殴る。進む。殴る。進む。殴る。
どこかの再現に思える様な行動でなのはへと接近する。
桜色の砲撃は打撃によって散り砕ける。もはやホテルの廊下は連続で繰り出されるバスターによって完膚なきまでに破壊されているが……まあ、自分には関係のない話だな、とどこかズレたことを考えながらステップで移動する。そうやって素早いステップで砲撃を打撃し進めば、レイジングハートの姿を変えたなのはが向こう側から接近していた。
「まるでいつかの焼き増しだな元後輩」
その言葉になのはは驚くような表情を浮かべ、そして至近距離からの砲撃を叩き込んでくる。その迎撃のために拳を振るう。だがその瞬間首に巻きつく鎖が出現し、一瞬だけ体を後ろへと引く。それによってタイミングがズレ、打撃が完全に砲撃を相殺しきれず半分ほど受ける。
「僕の事を忘れてもらっても困るんだけど」
姿は見えないが、ユーノの声が響いてくる。その声に向かって叫ぶ。
「だったら姿を現そうぜ」
「やだよ、怖いし」
こんちくしょう、と呟く次の瞬間に首に巻き付いた鎖―――バインドを引きちぎって前方へと床を砕くように蹴って加速する。その瞬間になのはが後ろへと向かって加速し、一気にホテルの外へと開いた穴から脱出する。それを見て軽く舌打ちをし、横の壁を突き抜ける様に粉砕し、なのはの射線から外れる。だが次の瞬間には薙ぎ払う様に砲撃が繰り出され、ホテルの損害等知ったものか、等という気概の感じられる砲撃が繰り出される。
「お前いいのかよ!?」
横から迫る砲撃を打撃する。砲撃を殺すが、外から移動した部屋までが貫通していて見える状態となっている。ホテルの外でレイジングハートを構えるなのはが笑みを浮かべる。
「ホテルは悪いわるーい襲撃犯がぶっ壊した。あと密輸品持ってる方が悪い。こう、没収しようとしたら抵抗されたんで暴力は仕方がないよね!」
「反省する気がねぇぞこいつ……!」
まあ、なのはがやろうとしている事は解る。自分が得意とする広い空間へと此方を引きこもうとしているのだ。ホテルの狭い空間では十分にレイジングハートの取り回しができないだろう、だから態々外から砲撃を繰り出すなんて面倒な事をやっている。それが解っているから態々ホテルに引きこもってなのはを此方へ引き込もうとしている。だが互いにそれを理解しているから行動は消極的になる。
そこで状況を動かすのが、
緑色の鎖―――チェーンバインドだ。
それが絡みつこうと狙ってくるのは腕や足ではなく、首や胴体、肩等といったバインドブレイク、バインド突破が難しいとされる場所だ。やろうとすればできないわけではないが、腕や足と比べればワンテンポ遅れることは認めざるを得ない。故に受ける事を良しとせず回避動作に移る。それを追いこむ様に虚空から鎖が幾重にも出現し、此方を捕まえようと追い込んでくる。厄介だと思いながら回避すれば、
「―――ハイペリオンスマッシャー!」
「温い」
拳を繰り出す。拳の先でハイペリオンスマッシャーが砕ける感触を得る。なのはは既に二射目に準備に入っているだろう、その姿が見える。なのはと己の間の距離を測る―――それが十分だと判断し、
「ヘアルフデネ・断空拳」
「―――」
なのはの意識の間を読み取り、認識できる前に拳を叩き込む。驚く表情はないが、歯を強く食いしばる様子は見える。拳を伝ってなのはの骨を折る感触を得るが、吹き飛ぶ代わりになのはがレイジングハート・エクセリオンの穂先を此方の肩に上から両手で握る様にして突き刺してくる。
「ディバインバスター……!」
そのまま下方向へと向けて零距離バスターを叩き込んでくる。体はそれを受けて一気に沈みそうになるが、片膝をつくところで耐える。突き刺された痛みと魔力によるダメージが直接神経に叩き込まれるが―――痛みの前に笑い声が漏れそうになる。昔はあんなに貧弱だったなのはが、ここ数年でよくもこんなに強くなったなぁ、と。前であれば確実に一撃通しただけで倒れて動けなくなっていたはずだ。それが今ではどうだ。反撃してくるまでに成長している。たぶんだが、アレからかなり鍛えたんだろうな、と思う。昔とはまた違う種類の無茶だ。こう見えて一撃一撃の重さは理解しているつもりだ―――何せ防御を貫いて殺す気で殴っているんだ。
