マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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キル・ミー・イフ・ユー・キャン

 ―――実は結構機嫌がいいかもしれない。

 

 着替え終わって空隊へと出勤する準備が完了するが時間的にはまだ少し余裕がある。今日の朝食は少しだけゆっくりしよう、とフライパンに準備の完了したフレンチトーストを乗せ、焼き始める。数秒もすればフライパンから甘い匂いが漂ってくる。メープルシロップよりは蜂蜜派なので冷蔵庫からハチミツを出して、あらかじめ溶かしておくのも忘れない。フライパンの上のフレンチトーストを焦がさないように気をつけながら胸元のレイジングハートへ指示を送る。

 

「テレビつけてー」

 

 ヴン、と音を立てて大型テレビの電源がつく。そのチャンネルはミッドのニュースチャンネルへと既にセットされている。昔は全く見なかったものだが、今ではニュースで手に入る情報や新聞で手に入る事件などを細かくチェックしている自分がいる。こういうのも少しずつ、大人になる事なんだろうなぁ、と前と変わってきている自分の意識に驚く。なぜなら、自分は驚くほどにあの人たち、第六隊の人たちに影響されてきている。昔の自分がどれほど内向的な性格の人物だったのか、数ヶ月前までの自分を軽く思い出すと驚く。

 

 が、将来的には戦技教導官を目指しているのだ。そう思うと少し不真面目な方が人としてはウケがいいと思うし、そういう事もあって少しずつ変わってきたつもりだ。まあ……そんな考えを抱かせてくれた張本人は最近不調、というか目に見える程損耗していた。肉体的ではなく、精神的に。やはり、

 

「……どう考えても昔のパートナーを殺しておいて平気ってわけがないよね」

 

 そんな事もあってあの肉壁には休みが必要だと思っていた。どうにかして休みを与える必要があった。だが普通に休め、と言っても休むはずがないのが自分の知っている馬鹿だ。だから少し卑怯かもしれないがチケットを用意して逃げられない状況を作ってみたのだが―――心配していたのは確実にバレているだろうなぁ、と思う。相手は大人で、自分はまだ成長中の子供なのだ。私の考えぐらい見抜けない人物でもあるまい。まぁ、だから、きっとたくさん遊んできたはずだ、と思う。あの人は何気に意図を察した上で乗っかってくるような馬鹿な所があるとこの数ヶ月の付き合いで解る。だからそこに迷いはなく、いい気分転換になれば嬉しいと思う。

 

「とと、これぐらいなぁ」

 

 フレンチトーストを裏返し、焦げ目を確認する。大体これぐらいだ、と確認して頷く。こうやって一人で料理するのも大分慣れたなぁ、と思いつつ耳をニュースの内容へと傾ける。

 

『第12管理世界において大規模なテロの発生を確認しております。幸いにも聖王教会中央教堂が近い為騎士もおり、制圧のために―――』

 

「朝から忙しそうだなぁ」

 

 第12管理世界と言えばカリムがいる世界ではなかったっけ。まぁ、あの世界における聖王教会、ベルカ勢力は管理局よりも大きなものだったはずだ。まぁ、ベルカ勢力が強い世界では基本聖王教会の方が管理局よりも強いのだが―――まぁ、少しだけ知り合いであるカリムの事が心配、という程度だ。ベルカの騎士の実力は身内が証明してくれている。あ、いや、メイン盾とかブレードハッピーとかサンドバッグ狼とかモツ抜きドクターとか色々基準としちゃいけないような極悪兵器が存在するけど、それでも全体的に騎士と呼ばれる人間は魔導師としてレベルが高い。だから心配する必要はない。

 

『第3管理世界でも大規模なテロリズムが確認されており―――』

 

「こっちは結構近いなぁ」

 

 第3管理世界、ヴァイゼンはミッドチルダに比較的近い次元世界だ。此方までやってくる事はないと思うが、それでもこうやってテロが身近な場所であると思うと若干不安になってくる。第12に続いて第3管理世界でも大規模なテロリズム、ちょっとテロリストがヒャッハーしすぎなんじゃないかなぁ、と思うが、

