マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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ターニング・ザ・テーブル

「刻め、ディストート―――」

 

 空に生まれた光の道―――闇を刃の形にしながらナルがウイングロードを、そしてギンガを刻もうとする。だがその瞬間には体が動いていた。魔法が発動するまでの短い詠唱時間の間に体はウイングロードへと向けてソニックムーヴを発動させたまま一気に地を蹴り、ウイングロードへと一足で着地する。次の瞬間にはギンガの首根っこで掴む。

 

「うわっ」

 

「口を閉じて」

 

「―――エンド」

 

 闇の刃が空間を切り裂く。だがその瞬間には既に跳躍し、ウイングロードから離れている。短く滞空していると、ギンガが落下先にウイングロードを生み出す。そこに着地し、ギンガを下すのと同時に、ライオットザンバーを両手で、合一させた状態で握る。

 

「ギンガ、なるべく滅茶苦茶でぐちゃぐちゃにウイングロードをあの子の周りに出して」

 

「了解しました!」

 

 ここで理由を聞かず、素直に従ってくれるのが優秀な人員の証だと思う。次の瞬間空間に多重に描かれるウイングロードの姿に内心ガッツポーズを作る―――これでなら十全に戦える。そう理解した瞬間には体が全力でウイングロードを足場にして走っていた。ギンガが逆方向へと動きだし、先ほどまでいた場所を闇が薙ぎ払う。

 

「ならば纏めて潰すまで」

 

「させはしない!」

 

 ザフィーラがウイングロードを足場に一気にナルへと接近する。それを受けてナルが後ろへと後退しだす。その動きに合わせ、一気に背後へ回り込み、ライオットザンバーを振り回す。それをナルが横への跳躍と盾を持って回避と防御の動作に入るが、その先へと移動したところでナルの動きが止まる。

 

 頬に赤い線が生まれる。

 

 ―――鋼の糸だ。

 

「なるほど」

 

 そう言うのと同時に魔力が衝撃としてナルから放たれる。一瞬で同じ量を正面へと放ち魔力の衝撃をザフィーラと共に耐えきる。だがその瞬間にはザフィーラが音もなく張った糸が全て緩み、一瞬だけナルに自由な時間を与える。その瞬間にナルが両手を広げ、魔法陣を出現させる。瞬間的にそれが何かを理解するも、引く事は出来ない。故に復帰と同時にライオットを、そしてザフィーラが拳を叩き込む。だがそれを魔法陣から放たれる魔法が阻む。

 

「ディザスターヒート」

 

「くっ」

 

 魔法陣から放たれる二撃の熱線、シュテルの魔法が真直ぐ此方へと叩き込まれる。それを回避する事は出来るが、防御する事は出来ない。故に出来る事はザフィーラの様に耐えながら前進する事ではなく、切り払いながら前進する事。それを魔力任せではなく技量で行う。故に割く。砲撃を、炎熱の力へと変換された砲撃を真っ二つに、衝撃として切り払いながら進む。最低限この程度出来なければ前へと進むことが許されない敵だから。

 

 だが砲撃を受ける事、切り払う事は硬直を生む。

 

 その瞬間にはナルの左腕の盾は形を変えていた。二本のパイルバンカーの杭は溶け合うように消えて、それは肘の方へと延びる棘の様に変化していた。だがそれも隙間を作り、解け、そして鋼がくっついた鞭の様な―――シグナムのレヴァンティンの連接剣の姿を思い出させる、”尻尾”が盾に生まれた。

 

「薙ぎ払え、ナハトの尾よ」

 

 そして尾が振るわれる。硬直を体術によって”消化”しながらライオットザンバーをコンマ五秒以下で二刀へと戻し、受け流す様に斬る。だがそれでも尻尾の強烈な衝撃は体を後ろへと流す。そして同時に、

 

「爆裂」

 