……子供の成長は結構早いものだなぁ……。
だが、なのはには悪いが成長しているのはなのはだけじゃない。この数年で俺は変わり過ぎた。
「―――鏖殺完了」
少しだけ人生の先輩として、―――立ちはだかる壁としてはそこまで楽に超えさせてやるつもりはない。
なのはが血を吐きながら吹き飛ぶ。既に衝撃は体内に通していた。一撃でも触れれば後は弾けるだけ。故になのはの体内で衝撃は何度も繰り返す様に弾け、何度も跳ねるように体が吹き飛ぶ。俺にも容赦の出来ない理由はある、等とは決して口に出しはしない。言い訳など所詮逃避でしかない。進むと決めたのであれば、進むと決めたのであればもう振り返る事はあってはならない。
たとえ相対するのが昔の仲間であろうと、何があってでも前に進むと決めたのであれば、やる事は決まっている。
「殺す」
立ち上がろうとし、それが即座に不可能だと知る。
「物騒だね」
体が上から押しつぶされ床に半分埋まる。重力的プレッシャーではなく、物理的に何かを押し付けられているような感覚。首を回して上へと視線を向ければ何時の間にかユーノが背中に乗っていた―――その足元に広がっているのはプロテクションだ。プロテクションを下へと向けて全力で押し付け、此方を圧殺しているのだ。やり方がかなりえぐい、何せ背中という位置は非常に手の出しにくい場所だ。抜け出すのは難しい。
「正直一発殴ったらミンチにしちまいそうだからここらで下がってくれた方がうれしいんだけど」
「いやいや、ほら、僕も君と色々と話し合いたい事があるしね? だからちょっと話し合わない?」
―――ただし、地上であれば、という言葉がつく。
腕を下へ、床を抉るように動かし、そしてそのまま床を破壊する。瞬間、体を動かすスペースができる。即座体を持ち上げる様に蹴りを繰り出すが、その時には既にユーノの姿は下がっていた。だが足が床についている事を確認し、全力で床に震脚を叩き込む。衝撃が床を粉砕しつつも、床へ足を触れさせていたユーノに伝わり、体を吹き飛ばす。
めんどくせぇ……!
ここで下がってもらわないと困るが―――だとすれば下がらざるを得ない状況まで追い込むだけだ。崩れる床を疾走し、拳を振り上げながら一気にユーノに接近する。
が、
「人の未来の旦那になにするのよ!」
桜色の砲撃がユーノへ届く前に体を横殴りし、此方の体を吹き飛ばしてくる。とっさの出現に反応できず体がそのまま攻撃をまともに受けて壁に突き刺さる。だがこの程度であれば経験済みだ―――行動には全く支障が出ない。その証明の為にも動き出そうとし、身体に巻きつく緑色の鎖を目撃する。壁に縫いとめる様に出現する鎖は動きを束縛し、それを破ろうとする瞬間に、レイジングハートを構えるなのはの周囲に二つ、小さな姿が出現する。
「ブラスタービット展開―――ハイペリオンスマッシャーEX・ブラスターモード、ブラスター1! ブラスター2! 死ねぇ元先輩!!」
こいつ殺意高すぎないか、等という感想を抱くのと同時に三発の砲撃が同時に体に叩き込まれる―――そのどれもが殺傷設定での砲撃だ。着弾と同時に体が砲撃の熱と光によって焼かれ、抉られる。本当に容赦のしないやつに育ったなぁ、とちょっとだけ、喜びが浮かび上がってくる。本当に、本当に成長したんだなぁ、と。本気で此方を潰しに来ているんだなぁ、と。そして……止めようとしてくれているんだな、と。言葉が凄いアレだが、たぶんそういう意志だと思う。言動は割とエキセントリックだが、中身はあの頃の、優しい少女のままである事は自分が知っている。
だけど、
「止まらんなぁ」
砲撃によって後ろの空間が全て吹き飛ぶ。だがそれは押さえつける先が無くなるという事でもある。それによって壁へと縫い付けていたバインドの効果も消え、体を動かす自由が生まれる。飛行魔法を発動し足場を作り、腕を後ろへ引く。体に新たに動きを止めようとバインドが出現する。だがそれを引きちぎりながら腕を振るう。
「ベオウルフ……!」