 

『続報です、第5、第14管理世界でも大規模なテロリズムが確認され、時空管理局本局から鎮圧のための部隊が―――』

 

「流石に多いかなぁ」

 

 丁度良く焼けてきたフレンチトーストを皿の上へと移しながら火を止め、蜂蜜をその上にかける。それをリビングへと運んでゆくと、テレビには現地の様子が映されていた。魔導師での陸戦や空戦が繰り広げられているのがテレビで見える。流石にその距離は危ないんじゃないのか? と思っていると案の定流れ弾が飛んできてニュースキャスターが逃走を開始する。頑張れ、と心の中で現地にいるニュースキャスターにエールを送ると、さっさとフレンチトーストを食べる事にする。

 

 ―――今日は、あんまりいい予感がしない。

 

 こう、……そう。言葉として表現すればあの時、ナハトヴァール、あの巨大なプログラムが出現した夜、あの時と同じような感じだ。何か身近な人が傷つきそうな、そんな予感だ。……あんまりいい感じではない。今日は、少しだけ気合を入れようと思う。とりあえず、

 

「いただきます」

 

 

                           ◆

 

 

 朝食から三十分後、職場へと到着する。自分の姿におかしなところはないと確認しつつ隊にあてがわれた部屋の扉を開け、中に入る。

 

「皆おはよう」

 

 まばらだが返事がちゃんと皆から帰ってくる。ここら辺は付き合いがいいなぁ、と思いつつ皆の恰好を確認すれば、一部がバリアジャケットを装着して待機している。その姿に軽い不安を覚え、軽くレイジングハートを握ると少しだけ皆が距離を取った。おかしい。私がここまで恐れられる理由はあっただろうか。とりあえずレイジングハートから手を放し、

 

「私の恐れられ方が尋常じゃない」

 

「レイジングハート取りだしたらやる事九割砲撃だし……」

 

「あ、でも最近近接こなせるようになって来たよね」

 

「砲撃纏って突進するんだっけ。流石エース・オブ・エースはキチガイさもエース級だった」

 

 迷うことなく顔面を殴って沈める。こう見えて体は鍛え始めているのでパンチにもそこそこ自信は出てきている。だから殴り倒してスッキリしたところで自分の相棒がまだ職場にやってきてない事を悟る。軽く見渡し、いないのを確認し、

 

「アレ、イストがいないんだけど……」

 

「うん? 今朝早く顔を出したらそのまま本局へ向かったぞ”ユーノきゅんの顔を眺めてくる!”とか言って」

 

「ユーノ君が危ない……!」

 

 何時からユーノ君はヒロイン扱いされ始めたのだろうか。しかしあの二人なんか仲がいいしこのまま二人っきりにさせておくと将来ユーノ君を貰いに行くとき非常に面倒な事になりそうな気配がある。場合によっては強硬手段を取る必要があるかもしれない。

 

「すいません、相棒を殺さなきゃいけないので本局に行ってきます」

 

「頑張れー」

 

 止める者はやはり誰もいない。が、そこでバリアジャケットを展開している姿を思い出す。少し気になるので足を止めて、本局―――無限書庫へと向かう前にバリアジャケットを装着している姿を問いただす。その言葉にあぁ、と答えたのはバリアジャケット装着済みのキャロルで、

 

「―――なんか今日は酷く荒れそうな予感がしてね。用意しておくことに越したことはないでしょ?」

 

 

                           ◆

 

 

 それはやってきた。何の脈絡もなく、何時も通り白衣姿と、少しだけ老けた顔を楽しそうにゆがめながら何の躊躇も迷いを見せる事もなく入り口から堂々と入り込んできた。その顔は既に指名手配犯として各地に送られているのにソイツはその一切を気にしない。到着と同時に、金属検知器を通る時に武器の所持を告げるアラームが鳴る。だがそれを気にすることなくソイツは懐から武器を取り出し、質問をしようと近寄ってきた管理局員の頭を銃で撃ち抜いた。本来ならプロテクションか何かでそれは貫通する事はなかったはずだが、

