マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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ゲーミング・タイム

 ラスボス―――それはつまり最終的な相手を示す言葉だ。最後の敵。最後に倒すべき敵。最後に全てを計算し、操り、そして計画している敵。RPG的ゲームで言えば一番最後に出てきて”私が犯人です”と偉そうに言う相手で、シューティングで言えば詰み弾幕を放ってきそうなやつだ。基本的に最後の最後に登場し、ネタバラシをするのがラスボスという生き物だ。大体の場合で、ダンジョンとかそういうっぽい場所の一番奥で待ち構えているのが基本。

 

 そう、あくまで基本。基本知識だ。

 

「―――いやね、実は私ね、ピクニック経験がないって事に気づいたんだ。いや、そういうと凄まじく寂しい男のように聞こえるだろうから一応訂正しておこう。うん。だって、ほら、私って研究者じゃない。だから基本的にアウトドアする必要はないんだと思うんだよね! 私の仕事はジメジメした研究室で毎日研究、開発、そして作成! 基本的にそんな生活でそれに満足していたから……まあ、私もあんまり外に出る事はなかったんだ。研究室から出る事があっても基本的に私はアジトの一歩外で朝の体操をするぐらいか、もしくはウーノかドゥーエに掴まって木に縛られてミノムシごっこを強要させられている時だけだから。あ、そこで笑顔で鞭をブンブン振るっているのがドゥーエだよ―――あ、ドゥーエ? 大丈夫大丈夫、イメージダウンさせるような事は言わないからだからその鞭は仕舞ってくれないかな? あぁ、ありがとう。えーとそうだ、ピクニックだピクニックだ。そう、ちょっと自由な時間が出来たからね、俗世のアレコレから解放されて。だから思ったんだ―――ピクニックしよう。うん、どっかのコマーシャルを思い出すノリだけどこの天才的な脳味噌に神のお告げの如く舞い降りたんだ、今すぐピクニックすべきなのだと。間違いなく神的なサムシングなお告げというよりはキチガイの妄想に近い領域にあるのは確定的に明らかなんだけどほら、私って大分狂ってるでしょ? 何時もフィーリングで行動してるからフィーリング的に正しいんじゃないかなぁ、と思ったらそう行動する事にしているんだ。だからアジトに出る前にウーノにちょっとピクニックバスケットとその中身を用意して貰ったんだ。ピクニックシートも結構気合を入れて用意したんだ―――一から作ったよもちろん! スカリエッティは決して妥協しない! まあ十分もかからなかったんだけどね! あ、ここはどうでもいいか。そんなわけで私はピクニックシートとバスケットを片手に、そしてケツをドゥーエに蹴られながらルンルン気分で戦場に出たんだ―――君に会うために!」

 

 そう言って、白衣姿で靴を脱ぎ、ルンルンと言いながらピクニックバスケットを膝に乗せるラスボスと、そしてその横の空間で鞭をフルスイングしている人間の姿がある。自分の記憶に間違いがなければ白衣姿のキチガイがスカリエッティで、そして横にいる女がドゥーエと呼ばれているはずだ。腕を広げている姿が激しくムカつくのはどうしようかと一瞬悩むが、

 

「喋り過ぎで疲れない?」

 

「実はちょっと舌噛んだ」

 

 ジェイル・スカリエッティ。次元犯罪者―――この戦争の主犯、黒幕。そういう立場に当たる人物が今、ピクニックシートの上で、無防備に姿をさらしている。

 

 ―――どうするティアナ・ランスター……!

 

 たぶん今、人生で一番混乱している。スカリエッティを探すための行動を開始したらスカリエッティがピクニックしてた。たぶんそんなノリでターゲットを見つけた人間というのは歴史上自分が初なのではないかと思う。いや、確実に自分が初だろう。こんな経験した人間が複数いてもリアクションに困るだけだ。―――旧ティアナ・ランスターであれば。

 

 とりあえずピクニックシートを広げるスカリエッティの姿を確認してから、ピクニックシートの上に座る。もちろん靴を脱ぐことは忘れない。これはマナーとして基本中の基本だ。そしてそこから流れるような動作でホロウィンドウを表示するが、そこにはやはり、というべきか砂嵐しか浮かび上がってこなかった。

 

「あぁ、もちろん通信は妨害させてもらっているよ。君達が使っている位置特定マーカーも別の所で綺麗に輝いているはずだよ。邪魔が入ると何というか実に面倒になるからね。そこらへんは君にも実に心苦しいが了承してもらいたい」

 

「良く言うわ。ま、態々恨みをたくさん持ってそうな私の前に現れたんだからそれなりに話したい所があるのよね」

 

