マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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 いやぁ、いい仕事した


ナイト・バイ・ナイト

 外が暗くなるころには夕食は出来上がっていた。はやてのクローン―――いや、これは失礼な考え方だ。ディアーチェが昼から煮込んで作っていたらしく、ダイニングテーブルの上には大きな鍋と、そしてお皿にサラダが置かれており、そしてもう一つ、輪切りにしたフランスパンの様なパンが置かれている。鍋の中身はシチューであり、その色は赤に近い。どうやらパンをちぎり、それをシチューに付けて食べる料理らしいが、故郷で言うイタリア料理に近いものを感じる。確か向こうにはこんな感じの料理があったと思う。ただパンをちぎり、そしてそれをシチューにつけて食べてみると、味は初めて感じるものだった。まずは辛みが口の中を襲い、その後からスープの味の濃さがやってくる。たしかにそのまま飲むのであれば味が濃すぎるだろうが、こうやってパンをつけて食べるのであれば丁度いい味だと思う。これは、

 

「美味しい」

 

「そう言われるのは幸いであるな。おかわりは存分にある。遠慮せずに食うがいい。何せ大皿や小皿料理だとそこの阿呆共が互いの皿を狙って目を光らせておるからな。こうやってゆっくり飯を食えるのはこういうレシピぐらいだ。こやつらには毎回毎回献立に苦労させられるわ」

 

 そう言うとピースサインを向けてくるシュテルとレヴィがいるので主犯はあの二人なんだろうなぁ、と思っているとピースサインを浮かべているイストがいた。自分の仕事のパートナーが子供と張り合って皿の上の物を争奪しているとか激しく死にたいが、ここは我慢しなくてはならない。とりあえず料理は美味しい。今はそれでいいんじゃないだろうか。

 

 それにしても、

 

「ディアーチェは料理上手なんだね」

 

「我に不得手はないぞ。基本的に戦闘の適性を抜けば何でもできるぞ。我は王故な、万人の苦悩や苦労を理解せぬばらなぬ。故に人ができる事は全て人並みにできる様になっている―――まぁ、こうやって料理をしているのはただ性にあうからだがな。養ってもらうだけの穀潰しにはなりたくないからな、基本的に我は家事だったら何でもするぞ」

 

 王様と名乗っていたのでてっきりプライドが高いタイプだと思っていたのが結構違っているらしい。

 

「というかコイツはかなり家庭的だぞ」

 

「王は服を作ったりするのが趣味ですからね」

 

「私達が着ている服も基本的にディアーチェが縫ったものですよ?」

 

「え?」

 

 ユーリに言われてきている服装を確認するが、それがディアーチェのお手製だと聞かされて驚く。ちゃんとデザインがあったり、縫い目も綺麗だし、到底素人の作品には思えない。どれもお店に出ていそうなほどのクオリティのものだ。普通に着ているので全くそこらへんには気づかなかった。

 

「ディアーチェは凄いんだね、そういう才能が羨ましいよ」

 

「その賛辞は嬉しいが、そう誇るものでもなかろう。結局は”そうあれ”とデザインされた故に手にした性能である事実は否定できぬ。だからこそ我は我の知識にないものや手にしていない技術への研磨を忘れぬし、そして己に出来ぬ事が出来るものへの敬意も忘れはせぬ。貴様もそうであろう? 自分には出来ぬからこそ凄いと思い、そしてそれを称賛する。貴様が我の家事への能力を褒める様に、我は貴様のそのポリシーを褒めよう―――なんでも全魔法砲撃術式で戦うつもりとか」

 

「そんなことないよぉ―――!?」

 

 明らかに悪質なデマだ。そして確実にそんなデマを広めた主犯であるイストは笑顔でパンを食っている。今すぐショートバスターを叩き込みたいが、それは明日まで我慢して、出勤の時に出合い頭に一発叩き込む事にする。それを果たす為に今は怒りの砲撃ゲージをためておくことにする。

 

「でもお前砲撃で敵を叩き斬るとかやってるじゃん。あと天から降り注ぐ砲撃とか。そのうちプロテクションに攻撃当てたらオートカウンターで砲撃が叩き込まれるとか―――」

 

「な、ないよ! そんなのないよ!」

 

 頭の中で汲み上げていた新術式のアイデアが目の前にいる男によってバレた。自分の持っている適性内で出来る事をやろうとしているだけなのに、何故こうもこの男は此方を的確に言葉で殺そうとしてくるのだろうか。

 

「しかしそのうち目からビーム出しそうですね」

 

「なんで私化け物扱いされているの!? 確かに私強いかもしれないけどイストも結構大概だよ! 前フェイトちゃんに話を出したらリアルゾンビって苦笑されながら言われてたよ!」

 

「その喧嘩買った」

 

「まあ、まあ、お兄さんじゃどう足掻いても勝てないから。勝てない喧嘩はむやみやたら買っちゃ駄目だよ」

 

