マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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ミクシング・イン

 腕を組みながら夜天の主、八神はやての前に降りたつ。その表情は大いに驚きが浮かんでいる。最後に会ったのは―――ヴィヴィオ争奪戦時だ。その時は敵だった。だが今は若干異なる立場だ。はやて一人の権限や判断では捕まえる事が出来ない。なぜなら今、自分は管理局側の信号を発している。管理局側の味方であるという信号だ。それをはやてがユニゾンしているデバイスは間違いなく受け取っているはずだ。だから不敵な笑みを浮かべてやる。そしてもう一度、声をかける。

 

「久しいな、八神はやて」

 

「……王様やんか、えらい久しぶりやな」

 

「何だ、我が味方として出てきて、解っていても驚いたか? ま、安心しろ。今回に限っては……いや、これが終われば我も我ら全員、邪魔されない限りは永劫味方であり続ける。その証拠にイングめが体張って頑張りおっただろう? であるから安心しろ。我は味方だ。少々五月蠅い悪夢を殴り飛ばしに来てやったぞ」

 

 その言葉にはやては一瞬驚きを見せてから飲み込む。良い顔だと思う。初めて会った時とはだいぶ変わっているとも思う。自分の知識にある八神はやてという少女は最初は闇の書、夜天の書の運命に流される小娘であった。それが偶然の積み重ねと奇跡によって救われた。それが少しずつ成長し、そして数年前に会った、頑張る娘になり―――そして今、このような形になった。人間という生き物は常に成長するものだが。

 

 全く進歩の無い我々とは違って。

 

「んじゃ、王様が頑張ってくれる、って言うなら……任せるで?」

 

 あぁ、とはやてに応える。

 

「元々白天王が何らかの理由で召喚できなかった場合、我一人で相手取る予定だったのだ。それと比べればオマケが一つ付いて遥かにやりやすい環境よ。任せろ、我は最強……とはいかんが、それでも恐ろしく強いぞ。というか負けるつもりはない」

 

「うん、なら王様信じるわ。馬鹿って言われてもいいけど身内の身内は身内や。後で折檻とかはやるとして、任せたで」

 

 別に登場して即ズドン、とやっても問題はないのだが混乱を避けるためと、一応誤射されない為にも話しかけておいたが、結果的に上手く行きそうだ―――そこらへんの配慮、我が家の面子だとちゃんと考える連中がいないので困る。シュテルは冷静なようで実は身内以外はどうでもいいと思っているし、レヴィはそもそも視界にほとんど入ってこない。ユーリもイングもアレはアレで価値観割と破綻しているのでこういう事が出来るのは己しかいない。まあ、自分だけができる事と、というと自分が彼に手伝える分野でそこを独占していると思うので悪い気はしない。

 

 ともあれ、

 

「任された」

 

 紫天の書を広げ、その中のページを解放する。それを周りに漂わせながらエルシニアクロイツに魔力を一瞬で充填し、背中の翼を広げる。トリニティモードの証にシュテルとレヴィの色を翼は持っており、同時にユーリの魔力によって体は満ちている。はやてから少し離れ、そしてナハトヴァールの姿を確認する。本来のナハトヴァールよりは劣化しているだろうからその再生力と、そして白天王二体分のポテンシャルを計算し―――完全殲滅まで三十分、という所だろうか。

 

 丁度いいリベンジだ。前アジトへ襲撃した時に貰った傷の分、此処で返そう。

 

「余計な言葉は飾るだけだな。ディアーチェ・バサラ、行くぞ」

 

 言葉と共に広域殲滅魔法が完全に二体のナハトヴァールを包んだ。

 

 

                           ◆

 

 

「―――始めましたか、ディアーチェ」

 

 ルシフェリオンドライバーを下げながら周囲に散乱する更地となったエリアを見る。そこには燃え盛る炎と、そして砕け散ったガジェットの姿しかない。半径二キロ圏内に見えるものは廃墟であろうと瓦礫であろうとガジェットであろうと、その全てを薙ぎ払い、燃やし、そして吹き飛ばした。その結果非常に見通しの良い空間ができた。砲撃するにも、されるにも絶好の空間だ。炎を撒いてあるし、空間へと踏み込んでくれば背後であろうが死角からであろうが、自動でセンサーに引っかかるようになっているキルゾーンと化している。これだけ状況を整えたのだからスカリエッティが、ナンバーズが襲い掛かってこない筈がない。

 

 ……何だかんだであの連中割とライバル意識が高いですし。

 

 ライバル意識が高い、というよりはあの連中もやはりスカリエッティの娘達というべきなのか―――己の証を、存在したという証を残したがる。どこか目立ちたがりなのだ、あの連中は。自分の立場を理解している、自分の存在を理解している、常に崖っぷちである事を解っているからこそ―――自分達と一緒で、己の存在を証明したがる。崖っぷちだから馬鹿のようにはしゃぐ。馬が合う筈だ、とくにセインとウェンディ辺り。アレは此方の芸風に染まった、というよりは共感している部分が多い。だからこそきっと、戦わないだろうなぁ、と思う。

