マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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ビギン・アズ・ア・チーム

「ふぅ、そっちはどうスバル?」

 

「うん、こっちも終わったよ」

 

 額についた汗を軽く拭い、自分とスバルに与えられた新しい部屋を確認する。古代遺物管理機動六課。通称機動六課へと入隊のサインをしてしまった為に今まで使っていた寮を出る必要が出来た―――何故なら起動六課には専用の隊舎と寮が与えられるらしいからだ。驚くほどに金が使用されている。普通新設の部隊にそう簡単に隊舎が与えられる事なんてない。だが寮を変えると言う事は引っ越しする必要が出てくるという事だ。なら今使っている部屋を引き払う必要が出てくる。故に、スバルと共に荷物を全てダンボールに詰め込んでいた。いた、つまり過去形だ。今まで使っていた部屋は完全に寂しい状態となっていた。荷物は既にダンボールの中へと収納されており、そして持ち運ぶ準備は完了していた。

 

「じゃあスバルちょっと下がってて」

 

「あ、ついでに何か飲み物でも買ってくるよ」

 

「サンキュ」

 

 スバルが部屋から出てゆく。その方が自分も集中できるので助かる。

 

 スバルが部屋から出るとタスラムを取り出し、片手でタスラムを握りながらもう片手でホロウィンドウを出現させる。そうして必要な申請書などの項目をチェックし、ちゃんと己が許可を得ているのかと、そして回線が通じているのかを確認する。転移魔法による引っ越しサービス。実は結構値段がかかるので普通に車やトラックで運ぶのがメジャーなのだが、この費用も六課持ちだ。市街地内での魔法使用やら転移やら、結構な額がかかって普通ではできない事なだけに少しだけ心が躍る。

 

「タスラム」

 

 名を呼ぶのと同時に魔力を解放し、専用の魔法を発動させる。一回限りの消費式の魔法。それでこの場所と、そしてあちら側が繋がる。かかる魔力もDランクで済む超お手軽運送。タスラムからのゴーサインを待ち、変化してゆくホロウィンドウを眺める。やがてそれがすべて消え、ゴーサインを示すホロウィンドウが出現する。

 

『Set, ready. Any time is fine』(セット完了。何時でもいけます)

 

「アポート!」

 

 キーワードを口にした瞬間、部屋をオレンジ色の光が満たし、そして部屋の中にあった荷物が転送される。これで自分とスバルの荷物は機動六課の専用寮へと送られた。そう、専用という言葉が付く―――結構重いなぁ、と思う。段々とだが機動六課の規模と戦力の異常性を感じる。明らかにレリック専門にしては物々しすぎるのだ、機動六課は。

 

「怖いなぁ」

 

 未知こそが最大の脅威であり恐怖である。誰の言葉であるかは忘れたが、それでもその言葉は真実だと思う。純粋に理解できない事が自分に取っては一番の恐怖だ。だから高町なのはという人物に関してはそこまで恐怖を感じない―――彼女の存在は彼の葬式で知っているからだ。だからどんな乱暴な行動で、横暴な行動で接しようとも恐怖になる事はない。逆に行動の見えない、意図を見せないはやての様なタイプの人間が一番怖い。何をしてくるか解らないという部分があるからだ。なるべくなら相対したくはないタイプだが、

 

「味方だし、今はいいか」

 

 深く考えてもどうせ無駄だろう。レリック専門の部隊というのが明らかに”表向き”の理由である事は聡い管理局員であるならば明らかに解る事だ。そしてそれをどうせ部隊発足日―――つまり今日あたり、集めた人員に対して発表するのだろう。どういう思惑があるのかは解らないが、それを今は飲み込むしかないのだ。毒食らわば皿まで、というのがゲンヤの言葉だ。そしてやるなら容赦はするな……に、やるなら弱点を徹底的に暴いてから……が二人の兄の言葉だ。つまりとりあえず突っ込んで弱みを握って遠慮するな。相変わらず頭おかしいな、あの二人の言葉。

 

「ティア、終わった? はい」

 

「うん、ありがとう」

 

 戻ってきたスバルがスポーツドリンクを渡してくる。相変わらずのチョイスだなぁ、と思いつつもスポーツドリンクを飲む。一仕事を終えた後で飲むには十分美味しく感じる。飲み終わったところで自分とスバルの恰好を確認する。どちらも機動六課の制服へと陸士隊の制服から着替えている。つまる所、六課へと移動する前の準備は全部完了した。時間を確認する。隊長の挨拶やら色々と儀礼的なものも存在するだろう。予定外の事故を見越して十数分早く出ておくのは悪い選択肢じゃないだろう。

 

「じゃ、行きましょうか」

 

「うん。実は結構ワクワクしてるんだよね」

 

 スバルの目を輝かせる姿に苦笑する。そんなもの、

 

