マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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アンブレイカブル

「温い」

 

 巨大な剣が片手で振るわれる。蹴りあげられた鋼の体は砕かれ宙を舞いながら回転する。その姿に一瞬で追いつきながら手加減することなく極大の剣が上から下へと向けて、突き落とされる。軽く5メートルの長さを超す剣―――ブラッドフレイムソードがガジェットの体を貫通し、大地に突き刺さる。まるで熱したナイフでバターを割くか如く、そんな軽さでガジェットを真っ二つにしつつ串刺しにし、新たな標本の様な状態を地上本部前の空間に生み出す。

 

 そんな光景が数百を超えていた。

 

「温い、温すぎます。いえ、―――弱い。所詮この程度ですか」

 

 だがその光景に混ざっているのはガジェットだけではない。五十を超える管理局魔導師が―――陸、空、海に関係なく地上本部へこの入り口から入ろうとした魔導師全てが串刺しの状態で飾られていた。壁に、大地に、木に、ブラッドフレイムソードは突き刺さっており、そしてそこには貫通されて気絶し、身動きの取れない魔導師の姿が存在する。所詮この程度。その言葉はもちろんガジェットにだけ送られたわけではない。

 

 己に襲い掛かってきた全ての存在に対して贈った言葉だ。

 

「ほらほら、どうしたんですか。管理局なんですよね? 魔導師なんですよね? エリートなんですよね? ご自慢の兵器なんですよねスカリエッティ? それがこの程度ですか。中途半端に作成されたロストロギア搭載型のクローン一体に傷一つつけられていませんよ。一体どこの無双ゲーですかこれ。接近してきたらブラッドフレイムソード投擲するだけで終わってるじゃないですかやだ。ホント弱すぎて話にならないですね。正義だとか、守らなきゃいけないとか、法とか、そういう言葉はまずそういうのを通せるようになってから言ってはどうですか? 口だけ立派でも……ねえ? あ、凝りませんねぇ」

 

 ガジェットが十機程此方へと向かって突き進んでくる。背後の魄翼の形態を変化させる。翼の形から刃の形へと。エターナルセイバー。名前とすれば大層な魔法だが、やる事はシンプルで、魔力で固めて作った翼を剣の形へと変化させ、それで―――薙ぎ払う。それだけの魔法。AMFの前では純魔法攻撃なんて意味を持たない筈、だがそんな法則自分には関係ない。永遠結晶エグザミア、そのレプリカであるエグザミア・レプカはレリックとジュエルシード等のエネルギー生成系ロストロギアを参考に作られた魔力の永久生成機関―――本物と比べれば数段効率や効力が落ちるのは仕方がない。それでもAMFごとき突破する力を持っている。

 

 故に純魔力的攻撃でもガジェットは薙ぎ払われ、砕け、爆散し、地上本部前の空間を彩る瓦礫となる。先ほどからこの程度なのだ。やるべき事は解っている。やらなくてはいけないなので、絶対に成し遂げる。そこには慢心も油断もない。本気だからこそ目視するのと同時に殲滅している。だからと言って楽しいわけでもない。言葉として表現すれば、そう。やりがいがない。何もかもが一撃で終わってしまう。何もかもが一瞬で崩れ去ってしまう。対等な存在がそこにはない。誰も私に届く事は出来ない。

 

「これが最強故の苦悩ですか。力が無くて、渇望している方がよほどマシなんでしょうね、精神的には。これは”腐り”もしますねー」

 

 ガジェットが防壁を超えようとするのが見える。その瞬間に横の空間を殴り、砕く。虚空の中に手を突っ込んで引き抜くのはブラッドフレイムソードだ。それを抜きながら、ガジェットが射程圏内に入るのと同時に投擲し、串刺しにする。勢いよく突き刺さった刃と共にガジェットは再び防壁の向こう側へと落下して行く。その光景を眺めながら気づく。

 

 新たな侵入者を。

 

「ふむ」

 

 防壁を飛び越える魔導師の姿へと向けて迷う事無くブラッドフレイムソードをもう一本ぬきだし、投擲する。防壁を飛び越えた姿は正面から迎えるその刃を、右腕を引き絞り、そしてその手に握られたクレイモア型のデバイスを叩きつける。一瞬の拮抗と停止。競り合いに勝利したのは魔導師の方だ。迫ってきた脅威をデバイスの一撃で真っ二つにすると、大地に着地し、此方へと刃を構えて向かってくる。間違いなく陸戦タイプの魔導師、握っているのはアームドデバイスで、ガジェットに対して有利な戦闘を行えるタイプの魔導師だ―――バリアジャケットが一般の統一タイプではなく、カスタムタイプの白いロングコート型だというのがそれが一般戦力ではない事を表している。

 

 つまりは特別な戦力、おそらくはストライカー。Aランクでは自分の一撃は受け止められないし、アレだけの力を発揮する事は出来ない。だから相手が一瞬で此方へと距離を詰めて来る事に違和感は持たない。一瞬で十数メートルの距離をゼロにして、叩きつけてくるクレイモアを魄翼で防御し、動きを停止させる。再び一瞬の停滞。

