マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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ブック・ブックス・ブックド

「本当に大丈夫ですか?」

 

「あぁ、いえ、資質を見るだけなら割と適正ありますから。手を煩わせるわけにもいきませんし」

 

「いえいえ、対応も業務の一部ですから気にしないでいいですよ?」

 

「そう言って実は休もうとしていません?」

 

「あ、解りますか?」

 

 そう言って笑いあう二人の姿はまるで長年の友人の様に笑い合っている。おかしい。自分の予想ではそこのキチガイがユーノを徹底的に弄り倒す事だったはずなのに、瞬く間に友情すら感じさせる会話をこの二人は繰り広げている。本当に訳が解らない。何よりあのイストがユーノに対して物凄く丁寧なのが激しくありえない。普段からして”アレ”なのに、何故今に限って物凄く真面目で丁寧なのだ。解せない。

 

 だがそう思っている間に、ユーノと握手を交わしたイストはその手を離し、無限書庫を移動し始める。もう慣れたのか、魔法を使って本の検索を始めるのと同時にイストはどこかへと向かい、その姿は本棚に隠れて直ぐに見えなくなってしまう。迷いのない姿から、イストが自分の求めている本を理解しているのだろうと思う。

 

 ……そういえば適正は支援型魔導師タイプだったっけ。普通に戦うからあんまり気にしなかったなぁ。

 

 短いやり取りなのになぜか術式のコピーを貰っているし、何故かメール交換してたし、何故か世間話してたし。男同士の友情なのだろうか―――いや、確実に違う気がするけど、この際置いておこう。今はフリーになったユーノに話しかける。

 

「ユーノ君」

 

「や、なのは。その様子からすると元気そうで安心したよ。いきなりメールで”紹介したい人がいる”って言われたもんだからついになのはに春が来たのかと思って驚いちゃったけど、仕事の友達を紹介しに来たんだ。結構いい人だね、イストは」

 

 もう呼び捨てだし。それに評価も結構高い。これは一体どういう事なのだろうか。少し、動揺が隠せない。が、ユーノが返事をしない此方を心配している。まずは長年の友人を安心させる所から始めなくてはならない。

 

「あ、えーと」

 

 一旦言葉を置いて自分を落ち着かせて、そして言葉を再び口にする。

 

「こんにちわユーノ君。あとイストに対するそういう認識は全て捨てた方がいいよ?」

 

「うん? どういう事だいなのは? 僕が話した限り頼りになりそうな人だったけど」

 

 ……駄目だよユーノ君、彼に騙されちゃ……!

 

 教えなくてはならないユーノに、彼がどれだけ極悪非道の外道なのか。犯罪者をおもちゃにして遊ぶ極悪集団の問題児の一人であるという事を。一瞬本当に伝えていいのか迷うが、それでもユーノを守る事を優先して伝える事にする。何より短い付き合いだが、あの先輩に対しては一切の容赦はいらないって事が既に学べている。というか容赦してたら徹底的に弄られる。だからこそ、ユーノが被害者リストにアップされる前に何とかしてこの危険性を伝えないと駄目だ。

 

「ユーノ君、いい? あの人は外道・オブ・外道なんだよ? コーヒーを珍しく淹れてくれたと思ったら砂糖の代わりに塩を故意に入れてるし、交渉のときは寝たふりしてこっちに全部やらせるし、前テロリストのアジトを見つけたら出入り口封鎖して焼き討ちしたんだよ!? 身長とかの事も徹底的にネタされてるし! もう、本当に酷い人なんだからユーノ君気を付けなきゃ駄目だよ!?」

 

 身振り手振りでユーノにイストの危険性を伝える。これで少しでも人畜無害を絵にかいたような少年があの頭のおかしい先輩の餌食にならないようになれば自分としては嬉しい限りだが、ユーノの様子がおかしい。此方を見て、クスクスと笑っている。

 

「な、何がおかしいの?」

 