 間の空間が文字通り爆裂した。更に体を後ろへと押し出され、ナルの有利な空間が生まれる。だがその衝撃に抗う者はいる。

 

「テァッ―――!」

 

 ザフィーラだ。そもそも初めから防御などせず、前進していたザフィーラの体には傷が刻まれている。だがそれでも前へと進む事を、接近を止めなかった事からザフィーラだけは追い出される事もなくナルへ拳を振るう。素早くコンパクトに、そしてだが強力に。その動きに強引さはなく、拳を振るうという事に対して基本を忠実に守っている動きだ。だからこそこのレベルでそのままを保てているザフィーラが凄く、

 

 拳は避けられずにナルの腹へと突き刺さる。

 

「効かないな」

 

 尾が再び振るわれる。その槍の様に鋭くとがった先端がザフィーラへと向かって振るわれる。だがそれよりも先に、自分の体を前へと押し出す。ナルの全行動よりも早く、無拍にて斬撃を八度、背後から叩き込む。雷撃を炸裂させながらナルの前方へと一気に抜け、ザフィーラの背後のウイングロードへと着地する。

 

「あぁ、だが此方にも通用はしない!」

 

 背後で鋼が鋼を弾く音がする。それがどんな成果を発揮したのかを把握する前にライオットザンバーを束ねて一つにする。振り返りながらライオットザンバーを振り上げる。視線の先、真直ぐに並んだザフィーラとナルの姿が見える。

 

「ザフィーラッ!!」

 

「心得た!」

 

 ナルが離脱の為の動きに入る。だがそれを阻む様にザフィーラがナルの左脇へと飛び入り、盾と鞭が合一したような武器とは逆側へ入り、ナルの腕を掴む。それに反射的にナルが反応しザフィーラを投げる―――ここら辺のスキルは思考を共有しているイストのものかもしれない。あの体格で、体術に対して深い理解を収めているザフィーラを片手で、しかも一瞬でするとは恐ろしいが、その瞬間には此方に動く時間と、完全な射線ができる。

 

「テラブレイク」

 

 魔力を込めた斬撃を繰り出す。ナルへと続いて行くウイングロードが真っ二つに割けながら空気を感電させ、ナルを消滅させんと超重撃がナルへと迫る。即座にそれを防ぐためにナルが鞭を収納し盾を構える。だが盾にぶつかっても大斬撃は消滅せず、そのままナルの姿を後方へと向かって押し込む。其処で攻撃を止めず、身体を一回転し、魔力をカートリッジと共に再び大量に消費しながら、ザンバーを振るう。

 

「二撃!」

 

 横でザンバーを振るって黄色い大斬撃を十字にし、重ねてナルへと放つ。元々広域殲滅に特化している存在であるが故に、近接戦に複数で持ち込まれれば耐えきれなくなる。それは解りきっている事。だからこそ飛行魔法を封じて絨緞爆撃という手段に手を出していた。それでもこれだけ接近戦でも戦えるから恐ろしい。ただ、

 

「ここは私の距離だ」

 

「―――」

 

 ナルが吹き飛ばされる。体に十字状の斬撃が雷撃と共に叩き込まれ、その体が吹き飛ぶ。すぐさま盾に装備されている尾が伸び、それに雷撃が付随している―――それを振るってくる。周りにあるウイングロードを破壊しながらその周囲に一瞬で赤い短剣を数十と浮かべる。一瞬で此方へと短剣を飛ばしながらも、尾は前ではなく―――背後へと延びてきたウイングロードと、そこを走るギンガへと向けられている。

 

「行きます!」

 

「貴様を落とせば楽に終わりそうだな」

 

「させると思っているのか」

 

 投げられたザフィーラが空中で回転する様に体勢を整え、足元に出現したウイングロードを足場に一気にギンガの前へと跳躍する。振るわれる尾がギンガではなく、ザフィーラの肩へと突き刺さる。其処から流れる雷撃がザフィーラを貫き―――その瞬間にギンガがザフィーラの横を抜け、逆側からナルを落とす為に動く。