砲撃を殴り消した。砲撃が一発、根元から完全に消失する。振るった右腕が熱を得るのを感じるが、まだ限界耐久までは程遠い。だがそれは相手も一緒だろうな、と判断する。そもそも潰すつもりで放った一撃を受けてもまだ立ち上がって必殺を叩き込んでくるようになった相手だ―――生半可な事では潰れまい。故に、相手もまだ動くと判断するのと同時に、
「フルドライブモード!」
なのはが宣言し、ビットからの砲撃量が増え、レイジングハートから再び砲撃が放たれる。それに押し出されるように体は一気にホテルの外へと吹き飛ばされる。しまった、と反射的に思考する。素早くホテル内へ、遮蔽物のある空間へと戻ろうとした瞬間、体に絡みつく鎖がその動きを鈍らせる。とことん面倒なコンビネーションだと評価したところで、
『―――回収、完了した』
『撤退するぜ!』
ゼストから任務完了の報告がする。その声には重い疲労があるのを感じられるのは……おそらくフルドライブモードを使用したからだろうからか。ホテルの外へと吹き飛ばされたのはこう考えると好都合だったかもしれない。
「逃げられる前に潰す!」
相手にもレリック強奪の報告が入っているのだろう。ビットが砲撃を放ったまま、此方を追いかけてくる。飛行魔法で強引に自分を大地へと叩きつける。衝撃で大地が罅割れるが、身体の方へと問題はない。故に体の動きを一瞬だけ止め、わざと砲撃を体で受け止め、
「ふんっ」
空破衝を繰り出す。ビットを二つ共破壊し、疾走を開始する。背後で魔力の高まりを感じる。そして周りから体を捉えようとバインドが出現するが、もう付き合う理由はない。その出現位置を経験に基づいた先読みを行い、全て回避し、そのまま一直線に合流地点へと向かって疾走する。その途中、ホテルの正面側で己の仕事を果たした姿を見る。
「あ、バサラ先輩ちーっす」
「逃げるぞロリ」
「ういーっす」
ガジェットを椅子代わりにしているルーテシアを見つける。そのすぐ近くでなんだか倒れ伏している人間が四人ほど見えるが―――それを詳細に確認する余裕が今の自分にはない。会ったとしても既にルーテシアが何とかした後で、重要性はない。何より背後には魔力を収束させているフルドライブモードのなのはが存在している。ならば次の瞬間、何を放ってくるのかは解りきった事だ。ルーテシアが召喚蟲を全て帰すのと同時に、ルーテシアの腰を掴んでそのままアグスタの周囲に存在する森へと向かって疾走を続ける。だがそれを邪魔する様に、
「逃がさへんで―――アーテム・デス・アイセス!!」
空から氷撃が降り注ぐ。大地を凍らせる広域殲滅魔法、それを上空にいるはやてが捕縛と足止めのために放つ。だがそれが届くよりも早く、
「エミュレイター・モード、コード・マテリアルズ―――真・ルシフェリオンブレイカー」
シュテルの魔法を再現したナルが炎で一気に着弾前の収束状態で魔法を撃ち貫く。空に炎と雪の花を咲かせながら魔力が空間に満ちる、ルーテシアを前方へと軽く投擲し、ブレーキをかけながら振り返る。拳を引き、力を込める。ルーテシアも己の役割がなんだか知っている。くるり、と回転しながら着地し、転移魔法を起動させる。そして、
「スターライト・ブレイカーEX―――この馬鹿、レリック置いてけ……!」
桜色の極大ビームが此方目掛けて一直線に放たれてくる。それと同時に横にイングの存在が現れ、全く同じ呼吸、タイミング。ただし鏡の様に反転させた動きで背中を合わせ、桜色の砲撃へと向かって同時に拳を振るう。口に出す必要はなく、全力の拳が砲撃と正面からぶつかり、その砲撃を根元まで一気に打ち枯らす。だがそれでもなのはの砲撃は止まらず、即座に魔力の奔流が襲い掛かってくる。だがその頃には足元にはルーテシアの魔法陣が出現している。それはつまり、
「全員射程内」
「我らの勝ちだな」
転移魔法の発動が完全に完了したという事に他ならない。故に体は転移のプロセスとして逃亡場所その一へと送られ始める。相手も相手で追撃をかけるのではなく、転移座標の解析へと既に行動を映しているだろう。
「この馬鹿元先輩……!」
そんななのはの声が転移で消える前に聞こえてくる。
控えめな感じ? で。目的達成したらスタコラサッサ、とホテルの被害が増えただけで大体原作通りですね。え、誤射? 身内に対しては基本じゃないの?