マテリアルズRebirth   作:てんぞー

205 / 210
グラデュアル・チェンジ

「さて、今度はエリオ達について話そうか」

 

 そう言ってフェイトは少しだけ車のスピードを緩める。前方へと視線を向けてみれば少しだけだが車が詰まっているように見える。軽い渋滞の様だ。今の時代、あまり渋滞らしきものは発生しないのだが、めずらしく先で渋滞が起きているらしい。そうなると徐々にスピードを落とす車はその車体が前の車に追いつくのと同時に止まるしかなくなり、そしてゆっくりと止まる。後ろからやってくる車と合わせて、徐々にだが車の列が出来上がっていく。

 

「とりあえずひとまず六課の目的は果たした―――からと言って私達の活動は終わりではないんだよね」

 

 それは、そうだろう。機動六課は対スカリエッティ用の部隊である、とはあらかじめ知っている。それは六課にいる間に聞いたことのある話だ。今では少し知識がついているのでもう少しだけ踏み入った話も知っている。確か聖王教会をバックに一年間という期間のみの間に設立された筈だ。そして一年という期間はまだ終わっておらず、今はその半ばであるはずだ―――このタイミングで部隊が設立された理由が解決してしまったのだから、意外と六課は困っている所なのではないだろうか。

 

「うん、まあ、本当の話は若干困っていたりもするんだけどね? でもほら、ロストロギアの回収部隊って名目だからできるお仕事はまだまだたくさんあるんだよ。まあ、それでも大義というか、一番の目的が果たされちゃったせいで皆色々と思うところはあるんだけどねー……まぁ、そんな事で皆は少しずつだけど自分の進むべき道を模索し始めているよ。一番悩んでいるのはエリオとキャロかな? スバルとティアナは決めてあるみたいだし、ギンガはもう働いているからね」

 

 そう言いながらフェイトが窓から首をだし、視線を渋滞の先へと向ける。うーん、と唸ってからフェイトは頭を車内へ戻し、そしてホロウィンドウでカーナビゲーションプログラムを始動させる。その様子を眺めてから視線を渋滞の先へと向ける。全く動く気配のない交通渋滞の先で、ここには何があったっけ、と軽く頭を悩ませると、フェイトがシートベルトを外し、そして車の扉を開ける。

 

「ごめんね、ちょっとこの先で事故が起きたみたいだから少し様子を見て来るよ。直ぐに戻ってくるから―――」

 

「あ、いえ、車に乗せてもらっているのは此方ですからどうかお構いなく。大人しく待っていますね」

 

「うん、本当にごめんね。あ、車のラジオは勝手に使ってていいから。バルディッシュ」

 

『Yes maam』

 

 バルディッシュを握りしめたフェイトはそのまま軽い跳躍と共に渋滞の先へと向かってゆく。その光景を眺めてから、軽く溜息をつく。モノレールよりも高速道路を通った方が圧倒的に速いのだが、今日ばかりは少し違ったらしい。まあ、たまにはこういうハプニングのある日もあるのだろう、そう思ってラジオに手を伸ばす。フェイトからは使用許可が出ているのでもちろんラジオをつける。こんな時にデバイスを所持していれば少しは楽なんだろうが―――真正古代ベルカ式の魔法や格闘技と、現代のデバイスは相性が悪いらしく、持たせられないのが現状。

 

 ……師父は権力とコネと借金でどうにかするって言ってましたけど。

 

 たぶんその前に―――。

 

『―――で、本日は解説にケイ先生とムーヴ先生をお呼びしました』

 

『宜しくお願いします』

 

「おや」

 

 ラジオのチャンネルを適当に弄っていると、聞いたことのある名前を耳にする。いや、知っているというべきなのだろう。ケイという人物であれば聖王教会の中央へと向かった時に何度か確認やらであった事がある気がする。アレは何だったか……確かそう、歴史に詳しい学者では無かっただろうか。自分の適性やら血やら、そういうのを調べる時に立ち会った人物だ。懐かしい気持ちが少しだけ湧いてくるが、特に知った人物ではない。ただ適当にチャンネルを回すよりは知っている人物の名前が出ている所を聞いた方がいい。一体何の番組なのだろうか。

 

『それでは本日は九月中旬に起きたJS事件、そしてそこで―――』

 

「あぁ、またですか。マスコミは飽きませんね」

 

