マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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ナル

 降り注ぐ刃の内、イストは己に一番近いものを掴み、そして投げ返す。優に三桁を超える弾幕量の中から己にだけ降りかかる災禍を選び、そして投げ返す。だが魔力の精密操作に置いてユニゾンデバイスを超える事の出来る存在はいない。投げ返され、勢いをつけて返されるブラッディーダガーは同じく自分のブラッディーダガーと相殺され、空中で砕ける。そうして数百あったブラッディーダガーは全て外すか相殺し合い、意味を無くす。その光景を中空に浮かび上がりつつリインフォース・ナルは眺める。そして、浮かび上がっている敵をイストは眺める。だが眺めるのは一瞬。次の瞬間にはイストが踏み出していた。黒、赤、青の三色を軽く纏いながら本来出せる以上の速度で一気にナルへと飛びかかる。その拳は既に振り抜かれていた。

 

「―――」

 

 ナルの姿が喪失する。拳は振り抜かれ、そしてナルが存在した空間の背後を打撃し、その奥にある壁を破砕する。

 

「チッ」

 

「温い」

 

 そう言ったナルの姿は中央ホールの天井付近に存在していた。その周りには黒い魔力機雷が大量に出現しており、そして手には黒い魔法陣が存在していた。そこから吐き出されるのは素早い砲撃であり、動きを模倣する様に作られた魔力機雷もその姿を砲撃へと変換し、豪雨の様に天井から床へと向け、イストへと向けて砲撃を降り注がせる。

 

『Lightning』

 

 イストの姿が砲撃を正面から貫き、雷光を纏いながら一直線に進んできた。その速度は雷刃の魔力を得て本来以上の加速を得ている。そのスパークでホール全体を照らし、黒い砲撃を中心から突き破りながらナルの正面へと到着し―――打撃する。

 

「っ!」

 

「―――!!」

 

 漏らす声は吐息だけ。それ以上を吐き出す余裕は無い。打撃と共に黒いプロテクションが展開され、拳を阻む。そして同時に体にバインドによる拘束が襲い掛かる。しかし、バインドもプロテクションも熟練された技巧の前では意味をなさない。バインドはあっさりと砕け、そしてプロテクションを貫通して衝撃はナルへと叩き込まれる。ナルの腹が衝撃によってへこみ、そして後ろへと抜けて行く。二撃目の挙動にイストが入る。が、その瞬間にはナルの姿が消失、機雷を再び浮かべたナルの姿がホールの反対側に出現していた。イストはそのまま床へと落ち、着地する。

 

 そして、互いに動きを止める。互いに今の結果を眺め合ってお互いの損傷や消耗具合を確かめる。そして次にするべき動きを高速で思考する。時間、空間、武器、能力、技巧、経験、その全てを飲み込み把握し、そして思考する。

 

 ―――不利か。

 

 

                           ◆

 

 

 己の不利を悟っていた。相手が悪いのではない。状況が悪い。自分という存在はデバイス、ユニゾンデバイスだ。本来はユニゾンして運用するのが通常である。故に単体としての戦闘力は求めておらず、本来はユニゾンした際の適性への強化、魔力の強化、そして演算能力の強化が目的だ。だから単体としては本来はそこまで期待されていない―――とはいえ、自分は特別だと自負している。有能な道具だと理解している。コピーベースとなった夜天の書の統制人格、リインフォース・アインスは単体でも広域殲滅と収束砲撃の両方を行える広域殲滅型のユニゾンデバイスだ。その性能の全ては己も得ているので客観的に見て己は優秀だ。

 

 なら適性も魔力も相手に劣っている?

 

 答えは簡単だ。―――状況だ。相手は互角へと自分を押し上げている。一つ目はトリニティ状態が原因だ。ロード・ディアーチェに備えられた魔導統合状態。己の臣下であるシュテル・ザ・デストラクターとレヴィ・ザ・スラッシャーの魔力を吸収し、己を大幅に強化するプログラム。ベースとなったマテリアルズはプログラム生命体である為に存在そのものを預ける事が出来たそうだが―――そのプログラムをあの男用にカスタマイズされたのが今の状態だろう。”四人”分の魔力が体内でオーバーフロー寸前に抑え込まれている。砲撃を正面から突き進み、そして異常なスピードを見せているのは間違いなくその効果だろう。

 

 二つ目の理由は相手が躊躇しない事―――つまり迷うことなく接近戦を選んでくる事にある。この空間が狭いということにも起因するが、近い。開けられる距離に制限がある。己は広域殲滅型の魔法に秀でている。そういう風にできている。だからこの状況はよろしくない。なぜなら全力で攻撃を放てばまず間違いなく己を巻き込む。そして小さな傷は、まず間違いなく己を苦しめる結果となる。この相手は己の正体を知っている。故にそれに対抗して完全な死を叩き込んでくるだろう。故に、手段は選ばず、選ぶ必要もない。