 

「試作型AMFはそこそこうまく機能しているようだね。重畳重畳。これで素人が質量兵器を握っても十分に魔導師を殺せるよ。うんうん―――いやぁ、バラまいて本当に良かったよ」

 

 カラカラと笑いながら男の背後から現れる二つの姿がある。だがすぐさま異常を知った他の管理局員が現場へと駆けつけ、連絡を入れながら非戦闘員の退去を進める。その間に白衣の怪物は動く。手に握っていた銃をもうどうでもいいものかの様に捨てると、片手で合図する。同時に二つの姿が、黒と緑が動く。緑は気配を感じさせない動きで、一瞬の内に前に出現していた。それを恐れた魔導師が魔力弾を放ってくる。だが緑は―――覇王だった存在はそれを片手で掴み、全力で投げ返す。そんな事を予想すらできなかった魔導師は自分の一撃を想定外の威力で受け、吹き飛ばされながら一瞬で意識を落とされる。

 

「殺さないとは優しいねぇ」

 

「弱者を殺したところで無駄な血が流れるだけです。無意味な死は実に”無価値”です。貴方のセンスからしても美しくはないでしょう」

 

「あぁ、そうだねぇ。じゃあ軽く掃除をお願いするよ」

 

「―――了解しました」

 

 瞬間覇王が駆ける。その名は捨ててもその存在がそうである事の否定にはつながらない。一瞬で接近と同時に攻撃を叩き込み、一撃で一人を沈めてゆく。それに対応する為に残された魔導師がやってくるが、それでも格が違う。経験が違う。年季が違う。戦場に生きて戦い続け、そして朽ち果てた戦士の記憶と経験を持った存在と、自衛と治安の為の技術では天と地ほどの差が存在する。経験の一つだけで攻撃は避けられ、利用され、そして凄まじい速度で残された魔導師たちが殲滅されて行く。本来ならここにエース級やストライカー級の魔導師が残っているはずだろうが、

 

「―――好き勝手やってくれているな」

 

「貴方に用はありません言葉を借りてこう言いましょう―――鏖殺します、と」

 

 出てくるストライカー級魔導師は一人だけ―――そのほかは全て出払っている。故に覇王は守護の為に残された一人との戦闘に入る。

 

「いやぁ、まさに計画通り、と言えばいいのかな。持っている技術と知っている管理局の警備情報等を全て、連絡の取れる犯罪組織やテロ組織に送り付けたからね。いやぁ、試作型のAMF発生装置が大いに役立ってくれていると助かるね。君たちは管理局とドンパチできて、私は魔導師を極限まで本局から引きはがす事が出来る。あぁ、実にすばらしい取引だ!」

 

 全ては白衣の怪物の策略。情報や必要なものを必要な所へと渡してやればどうなる? ―――もちろん行動に出る。次元世界各地で発生している同時発生のテロリズムは白衣の怪物にとってはただの陽動。ターゲットと心行くまでこの時空管理局本局という場所で戦いあうために巣から魔導師を引き出す餌だ。そして、

 

「―――転移装置のクラッキング完了―――システム改竄―――次元航行艦ポートの閉鎖―――完了しました。誰も本局へ侵入する事も脱出する事も出来ません」

 

「グッド。実にグッド。あぁ、実に恥ずかしい事だけど今の私は遊園地へ行く前日の少年の様に興奮している。何せ見たまえ、この惨状を、見たまえこの状況を、見たまえ私がしたことを! コスト! リターン! リスク! 全てがめちゃくちゃだ! 歴史史上初だぞ、ここまで大規模なテロリズムを成し遂げた真正の馬鹿は!」

 