 

「砕けカラドボルグ!」

 

「温い」

 

 雷撃を発し始めたクレイモアを所持者ごともう一つの魄翼で吹き飛ばす。後方へ宙返りしながら着地する相手へと向かって魄翼を槍の姿へと変え、突きだす。それが防御されるのを自覚しながらも、もう一個の魄翼を剣の形へと変え、エターナルセイバーを再び防壁を超えてきたガジェットへと叩き込む。次々と爆砕するガジェットの姿を確認しつつも、溜息を吐く。

 

「はぁ、これで5人目ですね」

 

「何が、だ」

 

 決まっているではないか。

 

「―――ブラッドフレイムソードを砕いて得意げになっている馬鹿ですよ。貴方で五人目、って言ってるんですよ。ちなみに回避だったら15人ほど成功していますよ。一回突破した程度で破った気でいるんだから笑いものですよ。見ますか? 確かそこらへんに串刺しになって気絶していますよ。まあ、所詮有象無象なんて一々顔を覚えたりもしないので少しだけ歯ごたえのある雑魚程度しか認識がないんですけどね」

 

「貴様……」

 

 相手が怒気を見せる。なるほど、それは理解できる。確かに仲間や身内を傷つけられたり、馬鹿にされたのであれば怒りもするだろう。だが究極的に言えば自分は身内以外の他人はどうでもいいのだ。勝手に幸せになるのであれば幸せになって、勝手に不幸になるんであれば不幸になってほしい。自分が求めているのは好きな人と、好きな人たちと感じる安息、平和、愛と永遠―――そこに有象無象は必要ない。ディアーチェから言わせれば”塵芥”だ。

 

 そう、いらない。

 

 スカリエッティも、ナンバーズも、機動六課も、あの妹も、イストの両親も、いらない。私と私達だけで十分。それだけの世界で十分。それ以外は全てデッドウェイト、必要のない装飾だ。ユーリ・エーベルヴァインは―――いや、ユーリ・バサラはその有象無象と関わる事すら面倒だと思っている。それが自分だ。それが私と言う存在だ。傲慢で、愚かで、自己中心的で、そして愛に狂っている。自分なんかの為に何年も何年も耐え忍んで助けてくれた光景を見せられてしまえば惚れ直さないわけがない。愛しくならないわけがない。言葉では、行動では足りないぐらいに愛している。だからそれ以外が煩わしい。

 

「この数年間の空いた時間を私は隣にいて埋めて行きたいんですよ。その為には邪魔なんですよ、現在が」

 

 空から何かが”落ちて”くる。それに視線を受ける事無く反射的な行動で虚空から刃を引き抜き、投擲する。それは寸分の狂いもなく落ちてきた魔導師達を串刺しにし、そして大地へと縫いとめる―――その数は三人だ。そういえば頭上、かなり上の方からイングの戦いの気配を感じていたが、つまり倒したから落ちてきたのだろう。彼女も彼女でしっかりと頑張っている様子だ。まあ、自分位に狂っているのでアレは、いい感じで理解できる。

 

 ともあれ、

 

「有象無象が、私の前に立つな」

 

 魄翼を振るえばそれが形を変え、巨大な手となって相手へと向かって振るわれる。それを相手は刃で受け流しつつ、前進してくる。なるほど、中々の技巧だと判断し、懐に入られ、斬撃を叩き込まれる。同時に雷撃が発生し、常人ならこの一撃で吹き飛び、気絶するだろう。鍛えられたものであればある程度は辛いが、立ち上がるだろう。修羅とも言える領域に立っている者であれば即座に反撃するだろう。

 

 なら魔人の領域に立っている存在ならどう反応する。

 

 ―――答えは無だ。

 

「効きませんね」

 

 ダメージがない。比喩でも表現でもなく、ダメージは存在しない。斬撃を叩き込んで発生する斬れた痕も、雷撃によって痺れ、焼かれるはずの傷痕も存在しない。存在からして規格違い。生まれた時からして立っている存在のステージが違う。圧倒的力とはこういう事だ。そもそも防御する必要も回避する必要もない。存在として規格違いなので攻撃自体が通じない。

 

 そもそも戦うのであれば死滅の魔拳程度持ってこなくては話にならない。

 

「オーバーSの魔導師やストライカーと一緒にしないでください―――まあ、今日はかなり機嫌がいい方なのでその無礼な事は機嫌のよさに免じて許してあげましょう」

 

 何せ今日は戦い始めてからまだ一度もエンシェント・マトリクスを放ってないのだから。人も一人も殺していない。余計な痛みを感じない様に一撃で意識を刈り取る様に攻撃を叩き込んでいる。これだけをどうでもいい人間相手にやっているのだから今日の自分は聖母の様なものだ。セイント・ユーリと呼んじゃっても問題ない。そしてあとでこれ全部自分はやったんだと言って、頑張ったと言って、そして褒めてもらうのだ。うん、そして頭を撫でて貰ったりして―――うん、悪くない。