 ラジオの内容が解ったのでさっさとチャンネルを変える。今度は聞いたことのある音楽が流れ始める。下手にニュースを聞いているよりは此方の方が遥かにマシだと思う。毎日毎日、同じ事に―――聖王やゆりかご、それに対して良くこんなにも論議を交わす事が出来ると呆れてしまう。ニュースをそこまで積極的に見ているわけではないが、それでも嫌になる程流れているので、もはやそこらへんの世間一般の反応や認識については良く知っている。

 

 聖王。古代ベルカにおける伝説、そして今も続く伝説と象徴。それが蘇った事に対しては少なくない波紋があった。話によれば武器を握る事の出来ない騎士まで出てきてしまう程に―――ただそれも話によれば戦っているうちに士気を取り戻して、”現場”にいた兵士や騎士たちはあの場で聖王、そしてゆりかごを殺害、撃破した事に対しては不満を持ってなかった。ただ、現場にいなかった一般人たちの反応は違う。

 

 曰く、説得は出来なかったのか。

 

 曰く、王に手をあげるとは何事か。

 

 命を賭けずに戦っている人間の意見の何と軽い事か。何て無責任な事か。そうやって好き勝手な言葉を言える人間は当事者ではないからそんな言葉を吐ける―――と、そんな風に思うのは自分が当事者だからなのだろう。いや、誰だって関わっていなくても言いたい事の一つや二つ、存在するだろう。ただある種の当事者としてはこれ以上ない綺麗な終わらせ方だったと、そう言いたい。

 

 聖王オリヴィエは永遠の死へと導かれ、そしてゆりかごはアルカンシェルによって葬られた。

 

 そこに歴史的価値が、だとか勿体ないとか言ってくる連中は一度でいいから現実見ておけ、と言いたい。まあ、そういう事は不可能なのでとりあえず戯言であるとして聞き流すしかない。強硬な連中に関しては管理局も聖王教会もどうにかしているらしいし。ただ今、自分が知っているのは、オリヴィエという存在は”殺された”という事実があるだけだ。そして盗み出された聖遺物も回収され、もう二度とそれがこんな形で悪用される事なんてない、という事実だ。此方としてはそれだけ理解していれば十分すぎる話だ。

 

 と、そこで車の外を見ると一瞬雷がスパークするのが見えた。どうやらただの事故ではなかったらしい。公務員はこういう時本当に大変そうだなぁ、と思いつつ軽くだけだが自分の首を傾ける。自分は将来、一体どういう道を進むのだろうか、という事に。

 

「―――お待たせ」

 

「あ、お帰りなさい」

 

 何時の間にか扉の外にはフェイトの姿があった。ほんの数秒前には離れた位置で電撃を放っていたような気がしたが、”閃光”の称号は違わぬ、という事なのだろう。こんな領域に立っていても勝てないような存在が聖王で―――それに勝利したのが自分の師父となると、非常に誇らしい話になる。

 

「ちょっとイザコザがあったからね、とりあえず片付けて現場にいた人に渡してサクっと終わらせてきちゃった」

 

「強いと楽ですね」

 

「うーん、そうでもないんだよねー……」

 

 車に戻ってきたフェイトはシートベルトを再び着用し、そして車の様子をチェックしてから前の車が動き始めるのを待つ。前の車が静かに動きめると、それについていくようにフェイトが車を動かし始める。先ほどまでフェイトが活動していたらしき場所へと視線を向けると、黒こげになってバインドに縛られる男たちの姿が見えた。

 

「一応私達魔導師って資格とか所属とか、そういう色々なしがらみがあってやっと魔法という力を使う許可を貰っているんだよね。だから強くなれば強くなるほど、”力”を保有する事に対する責任とか監視とか、そういうのもドンドン増えるから楽しい事ばかりじゃないよ? 私やなのははそれを証明する為に試験を受けたり、はやては特にそこらへん、凄い大変だから色々頑張ってるし……あ、これは関係のない話だったよね? あはは……」

 

 フェイトは苦笑すると、話を元に戻そうとする。

 

「うん、とりあえず簡単に言うと皆それぞれ方針とかを模索中、って感じかな。スバルは災害救助隊に、ギンガはそのままゲンヤさんの所で陸士隊として、って感じだね。ティアナは執務官志望なんだけど―――」

 

 そこでフェイトは軽くだが笑う。だがその笑い方はどこか疲れているかのような笑い方でもあった。もう少しコミカルにして見ればゲンナリ、という言葉が正しいかもしれない。

 

