迷いや決断、穂乃果のメールに迷うメンバーたち。果たしてこれからどうなるのか・・・?
かよちんと凛ちゃん視点!
「・・・・・・・」
静寂だった。
この部屋に入ってから、誰も言葉を発さないまま、5分ほどたった。
言葉を発したら、まるで撃たれてしまうのではないか、というほどの緊張感だった。
一番気の弱いその女の子は、服の裾を掴んでみるけど、状況は変わらない。
何か言わなきゃ、と思うほど追い詰められていくような気がした。
「ど、どうしよう、穂乃果ちゃん・・・」
初めて声を出したのは、彼女の隣に座っている南ことりだった。呼びかけられたその人、穂乃果は机の脇で体操座りのまま下を向いていた。
ひどく思いつめた顔だった。
悲しい目をしていた。
まるで昔、ラブライブに出られなくなった時のような顔だった。
(でも、そうだよね。)
こんなことになれば。
「・・・やっぱり、もう一度なんて、無理だったのかな・・・」
向かいに座っているのは、オレンジの髪を高校の時よりも少し長めに伸ばしている女の子。
紛れもなく、元μ'sのメンバーで、幼馴染の星空凛その人だ。
そしてまるで怯える子犬のように、ふわりとしたロングスカートの裾を握りしめている女の子が、小泉花陽だった。
μ'sの元メンバーが4人、穂乃果の部屋に揃っていた。
きっかけは、とあるメールだった。
ある日、当時のリーダーの穂乃果から久しぶりにメールが来たのだ。
その時花陽は、次の日の授業の準備を、学校の職員室のデスクで急ピッチでしているところだった。
辺りには、まだ何人かの先生が準備をしている。
花陽は国語教師として、とある小学校で働いていた。
その日は偶々次の日に別の国語の先生が休暇を取ることになって、準備に手間取っていたのだ。
仕事ができるわけでもない花陽にとっては結構こういう非常事態に弱い。
おかげで教科書に印をつけながらノートにメモをとる花陽の頭は、早く終わらせようという集中しかなかった。
ピリリリリ!!
「ヘヤッ!!」
そんな中で突然携帯が鳴ったので、元アイドルには似合わない、変な声が出てしまった。
「こ、小泉先生、大丈夫ですか?」
「あ・・・大丈夫です、ごめんなさい。」
近くの席の先生に心配される。
恥ずかしさで真っ赤になりながら、机の脇に転がっている携帯を手に取る。
こんな時間に連絡してくるのは、恐らくは同じ学校で働く親友ぐらいしかいないはず。
後でご飯を奢ってもらおう、なんて考えるところだけど、優しい花陽の頭には凛ちゃ〜ん!!と涙目になりながら文句を言うくらいのことしか浮かんでいない。
だけど、画面に映っていたのは少し意外な名前だった。
「・・・穂乃果ちゃん?」
画面には穂乃果ちゃん、の文字。
別に嫌なわけじゃなくて、むしろ嬉しいんだけど、こんな急にどうしたんだろう。
まさか、何か事故でも・・・?!
(ど、どうしたんだろ。)
そして、メールの内容を読んで・・・
「え、ええええ!!?」
「大丈夫ですか、小泉先生?!」
余談だが、学校の天使小泉先生が顔を真っ赤にして奇声をあげながら恥ずかしそうにメールをしていたという噂のせいで、次の日は休みを取る男の先生が増えたとかなんとか。
花陽と凛は、はとある小学校で教師として働いていた。
花陽は国語。
そして凛は体育の先生としてだった。
二人とも決して頭が良かったわけじゃない。
でも、仲間と共に、一生懸命頑張る。
スクールアイドル時代に二人が学んだ、大切な時間だった。
だから、花陽は伝えたかったのだ。
学校で仲間と一緒に頑張ることって、すごく大切な時間だということを、もっと多くの子どもたちに知って欲しかった。
あの時間を、できるだけたくさんの人に届けたかった。
勿論いいことばかりじゃない。
小学校の現場は思ったよりもずっと大変で、心が折れてしまいそうになったこともあった。
家に帰って頭を抱えて布団にくるまったのだって一回や二回ではない。
どんなに辛いことがあっても毅然と生徒の前に立つことは、もともとあんまり気の強くない花陽にとっては苦行とも言えるものだった。
だが、なぜやめなかったのかといえば、答えは一つだった。
小学生のキラキラとした顔。
喜んでも、泣いても、怒っても、ふてくされても、彼らは輝いていた。
今この時間を生きていることを思いっきり楽しんで、キラキラと輝きを放っていた。
だから、それを見ていたら苦労が吹き飛ぶような気持ちになって、ゴタゴタ言いながらも結局花陽はまた次の日にも職場に足を向けていた。
だから、かもしれない。
花陽は少しだけ、羨ましかった。
自分があの頃やっとの勇気で見つけた輝きを、小学生のうちから放っているみんなが、とっても眩しくって。
メールの内容を見て、心が揺り動かされたのは、正直当然のことだった。
(私の、一番やりたいことって、何だったかな)
小学生の時、花陽はアイドルになりたかった。
昔は否定していたけれど、今はもう隠したくない。
忘れもしないこと。
じゃあ、今はどうなのかな。
学校の先生は高校の時に見つけたやりたいことだった。それは嘘偽りないって自信を持って言える。
でも、どっちが大きい思いだったのかは、結論が出なかった。
一番なんてなかった。
どっちも大事だった。
先生にはなれた。
アイドルにもなった。
今充実してるのは間違いなくて。
もう自分の人生は夢を叶え終わった状態で。
ここからやりたいことなんて、正直わかんなかった。
