マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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ウィークス

 目覚めは目覚ましのアラームと共に来る。

 

 既にアラームの音に慣れ切った体は音が鳴り始めるのと同時に目が覚める。義手のついた左腕を横へと伸ばせば四時を示すアラームクロックがピピピ、と五月蠅く音を鳴らしているのを止める事が出来る。―――何故かこうやって朝起きる時に義手を付けていると違和感を感じる。だが、まあ、義手を間違って両腕ともとってしまえば自分では付けられないのが非常に困った事だ。……誰か、俺の代わりに義手を付けでもしていたのだろうか。

 

 とりあえず覚えてもいない事を悩んでいてもしょうがないのは何時もの事だ。最近はめっきりと少なくなったフラッシュバック等をアインハルトに感謝しつつアラームクロックのアラームを消し、ベッドから抜け出る。閉じている窓の隙間からは既に日が弱くだが見えてきている。それでもまだ完全に日が昇っている訳ではない。それでも一日の事を考えるのであればこれぐらいの時間が自分の都合にはいい。ベッドから抜け出して温もりを手放しても、眠気は残っていない。寝起きはすんなり行けるタイプは人生が物凄く楽なものだと思う。ともあれ、

 

「―――アインハルトが来てから一週間か」

 

 平和なもんだ。

 

 そう思いながら朝の訓練が始まる前に自分の分の運動を終わらせるために服とタオルをクローゼットから探し、そしてシャワー室へと向かう事にする。

 

 

                           ◆

 

 

「よう、おはよう」

 

「おはよう」

 

 着替えやら髭剃り、身嗜みを整えてから食堂へと向かえば時刻は四時半だ―――それでも食堂は既に機能している。徹夜組がそこでは死屍累々とした表情で珈琲を飲んでいればテーブルに突っ伏している姿があり、起きたばかりのフェイトの姿がある。優雅にホロウィンドウを片手に、紅茶か何かを飲んでいる様子だった。片手をカウンターの方へと振るとカウンターの向こう側から手を振って挨拶が返ってくる。毎朝頼むものは一緒なのでここら辺は口にしなくても通じる。フェイトの向かい側の席に座って腰を落ち着ける。

 

「今朝のニュース来てるけど読む?」

 

「説明してくれ」

 

 フェイトにそう答えると少しだけ呆れた様な表情を向けてくるのでガンを飛ばしてみる。そこでフェイトは若干怯えてくれるのでやっぱ目つき悪いんだろうなぁ、と再認識する。胸ポケットにしまっておいたサングラスを取り出して、それをかけておく。両手足を組んで、店員が運んでくるブラックのコーヒーを前に置いてもらう。

 

「イストさん」

 

「何時も言ってる事だけどさんはいらねぇ。ガキならまだしもお前もう良い大人だろうに」

 

「大人だからだよ。ともあれ、イストさんはいい加減もう少しノリで物事を進めようとするのを止めない? ガン飛ばされるたびに心臓が潰れそうになるんだけど。イストさん普通に笑っている分には全く問題ないのになぁ……」

 

 俺から顔の悪さを抜いたらただの面倒な男だ。こういうパーソナリティがあるから俺のキャラが出来上がってるのではないか。というかそこらへん考えてほしい。この顔と、そしてこの境遇が無ければ俺なんか割とそこらへんにいるような人間ではないか。俺的にはもうちょっと押しが強くないとその他大勢にキャラを食われかねないと思っている。

 

 珈琲を飲みつつそう思っていると、モーニングセットが運ばれてくる。片手で運んできた店員に感謝しつつ、目の前の皿に盛られたクラブハウスサンドイッチとフライドポテトを見て、フェイトは少しだけ困ったように笑う。女性からしたら流石に量が多いが、割と燃費の悪い体なので結構たくさん食べなくては朝のエネルギーは持たないのだ。

 

「食べすぎじゃない?」

 

「燃費の悪い体なんだよ。実際これでも動いた後は足りないし」

 

 運動した後でもまた、何か食べなきゃやはり腹は減る。そう言ってもスバルやギンガ程、というわけではないが。ともあれ、クラブハウスサンドを食べ始めると背後からのそのそ、と動きを背後から感じる。苦笑しつつ振り返れば、ブラウスにスカート姿―――何時も通りだが、非常に眠そうなアインハルトの姿がそこにあった。若干眠そうにふらふらしている様子を見ると、やはり朝には強くないのだと思う。眠そうに眼を擦るその様子が年相応に思える。カウンターの方へと手を振り、ホットミルクを頼むと、アインハルトが近づいてくる。

 

「こらこら、別に同じ時間に起きなくてもいいんだぞ? 夜でもいいんだし」

 

