マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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 なんでもない回。


インビトウィーン

 一日の騒動が終わると時間は既に9時を過ぎて夜は暗くなっている。流石にこの時間となると家に帰って食べるには少々遅すぎる時間だ。ともなれば外で食って済ませるしかない。家で食べるご飯は結構、というかかなりの楽しみなので勿体ないが、それでもユーリがまとめた料理屋情報にはこういう時いける店の名前もリストに入っている。本当にクラナガンの行きたい所を隅々までリストアップしたんだなぁ、と思いつつ、小さな相棒と一緒に仕事の終わりに夕食を共にするのは―――屋台だった。

 

「ミッドにもあるんだ……ラーメン」

 

 そう言って屋台の前に並べられているスツールの一つに座り、なのは目の前に置いてあるラーメンと対峙しながらそんな事を呟く。そりゃああるだろ、となのはに答える。何せミッドチルダは次元世界で現在もっとも発達し、そして進んでいる世界だ。その発展の理由は異文化を受け入れる所にある。話題になった世界や新しい世界、そこに存在する技術や文化を恐れる事無く受け入れ、そして使用する事にある。―――まぁ、それだけではないのだが。

 

 そんなわけで、

 

「お前やはやてちゃんの出身世界って事で地球はここ数年大人気だからな。ツアー企画とかもあるし、地球文化はドンドンミッドへと流れ込んできているらしいぞ。ちょっと興味出たんで調べてみたら今は建築様式が凄い人気らしいな。地球の日本風ハウジング。二階とかが無くて横に広い感じの。あー、なんだっけ……”ブケヤシキ”? そんな感じのが割と人気なんだよ。確かレトロ感がどーのこーのって話で」

 

「うわぁ、予想外に人気だったんだ。今度もうちょっとよく調べてみようかなぁ」

 

「調べればいいんじゃないか? こういう店も間違いなくお前の影響で増えているんだろうし」

 

 ゲンヤの紹介でラーメンは既に食べた事があるので、問題はない。まだあまり使い慣れない箸を割って、それを掴み、そして麺を持ち上げて口に運ぶ。スープに絡まった麺をトッピングの野菜共々食べる。確か”ソーユ”というソースだったか、結構おいしいものだ、と思う。またベルカスタイルとは違う味付けだ。こういう調味料をディアーチェの為に買って帰った方がいいのだろうか。もう既にレシピ研究とかやってそうだし。

 

「どうしたの唸って?」

 

「いやぁ、こういう調味料買って帰ったらディアーチェ喜ぶかなぁ、って―――あぁ、レヴィ辺りはメシが増えるって喜ぶけどな」

 

「なんというか、レヴィちゃんだけ物凄く残念臭がする。ユーリちゃんも割と負けてない気がするけど」

 

 あっちは残念というよりはもっと違う感じだと思う。ともあれ、今度の休みにマーケットの方へ色々と買い物しに行ってみるか、と考えておく。たまには餌を与えておかないと可哀想だし。まあ、あくまで覚えておいたらの、話だ。忘れてたらしゃーないという事で、餌はなしになる。ともあれ、我が家の面子が濃いのは理解している。だがそれが我が家でのスタンダードだ。最近ではそれ以下の人間を見てもキャラ薄いとしか思えない辺り割と脳をやられている感じがする。

 

「まあ、ウチの連中は基本濃いからな。お前の周りはどうなんだよ」

 

 麺を啜りながら質問するとうーん、となのはが短く唸り、そしてどうなんだろう、と声を漏らす。

 

「友人として見ると結構みんな普通だと思う。そこまで個性的じゃないかなぁ、何て」

 

「客観的に見ると?」

 

「フェイトちゃん脱ぎすぎ。はやてちゃん過剰戦力保有。シグナムブレードハッピー過ぎ」

 

「お前らの友人はこうも逞しくなった高町なのはを見て一体どう思うのだろう」

 

 はやては割と面白がるだろうが、他の連中に関しては面識がないのでわからない。多分、悲しむか心配するのが割と多い気がする―――常人なら。シュテルは結構なのはを認めていた感じもするし、キチガイや奇人からすれば今のなのはは割と接しやすい所ではある。まぁ、所詮は戯言なのだ、別段興味ある訳じゃない。ただ円滑にコミュニケーションをする為に話題の一つだ。それよりも今重要なのは今朝の事件だ。

 

 ラーメンを食べながらもホロウィンドウで今日一日の捜査で手に入れた情報を浮かべる。

 

「俺、毎回思うんだけどこれって絶対に捜査官の仕事だよなぁ」

 

「文句でお給料ははいらないよ」

 

 知ってる。だからこうやって違うと思いつつもやっているのだ。

 