「うん? なのは、ずいぶんと遠慮してないんだなぁ、って」

 

 ユーノが微笑ましげな笑みを浮かべている。嫌な予感しかしないのでその笑みは止めてもらいたい。

 

「だってそうやって遠慮もなしに言えるって事はなのは、イストとは結構いい信頼関係が築けているって事だよね? 少なくともどうでもいい相手だったらそんな風に話したりできないし、僕が話している間に気づくよ。騙されているかはどうかとして、話してみる分にはちゃんとした大人の様だし、そこまで心配しなくてもいいと思うんだけど?」

 

 ……そういえばユーノ君、戦闘スタイルがバインドを中心としたトラップ系のエゲつない戦い方だった……!

 

 頭の中に浮かび上がった嫌な可能性を即座に振り払って、溜息を吐く。意外、とは言わないがユーノは結構頑固なのだ。こう、と思ったら中々その考えをユーノは変えてくれないのだ……非常に厄介なことながら。そのせいで色々と誤解を解く事に昔苦労したりもしたのだ。今回もそのケースの一つになるかもしれない。何せ、既にユーノの中ではイストは”良い大人”なんて認識が出来上がっている。

 

 おのれイスト・バサラ。どこまでも私に挑戦するの……!

 

 あの外道、何時かバインドから砲撃食らわせて泣かせてやると、次に何か模擬戦をするとして、その時に泣かす事を誓う。もはやアレは自分の天敵とかそういうのを超えた部類の存在だ。たぶん自分をおちょくるその為だけに管理局に在籍している悪魔とかそんな類の生物だ。

 

 ユーノ君は私が守らなきゃ……!

 

 そんな私の内なる葛藤を知るすべもなく、ユーノは笑みを浮かべる。

 

「なのはが楽しくやっているようで本当に安心したよ、ははは―――元気になる暇もないからねこっちは」

 

「ユーノ君……!」

 

 無限書庫のブラック体制は今に始まった事ではないが、ユーノが抜けるだけで効率が十数パーセントも落ちるらしく、そしてそれを知ったからには抜けられないのが責任感の強いユーノだ。十分に話し合って元気になった、とユーノは今にも消えそうな儚い笑みを浮かべると、ホロウィンドウを出現させ、それを此方へと向けて持ち上げる。

 

「僕はそろそろ戻らなきゃチームの皆が死んじゃうから戻るけど、なのはも何か本を探すなら気を付けてね? 一応迷わない様に開拓したエリアにはマーカーとかを設置しているし、全域転移魔法の使用許可を出しておくから」

 

 そう言って去る前に、ふと気になった事をユーノに尋ねる事に決める。そういえばここへはユーノの紹介ではなく、無限書庫へのアクセスの為にユーノを紹介したのだった。つまりイストは本を求めてここへ来ているのだろうが、その内容に関しては一切聞いていなかった。現在特に何か特別な案件を持っているわけでもないし、というよりも終わらせたばかりだ。だから個人的に求める情報を、無限書庫を閲覧してまで手に入れようとするものを、それが気になる。

 

「ユーノ君、イストは一体何を求めたの?」

 

「うん? 少しだけ珍しいものだけど、探すのはそんな難しいものじゃないよ」

 

 そう言い、ユーノは振り返りながら答える。

 

「―――古式ベルカの格闘術、特に覇王流(カイザーアーツ)とエレミア、っていうのを中心だったかな」

 

 

                           ◆

 

 

「覇王流とエレミア……」

 

 どっちも聞いたことのない単語だった。ユーノが去った無限書庫の入り口付近、制服姿でふよふよと無重力空間を浮かび上がりながら先ほどの言葉を飲み込む。ユーノの言葉によると、どちらも格闘術らしい、それもベルカの。たしか……イストの出身はベルカのはずだ。ともなれば、自分の強化の為に資料を漁っている? 前に師は小さい頃亡くなったと聞いている。そしてその為、武技に関してはほぼ独学で今の領域まで上げてきたのだとも言っていた。ともなれば、これもまたその一環なのだろうか?