 

「故に―――邪魔です」

 

「くっ」

 

 魄翼を軽く振るえばそれだけで相手が吹き飛ぶ。だがそこで終わらないのが特級の魔導師だ。彼らだって己の願いを持って戦場に立ち、何年、何十年と技術と魔法を磨いてきた。吹き飛ばされたところから復帰までにコンマ五秒もかかりはしない。そこから反撃するのにはトータルで一秒も必要としないだろう。洗練された動きは反射的な行動を促し、そして確実に勝利へと道を付ける。だが、だからこそ、世の中は何よりも無常だ。

 

 才能も、努力も、経験も。それらを全て否定して踏み潰すのが圧倒的な実力、魔人という存在。

 

 だから相手が復帰するよりも早く相手へと到達し―――相手の胸に手を入れる。そのまま相手のリンカーコアを掴み、そしてその一部をベースに、無理やり巨大な刃を生成する―――ブラッドフレイムソード。相手の血肉より生み出すからこその名前で、何よりも、誰よりも相手の下へと戻ろうとする法則を利用する。相手を大地へと蹴りつけ、頭上からブラッドフレイムソードをリンカーコアへと突き刺し、体を貫通させる。

 

「エンシェント・マトリクス」

 

 シールドもプロテクションもバリアジャケットも触れた瞬間から消し飛ぶように破壊し、そして相手を貫通させる。ブラッドフレイムソードの突き刺さった姿のまま魔導師は硬直し、そして少し呻いてから―――動きを止める。突き刺さった刃の柄の上に着地しつつ、言葉を漏らす。

 

「所詮この程度。そう、所詮この程度ですか。弱い。弱すぎる。温いんですよ。装甲車でも、魔導師でも、ガジェットでも私を止める事はできませんよ。あぁ、もちろん戦闘機人で止まってやるつもりもないですけどね。私を止めるなら最低限戦艦程度用意して欲しいですねーそうじゃなきゃ一方的に蹂躙鏖殺してぽい、ですよ」

 

 軽く爪先でブラッドフレイムソードの柄を蹴るが、反応はない。リンカーコアを貫かれた足元の魔導師は完全に気絶している。そしてそれでいい。プライドやらを傷つけられることに間違いはないが、それでも死ぬ事よりははるかにマシだ。それを考えたら自分はまだまだ手緩い方かもしれない。

 

 ディアーチェはそこらへん即決即断だ。不要と判断したら手心を加える事はしない。邪魔だと判断したら”無力化”ではなく”消滅”させる事を選ぶ。そこらへん、王としての決断力の違いだろうか。可能性を残さない事が大事であると判断できる辺り、ディアーチェは精神的に言えば一番ぶっ飛んでいるのかもしれない。

 

 まあ、身内の連中の中で頭がぶっ飛んでいないやつなんて一人もいない、と言うのが真実だろうが。そしてその筆頭はまず間違いなく―――イストだ。あの男ほどぶっ飛んでいる存在もいないだろうが、ただ、

 

「―――そこが可愛くてかっこいいんですけどね」

 

 やん、と言いつつ頬に両手を当ててくねくねしていると、ガジェットが再び出現する。ノーアクションでそれを横に腕を薙ぎ払う事で破壊し、残骸を吹き飛ばす。いい加減煩わしくなってきたものだ。そろそろ止まらないか、

 

 そう思ったところで、ガジェットの残骸に変化が訪れる。

 

「……なるほど、失敗作ですか」

 

 ガジェットが黒く染まる。正確に言えば黒いオーラの様なものを出している。それが破壊された断面から出現し、そして破損個所を周りの残骸を引っ張って、そしてくっつけることによって再生している。それはまるで共食いの様な、生理的嫌悪感を感じる光景だった。ただガジェットは着実に残骸を食らい、再生進化を行っていた。

 

 知っている者はまるでどっかの悪夢が、闇を思い出すだろう。

 

「ナハトヴァール・プログラム、って所ですかね、呼び名は。まためんどくさいものを生み出しましたねあの屑は。ディアーチェにジャガーノートぶち込まれる程度では堪えなかった様ですね。……まあ、本体が登場したわけじゃないので今回は良しとしましょう」

 

 他のガジェットを食らい、巨大化する”屑鉄”を見上げながらユーリは笑みを浮かべる。

 

「所詮屑鉄は屑鉄。共食いしたってどうにもなりませんよ。あぁ、言い忘れてましたけどそれ、物凄く不快なんですよ、生まれる前の事を思い出すので。だから死ね。滅べ。蹂躙されろ。貴様のいる場所がこの地平には存在しない。一片も残さず滅びろ屑鉄……!」

 

 ―――魔人を、ユーリ・バサラを止められる存在はいない。




 ユーリ無双。

 おかしい、ユーリちゃん超可愛い回を作る予定が魔王ユーリ降臨って感じになっちゃった。これから地上本部前の庭を串刺しの森って呼んでもいいよ(

 そしてスカさん、禁忌に手を染めるpt2

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