 ホロウィンドウには被害者の写真や状況をまとめた情報が載っている。メシを食いながら死体を見る、というのも既に大分慣れてしまった事だ。なのはも早くも慣れてしまったようで、此方が浮かべるホロウィンドウをラーメンを食べながら覗き込んでくる。……数ヶ月前までだったら確実に吐いていたであろう光景を普通に見れるようになる辺り、子供の成長は凄まじいと思う。たぶん、今よりも更に強くなるんだろうなぁ、とどこか将来を確信しつつ、

 

「ガイシャは陸士で陸戦AAAに空戦Dの典型的陸戦タイプ魔導師、得物は斧型のCLASS3デバイス。結構な実力者って事だが、空戦魔導師からすりゃあ間違いなくカモだな。空から砲撃連射してるだけで勝てる相手だ」

 

「でも、相手は空戦じゃなかった」

 

「その通り」

 

 なのはの言葉に頷く。なぜなら被害者の周りで発見できる戦闘痕というものがそれを物語っている。偽装工作が施されるほど死体は時間が経過していなかったし、まずそれは間違いない。なぜなら周りにあった戦闘による周辺への被害は斬撃だけだったからだ。だがそれも既にデバイスの方から繰り出されたものだと傷痕を調べれば容易にわかる。デバイスのコアが破壊されていたために犯人に関する情報は一つも入らなかったが、敵は間違いなく被害者を一撃で仕留めたのだ。

 

 それもかなり特殊な方法で。

 

「死因は心臓の破裂……だったっけ」

 

「そう、そしてそれ以外の外傷はなし。心臓へと一撃を叩き込んで、それで戦闘を終了させている。一応攻撃手段に関する候補は色々とあるぞ?」

 

「それってアレでしょ? 格闘型魔導師云々ってやつ」

 

「そうそう。格闘技の奥義の中には衝撃を通して、望んだ位置で爆破させるなんて奥義もあるからな。仏さんに外傷がないって事はレベルの高いってかかなりの腕利きが心臓に直接衝撃を叩き込んで破裂させたんじゃないかと思っている。まぁ、俺の予測だけどな?」

 

「それ、イストはできるの?」

 

 できるか、という問いに答える。

 

 もちろん、と。

 

「ただ同じ技術の使い手が相手になるとその衝撃をそのまま体の外側へと逃がす手段とかを用意しているから、同じ格闘家か武術家相手にはまず通じない手段なんだよ。心臓破裂させるよりも殴って肉を抉ったりした方が確実にダメージ残せるんだよ。あぁ、でも殴った衝撃で心臓を止められたりするのは対処しづらいな。防御する以外に対処法はないし―――まぁ、止められた後で心臓また動かせばいいんだけどさ」

 

 まあ、心臓だけを狙って破裂させる程の使い手となると本当に数が限られている。その考え自体がミスリードかもしれないが、心臓を止められたことだったら一度だけある。そしてその人物であれば間違いなく心臓だけを破裂させるなんてことも容易い。その行動に意味は解らないが、個人的には彼女が関与しているのではないかと無駄に疑ってしまうところがある―――こういう憶測で話を決めてはいけない、という事は十分理解しているのだが。

 

「それができるっていうんだから本当にゾンビ判定だよね、イスト」

 

「お、俺だって好きでこんなスタイルじゃないやい! 騎士になりたかった純朴な少年が適性に嫌われたせいでゾンビとかタンクとかメイン肉壁とかって評価されるようになったのは絶対俺が悪いんじゃないやい。大体なんだよ。この白い魔王は”不屈のエース・オブ・エース”なんてクッソかっこいい評価貰っているのに何で俺は”ゾンビ”扱いなんだよ。まだ墓場へ行ったことはないっつーの」

 

「でも病院の常連だよね」

 

 そう言われると顔を隠して押さえる事しかできない。もうあの消毒液臭い空間には戻りたくはない。だがここ一年、確実にオーバーワークといえる戦闘を行っているせいでちょくちょく行くこともあって、受付に顔を覚えられたりもした。もう”またこいつ怪我したのか可哀想に”みたいな視線で見られるのは本当に勘弁してほしい。

 

「あー、ミッドはもっと平和にならねぇかなぁ……犯罪者血祭りにあげてぇ。法律で犯罪者は広場で処刑とか生まれないかな」

 

「それ、どこの16世紀フランス」

 

「フランス?」

 

「あぁ、うん。ごめん。故郷の話」

 

 改めて地球って怖い世界だなぁ、と再認識しつつラーメンを食べる。時間をかけすぎると麺がスープを吸ってしまい、スープがなくなってしまうのがこの食べ物の唯一の弱点だと思う。