 

「必殺!」

 

「これで……!」

 

 ギンガの腕が振るわれ、ザンバーを振るう。距離を詰めない事こそが最良の選択肢。故に反撃の暇を与える事無く一気に潰しにかかる。

 

 それを実行し、

 

 拳と刃が握られる。

 

「―――バトンタッチだ」

 

 赤髪の女の姿が銀髪の男の姿へ―――イストの姿へと変わる。ウイングロードの上に立ち、両側から圧殺するように放たれた拳と刃を掴むその姿を見て、誘い込まれたと瞬時に理解する。離脱しようにも武器は掴まれている。そして、

 

 手をバルディッシュから離す事が出来ない。

 

「本家本元―――」

 

 気付いた瞬間には体を手繰り寄せられていた。ギンガと共に引き寄せられる形で一気に接近し―――イストの拳が一瞬で体へと叩きこまれていた。

 

「鏖殺拳ヘアルフデネ。釣りはいらねぇよ、とっとけ」

 

「がぁっ」

 

 口から溢れ出しそうな血反吐を堪えながら体が吹き飛び、一瞬でウイングロードがすべて消失する。反射的に飛行魔法を発動させ―――それが通じることを理解する。空中で回転しながら体勢を整え直し、ペインキラーの魔法を発動させて痛みを肉体から消失させる。それと同時にイストは動いていた―――ザフィーラへと向かって。

 

「お前から落とさせてもらうぜザッフィー」

 

「ザッフィーはやめろ」

 

 ザフィーラとイストの拳が衝突を果たし、イストの体に赤い線が刻まれる―――鋼の糸だろう。だがそれに気にすることはなく、イストが拳を振るう。体に線は増えるが、それは増えるのと同時に回復を始めている。防御に入るザフィーラの姿や自身へのダメージは気にすることなく、そのまま拳をザフィーラへと叩き込む。

 

「ナル、出せ!」

 

 ザフィーラへと蹴りを叩き込むのと同時にザフィーラが軽く吹き飛び、距離が空く。その瞬間にザンバーを振るいながら一気に接近する。だがイストの正面に現れる物を見て動きは止まり、カートリッジを消費させる。イストの正面に現れる黒い球体は―――デアボリックエミッションのものだ。

 

『デアボリックエミッション、セット』

 

「覇王流ってのはこういう事もできるって”覚えてるか”ザッフィー」

 

「イスト、やはり貴様覇王の記憶を」

 

「あぁ、叩き込んでるさ! おかげでお前らヴォルケンの動きは良く知ってるさ! プロジェクトFの応用ってのは本当にすごいもんだな―――おかげで最初の方は今か昔か、俺かアイツか、前も後ろも解らなかったもんさ!」

 

 恐ろしい事を言いながらもイストは肥大化する前のデアボリックエミッションを掴み、そして此方が到達する前にザフィーラへと接近してデアボリックエミッションを拳で握りつぶす形のまま、ザフィーラへと叩きつけた。ザフィーラを完全に飲み込んで吹き飛ばす形で闇の球体は街へと落下し、爆発とともに炸裂する。それを放って硬直するイストの体へと接近する。だがまるで背中に目がある様に此方が”到達する場所”へと視線を向ける。

 

「読まれた!?」

 

「こんだけ戦ってりゃあクセを覚えるだろ! レヴィ並に隠さなきゃ俺は勝手に覚えるぜ」

 

 そして右拳を振るわれる。それを紙一重で回避し、イストと共に下へと向かって落下しながら戦闘する。振るわれる拳を体に掠らせずに回避し、その返しの動作で二刀へと分離したライオットを叩き込む。既に長時間のフルドライブとソニックムーヴの同時仕様から体は悲鳴を上げている。だが軋む体を押して、斬撃を叩き込みつつイストの体に電流を流し込む。

 

 全身に激痛が走るであろう状況でも、笑みに顔を歪める。

 