 

 思考する時間は一秒以下。

 

 場所は把握した。

 

 再びナイトメアを放つ。

 

 

                           ◆

 

 

『Lightning』

 

 喉をせり上がってくる吐き気を抑え込みながら限界を大きく超えるスピードで一気に加速する。体が軽い雷光に包まれ、口から息とともに軽いスパークが漏れ出ているのを自覚する。本来自分のものではない魔力をデバイスさえも使わず直接体にぶち込んで溜めこんできたのだ。それも自分用ではないプログラムを使って。戦う前から既に全身は焼かれる様な痛みと、電撃に貫かれる様な痛みと、そして蝕まれる様な激痛が走っている。だがこれは―――彼女たちの魂だ。ここへ来ることは出来なくても共に戦いたいという彼女たちの意志だ。この激痛を歓迎する理由はあっても、否定する理由はない。だから、笑みを浮かべて、

 

「シュテル……!」

 

 降り注ぐ砲撃を直進しながら―――打撃する。肌を焼く炎が打撃と共に発生し、黒い砲撃を正面から粉砕しつつ体を一気に相手の下へと運ぶ。相手が転移した場合はそれに追いつけるような跳躍術式が自分にはない。故に相手が逃げるよりも早く追いつかなくてはならない。故にダメージを全て魔力任せの防御で凌いで直進する。砲撃が豪雨の様に叩きつけてくるが、殲滅者の炎を砕ける程ではない。あぁ、お前の情熱に砕けないものはない。

 

 降りかかる砲撃を全て正面から粉砕して到達し、敵の姿が、リインフォース・ナルの姿が消失する。そして次の瞬間感じるのは視線と敵意、そして魔力の収束。背後を振り返れば再びホールの反対側にナルの存在がある。その手には黒色の魔力が魔法陣を広げながら収束していた。即座にその術式が見た事のある人物の魔法であることを悟る。

 

「集え星光よ―――」

 

「トラウマ砲撃……!」

 

 スターライト・ブレイカーの術式だった。その破壊力は良く知っている。

 

「レヴィ!」

 

 それを止めるための動きに入る。名を口にした瞬間、全身に溜め込まれたレヴィの魔力が鳴動する。雷光をまき散らしながら体は一気に加速し、砲撃の発射体勢に入った敵に向かって一直線に突き進む。再び設置された機雷が砲撃へと変換されて襲い掛かってくるが、雷光を纏った体はそれよりも早く動き、砲撃を掻い潜ってスターライト・ブレイカーを展開するナルへと向かって雷光を纏ったまま腕を振るう。

 

「空破断!」

 

 雷撃が衝撃となって空気を振動させながら一直線にナルを貫通する。だがその姿は攻撃を受けた瞬間忽然と消失する。空気が揺らぐように消えるその独特の消失の仕方は見覚えのある消え方で、自分の身近な人物が好んで使っていた手段だ。

 

 即ち―――幻影。だが残されている術も魔力も本物のそれは乱れようもなくそこにちゃんと存在していた。即ち、魔法の遠隔操作と、

 

 ―――破棄。

 

 術式が破棄されたことにより収束された魔力が方向性を失って暴走を開始する。収束は反発を生み、溜め込まれた魔力は一瞬で広がりながらホールという狭い空間に広がり、そこにある人間も椅子も、全ての物質を等しく飲み込みながら破壊し始める。全身に纏う魔力を引き上げながら腕を交差させ、体を丸める。襲い掛かってくる衝撃に耐える。

 

「―――かっ」

 

 黒色の波動と暴威が体を一気に壁に叩きつけ、衝撃を浴びせ続ける。だがその中で目を開いてみる。調べる。探す。確認する。そして―――見つける。

 

「そこかぁぁぁぁああああ―――!!」

 

 雄たけびを上げながら魔力を放出し、蹂躙してくる暴威に逆らう。そうして確認したのはナルの位置。相手の居場所。それを睨んで、放出する魔力に暴威の相手を任せて、ダメージを無視して直進する。

 

「なっ―――」

 

 流石にそこまでするのは敵としても予想外だったらしい。その表情には驚愕の色が濃く映っていた。あぁ、そうだ。普通ならあそこで耐えてから攻勢に出る。でなければ負担が大きい。ロスが多すぎる。何よりも常識的な考え方ではない。

 

「見つけたぜぇ……!」

 

 見つけた。いた。転移で少し離れた位置にいたが、その場所は把握した。

 

 そして、そうだ。

 