 

「うーん、私ミッドチルダは次元世界の中心だしもっと平和な場所だと思ってたんだけどなぁ」

 

「実際世界で一番安全な場所だな。犯罪は適度にコントロールされているし―――あ、おっちゃん、卵と替え玉追加で」

 

「あいよ」

 

 スープ以外の中身を総べて食べ終わり、それでも十分な満腹感を得られないので替え玉を注文する。どうやらなのはは小食らしく、まだ半分程度しか食べ終わっていない。

 

「食わなきゃ胸が育たないぞ」

 

「お母さんが美乳だから将来は安泰だし大丈夫。私は遺伝子が仕事をするって信じている」

 

 その遺伝子が働いていないからお前はここにいるんじゃないのか、という言葉は激しく無粋なのかもしれない。まぁ、本人が信じているのであればそれでいいと思う。ともあれ、話を続けるとする。

 

「最近の事件とかの事で管理局が裏で犯罪者と繋がっているという話は大分濃厚というかほぼ確定になったじゃん? まぁ、そんなわけで噂話が前よりリアリティを帯びてきたわけだが、そういう噂話によると管理局は色々とスポンサーしている代わりに情報の提供と行動のある程度の管理をしているらしいぞ? 犯罪発生は適度な緊張感を保つためで善悪のバランスを取っているとか」

 

「私から言わせれば激しく余計なんだけど」

 

「むしろ善悪のバランスを取る事は悪い事じゃないぞ? 悪ってのはどう足掻いても生まれてくるものだからな。それをどうにかせにゃあいけないのが善サイドのお仕事。これがどちらかへ傾き続けると一方が爆発して悲劇ってのが生まれるんだよ。だから5:5でバランスを取れるようにするのが大事―――そう、子供に対する甘えと躾の様に……!」

 

「途中までいい話だなぁ、と思ったらやっぱりラストで台無しに。どうしてイストは最後までシリアスが続かないの? あ、いや、うん。やっぱり解ったから大丈夫」

 

 お前の芸風も結構大概だぞ、と言ったところで替え玉と卵が来たのでそれを軽く食べながら、軽くミッドチルダという世界に関して話し合う。

 

「そもそもミッドは政策からして移民や流民の受け入れを歓迎しているんだぞ? それを考えてみろ。移民や流民を受け入れるって事は不特定多数を懐へ招き入れるって事だ。経済は圧迫されるし、犯罪者だって増える。そして過労死する陸士も増産される」

 

「陸の人たちに休みをあげてよぉ!」

 

 管理局一ブラックな職場―――陸。彼らに休みなんてそもそも存在しない。無限書庫並にブラックな職場である陸は常に治安維持と犯罪取り締まりの為に汗水流しながら働いている。彼らの休日は常に来月に存在する。そして来月になったらまた来月へと逃げている。終わりの無い休日とのかけっこ。いい加減中央や海、空は陸へのイジメをやめるべきだと思う。トップのレジアスの胃が何時溶けてもおかしくないと思う。

 

「陸が現在進行形で仕事に殺されている事は無視するとして、ミッドチルダは何でも受け入れる代わりにそれだけ管理や政策を厳しくしなきゃいけねぇ―――でも実際に生活していても息苦しさを感じる事は全くないだろ? そこらへんが管理局って組織のバランス取りのうまさだ。表と裏の両方を支配する事で不満とか息苦しさを感じなくさせている。……まあ、あんまし詳しい話は俺に期待するな。政治とかは教えてもらった程度にしか話せないから」

 

「ううん、凄いよ―――初めて大人らしいところを見た気がするし」

 

「殴りたい、その笑顔」

 

 笑顔でそんな事を言うなのはに軽くイラ、っと感じながらラーメンの麺を啜る。先ほどはやての方に連絡を入れたらザフィーラに関しては快諾を得たし、それに関しては特に問題はない。あとは現在請け負っているこの仕事をどうにかすればスカリエッティへの準備も大分進む。

 

 近いうちに、動きがあると言われてから邂逅を待ち望んでいる自分がいる。

 

「ま、俺達はお仕事してりゃあちゃんとミッドは回る様にできてるんだよ」

 

「そんな簡単でいいの?」

 

 それぐらい簡単な方が人生やりやすいというものだ。

 

 無駄な事を考えて生きるよりはずっと楽だ。

 

 最後に大事な事さえ覚えていれば……それで、いいのだ。




 ほら、あそこにヒント。前の章にヒント。その前にもヒント。フラグや伏線はあっちこっち。よく探して考えれば大体わかってくる。無駄な回はない、純粋に遊んでいるだけの回はない。全部何らかの意味を隠している。

 なので、答えは出ている。見つけた?

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