「いえ……師父が朝にやるのであれば……私も朝がいいです……」

 

 そう言ってもアインハルトは眠そうな表情だ。このままでは椅子に座らせてもそのまま椅子から滑り落ちてしまいそうなので、アインハルトを手招きして近づけると、片手で彼女の軽い体を持ち上げて膝に乗せる。まだ眠いからか特に文句は言われないし、若干体を預けてくる様子がある。その姿にフェイトと顔を合わせて微笑みながら、

 

「平和だなぁ」

 

「こんな時間が続けばいいんだけどね」

 

 続くわけがないと解っているからこそフェイトにどうしても納得してしまう。店員が運んできたホットミルクを片手で押さえながら、それをアインハルトに握らせようとする。眠そうに首を揺らすその姿にやはり、小さく笑い声を漏らすしかなかった。

 

 

                           ◆

 

 

「んじゃ、軽く運動すっぞー」

 

「はい!」

 

 空間シミュレーター―――ではなく、寮の裏手の広場で、軽く体をほぐす様に運動する。体を左右へと曲げ、体をまっすぐ伸ばし、そして体を軽く温める。体を動かしつつも横のアインハルトを見やると、アインハルトも似たような運動をし、身体をほぐしている此方と同じ様なウォーミングアップ方法をこっちを盗み見て、行っている。ちょっとだけ悪戯心が湧いてくるところだが、まあ、そこらへんは押し込んでおく。

 

 時刻は五時十数分過ぎ。六時にもなればティアナやスバルが起きる。そして七時になれば演習を始める為、自由な時間―――自分の鍛錬に当てる時間はなくなる。体が鈍らない様に、型の練習や軽く運動はこういう時に反復しておかなくては割と忘れてしまうのだ。体に染みついた、と言ってもそれは日々の積み重ねから生まれるものだ。その研鑽を絶対に忘れてはいけない。それは”ある”者が絶対に忘れてはならない事だ。

 

「大丈夫か?」

 

「問題ありません師父」

 

「んじゃ軽く型だけのを通すぞ」

 

「はい!」

 

 何度も何度も練習し、発掘し、再現し、そして脳に刻まれた覇王流の基本的な動きを取る。構えはアインハルトも俺も違う。だがそこから始まる踏み出しての拳撃は全く同じ動きだ。そこから繋がる蹴り、肘、回し蹴り、その全てがスローモーションだが、横に並ぶ自分とアインハルトの動きに一切のブレも遅れもなく、まるで機械で遠隔操作しているかのような正確さで同じ動きを取る事が出来る。何度も何度も繰り返しているが、もはや思い出す必要もないぐらいに体に刻み込むのが理想だ―――そして記憶を失う前の俺は馬鹿律儀にこれを数えきれないほどにやっていた。そのおかげで記憶を失った今でも全く関係なく動ける。

 

 だから最低限アインハルトには求めるのはそういうレベルだ。……まあ、十歳の少女に特に何かを期待している、という訳でもないが。エリオとキャロに関してはなのはがしっかり”体を鍛えない様に”見張っている。どう足掻いても十代前半、というか入り立ての少年少女の体を鍛える事はメリットよりもデメリットが多い。教育者としてはそこらへん、筋肉を付けない様に導くのが難しい。いや、軽度なら別に問題はない。だが自分たちの様な戦闘に耐えうるための本格的な体作りはもう少し後からではないと危ない場合がある。

 

 折ったり、魔法が作用して変な方向に延びたりと、そういう事件は過去には何度もあった。だから万全を期すため、身体の筋肉等を鍛える事はさせていない―――まあ、そもそも今の立場で本格的にアインハルトに教えることなどできもしないのだが。

 

 だからできることは技術教導。それもアインハルトが最低でもあと四年は大きくならなくては完全に教える事は出来ないが、基本的な物であればそれまでに魂に刻む程度は出来る。

 

 だからゆっくり、ゆっくりと、まるで海の中を歩くような速度で体を動かす。自分一人であればこれに負荷を加える為に動きを魔法で縛るが、今はアインハルトがいる。彼女の見本となるために、見えやすい様に、付いて来やすい様に動く。それにしっかりと付いてくるアインハルトの姿はやはり才能が自分よりもある―――と、思ってはいけないのだろう。彼女が必死にこっちについて来ようと、必死に努力しているのはよく知っている。それにはまだまだ早いって言っているけども、彼女は此方の期待に応えるのが楽しいと答えてくれる。だったら前に立つ先陣として、相応の姿を見せ続けなければならない。

 

「大丈夫か?」

 

「問題ありません」

 