 

 まあ、目立とうとはするんでしょうけど。

 

 センサー代わりの炎がキルゾーンの中に侵入する存在を感知する。魔力を押しのけるように入り込んでくる感覚は間違いなく”鉄屑”の存在だ。それに対して行う反射的な反撃は簡単だ。パイロシューターを生み出し、それを一直線にガラクタへと叩きつける。視界を向けるまでも無く命中し、燃え上がり、そしてただの残骸となってこの戦場を飾るものとなる。

 

「見ているのでしょう? 視線は感じます―――来なさい」

 

 ルシフェリオンドライバーを構える。ルシフェリオンに追加パーツを装着して出来上がる大剣の様な、腕に装着するこのルシフェリオンの姿は本来は”未来”の対AMF兵器だとスカリエッティは豪語していた。そのアイデアは”過去”から、そして技術の根幹は”企業”から盗んで、そして数年先に完成させたのは自分だ……と、自慢するのは良いがそれが現在自分へと牙をむいているのだからあのマッドドクターはどこか間抜けだ。

 

 まあ、自分とスペア分を盗めたのは幸いでしたね。正直AMFは面倒ですからね……。

 

 視線を察知しながらそう思う。二キロ範囲以内には相手の気配を感じないし、察知も出来ない。つまり自分の索敵範囲、二キロより先に相手が存在する。自分の平均的砲撃距離が五キロ、限界火力で七キロ、程度だろうか。次元跳躍砲であればある程度距離を無視する事が出来るが、準備には時間がかかる。故に百パーセントの命中率を誇れるのはこの二キロの範囲内で、それから離れれば離れる程段々と命中精度は下がる。相手がトーレやディードの近接型であれば正直な話”カモ”なのだが、そうもいかないだろう。自分に当たるのはおそらく、

 

「―――来ましたか」

 

 次の瞬間、周りに張っていた炎が一斉に消える。その代わりに大地に出現するのは緑色の光の柱だ。それが何本も先ほどまで炎が舞っていた空間へと突き刺さる。それが誰のISなのかすぐさま把握し、そして相手が一体何人で、そして誰なのかを悟る。

 

「なるほど、そういう組み合わせで来ましたか……!」

 

 次の瞬間、背後から接近する気配を感じる。体を振り回しつつバックハンドでルシフェリオンドライバーを振るう。一瞬で魔導リングがルシフェリオンの先端に形成され、そして溜め込まれた魔力が半分に割れたデバイスの砲口から細い熱線として吐き出される。背後から放たれてきた砲撃と一瞬で衝突し、そして熱線が中心点から砲撃を突き破る。そのまま砲撃を貫通しながら熱線が突き進んで行く。

 

「フェイクですね」

 

 砲撃を三キロ程穿つと同時にルシフェリオンを振るいつつ熱線を切り上げる。それと同時に襲い掛かってくる緑色の弾幕に対して開いてる左腕を振るう。即座にパイロシューターを形成し、それを弾幕に対して放つ。

 

 が―――パイロシューターは弾幕を突き抜けても消えず、そのまま体を抜けて行く。ダメージを生まずに。そしてそれが発生した次の瞬間には横から殴り飛ばされる様な爆発を受け、身体が吹き飛ぶ。飛行魔法で強引に飛ばされる体をせき止め、そして更に迫りくる目視できない弾丸へと向かってルシフェリオンを振るう。別れたパーツが合一すれば大剣としても使用できるルシフェリオンの新形態はそのまま見えない弾丸を粉砕し、両側の大地に爆破を生み出す。そのまま相手の動きを予測と計算し、素早く砲戦形態へとルシフェリオンを戻し、

 

「ルシフェリオンブレイカー」

 

 五キロ先までを焼き払う。そのまま動きを止める事無く、此処が敵の陣地のど真ん中である事を理解し、そのまま片足を前へと突きだし、

 

「薙ぎ払います―――!」

 

 そのまま三百六十度、砲撃をしたまま体を回転させる。周囲にある光景全てを薙ぎ払いつつ破壊し、燃やしつくし、そして更地へと変える。半径二キロのみを更地へと変えていたのには理由が大きく分けて二つある。一つはそれが探知できる距離の限界だからだ。それ以上は大まかな距離しかつかめなくなる。そして二つ目は、

 

 それより先に隠れれば安全だと相手に錯覚させ、おびき出す為。

 

「が、駄目ですか」

 