 

 ……うん?

 

 それにしては少しやり過ぎではないのか、という思考が生まれる。確かに力を求める事に関しては貪欲であるべきだ。それが立場上、必要な事でもあると理解している。イストのシューティングアーツもストライクアーツもどちらも見事な領域で、自分が知っている格闘ファイターはザフィーラだけだが、彼と比べてほぼ変わらないレベルだと思った。それは自分が砲撃戦魔導師ゆえの判断かもしれないが、かなりのレベルであることは解る。だが、それでも何か違う、という気がする。

 

 うーん……解らないなぁ。

 

 ただ何かの目的があって求めているのに違いはない。それが個人的なものか、仕事で必要なものかは今の所は良く解らないが、とりあえず手持無沙汰になるよりは、手伝った方がまだいいだろうと判断する。ここ最近は外道先輩に振り回されてばかりだなぁ、と軽く溜息をつきながら胸元のレイジングハートを握る。

 

「レイジングハート、検索をお願い」

 

『Search start』(検索開始)

 

 ふよふよと浮かびながらレイジングハートに検索を任せると、レイジングハートが開拓終了した無限書庫のマップを出現させ、そして探している覇王流、エレミア関連の本の位置をマップ内にマーカーとして出現させる。複数の場所に散らばる様に置いてある本はまだ未整理であることを証明しているのだろう。そのうち一つはイストが向かった方向だ。だったら自分は別方向へと向かおうと思い、そちらへと向かって進み始める。

 

 無限書庫の中身はむちゃくちゃだ。

 

 まるで空間や距離、そんな概念が通じない様に広がり、狭まり、分かれ、そして続いている。その全てが本棚で埋め尽くされ、そしてそれが本で埋められている。ユーノが”探せば何でも見つかる”という言葉を疑う事は、この光景を見た後では絶対にできないと思う。そしてそれは他の人間でも同じ事だろう。

 

 ほんの回廊を抜けながら迷わない様に自分の通った位置を記憶し、レイジングハートに記録させ、ゆっくりと進んで行く。何時来てもここはまるで別世界の様に不思議だな、と感想を抱きながら進んでいると、そう時間をかけずに目的地へと到着する。

 

 目的の本が置いてあるはずの本棚を調べる。本棚いっぱいに詰まっている本を一冊一冊確認してゆくのは面倒な作業だが、新鮮な発見もあって中々楽しい―――それが完全に仕事でなければ。ユーノの無限書庫での修羅っぷりは凄まじいと改めて思う。自分なら三日ほどで音を上げてダウンしてしまうに違いない。

 

「……うん? あれ?」

 

 置いてあるはずの本棚を確認するが、目的の本が置いてない。レイジングハートを使ってデータリンクを確認するが、無限書庫のデータベースとリンクしているのは確実で、使っているデータも最新のものだ。イストがこっち側に来ていない事は自分が知っているし、となれば。

 

「誰かが勝手に動かしちゃったのかな?」

 

 となるとそこまで困ったものではない……が、面倒な話になってくる。なにせ、

 

 ―――ユーノ君の就寝時間がまた削れるの。

 

 ユーノ、おぉ、ユーノ・スクライア。ほんとごめんなさい。君がここで働き始めたのは間違いなく闇の書の事件でここへ送った私達が原因だから、本当にごめんなさい。だけど後悔はない。

 

「仕方がないかな? 次のを探そっか」

 

 そして場所を変えようとしてレイジングハートに新たな場所を検索させようとし―――

 

「―――お探しの本はこれですか?」

 

「え?」

 