 ―――何かが、こいつはおかしい。

 

 そう思った瞬間、イストが横から殴り飛ばされる。

 

「蚊帳の外は酷いですよイストさん!」

 

「おっと、悪いな」

 

 ウイングロードの上を走りながらギンガが必殺の一撃を叩き込みイストを吹き飛ばしていた。だがそれを一回転しながら空に立つと、まるでダメージを見せない姿をイストは見せる。いや、ダメージは確実に存在している。バリアジャケットはボロボロだし、身体も傷だらけだ―――ただのこの男は力尽きて倒れるその瞬間までは全力で動き続けていられるだけで……おそらく、ユニゾンしている影響かもしれない。

 

「イスト、貴様は何をやっているのか解るのか!」

 

 大地からザフィーラがイストへと向けて叫ぶ。だがイストは笑みを見せ―――右腕を振り上げる。人の腕であったはずのそれは皮膚が剥がれ、その下に隠されていた金属が露出する。もう隠す必要はないと悟ったのか、右腕の金属が肘までを覆う様に展開され、まるでガントレットを装着しているような様子へと変化する。

 

「鉄腕展開―――行くぞ」

 

 そう言ってイストが拳を振るう。

 

「覇王震撃」

 

 極大の衝撃が空間へと染み渡り、震わせる。反射的に体を防御のために動かすが、そんなものにお構いなく攻撃は防御を貫通して体の芯へと響いてくる。耐えきれずにうめき声を漏らすも、口の端から血を流しながらイストへと視線を向ければ、ザフィーラが拳を振り上げながら殴りかかる姿が見えた。

 

「だからか……!」

 

「納得したなら死ねザフィーラ……!」

 

 ザフィーラの拳を避ける事もなく体で受けたイストはザフィーラの顔面を左手で掴み、自分に繰り出される全てのダメージを受け止め、癒しながらもそのまま高速で大地へと向かって落下し、ザフィーラを大地へと叩きつける。次の瞬間イストの横に浮かび上がった黒い球体に嫌な予感を感じ、それを止める為に全力の移動から踏み込みの斬撃を球体へと叩き込む。

 

 だがそれは予想していたものよりもあっさりすぎる程に手応えはなかった。そしてザフィーラの頭を大地へと叩きつけたままの姿勢で、右腕が振り上げられている様子から何が来るのかを悟る。次の来る攻撃に備えて体が硬直する。だがそれよりも早く、

 

「させません―――!」

 

 イストへと突撃し、自分ごと相手を吹き飛ばす姿が現れる。

 

 ギンガだ。その行動でイストがザフィーラから引きはがされ、共に大地を転がる。だがイストがそうやって転がるのは一回だけで、次の瞬間には片手を大地に、もう片手をギンガの腕にかけていた。

 

「大きくなったなぁ……」

 

 そう言いつつも片腕で体の動きを止め、もう片手でギンガを振るい、そのまま大地へと投げ、叩きつけた。ギンガの口から血が出る。容赦のない一撃だというのがそれだけで解る。背後でザフィーラが起き上がる音を耳にしながらも体を前に出し、

 

『―――準備完了』

 

 知っているその声が念話として聞こえた瞬間、イストへの接近の動きをギンガの回収の動きへと変える。大地へと叩きつけられたギンガを掴んだ瞬間、全速力で離れる。

 

「立ち向かわなきゃ勝てないぜ」

 

 その声に応えたのは、

 

『―――うん、だから』

 

 念話でなのはが言う。

 

『勝たせてもらうよ元先輩』

 

 ―――瞬間、比喩でもなんでもなく、桜色が世界を染め上げた。




 反転できるのなら反転し戻せる。やっぱり複数人対1ってのが戦闘描写する上では一番面倒な部類だと思っている。集団戦だとある程度ボカせるけど、3対1ぐらいだと全員描写しないといけないから色々とハードルがががが。

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