら変えられたからなのかもしれない。
俺が昔、失ったはずのものを。
ーーーもし。もういちど…
いや、やっぱり、無理か。
頭の中にふわりと浮かんでくる謎の問いを打ち消す。
そんなはずはない、と誰にたいしてかわからない弁明をする。
<もう一度、解き放つ気はないか?>
・・・ふざけないで欲しい。
問いに対する答えは、出た。
まず、彼女たちのライブがなぜそれほどまでに人を惹きつけるのか。
それは、想いの強さだ。自分たちの精一杯を歌や踊りに込める。届け、届け。
みんなに、聴く人に、届け。たったそれだけ。
でも、それはまるで音叉のように、なぜか届いてくる。
まるで、魔法を使える神様のように。
アイドルや、ライブというものの「精神」なんて気にしたことのなかった俺は、やっぱり未熟なのかもしれない、と感じた。
そして、もう一つ。あの時の高坂さんの目。あの後も、何回も出会った目だ。
その裏にある感情が読めなかった時。
名前がわからなかった時。
その感情の名前はなんだったのか。
俺はそれが一番気になった。そして俺は、もっと複雑な何か。俺の知らない感情がそこにあると思った。
でも違った。
名前では知っていたはずなのに、実は知らなかった感情だった。
信頼という、言葉だった。
ただ、誰かに使われ続けた毎日。
誰にも、誰も信頼されなかった。しなかった。煙たがられて、嫉妬されて、何かと文句をつけられて。
ずっと勉強を続けていた。自分を高めることしか、俺の生を感じさせてくれなかった。
辞書でたくさんの言葉を知った。
勿論信頼という言葉の意味は知ってる。間違いなく、知ってる。
でも、俺は、そんな言葉を知った気になっていた。
なんともあっけない答えだ。
それでも、彼女たちはそんな小さな、大事なことを教えてくれた。目の前の相手を無条件に信頼するなんて、中々できないのだが。いとも簡単にやってしまう彼女たちは、ずっと前から誰かを信頼することに慣れているのだろう。
全く、大した人たちだ。
でも、ここまでかもしれない。
ーーー誰かを信頼することなんて、俺には無理だから。
<それでは、最後の曲!いっくよー!>
高坂さんのコールで、曲が流れ出す。
一つだけ、お礼として、小泉さんにお願いをした。それを、彼女たちは叶えてくれた。
アンコールで、あの曲をもう一度聞いてみたい。みなさんと、出会ったあの曲を。くだらない、と思われただろうか。
でもこれは、お礼のつもりでお願いしたわけではない。
言うなれば、再帰の決意にしたかった、というところか。
μ'sとの、別れにしたかったから。
答えを知ることができた以上、もう彼女たちに関わるわけにはいかない。
信頼なんて、俺には到底無理だ。常に人の裏側が「目」によって見えてしまう俺が、人を信頼することなんて不可能に近い。
これ以上は、互いのために良くない。
俺とμ'sは、コインの裏表。
本来同じ場所にはいない存在である。
だから、もうよかった。
もう、同じ世界にいなくても。
いつか聞いたイントロ。
それを聞きながら、俺の頭の中にある景色が浮かぶ。
鮮やかな色が蠢く世界だった。
赤、黄色、緑、青。様々な美しい色が現れては、消えていく。
「ありがとう」
そしてその景色は、フェードアウトしていった。
ーーーーーーーーーー
<まっすぐな思いがみんなを結ぶ>
そうだ。彼女たちのまっすぐな思いが、ちゃんとみんなを結んだのだ。
俺のおかげ、ではない。
<本気でも、不器用ぶつかり合う心>
そうね。希やにこに何も言わずにアメリカに飛び出していった私。本気だった。でも、裏目にでた。それでも、ちゃんと戻ってこれた。
<それでも見たいよ、大きな夢は
ここにあるよ、始まったばかり>
神社で穂乃果ちゃんと話をしたあの日
。きっと、あの日にもう、私は願っていたのかもしれない。またみんなでこうやってステージに立てる日を。
<わかってる、楽しいだけじゃない
試されるだろう>
そうね。試された。でも、花陽と凛はまた私を迎えに来てくれた。大切な友達がいてよかった。
<わかってる、だってその苦しさも未来>
辛いこともたくさんあった。でも、絵里と希はちゃんと来てくれた。またここに立たせてくれた。
<行くんだよ、集まったら強い
自分になってくよ>
たった4人から始まった。私と、花陽ちゃん、凛ちゃんと、それから穂乃果ちゃん。それから、また集まって、こうしてここに立てた。
<きっとね、変わり続けて
We'll be star!>
変わった、か。私も、凛ちゃんも、真姫ちゃんも、大人になって、変わってしまった。そう思っていたけれど、意外とそうでもないのかも。結局、ここに立ちたいって思いは、きっと一緒だったはずだ。
<それぞれが好きなことで頑張れるなら、新しい場所がゴールだね>
かよちんも、真姫ちゃんも、それからみんなも。それぞれの場所で頑張って来た。そして、また一緒に、新しいゴールを目指してる。遠回りでも、道は間違ってなかった。
<それぞれが好きなことを信じていれば、ときめきを抱いて進めるだろう>
私は、日本舞踊の舞台の上に立った二人を思い出した。好きなことって何だったのか。目の前にあった答えを信じて、今ここにいる。前に進もうとしている。
<怖がる癖は捨てちゃえ、とびきりの笑顔で>
橋の上で、どうしようもない絶望に浸ったあの時。ツバサさんに言われて、本当にやりたいって改めて思った。
そして、今。とびきりの笑顔でみんなの前にいる。
<飛んで、飛んで、高く
僕らは今の中で>
輝きを待ってたーーーー
ずっと叶えたかった夢に向かって、走っていけばいい。
続く。
というわけで、第1シーズン終了です!
次のシーズンは、相当あとになります。サンシャインな彼女たちの結末を見届けて、次のステージを描きます。
気長にお待ちください。
次はモンハンの小説が上がっていきます。モンハンも好きな方は、そちらもお願いします。
ちなみに、中の人は僕今が超好きです。