 ―――俺は正気じゃない。正気は捨ててきた。ここにあるのは狂気だ。狂気しか残していない。こんな姿勢で挑む奴が正気なわけがないだろう。ティアナが泣いているのを見たあの日、自分の中には欠片も正気が残されていない事に気づいた。俺は狂人だ―――人間で居たかった狂人だ。心だけは人間であり続けたい狂人だ。狂っている。こんな事が許容できる人間なんて狂っている。狂っているから、

 

「頼む、力を貸してくれ……!」

 

 預けてくれた少女の術式を発動させる。近くにあった管理局員、気絶している間に攻撃の余波を受けて死んでしまった者の胸に手を当て、そしてその中から刃を、ブラッドフレイムソードを引き抜く。極大の杭の様な剣。その破壊力を証明するためにも―――それを全力で投擲する。

 

「エンシェント……!」

 

 力の限り投擲された刃があらかじめ用意されておいたユーリの分の魔力を吸い上げて全てを貫通する。壁を、構造体を、プロテクションを、その全てを貫通して己を無と呼ぶリインフォースの体に突き刺さり―――そしてその体が壁へと衝突し、突き抜けて更に直進する。

 

「行くぜ」

 

 ナルが吹き飛んだ方向へと向かって再び雷光を纏って向かって行く。加速はあっさりと壁を破壊しながら貫通したリインフォースへと到達し、そして雷光と炎を纏った拳を全力で、叩き込める最大限の力を込めて剣の柄を殴る。

 

「マトリクス―――!!」

 

 更に敵の体が吹き飛ばされて進むのが見えた、刃は完全に体を貫通した。その衝撃で大気が焼ける様な感覚を得る。そして鼻に付くの血の臭いと、濃厚な死の臭い。吹き飛ばして本局内に出来上がった穴の先からまだ魔力を感じる。その先に相手がいる事を把握し、相手の居場所へと向かって進む。短い移動。

 

 そうして貫通痕から生み出されたトンネルを通りぬけて到着するのは―――かなり広い空間だった。障害物も人も何もない、球状の広い空間。どんな魔法も十全に使えるように想定して生み出された空間。即ち訓練場。直感的にここへと誘い出された事を理解し、軽く舌打ちする。リインフォース・ナルは傷だらけの姿を訓練場の中央で浮かぶように見せている。その体からは血が流れている……といっても普通の人間と比べれば明らかに少ない量だ。だがその傷口―――体にできている貫通痕も少しずつだが目の前で塞がって行くのが見えてゆく。どうやら相手は回復魔法まで得意らしい。

 

 飛行魔法を発動させて虚空に立ちながら、自分に回復魔法を発動させながら虚空に立つ敵を見る。こいつはティーダの仇だ。ティーダを殺した女だ。こいつを殺せばティーダの仇を取れる。だから、最低でも勝たなきゃいけない。この後もあるのだから。だが、それを抜きにこの女に関しては非常に気に入らない事がある。だから、この女に負ける事だけは俺のプライドが許さない。

 

「―――侮っていた、とは言わない。融合機として、ユニゾンしない状態で戦っても十全に実力が発揮できないなどとは決して言わない。これが己の性能だ。性能以上の事は出来ない。故に私は判断する―――その性能故に私は勝てると」

 

「ほざけ道具―――貴様にだけは負けない。ティーダの仇とかどうとか、そういう事じゃねぇ。貴様の様な愚図に負ける事は俺の矜持が許しはしない。いいか、良く聞けよ道具―――現実から目を逸らして生きる様なクソに俺は負けたりしない」

 

 互いに睨みあい、そして、発動させる。

 

「―――フルドライブモード」

 

 同時に限界起動に入る。状況は”相手が”有利。環境も相手が有利。精神的には―――負けはしない。

 

 あぁ、そうだよなぁ。覚悟してくれベーオウルフ、タスラム。ここからが本番だ。ここからが戦いの全てだ。

 

「広がれ夜天の闇よ、世界を覆え―――」

 

 リインフォース・ナルが夜を招来する。球状の訓練場の壁が全て暗雲とその中をとどろく雷鳴によって覆い尽くされる。一瞬で戦場が全て敵によって支配される空間と化す。複数の広域殲滅魔法を展開し、君臨する敵を前に、宣言する。

 

「俺は―――俺達はもう負けない。そう誓ったんだ」

 

「―――降り注げ絶望。デアボリック・エミッション」

 

 デアボリック・エミッション―――広域殲滅の闇が複数、降り注ぐ。




 己を人間とする定義とはなんですか? という事が重要ですよ今回は。

 なんでもあのユニゾンした暴走アインスは聖王ヴィヴィオと同じ強さらしいですね。なんたるインフレ。話し合った結果Stsなのはさんはヴィヴィオ倒せたしあの時のアインスも倒せるという結果に。パネェ。

 今更だけどイストのモデルはあの人

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