「見てりゃあ解るわよ」

 

 

                           ◆

 

 

 前の寮からタクシーに乗って一時間ほどでミッドチルダ南駐屯地に到着する。湾岸地区に当たるこの場所は少しだけ、交通が不便に感じられるが……すぐ裏手が海だ。開けているために水上で訓練を行う分には広くていいんじゃないかと思う。寮の位置も隊舎からそう離れていないから日常的な生活で困る事はまずないだろうし、ミッド中央という事で位置関係は最高だと思う。スバルと共にタクシーから降りて、これから一年世話になるであろう大きな隊舎を眺める。

 

「これが今日から私達はお世話になる場所だよ」

 

「知ってるわよ」

 

 テンション高いなぁ、とスバルの姿を若干微笑ましく感じつつ隊舎内に入ると、既にそこには多くのスタッフの姿が見えた。メガネをかけた薄い青色の髪の青年が此方を見かけると同時に近寄ってくる。即座に敬礼する。そのアクションにスバルが即座に反応するからただの脳筋ではない事は解る。

 

「スバル・ナカジマ二等陸士とティアナ・ランスター二等陸士ですね。お二人はスターズ分隊のフロントとして配属されています。コールサインの方はもう既に把握していますよね? ……その様子を見るに大丈夫そうですね。あちらの方に―――」

 

 と言って青年が隊舎、ロビーの一角を指し示す。そこには自分よりも遥かに小さい子供が二人ほどいた。予め聞かされていたとはいえ、改めて目撃するとなると少しだけ頭が痛くなりそうだ。―――が、こうやって参加しているという事はつまり”そういう事”なのだろう。気にするだけ馬鹿な話だ。大体、管理局全体から見てそう珍しい年齢でもあるまい。それに判断する事に個人の主観を判断に混ぜるのは悪手だし。

 

「ライトニング分隊の二人がいますので、課長の挨拶の前に少し話し合っておくといいと思いますよ」

 

「ありがとうございます」

 

「いえ、では」

 

 そう言うと男は去って行った。スバルへと視線を向ければサムズアップを向けられる。彼女の方に関しては特に抵抗感とかはないらしい―――あぁ、そう言えばスバルは結構若い頃から格闘術やら魔法やら教わっていたなぁ、と思いだす。自分の場合は危険だから、と兄が全くタスラムに触れさせてくれなかった事を思い出すが。そんな思い出が脳をよぎり、軽く苦笑しながらも自分達と同じ新人魔導師へと近づく。相手の階級は確か―――三等陸士だったはずだ。近づくと相手もこっちを察す。

 

「あ……」

 

「初めまして、スターズ分隊スターズ04のティアナ・ランスターよ。階級は二等陸士でセンターガード担当よ」

 

 赤毛の少年と、そしてピンク色の髪の少女へと手を伸ばすと、直ぐに応答と握手が返ってくる。

 

「え、エリオ・モンディアル三等陸士! ライトニング分隊のライトニング03です! ガードウィングを担当させていただきます!」

 

「キャロ・ル・ルシエ、同じくライトニング分隊でライトニング04、フルバックです!」

 

「あ、私スバル・ナカジマね。スターズのスターズ03でフロントアタッカー―――」

 

「ふんっ!」

 

 余りにもなれなれしいスバルに対して軽くローキックを叩き込んで床に倒す。エリオとキャロが軽く吹きだすが、それは無視して床に倒れたスバルのケツに一発ケリを叩き込む。周りから一瞬だけ視線が向くが、直ぐに自分の会話に戻る辺りここの人間も割とセメント寄りな芸風の持ち主たちなんだろうなぁ、と軽く把握できた。グッジョブスバル、その犠牲は忘れない。

 

「酷いよティア!」

 

「初対面でなれなれしすぎるのよアンタは。―――ほら、年下の子達が怯えちゃってるじゃない」

 

「いや、それ確実にティアが原因でしょ」

 

 エリオとキャロへと向けると子供のくせに苦笑いという高等なテクニックを使っている。器用なものだなぁ、と思うと同時に苦笑いができる程度には苦労しているんだろうなぁ、と判断する。まあ、彼らの過去に関しては、自分は興味も関係もないものだ。だから今はそれを思考から追いやっておく。床に座りこんでしまったスバルに手を隠して引き上げる。

 

「え、えーと、大丈夫ですか……?」

 

「え? あ、うん。平気平気。こう見えても頑丈だからティアが本気で蹴ってきてもダメージが来ないぐらいには体鍛えているから!」

 

「それはつまり私の制裁は全く通じてないって言いたいのかしら」

 

