マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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 少しずーつ、少しずーつね? あ、趣味入りまくってます。


フォーチュネイト・ミート

 ―――5月は暑い。

 

 長袖で過ごすには少々、というか結構暑い。それがミッドチルダ北部であっても暑いという事実に変化はない。春もだいぶ進んで段々と夏に変わりつつある。ミッドチルダ北部、ベルカ自治領で過ごす夏というのは結構暑いものであるというのは理解していたが、やはり理解しているのと感じるのとでは大きな差がある。夏のベルカ自治領にはいたくはなかった。何せベルカの連中は何かしら古風なのが多い。教会とかエアコンが入ってなかったり、弱かったりで非常に暑い場所が多い。だから今、こうやって借りる事に成功した訓練場も野外で、かなり暑い。ミッドの方のを何とか借りることができれば楽だったのだろうが、職場のをオフの日に借りる事は出来ないし、かといってミッドでどこか借りようと考えるとどうしても人目につく。そして泣きついた結果がここになる。

 

 グラウンドの隅から軽く空を見上げ、そして時計を確認する。約束の時間よりも少々早く到着している―――故にここには誰もいない。本来ならもう少し人がいるものだが、今回に限っては貸してくれた相手の厚意もあって完全な貸切状態となっている。本当にコネクションというものの重要性を理解できる。これのあるなしは人生に生きやすさに関わってくるものだと思う。

 

「あー暑ぃ……」

 

 目を閉じて耳を澄ませば遠くに人の喧騒と、そしてどこかで鳴り響く蝉の音が響く。足音も混じっているのでまず間違いなく誰かが此方へと向かってきている―――となると待ちぼうけをする時間ももう終わりなのかもしれない。個人的には早い所体を動かしたいという事もあって少々早く来てしまったが、迷惑をかけてないだろうか。……これぐらいはお茶目で済めばいいのだが。ともあれ、自分もあと一ヶ月程で二十歳になる。もうちょい落ち着きを得るべきではないのかな、等と思っていると、訓練場の入り口から入り込んでくる姿がある。そちらへと視線を向ければ、知った顔と知らない顔が複数やってくる。

 

 まず一人目はなのは、高町なのはだ。今日はオフなので此方同様私服でやってきている。が、やはり季節の事を考えてミニスカートにショートスリーブという恰好だ。彼女はそれでいい。割と見慣れた格好だからだ。というかシュテルと服装のセンスが似ているので偶にシュテルを見ているかのように感じるからだ。まぁ、彼女の登場は本来はない筈だが、いい。本命はその後ろにいる者だ。

 

 入ってくるのは浅く肌が褐色に染まっている巨漢で、全身が筋肉でガッチリと鍛え上げられている守護獣だ。それが直ぐに人間ではないと解るのは単にその男が人間に非ざる者の証として頭から耳を生やしているからだ。それが無ければ正面からパっと見た感覚、人間だと間違える。服装はパーソナルカラーらしい青色で、ノースリーブだ。そしてその男のすぐ横にいる人物が自分の予想外で、見た事の無い二人目の人物だ―――とはいえ、此方の人物はもう一人同様、雑誌やらで見た事はある。此方はポニーテールの女性で、ロングパンツにハーフスリーブのシャツを着ている。根が真面目なのか、割とファッションよりもフォーマルな感じを意識した服装だった。ともあれ、目的の人物は到着したので、片手を上げて此方だと意識してから、軽く頭を下げて近づく。

 

「どうも、今日はありがとうございます」

 

 手をまずは守護獣へと向けると、相手も手を出して握手してくる。社会の基本だ。

 

「此方こそよろしく頼む。あとできたら敬語は外してくれ。盾の守護獣、ザフィーラだ」

 

「では―――今日はよろしく頼むザフィーラ、はやてちゃんから色々と聞いていると思うけどイスト・バサラだ」

 

 相手が階級や役職を名乗らないのであれば此方もそれを名乗らない。それはつまりそう言うのを抜きにしよう、という意味でもある。そこに相手がただ単に無職である可能性はあるのだが、流石にその意味で名乗らなかったという意味はないと思う。少なくともはやては”こっち寄り”であってもその周りは違うと聞いている。続いて横の女性にも手を出し、握手を交わす。

 

「シグナムだ。私もザフィーラ同様そういう言葉づかいを気にする必要はない。急に現れて迷惑をかけるかもしれんが、すまないな」

 

 豪傑タイプの女性かねぇ、とシグナムを評価する。純粋に暇だったのか、もしくは何らかの意図があったのか―――なのはの評価だとブレードハッピーらしいので純粋に暴力の匂いに釣られたのだろうか。とりあえず、少しだけ言葉を選んで返答する。

 

「いや、超一流の騎士に見てもらえるってだけで名誉な事だ。邪魔をするとか気にしないでくれ」

 

「ふ、そうか。では気にしない事にしよう」

 