 なら問題ないか、と今までにはない動きを少しだけ加える。それにアインハルトが一瞬戸惑いを見せて、動きが少しだけ、ブレる。だが次の瞬間にはどの動きかを把握したのか、即座に此方の型に姿を合わせてくる。だからそれを少しだけ引き離す様に動きを変則的なものにする。肘を突きだしながら前へと踏み出したところで体を反転、滑るように蹴りを繰り出しながら少しだけ跳ねて逆の足で蹴りだす。そこから今度は拳へ―――そうやって動きを繋げて行き、繋がる動きと繋がらない動きを体で確認し、覚えて行く。

 

 何十、何百を超える覇王流の動き、一つ一つを繰り返して繰り出し、似たような組み合わせを流れで何度も繰り返し、そしてどの動きからどの動きへ、どれであれば隙が少ないのか、それを徹底的に体に刻み込む様に覚えさせて行く。アインハルトだけではなく、自分にも。これ以上気遣われるのはアインハルトも嫌がる。だから動きを偶に変則的にしつつ、今までアインハルトが繰り返した事の中に、少しずつ、日に日に新しい動きを増やして行く。

 

 今はこれだけでいい。

 

 それを三十分も続ければ魔法で強化されていないアインハルトの小さな体では体力の限界がやってくる。此方は汗を欠片も流していなくても、横へと視線を向ければ額に玉の様な汗を浮かべたアインハルトの姿がある。故にそこで一旦動きを止める。そこにアインハルトはケチをつけないし、文句を言わない。この子の良い所は己の限界を知っている所だ。だから決して、己を超える無茶をしようとしない。

 

 うん、そこは非常に俺の様じゃ無くて安心できる―――俺を参考にするのはちょっとおすすめできないから。

 

「疲れたか?」

 

「はい」

 

「んじゃあ休んでいていいぞ」

 

「解りました」

 

 そう言って、あらかじめタオルを持ってきていたアインハルトはそれを近くの木陰から取ってきて、自分の顔や手をふく。そんなアインハルトの様子を眺めながらも、此方は此方でまだ動けるし時間も残っているので動きを続ける。今度はアインハルトに合わせる必要はない。汗を拭き終わった彼女は此方の事を見ているが、それでも今度は此方のコンディションを整える為の動き。もっとゆっくり、全身の筋肉を酷使する様に、ゆっくりと型を進める。

 

「で、アイン」

 

 愛称で彼女の事を呼んでみると、アインハルトが視線を此方へと向けてくる。

 

「なんでしょうか師父」

 

 動きを続けながらも余裕はある。このまま無言でいるのはアインハルトには悪いであろうと、彼女がここへと来た翌日から始まったこのルーティーンに少し会話を挟み込んでみる。

 

「此処へ来てどうだ? なんか困ったりしているか? ハブられているとか。魔王がウザイとか」

 

「師父は本当に仲がいいですね、あの方と」

 

 アインハルトがくすり、としながら言ってくる。そりゃあそうだろう。彼女がどう思っているかは解らないが、少なくともなのはの事は悪友か親友だと俺は思っている。記憶を取り戻したらどうなるかは解らないが、俺から彼女への評価はそんなもんだ。あと自分と組む上で理想的な後衛要員も一応彼女の様なタイプの魔導師だと言っておく。

 

「んで、特に問題はないか?」

 

「えぇ、今の所少し気にかけて貰ったり、皆さん良い人で安心しています。こう、聞いた話ではかなりエキセントリックというか、個性的な人間の集まりと言いますか……えーと」

 

「あぁ、うん。正直にキチガイだって言ってもいいんだぞ? 間違ってはいないし。最近ではエリオが何時降参するかをヴァイスやはやてと賭けててなぁ……楽しいけど頭のおかしい連中だよ。あ、今のエリオに内緒な」

 

「ふふ、解ってますよ」

 

 まあ、知らない場所へ来て笑う事が出来るのであれば問題はないのだろう。ヴィヴィオに対しても割と好意的というか、別に俺の様なリアクションはでてないし。

 

 動きを止めながら思う。

 

 ―――ホント、平和だなぁ、と。

 

「さて、もうそろそろ時間だし。本日もお仕事頑張りますか」

 

 あとどれだけこれが続くのだろうか。そう思うたびに、

 

 ”期待”する自分がいた。




 ヤンデレじゃない、キチガイじゃないロリだっているんだ! 幼女を見たらキチガイだとか、号砲ロリだとか、キチガイ淫乱ピンクとか、キチガイ紫昆虫マニアとか、ラスボスベルカ地雷幼女とかお前ら酷すぎるだろ!! 可愛いアインハルトちゃんだっているんですよ!

 ロリを攻略しようとするロリコンでアリコンでベドなお前らを一回食わなきゃいけない気がしてきた

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