 少しだけ凄んでスバルを睨むと、スバルが困った様子を浮かべながら後ずさる。その光景を見ていたエリオとキャロが軽く笑い声を零す。その姿をスバルと共に見て、そして互いを見る。まだ遠慮は残っているが、普通に笑えるなら少しは距離が縮まっただろう。残りは追々詰めてゆくとして、これから共に機動六課で頑張って行く仲間だ……距離が詰まるのはいい事だろう。

 

「ま、こんな感じで結構二人でデコボココンビをやってたんだけど、これからは割と一緒みたいだしよろしくね?」

 

「ふふ。はい、よろしくお願いします」

 

 改めて握手を交わし合うと、ロビーの奥の方から現れてくる姿を見つける。―――八神はやてだ。となると挨拶が始まるに違いない。軽く服を整え直し、スバル達共に背筋を伸ばして真直ぐに並ぶ。ロビー中央、全員を見れる位置にはやてが立つと、その横にフェイトとなのはが、そしてそのさらに横にヴォルケンリッターが控えていた。何時みても凄まじい顔ぶれだとしか言いようがない。まさかともに仕事をする日が来るとは思いもしなかった。

 

 はやてが全体を見回すと、笑みを浮かべて頷く。

 

「こんにちわ、私がこの隊の総隊長で課長の八神はやてです」

 

 檀上に立ったはやてを機動六課に参加するメンバーが全員視線を向けている。誰もが一字一句逃さない様に視線をはやてへと注ぎ、その言葉へと集中している。それをおそらくはやては理解している。だからすぐに次の言葉をしゃべる訳でもなく、ゆっくりと考える時間を与える様に短い時間を置き、そして再び続ける。

 

「この隊の正式名称は古代遺物管理機動六課……私は通称機動六課って呼んでいるんですけど、この隊は名目上としては古代遺物、ロストロギアの確保を任務としています。特にその中でもひときわ最近危険性を示す物、レリックに関する事が専門になると思いますが、それ以外にも色々とこの隊には思惑があって、本局の意向もあり様々な設備を融通してもらいました」

 

 少しだけざわつく。だがそれもすぐに収まる。人望であればこの場において八神はやてに勝る人物はいないだろう。そしてそれが、はやてに対して後ろめたい疑いを持つことを遮る。そういう繋がりを、実績を、重要だと把握している人物だ彼女は―――ゲンヤに昔隊の運営や人の使い方を教えたと聞いた時、妙に納得できてしまった。

 

「だけどそういう上の思惑とか皆には気にしないでほしい。最高のバックにフロント、たった一年だけの夢の様な部隊……それが今の私達。たった一年の試験運用。でも、こうやって皆を前にして私は一年後に皆で”最高のチームだった”って言えることを確信しています。……さて、これ以上話してたら”話の長い課長さん”って思われてしまうし切り上げましょうか」

 

 その言葉に小さな笑い声が上がり、

 

「では―――これから一年、色々な事が起きると思います。涙を流すかもしれませんが、笑う時も多いでしょう。そういう事を一つ一つ幸いとして受け入れられるような所でいたいと思っています。では機動六課は本日より発足です、今日から頑張っていきましょう」

 

 応えは拍手と共にロビーに響く。はやてが壇上で頭を下げて降りると、周りがあわただしく動き始める。隊長の挨拶が終わったのでそれぞれが己の部署へ、役割を果たす為に動き始めているのだ。そしてそれは自分達もすべきことなのだろうが―――基本的に出動が無ければ訓練、というのが平時における自分たちの日常だ。だとすれば、

 

「おーい、新人さん達ー」

 

 声に呼ばれ、その主を見れば先ほどまではやての傍にいたなのはが機動六課の制服姿で近づいてくる。素早く敬礼をしようとすると、苦笑されながらいいよいいよ、と手をひらひら振ってくる。

 

「私そういう形式ばったのは苦手だから私の場合は基本的に楽にしていてね? あ、あとね、一時間後に裏で訓練を始めるから荷解きするなり訓練用の服装に着替えるなりポジションの確認するとか、いろいろ準備しておくといいよ」

 

 なのはが笑顔を浮かべる。

 

「うん、覚悟するといいよ」

 

 なのはの胸元のレイジングハートが光信号でメッセージを伝えてくるがその内容が不吉な様な予感がして到底確認する気はない。横で解読してしまったキャロが若干震えてしまっている様な気もするが、それは些細な問題だろう。……高町なのはの教導は苛烈という話も聞いているし、

 

「遺書でも書いておこうかなぁ」

 

「そ、そんなにひどいんですか!?」

 

「昔ニュースでレポーターが容赦なく砲撃三連発食らってたのを目撃したわ―――絶望的ね?」

 

「それって教導じゃなくてただのリンチですよね」

 

 あの女の頭では正当性があるらしいので恐ろしい。

 

 ともあれ、機動六課は部隊として機能を始めてしまった―――覚悟するしかない。




 エリキャロはフェイトそんに育てられたために割と普通のようです。脱ぐのかな。

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