 意外と好感触。話をザフィーラの方へと持っていこうと視線を向けようとしたところで、軽いローキックが足に決まる。その主を確認する必要はなかった。

 

「あぁ、悪い。小さすぎて見えなかった」

 

「蹴るよ」

 

「蹴った後じゃねぇか。これだから中退は……」

 

「レイジングハート、セットアップ」

 

『Master, please stop』(マスター、お願いですから止まってください)

 

『You do like teasing her even though you know what is going to happen to you at the end』(本当に弄るのが好きですよね、最終的にオチはどうなるかって解っているのに)

 

 デバイスの仲介が入るので仕方がなしに解散する。が、なのはが露骨に舌打ちしている事は見逃さなかった―――まぁ、ここまでがいつも通りの挨拶だ。別段悪い空気は存在しない。その代わり少しだけぽかん、と驚きの表情を見せるザフィーラとシグナムの様子がある。そしてそれを見てしまった、というなのはの表情がある。一体何かおかしなことでもあったのだろうか……と思うのは此方の基準だろう。

 

「失礼かもしれないが……バサラは何時も高町とはこの様な感じなのか?」

 

「基本的にはな。最近ローキックの回数増えてきたけど」

 

「鍛えすぎて足が硬い。もう少し柔らかくなるべき。その方が物理的にツッコミをする時もう少しだけ楽になるから」

 

「お前は反射的にレイジングハート握りだすの止めろ。お前のその動作にトラウマになりかけている奴が何人いると思ってんだ」

 

 あぁ、今のリアクションで解った。隊でやっている感じを基本的にまだ身内へと見せていなかったのか、この子は。そりゃあ戸惑いもする。何せ自分も最初の頃は割と戸惑うところが多かった。割と不真面目でいるつもりがかなりまともな方だと発覚した時は発狂する思いだった。そして直ぐに馴染んだ。常識は確かに強敵だが打倒せない程凶悪な敵ではなかった。

 

「んで、お前今日はなんで来たんだよ」

 

 とりあえずなのはがここにいる事は予想の範囲内だが、やはり予定外の事だ。だから質問すると、

 

「ザフィーラがサンドバッグになると聞いたから来たの」

 

「!?」

 

「お前本当に高町なのか!?」

 

 

                           ◆

 

 

 隊の芸風に染まった、という言い訳で概ね満足されはしなかったが、はやてに似てきたと言ったら納得する辺り、このヴォルケンリッターと名乗っている騎士たちも割と苦労人だなぁ、と思いつつも、話し合いは終わり、ウォーミングアップを完了させる。基本的に筋肉を傷めない様に体をストレッチなどで運動させることは重要だ。それらをすべて済ませれば、適度に体をほぐして、丁度いい状態になる。その状態になって向き合うのはザフィーラだ。此方も相手も素手、デバイスは一切ない。体に攻撃を叩き込めば間違いなく痛みがあるだろうが、痛くなきゃ何も覚えないとは祖父の言葉だ。それに、

 

「互いに防御型だし」

 

「あぁ、問題はないな。とりあえずまずはお互いの実力を軽く確認するために一戦交えた方が色々と早いだろう」

 

「話が早くて助かる」

 

 軽く体を最後に捻り、そして構えるザフィーラへと向かって一気に踏み出す。相手が”盾”を名乗るぐらいには【防御】のプロフェッショナルだと把握している。だが相手も自分も互いに魔力も魔法も使用はなし、デバイスもなしの正面から身体能力と技量オンリーによる勝負だ。そしてそれを自分は最も得意としている。そして相手も、ベースが獣である以上間違いなく己の領域だと自負しているはずだ。

 

 軽く手合せというが、自分も相手も負けるつもりはない。

 

「来るか」

 

 踏み込むと同時に掌底を繰り出す。速度は最速ではない、避けようと思えば確実に避けられるものだ。それを繰り出して解るのは相手の行動だ。手堅く行動するか否か。それの判断が容易に解ってくる、軽いテストの様なものだ。そして、一種の挑発でもある。そしてそれに対して僅かに笑みを浮かべるザフィーラがいた。彼が取った選択肢は、

 

 防御だった。

 

 避けれる一撃、確実に避けてからカウンターを叩き込める一撃でも【防御】へと回ったのは間違いなく自分の役割を理解して、そしてそれに徹する事を誇りに思っている事だ。―――中途半端にアタッカーを務めている自分とは大違いだ。今の、自分であれば体で受け止めつつ確実にカウンターを決めるというスタイルを俺だったら取る。だからこのレベルでも基本に忠実であるザフィーラに対して敬意を抱ける。

 