 手ごたえがない。攻撃に相手を薙ぎ払ったという感覚がない。やはり自分の攻撃レンジを測られていたか、という考えと共にルシフェリオンでの攻撃を止めて大地に立つ。遠くに聞こえる砲撃と爆発、そして怒声を耳にしつつも三百六十度、全方向から攻撃を感じる為に気配を巡らせる。だがそれを紛らわす様に再び大地に緑色の光の柱が立つ。それをまた薙ぎ払ったところで、次のが来るだけだろうと処理する事を諦める。ダメージのチェック、そしてユーリを通して供給される無尽蔵の魔力をルシフェリオンへと溜め込みながら思考する。

 

 ……レイストーム。ヘヴィバレル、そしてシルバーカーテンですか。

 

 クアットロ、ディエチ、そしてオットーの三人組だ。人格を見ればあまり付き合いがよさそうには見えない連中だが、その能力―――ISとしては極悪のコンビネーションであるという事を理解する。レイストームで束縛と阻害を行い、シルバーカーテンで隠蔽と錯乱、そしてヘヴィバレルで狙撃・砲撃。組み合わせとしてはこれ以上なく厄介だと、敵として判断する。何故ならレイストームで動きを止められているうえにシルバーカーテンで砲撃の位置を正常に把握できないのだ。これでまだヘヴィバレルによる砲撃能力を此方が上回っているから相手が積極的に攻めてこないのだ。

 

「では、どうしましょうか」

 

 一発で倒す事は可能だと判断する。自分の砲撃の威力は間違いなく最強クラスだ。ユーリからの魔力供給を含めてほぼ無尽蔵に最高クラスの砲撃は放てる。ただそれを当てるまでが、問題だ。敵が三人組だと仮定して、おそらく固まってはいるだろうが、場所は常に変えているだろう。率直に言えばやり辛い。なぜなら戦場のイニシアチブが自分には存在しないからだ。主導権は攻撃を仕掛ける相手に存在する。無理に移動すればレイストームで面倒な事になるのは解りきっている。

 

 故に攻略方法は簡単。

 

「撃たれたら本気で撃ち返す」

 

 冗談でもなんでもなく、それが最善の方法だ。攻撃を受ければ相手がどの方角にいるかは把握できる。故に攻撃を受けた瞬間に位置を把握し、そして全力で最速の一撃をその方角へと叩き込むのが攻略法だ。これがレヴィとイングであればレイストームを全て回避し、そして相手へと突破できる。ディアーチェであれば怪しい範囲を全て飲み込んで滅ぼす。ユーリであればそもそも正面から受け止めながら突破するだろう。つまりこの組み合わせは明らかに此方対策、此方を意識しての行動だ。

 

「超えるべき対象……そういう評価だと自惚れるべきでしょうか? いや、どうでもいいですか。所詮敵ですし。殺してしまえばその程度ですからね」

 

 まあ、次で決めるという考えに変更はない。別段ナンバーズにこれといった執着は自分には存在しないし。

 

 ルシフェリオンを構え、不動のまま立つこと数秒後―――僅かに空気が震えるのを感じる。次に感じるのは足元に突き刺さる緑色の光―――それは足の自由を拘束していた。そしてそれと同時に体に中るのは爆破と衝撃。それを体で受け止めつつ、それを良しと判断する。バリアジャケットを裂き、皮膚を裂き、血が宙に舞う。同時にルシフェリオンを握らない手を振るい、炎を散らす。

 

 それを押しのけるように透明の空間が迫ってきた。

 

「―――そこっ!」

 

 そのまま左腕を砲撃へと突きだし、プロテクションを一瞬だけ張る。プロテクションは一瞬だけ機能するが、次の瞬間には砲撃に飲み込まれる。だがそのワンアクションの隙はルシフェリオンを構え、そして放つ為の時間には多すぎた。ルシフェリオンを構え―――そして左腕の異変に気づく。

 

「……くっ」

 

 それを気にする前にルシフェリオンから砲撃を放つ。それは一瞬で砲撃を飲み込みながら熱線が大地を溶かし突き進む。だが一瞬だけ左腕に思考を囚われたためにそのアクションは遅れた。遠くで炎の爆発が発生するが、そこに敵の気配は感じない。確実に逃した。

 

「……しくじりましたね」

 

 左腕へと視線を向ける。

 

 それは、肘のあたりまで完全に腐り、そしてそれは尚も広がっていた。

 

「仕方がありませんね―――う、ぐっ、あぁぁぁぁっ!」

 

 左腕を根元から引きちぎる。それを投げ捨て、パイロシューターを傷口に当てて焼き、無理やり止める。激痛が体に走る事を無理やり意志の力で抑え込み、虚空を睨む。

 

「はぁ……はぁ……第二ラウンド。宣言します―――次の一撃で殺す」





 更新できたぁ! そんなわけでマテ子達もどんどん参戦。どんどん戦ってどんどんミッドは炎に沈む(

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