「もちろんともさ! いやぁ、実に良かった。君の性格を考慮すると実は出会いがしらに収束砲撃でもぶっぱされないか心配だったんだけどね! だからこうやって普通に話し合えることには少なからず不思議と同時に感謝の気持ちがあるんだよ。じゃあとりあえずまだ挨拶はしてないからね、ティアナ・ランスター君。私の名前はジェイル・スカリエッティで君の兄を製造したスカリエッティのもう一人、というかもう一つのクローンだ。職業は次元犯罪者にしてマッドドクター。夢は歴史に永遠に刻まれるキチガイになる事なんだけど―――さあ、君は?」

 

 スカリエッティの言葉に対してタスラムを突きつける。反射的にドゥーエが動くが、それをスカリエッティが片手で制す。

 

「ティアナ・ランスター、アンタをぶっ殺したくて堪らないただの少女よ」

 

 そうかい、とスカリエッティは答え、そしてすぐ横に置いてあるピクニックバスケットを取る。其処を開き、取り出してくるのはサンドイッチや水筒、本当にピクニックに持ってくる様なものだ。周りから聞こえる爆音や悲鳴、怒号の全てを無視しながらスカリエッティはサンドイッチや水筒の中身をコップへとそそいだりして、普通のピクニック空間を作り上げる。

 

「アレルギーはあるかい?」

 

「キチガイアレルギーなら」

 

「それは死に至る可能性があるね……」

 

「ドクター、何でそこで真顔なのよ貴方」

 

 これ、たぶん味方だったら心強い上に結構愉快な奴として見れるのだろうが、敵として出会ってしまえばこの上なくウザく、そして殺したくなるタイプだなぁ、と改めて認識しつついると、スカリエッティがサンドイッチを1個握り、それを此方へと向けてきている。それを断る理由は腐るほどあるが、黙って受け取らないと話が進まないのを感じて、

 

「―――さて、私はね、天才だ。超天才だ。理解されない天才だ。だからそういう人間は匂いで解る。だから実を言うと同レベルで語り合える相手がいない事が問題でね? 非常に暇なんだ。そんなわけでティアナ・ランスター君、私と少々お話をしよう。何、そう難しい話じゃない。ドゥーエは私の護衛だし私も戦えるように武装してきている―――だけどこんなもの、所詮飾りでしかない。いいかい、私の武器はこの頭脳とこの二枚舌と、そして狂気だ」

 

 そして、勿体付けながらスカリエッティは言う。

 

「話し合おうかティアナ・ランスター君。場合によっては私は無条件降伏してもいいぞ?」

 

 ―――そして爆弾を落とした。

 

 

                           ◆

 

 

「面倒です、ねッ!」

 

 魄翼の姿を剣へと変換させる。スピリットフレアの出力そのものを上昇させることで魄翼を強固にし、そして威力を高める。体を回転させながら剣となった魄翼を振るい、それを上からゆりかごへと叩きつける。五メートルほどの長さになった剣はそれでもゆりかご全体と比べればかなり小さい。それでも気にせずゆりかごの上部へと叩きつけようとすれば、中空で剣の動きが止められる。切っ先を見ればそれがエネルギーとぶつかり合い、動きを止めているのが見える。

 

「シールド、バリアとは古典的ですが有効な手段ですね。実に面倒です」

 

 バリアに弾かれた勢いで剣を元の魄翼の姿へと戻す。それと同時にゆりかごのハッチが開き、そこから大量のミサイル、砲台からレーザーが放たれてくる。片手の動きで魄翼を前へと広げれば正面から大量のミサイルとレーザーが魄翼と衝突し、辺りに爆風と爆散した鋼鉄の雨が降り注ぐ。レーザーの熱を魄翼越しに感じながら考える。まずはゆりかごのバリアをどうにかしなくてはならない。ただ現状、本気でぶっぱしたとなればその被害で周辺が吹き飛びかねない。そうなると下でスタンバイしている人たちがまず被害を受けるのでそれはどうにかしなくてはならない。

 

「とりあえず―――邪魔ですよ?」

 

 魄翼を振るい、迫ってきていた攻撃を全て薙ぎ払う。その動きと共にヴェスパーリングを、炎のリングを生み出して放つ。それが迫ってくるミサイルに触れ、触れた端から連鎖爆発を起こしながら大量の炎を空にまき散らす。その陰に隠れ、飛行型のガジェットが此方を撃墜しようと迫ってくる。だがその程度に此方が傷つくはずもなく、そもそも届くはずもなく、

 

「スピリットフレア出力上昇。ヴェスパーモード・レッド出力上昇―――魄翼巨大化展開」

 