 レヴィにそう言われて一瞬でイストが椅子の中へ轟沈する。19、20になりそうな男性が14歳の少女に絶対無理だって断言されてしまえば確かにそうもなる。男という生き物はどんな風におちゃらけて見えていても、その内心女には負けたくないという心が常に備わっているもんだと思っている―――だから、こうやって断言されてしまうのは結構辛いだろうなぁ、と思っていると、

 

「まぁ、何時もの事だしなぁ」

 

 敗北感を感じているのは何時もの事らしい。よくもそれで生活を続けていられるなぁ、とは思うが―――この遠慮のいらない距離感がきっと、彼らの家族としての距離なのだと思う。やる事も、話す事も、その全てに遠慮がない。相手を考えての行動が存在しない。やりたい事をやって、そして笑いあえる。……少し、というか結構羨ましいものがある。彼女たちが彼と一緒に暮らし始めたのはまだ1年前の話だ。そして1年という期間はそう長いものではない―――寧ろ短い方だ。そんな短い時間でこれだけ遠慮のない信頼関係を築けているのだから凄い。

 

 そんな事を考え、羨ましく思いながらも夕食を食べ進め、そして軽く思い出す事があった。

 

「そういえば、はやてちゃんも料理上手だったなぁ」

 

「そうなのか?」

 

 そうは見えないけどなぁ、とイストが呟くが、

 

「元々はやてちゃん一人暮らしだったから家事とか全部一人でできるんだよ? ヴォルケンの皆が来てからはシャマルにまかせっきりだったりして自分から働く回数少なくなったし、ミッドにいる間はめっきり料理する回数も減ってるからなぁ、……昔ほど上手かどうかはちょっと解らないかな」

 

「ほう、やつがなぁ。ふむ、一度は会って勝負してみたいものだが―――」

 

「―――悪いな、お前の事を話せる奴は厳選してるんだ」

 

「ふ、それぐらい解っておるわ」

 

 やはり、こうやって笑いあえる関係はいいなぁ、と思う。と、イストが此方へと視線を向けてくる。

 

「というかお前バラしてないよな?」

 

「もちろんバラしてないよ。私だってむやみにかかわる人が増えるのはいけないって解ってるし。これ、一応管理局側に指名手配されて敵として認識されているけど、実際は凄く面倒な事になっているんだよね?」

 

 そうだ、とイストは答えるとですね、とシュテルが言葉を引き継いでくれる。

 

「何より面倒なのが私達の存在が管理局と犯罪者の癒着を証明する証拠だという事です。既に管理局に対して私達の存在がバレているのは前回の事件で既に把握済みですね? その件で管理局と敵であるジェイル・スカリエッティが管理局に対して敵対した事も解りました―――ハイ、ここで問題です。となると元々は管理局への成果報告用に生み出された我々の処遇はどうなりますか? あ、ちなみに成果報告用というのは今までの証拠に基づいた憶測です」

 

 シュテルの言葉を全部飲み込んで、そして吟味してから口を開く。この場合は、

 

「えーと……どうでもいい?」

 

「正解です」

 

 そう言ってシュテルは空っぽになったボウルや皿を少しどけて、腕を組むスペースを作る。

 

「正確に言えば”構う価値がない”というのが正しい状況です。たしかに私達はスカリエッティの研究であり、そしてその成果の一端でもあります。ですが様子を見るに管理局側は十分な成果を報告されたからこそスカリエッティの切り捨てを行ったのでしょう―――つまり現状の私達は関わりさえしなければどうでもいいというポジションになります」

 

 ですが、とここにシュテルは付け加える。

 

「この話を若干ややこしくするのが私達の存在が公になってきた場合です。私達は間違いなく管理局の暗部が生み出したものに違いはないのです―――つまり生きているだけで管理局を傷つける証拠となります。これが日常生活を送り、普通に暮らすのであればいいでしょう。ですが関わる人が増えればどうなるのでしょうか? それは暗部を直視する人が増えるという事になります。まぁ、ここまでくれば後は説明する必要もないでしょう。大体想像の通りに無駄な目撃者をどうにかしなきゃいけなくなってくる、という話です」

 

 まあ―――大体は想像の通りだった。予めフェイトの母親、リンディから空隊に入隊する時に色々と注意は受けていたのだ。管理局は決して綺麗な場所ではないと。そして最近、スカリエッティ研究所の件があってから再び逢いに行って―――色々教わった。そこにはもちろんイストやマテリアルズの話はしなかったが、彼女も立派なベテランだ。どれだけ察せられたのだろうか。

 

「まあ、そんなわけで私達がやるべき事はシンプルに―――味方をこれ以上作らない事です。管理局が此方を害悪として判断しないラインが具体的に把握できていない所で無駄に味方を増やすと此方に対する脅威を増やしてしまい、そして逆にスカリエッティのターゲットを増やしてしまう可能性が高いです。今までの話を聞いた以上、身内や知り合いを利用して相手の我欲を測る事を好むフシがあの狂人にはありそうなので」

 

「と、我が家の参謀は仰っている」

 

 この男、考える作業を全部シュテルへと投げたらしい。そこで視線を黙っているユーリとレヴィへと向けると、二人は食べ終わって満足そうな表情を見せ、

 