だけど、はっきりしていることもある。
小学生の子どもたちが放っている輝きを見る自分
でも、生徒のみんなに見せてもらったあの羨ましさが、本当に花陽の欲しいものなら。
(まだワガママ言って、いいのかなぁ。)
穂乃果ちゃんがずうっと言っていたこと。
<やりたいから、やる!>
辛い時も、夢を追いかけるパワーになった言葉を思い出した。
浅はかだなぁ、と思ってしまう。
だって小学生なんて言える年齢はとうにすぎてしまってる。今年で26歳。
ついにアラサーの大台に到達したのだ。
その自分が、そんな小学生みたいな輝きが、あの楽しい日々がまた戻ってくるかも、なんて考えているわけだから笑ってしまう。
そして凛の答えも、イエスだった。
でも不安だった。
凛がイエスでも、みんなはどうなんだろうって。
そして、花陽のその不安は的中した。
約束の日に穂乃果の家に集まったのは4人だけだった。
穂乃果にことり、花陽と凛。
花陽にとって、考えられる理由が一つあった。
「納得できないのかな、やっぱり。私たちは自分たちで決めて活動を終えることを選んだんだもの。」
あの毎日を、あの時の決断を、否定だけはしたくない。
そりゃそうだ。花陽だって考えなかったわけじゃない。でも、花陽はそれよりも見てみたかった。
また、輝いてみたかった。
ただそれだけの話だった。
反応はない。暗い空気が部屋を包む。
出してくれた饅頭に手をつける人はいなかった。
みんな体操座りに、暗い顔で下を向いてしまってる。
「・・・でも、返信がないの。この3人からはすぐに返事が来たけど、あとのみんなは何も反応がなかった。海未ちゃんからも。みんな、やっぱりやりたくないのかな・・・」
穂乃果ちゃんが続ける。
「海未ちゃん、家を継ぐんだから、そんなことしてられないんじゃないかな。」
ことりちゃんは言った。
海未が家を継ぐために稽古に明け暮れていることは、みんなの知っていることだった。
他の希ちゃんたちだって、事情があるのはわかってる。
大人になって、もう自分たちの居場所が出来上がってしまってるから、そう簡単な話じゃないのもわかる。
でも、だったら自分がばかみたいだな、と思う。
やってみたくて、ワクワクしてるだなんて。
誰よりも内気なはずの自分がこう思っているのに、と花陽は思う。
(みんなは、本当にやりたくないのかな。)
「・・・よし、行ってみようよ!」
「え?」
その心の言葉を聞いていたように、穂乃果ちゃんが立ち上がる。
声に、力がこもっていた。
まっすぐと私たちを見て、拳を胸の前で作る。
「みんなのところに、行ってみない?それから、聞いてみようよ!何もかも、本人から聞いてみないとわからない。メールなんかじゃ、伝わらないよ!」
………えーと?
何とは無しに、目の前の幼馴染を見る。ポカンとしていた凛の顔が、みるみるうちに笑顔に変わっていった。
正直、穂乃果の言ってることがまだ頭の中で咀嚼されていない。
みんなのところに?まあ、手っ取り早いとは思のだけれど・・・。
凛が自分の方を見ている。
ムズムズとして、今にも飛びかかってきそうな表情。
「かよちん!」
もしかしなくても、このパターンは・・・。
「そうだよね、そうだよ。聞いてみよう、かよちん、いくにゃ〜!」
「キャアアアア!!」
途端に、花陽は凛に引っ張られた。
ものすごい力で凛は花陽の腕を引っ張る。
腕がちぎれそうなほど引っ張る凛に引きずられるように、部屋を飛び出すとそのまま階段を降りていく。
「あぶ、危ないって凛ちゃん!」
「かよちん気をつけて!足元!」
「もう危ないよぉぉぉ!!」
非情な事後報告を受けながら、花陽は階段を降りる。踏み板を認識する暇もない。
幼児に引っ張られるおもちゃよろしく降りているうちにかかとを強打したが、幼馴染は手を緩めない。
頭も身体も追いつかない。
(ひ、久しぶりだけどやっぱこれ怖い・・・!)
凛による久しぶりの強制連行を受けながら、花陽は普通に身の危険を感じた。
そのまま花陽は靴をちゃんと履く余裕もなく、飛び出した。いや、飛び出された。
「凛ちゃんと花陽ちゃんは真姫ちゃんのところに行ってみて〜!」
後ろから穂乃果ちゃんの声。
これは久々だけれど、花陽は無意識のうちに思い切り叫んでいた。
「誰か、助けてぇぇぇ!」
久しぶりの大絶叫をかましながらも、目線は前。
自分を引っ張る幼馴染を見る。
(・・・やっぱり、やりたかったのかなぁ。)
楽しい。
それはなんか、遊園地に行った時みたいな楽しさじゃなくて、なんかこう。
心の奥底から、光が湧いてくるような、そんな楽しさだ。
ああ、そうだ。
改めて思う。μ'sにいて、穂乃果や凛、ことりと話して、凛に手を引かれて叫んで。
ここが、楽しい。
ここが、花陽にとっての幸せの元。
ここにいたい。
後ほんの少しでいい。
ここにいられるかもしれないなら、やっぱりここがいい。
(どう思うかな、真姫ちゃん。)
自分はここにいたいけど。
あなたは、そうじゃないーー?
もう一人の大親友の、美しい顔を思い出す。
頭の中の彼女はやっぱり真っ赤な顔をして、目を逸らしてしまった。
(待っててね。)
そう言葉にして、花陽は。
もう一度しっかりと、凛の手を握ってみた。
「かよちん、もっとスピードあげるにゃー!」
「・・・って、無理だってーーー!!」
大人になるってどういうことかな、って思いながら書いた話でした。
また次回もよろしくお願いします。
3 真姫ちゃんにあった何かとは?