 だから片腕で防御された腕を素早く引き戻しながら素早く蹴りを繰り出す。それをザフィーラがガードする。それなりに力を込めて放ったつもりだったが、それをしっかりとガードする様子を見て、少しずつエンジンが上がり始める。足を引き戻すのと同時に拳を叩き込み、それを防がれる。だがそれは見えていたので更に次の打撃を繰り出し、防がれる。防御に関する動きが極限まで簡略されている、と感じる。行動の全てを防御という行動を念頭に置いているのだ。だからこの相手を崩すのは決して容易い事ではないと理解する。

 

「ならば」

 

「むっ」

 

 連撃を完全に凌がれたところから素早く相手の手首をつかむ。そのまま足を相手の内側へと持って行き、相手の体重を利用して崩す様に投げる動作に入る。だがそれは相手も理解のある動きだ。相手は此方よりも古代ベルカ式の格闘術に理解のある存在。故に此方が手首を取って足を進め、密着した時点でどういう動きに入るかを理解できている。それが握った手首を通して伝わってくる。相手の体重を利用して投げようとするが、相手の体はまるで地面に縫い付けられたように動かない。下半身に力を込めているのではなく、投げられない様に体の重心を変えているのだ。

 

「此方の番だな」

 

 逆にザフィーラが此方の手首をつかみ、投げの体勢に入る。が、それよりも早く体を下へ、後ろへと倒す。本来倒す方向と逆の方向へ体が逸れた事により投げはその初動で失敗に入るが、追撃する様にザフィーラの足が振るわれる。此方の体勢は崩れていて防御はしにくい。だからこそあえて防御ではなく攻撃に入る。相手の攻撃が届く前に此方も倒れつつある体勢で蹴りを繰り出す。相手と自分の蹴りがぶつかり合い、そして体勢の振り故に此方の体が押される。

 

 だがそれが勢いとなって、体を回転させるように後方へと体を跳ね上げる。後方へ宙返りしながら着地する。その瞬間には距離を詰めているザフィーラの姿がある。見た目の重そうな感じとは違い、フットワークは軽いらしい。繰り出される攻撃を此方の攻撃で撃墜し、攻撃的な防御を繰り出す事によってザフィーラの攻撃を凌ぐ。

 

 ザフィーラが繰り出す打撃を打撃で叩き、互いにその一撃で動きを止める。今までの一撃よりもわずかに重い、少しだけ力の多く籠った一撃、それは一種の合図の様なものだ。そのまま腕を引き、そして口を開く。

 

「実力者とは聞いていたけど正直侮っていた。済まない」

 

「いや、此方こそ侮っている部分があった。その歳でその技量、凄まじいものがある。色々と動きに覚えの多いものがある。基本的に何かの流派をベースにしているのか?」

 

 実際衝撃的だった。自分と同じレベルの格闘家とは出会った事がない。いや、自分よりも上の存在となら命を削り合った事がある。だがそれでは学べる事は少ない。アレはどちらかというと高めあいではなく削りあいの領分に入る。こうやってちゃんと古代ベルカの格闘術を全て覚え、記録している存在の動きは実に参考になる。いやぁ、頼んだ価値はあった。

 

「いや、それが基本的には祖父が師であって、その祖父が古代ベルカ式格闘術を教えてくれて、それを習った後は特に流派を習うわけでもなくシューティングやストライカーを学んで、そしてそれを今、自分に使いやすい様にカスタマイズして使っている」

 

「なるほど、故に見慣れた動きの中に新しい感じや隙間があったのか。所々繋ぎに若干の無駄がある。といっても本当に僅かな差だが……」

 

「いや、正当な使い手からの批評やアドバイスってのは中々得られないものだから是非とも教えてほしい。こっちは辛口な意見を求めているから」

 

「そうか? なら今の軽い手合せだが―――」

 

「うわぁ、凄い話こんじゃってる。ちょっとだけ心配で様子を見に来てみたけどなんだか大丈夫っぽいなぁ……シグナムは―――」

 

「……あの動き、ザフィーラが堅実な防御を主体としているのであれば攻撃的な防御を、攻撃による制圧での防御を主眼とする動きだったな。防御力は間違いなくザフィーラのそれよりは落ちるが相手に攻撃の機会を与えないというスタイルは間違いなく防御する回数を減らすための動きだ。相手の攻撃に対して自身の攻撃を最も勢いの乗せられる地点で放てる力量を見るに個人としての技量はかなりの領域に―――」

 

「駄目だこのブレードハッピー」

 

 そうして話を続けようとした時、新たな気配の登場に気を取られ、視線を入り口の方へと向ける。そこに現れたのは、

 

「―――どうやら楽しそうにしている所を見るにこの場所を提供したのは間違いじゃなかったようですね」

 

 この場所の使用許可を出してくれた人物が現れた。




 まえがきは特に意味はない。あと質問のある諸君はツイッターへ来い。あっちは常にネタバレしまくっているので、大体の質問だったら答える。それで話が詰まらなくなったら自己責任で。

 ともあれ、キャラを少しだけ増やしますよー

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