 白衣の男がロビーの中央へと進むと同時にドス、と肉を叩き潰すような鈍い音がホールに鳴り響く。次の瞬間、ロビーの中央へ魔導師の姿が倒れ込む。その背中には穴が開いており、本人が即死であることを証明していた。それを成した張本人は傷一つない状態で死体の横に立っていた。

 

「やあ、結構簡単そうにやったけど愛しの彼もその調子で殺しちゃうんじゃないのかい?」

 

「空戦魔導師には少々戦いづらい地形です。地の利が此方にありました故」

 

「うーん、謙虚だねぇ」

 

 楽しそうにそう言う男は緑と黒を連れて先へと進む。”歓迎”を受けたロビーからホールへと到着し、無人の筈のホールの中央に一人だけ立っている姿を確認する。既にバリアジャケットを装着している事からその者が敵である事に疑いはない。だが管理局員でありながら、その存在は統一のバリアジャケットではなく、カスタムの入った個人仕様のバリアジャケットを装着していた。上半身は黒いボディスーツの様なもので上に茶のハーフジャケットを、そして下半身は青のジーンズと普段着と見間違えてしまいそうな格好だ。だが赤毛の男が発する敵意が間違いなく目の前の者こそが準備の整った敵である事を証明していた。

 

「やあ、待たせたね」

 

「……」

 

「色々大物と遊ぶことも考えたたんだけどやっぱ遊ぶ相手は身の丈に合わないといけないからね。君ぐらいが私としては丁度いい相手じゃないかと思うんだよ」

 

「……」

 

「君が何もしないせいで今、いろんな世界で人がいっぱい死んでいるよ?」

 

「……」

 

「君が何もしないせいですぐそこで同僚が死んだかもしれないよ?

 

「……」

 

「―――あぁ、なるほど。なら言葉はいらないね。じゃあ最終ゲームだ。ここには管理局最高評議会の三人がいるんだ―――これからその三人をそこの緑色のと一緒に正面から殺しに行くから、早く追いついてきてよ。少し寄り道しながら進んでいるからさ―――あ、所で」

 

 白衣の怪物は赤毛の怪物を見る。

 

「一対三だけど卑怯とは言わないよね?」

 

「―――あ? 何を言ってんだてめぇ」

 

 赤毛の怪物は獰猛な笑みを浮かべて答えた。両腕を覆う鉄腕となったデバイスを構え、身体に軽く電撃と火花を纏わせ、戦闘態勢を取る。その魔力は本来その男が持てるはずの量を優に超えている。そう―――それはまるで誰かの力を分けてもらったかのような魔力のインフレーションだった。

 

「デバイスいれて七対三だ馬ぁ鹿。研究者の癖に計算もできない程に脳味噌狂ったかモンスター」

 

 狂っていてすまないね、と白衣の怪物は笑みを浮かべ答え、

 

「じゃあ、ラスト・ゲームだ怪物君。さあ、出番だナル君―――君の本懐を遂げるといい。自分が無価値だと思うならその生き方で無価値ではない事を証明するといい。それが道具としての君であれば本望だろう? ―――さあ、存分に暴れ狂うといい。今日は無礼講だ、犯罪者たちが歓喜の声で宴を開く日だ。存分に殺戮を楽しむといい」

 

 黒が―――リインフォース・ナルと自らを名づけた道具が出て、魔力の短剣を数百以上生み出し、構える。その背後を通る様に白衣と緑は歩き、奥へと向かって抜けて行く。覇王は去る直前に一瞬だけ名残惜しそうに赤毛の怪物を眺め、そして奥へと付いて行く。

 

「―――闇に沈み、果てよ」

 

 ナルの言葉に、イスト・バサラは挑発するように答える。

 

「―――Kill me if you can」

 

 数百を超える短剣が降り注ぎ―――戦争が始まった。




 そんなわけで三色モード、保護者版。あ、英語なのはデバイスが何時もそうだし別に違和感はないかなぁと。ともあれ、何人死んだんだろうなぁ、と。

 ともあれ、スケールのデカイ馬鹿な事をさせたかった。反省はない。

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