「あ、僕たち脳筋担当だから」

 

「特技は魔導師を串刺しにする事です」

 

 レヴィとユーリがドヤ顔を決めながらそんな事を言っている、それでいいのか、と視線を家主へと向けると、家主は神妙な表情で頷く。

 

「あの二人というかユーリが働きはじめたら我が家は滅ぶ目前だと思ってくれ」

 

「最終兵器かなんかですかアレ」

 

「あながち間違っていない……」

 

「我が家の秘密にしたかった最終兵器……」

 

「脱げば脱ぐほど早くなるロリ痴女……」

 

「アレ、てっきりユーリの方かと思ったんだけどもしかしてここで攻撃食らってるの僕なの? あとそこらへんの痴女疑惑に関しては僕じゃなくてオリジナルに言ってよ。僕は一応これが恥ずかしい格好だって認識しているから。真顔で使っているオリジナルの方に問題があるんだよ。ネットで調べたけどオリジナルの評判って―――」

 

 それだけは言ってはいけない。皆でレヴィの口を塞ぎにかかる

 

 

                           ◆

 

 

 夕食が終われば大体の話が終わり、冷蔵庫の中にしまってあったシャーベットがデザートとして振舞われる。帰りはタクシーを呼んでおくという言葉に甘えて、ソファの上で体を丸まらせるようにしてテレビを見る。シャーベットのカップを片手に握り、もう片手でスプーンを握って、そして横にはシュテルが座っている。結構、というかかなり不思議な気分だ。こうやって自分に良く似た誰かがすぐ横に存在する事は。戦う事があれば―――こうやって、何でもない時間を一緒に過ごす事だってできるのだ。

 

「お、今のいいパンチ決まったね」

 

「だなぁ、ダメージでかいぞ」

 

「私ならノーダメでしたね」

 

「最終兵器は座ってろ」

 

 コメントを飛ばしながら見ているのはテレビ、最強の十代を決める為のDSAA公式魔法戦競技大会―――インターミドル・チャンピオンシップだ。出場にはCLASS3以上のデバイスの所持が必要とされているらしいが、テレビに映る出場者達の実力は高性能なデバイスの働きを感じさせない程に高かった。見ているだけでも結構参考になる部分はある。

 

「俺も昔、出場したことあるんだよなぁ」

 

「そうなの?」

 

 うむ、と答えながらイストはスプーンを噛んだままテレビを眺めている。

 

「16? 17歳ごろだったかなぁ、いい感じだったからちょっくらチャンピオン奪いに行くぜ、って感じに挑戦したんだけど結局は未熟なおかげもあって優勝は出来なかったんだよな。一応ベスト4まではいけたんだけどなぁ」

 

 意外と凄い経歴に驚く。という事は探せばビデオにでも残っているのではないだろうか―――若干気になる。

 

「ただそれ以上はな? Sランク魔導師とかさらっと混じっているから怖かった。今までの相手が同レベルだから勝てたけどそれ以上は無理。もう二度と参加しないって決めたね。あ、でもお前も参加考えておいたらどうだ? 上位にいければ経歴としてはかなりの箔がつくぞ―――俺も半分はそれ目的だったし」

 

「うーん、考えておく」

 

 今更だが、段々と経歴とか箔とか、そういう事を気にしない自分がいる。やはり、今を気に入っているのだろうか。

 

 ともあれ、

 

 シャーベットを食べ終わるまではゆっくりしていようと決める。別段何も、焦る必要はないのだ。

 

 

                           ◆

 

 

 ―――ベッドに寝転がりながら携帯端末を胸に抱く。

 

 胸の鼓動が早く感じているのは間違いなく興奮か、もしくは緊張からだろう。

 

 ただ現実として、ある事実だけは絶対に否定できない事がある。

 

 携帯端末を再び起動させ、そしてその中にあるメールプログラムを起動させる。そして、その中にある”大切なもの”フォルダを開き、ついさっき、届いたばかりのメールの内容を確認する。そのメールアドレスは間違いがない。そのアドレスを見間違える自分ではない。だからきっと、このメールの内容も間違ってはいない筈。何故なら、そこには写真が添付されているのだ。

 

『―――心配をかけてごめん、今すぐ逢いに行きたいけどもう少しだけ我慢してくれ、あと少しで逢えるから。少し面倒な事があって話せないけど、これは秘密にしてほしいんだ』

 

 ―――ティーダ・ランスターより。

 

 兄は、生きていた。

 

 その事実にティアナは困惑と、そして、何よりも喜びを感じていた。




 絶望というものには鮮度があります。毎回同じ殺し方や絶望の仕方ではどうしても飽きがきてしまうものです。それは希望もまた同じです。ですから作者という生き物は常に頭を捻って新しい展開を考えるのです。前とは違う発想を、前とは違う方法を
前とは違う絶望を。

 なのでテンプレを使うのは考えを放棄する事だと思っている。

 じゃ、地雷の設置は完了したので満足満足。

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