 魄翼を巨大化させ、翼そのものを武器として、薙ぎ払う。半径百メートル以内の空間全てを魄翼の薙ぎ払いで破壊させるのと同時に、そこからスピリットフレアの風を生み出す。赤い炎の様な、魂の炎の風は吹き荒れながら広がって行き、敵に触れるのと同時に爆発し、空のガジェットを飲み込む。その瞬間、ゆりかごから再びレーザーが放たれてくる。それを煩わしいと思う。が、バリアを突破できるまではそのレーザー攻撃でちくちくと攻撃してくるだけだ、相手は。

 

「んじゃ、もういっちょ行きましょうか」

 

 空間を殴って砕き、そこからブラッドフレイムソードを引き抜く。今度のは何時もの様なサイズのものではなく、対艦を想定した一本二十メートルはあるものだ。それを一本ではなく同時に五本ほど取り出し、回転する動作でそれを魔法で操る。取り出す動きでレーザーを薙ぎ払いつつ、それを全力でゆりかごの方へ投擲する。加速の乗った剣が勢いよくバリアへと衝突するが―――バリアは揺るぐような姿を見せない。光り輝くバリアの中には虹色が時々見え隠れしている。それを見て判断する。このバリアはおそらく聖王の魔力によって維持されている。聖王の力によって強化されている。聖王の鎧程は威力が無くても、純魔力撃では分が悪い。故に最善策はバリアそのものの突破ではないと判断する。そう、別にバリアを自分が破壊する必要はないのだ。それを改めて思いだし、

 

「だとしたら話は簡単ですね」

 

 ブラッドフレイムソードがバリアに弾かれ砕け散る。既にそれは想定内の話だったので興味はない。直後にやってくる敵の迎撃攻撃も無視し、

 

「ヴェスパーモード・ホワイト―――防御特化ですよ?」

 

 体で迎撃の攻撃を受け止める。が、その程度の質量兵器で体に傷ができるわけがなく、服装に汚れをつける事さえできない。故にそのまま自分の中で力を高めて行く。エグザミア・レプカ。無限結晶エグザミアの良くできたレプリカ。本物の様に永久的な無限魔力の供給など不可能だが、今日一日フルドライブしても余る程度の魔力供給だったら余裕だ。

 

「エグザミア・レプカ、出力上昇―――スピリットフレア出力上昇……!」

 

 スピリットフレア、魂の変換資質とも言えるスキル。魔力を通し、魂の色を炎に反映し、それを操るスキル。その出力は魔力と、そして自身の魂の強さによって大きく変わる。故にエグザミアから魔力を引き出した後は―――どれだけ強く”想える”かが問題だ。そして自覚している。自分の想いは、狂気は、愛はこんな物ではないと。

 

「さあさ、おいでなさい見てらっしゃい。これが圧倒的力って言葉の意味です。さあ―――落ちろ羽虫」

 

 魄翼を巨大な腕へとそれぞれの姿を変える。それこそそこらの廃墟を掴み、持ち上げられるほどの大きさに。ただそれでやるのは攻撃でも【防御】でもなく―――ゆりかごを掴む事だ。もちろんそれはバリアによって阻まれるが、膨大な魔力と魂の強度に任せて無理やり崩壊を抑え込み、そしてバリアそのものを掴む。

 

「だっ、らっしゃああ―――!!」

 

 バリアはそもそも相手の一部だ―――それを掴み、無理やりゆりかごを空から大地へと引き摺り下ろす。下へと下がってくるバリアに合わせるようにゆりかごの姿が下へと落ち、そしてゆりかごが

 目的を理解して上昇を図ろうとしても遅い。その頃にはゆりかごの位置は地上の近くまで落ちている。

 

『―――お疲れさん。あとはワンパンの問題さ』

 

 愛しい声が念話で響いてくる。腕を魄翼へと戻すのと同時に声が聞こえなくても、誰が何て言ったかは理解している。故に次の瞬間発生する出来事に対する驚きは一切ない。

 

 バリアが完全に消滅した。音もなく、静かに、まるで最初から存在していなかったかのように。

 

 そしてバリアが消えるのと同時に、桜色の閃光がゆりかごを横に貫通する。その数秒後にゆりかごに出来た穴は消え、そしてバリアも復活する。そして再びゆりかごはその船体を浮かび上げ始めるが―――目的は半分達した。ゆりかごの先端に見える人間的な、異形の姿へと両手にブラッドフレイムソードを握りしめながら睨む。

 

「さて、これで目的は半分達成。あとは宇宙へ逃げられない様に地上へ釘付けするだけですね」

 

 ま、と呟き、

 

「―――イストのハートを落とすよりは簡単ですね」

 

 凶器を振るった。




 スカさんは何時も楽しそうだなぁ……そしてハッチャケたティアナちゃん。尺ってやつが何もかも悪いんだ。

 次回辺りからそろそろ簡単な奴から決着付けて行きますよー

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