「ほら、ティアナってスカリエッティを捕まえたでしょ?」

 

「あ、はい。確かそういえばそうでしたね」

 

「だからね、上の方から色々とせっつかれて大変なの。どこでそんな人材隠してたんだ、とか。テレビに出せ、とか。取材に応じさせろー、とか」

 

「あー……」

 

 フェイトの言いたい事は解った。

 

 つまりティアナを民衆の目を向ける英雄に仕立て上げたいのだ。今回のこの事件、一番大きく報道されているのは聖王を撃破した師父の存在と、そして高町なのはだ。だがこの二人に関しては聖王もゆりかごも、賛否両論の話であって、利用するには少々難しい。だとすれば一時的に管理局への追及の目や疑いの目、そういうマスコミの矛先を向けさせるにはもっとクリーンで、若くて、そして使いやすい人間を出すべきだ。

 

 無傷でスカリエッティを確保したティアナ・ランスターはそう考えれば非常に使いやすい人材なのではなかろうか。兄が過去のスカリエッティの事件によって殺害され、管理局に入局し、そして最終的にスカリエッティを殺さず、傷つけずに捕縛する事が出来た。ドラマの主人公にできそうな内容だ。だとすればなるほど、大変なのも頷ける話だ。

 

 そう言って、理解を示す此方に対してフェイトは困ったような表情を浮かべる。そして軽く溜息を吐くと、車を走らせながらそのまま真直ぐとクラナガンへと走らせる。St.ヒルデからクラナガンは郊外とは言うが、そう遠くはない。高速道路に乗って三十分ほど。こんな風に渋滞にでも巻き込まれなければ早いものだ。

 

「まあ、ティアナは軽くスカリエッティ、って歯ぎしりしながら忙しそうにしてるけど庇える分は庇ってるから大丈夫だとして―――今の所問題はエリオとキャロ、かなぁ。あの二人はティアナやスバルとは違って明確に未来の事とかを考えて六課にいるわけじゃないから少し先の事が漠然としているんだよねー……そこが保護者としては不安だったりもするんだけど、この年齢から考えてくれている事に安心するべきなのかなぁ……」

 

 ふぅ、と溜息を吐き、フェイトは力を抜いたように見える。

 

「まあ、まだ早い時期だし何も考えてなくても仕方がないって言えば仕方がないんだけどね。六課の解散は四月、今月を入れればまだ六ヶ月近い時間もあるし、その間にゆっくりと探してもらえればいいんだけどね。個人的に言わせてもらうと対スカリエッティの事で今までかなり焦って来たと思うし……しばらくはゆっくりと進めようと」

 

「なるほど」

 

「あ、ごめんね。君の様な年齢の子には言うような内容じゃないよね」

 

「いえ、気にしないでください。少なくとも幼いのは外側だけで内面は診断された結果中学生並はあると判断されていますから、正直な話逃げてばかりのモンディアルさんやピンク色に脳細胞が染まっているルシエさんよりはもっと大人であるという自負はありますよ? 色んな意味でですが」

 

「そのセメントっぷりは一体誰から覚えてきたのかなぁ……」

 

 それはもちろん師父とその周りにいる人間からだ。自分の人生に置いて影響を与えられる人物はクラウスか、もしくは師父しかしない。家族も聖王教会も結局の所は自分の事をアインハルト・ストラトスとしては見ていないのだ。その理由は解らなくはない―――いや、解ってしまう。クラウス・G・S・イングヴァルトという男の記憶を”ほぼ完ぺきな形”で所持しているからこそ、彼らの思惑や願いなどは理解できる。故にこそ、嫌う事も憎悪する事も非常に面倒な事だができない。

 

 世の中知る事が増えるとドンドン面倒になって行く、とは一体誰の言葉だったのだろうか。確かにその言葉は正しい。知れば憎めることもあれば、知れば知る程憎めなくなってしまう事もある。立場と責任、それは何よりも堅い鎖で人間を縛り上げ、そして離さない。

 

 法という鎖は常に人間を縛り上げ、そしてそれに逆らった人間が捕まるのは必然の道理だ。

 

 スカリエッティ然り。

 

 ナンバーズ然り。

 

 アギト然り。

 

 ルーテシア然り。

 

 そして―――彼女達も、だ。




 大挙を成しても犯罪は犯罪です。罪が裁かれるときは来るのです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。