 振り返れば、そこには一人の女性がいた。緑髪、ロングスカートにブラウス、そしてカーディガンと若干古風な格好だが、非常にその姿が似合う女性だった。優しそうな表情を浮かべ、特徴的なのはその目だ。紺と青のオッドアイ。とてもだが普通の特徴ではない。そしてその女性が手に握っている本が自分の探していた本である事に気づき、急いで頭を下げる。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「いえいえ、すみません。本当は私の方から渡そうかと思っていたのですが、片思いの身としては少々出にくい所がありまして、こうやって一緒に頑張ってくれる方がいると助かります」

 

 今の発言を解釈すると、この人はイストの知り合いという事になるが、片思いという発言に少々引っかかる。片思いというとアレしかない、というか恋愛感情を表す言葉ではないのだろうか? 女性から本を受けとりながらあの、と声をかける。

 

「えーと、イストの……知り合いですか?」

 

 えぇ、と女性は答える。

 

「かなり激しく求めあった仲なんですが、間女に最後の思いを伝える所で邪魔されてしまいまして、想いを伝える事無く未だに片思いを続けているんです」

 

「そ、それは……!」

 

 かぁ、と顔が赤くなってゆく。

 

 ……お、男と女でも、求めるってそういう事だよねフェイトちゃん!? 激しくってそういう事だよね!? だ、誰か教えて、レイジングハートは答えてくれないの……!

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、は、はい! だ、大丈夫です!」

 

 実は大丈夫じゃない。少し熱暴走気味だ。だから思考領域をマルチタスクで分割する。思考を四分の一に分け、そのうち一つだけに今の発想やピンク色の妄想を押し付ける。そうすれば残り三つの思考領域はクリアなままだ―――これでだいぶ落ち着く事が出来る。これは、マルチタスクを利用した自分を落ち着ける方法だと空隊に所属してから習った小技だ。

 

「えーと、そういうわけでして恥ずかしさが先立つものもありまして、出来たらこれらをあの方へ渡してくだされば嬉しいのですが?」

 

「あ、はい。お任せください」

 

 受け取った本を胸に抱いて頷く。それで、と緑髪の女性は続ける。

 

「近いうちに別の方が”逢瀬”の為の招待を送るかもしれません、と伝えてくれませんか? 非常に恥ずかしい話ですが、あの―――」

 

「―――いえ、お任せください! いや、本当に私にお任せください! 絶対に伝えますから!」

 

 こんないい女性に好いてもらっているとはイストも中々やるではないか、と思うのと、そして彼女のこの思いに対して彼は正面から向き合って貰わなきゃいけないという思いがここにはある。邪魔されて恥ずかしがっているのは仕方がないから、自分はとりあえずこの恋を応援しなくては。

 

 あ、そうだ。

 

「えっと、すいません!」

 

 緑髪の女性が首をかしげる。彼女に聞かなきゃいけない事がある。

 

「あの、お名前はなんですか」

 

「……あぁ、そういえば忘れていましたね。失念しました」

 

 そう言って、彼女は名乗った。

 

「―――イング、イングとお呼びください。捻りの欠片もありませんが、それがおそらく過去を払拭し、今を女人として生きる私の名なのでしょう。では、よろしくお願いします」

 

 そう言って、彼女は笑みを浮かべてから頭を下げ、無限書庫の奥へと向かって姿を消していった。彼女の姿を見送ってから、此方も次の本を探すための動きを始める。少しだけ面倒臭かったこの作業も、少しはイストへ反撃する為の材料になるなら、悪くはないのかもしれない。

 

 

                           ◆

 

 

「―――復讐に身を焦がす貴方との逢瀬を楽しみにしていますイスト。おそらく、それこそが私の生まれた唯一の意味でしょうから。故に、私は貴方と私自身の終焉を求めます―――負けず、殺しに来てください。それがおそらく、互いの為の幸いでしょう」




 露骨な正ヒロイン臭。だがヒロインは殺す。ヒロインは死んでからが本番だ。ユーノきゅん可愛い。それにしても段々となのはさんが活き活きし始めてきてるなぁ、と。ユーノきゅん可愛い。さて、もう少しだけなのは視点におつきあいください。

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