あるいは訪れたかもしれない、彼女達の七夕。   作:小林ぽんず

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まさか2話構成なるとは…!





 すー。はー。

 

 もう一度。

 

 すーー。はーー。

 

 …もう一度だけ。

 

 すーーー。はーーー。

 

 かれこれ五分くらいこんな事をしている気がする。

 

 雪乃ちゃんのマンションに到着したはいいが、インターフォンを押せないままでいた。

 

 ホテルでは隼人に促されるまま、嬉しさだけに突き動かされてパーティーを抜け出したはいいが、マンションが近づくにつれて不安と気不味さとが襲いかかり、段々と大きくなったそれは、ついに私の足を止めるまでになっていた。

 

 マンションのロビーにあるソファーに腰掛け、どうする事も出来ないでいると、

 

「…はぁ。全く、何をしているのかしら、姉さん」

 

 思わぬところから声をかけられ、驚いてしまう。

 

 沈んでいた顔を上げると、目の前には部屋着姿の雪乃ちゃんがいた。

 

「…雪乃ちゃん?……どうして?」

 

「葉山君から姉さんがホテルを出たって連絡があったのだけれど、中々来ないから…」

 

「あ、あー…あはは…。ご、ごめんね?」

 

「いや、いいわ。だってこうして来てくれたんだもの。ほら、早く部屋に行きましょう?」

 

 そう言って微笑む雪乃ちゃん。

 

 そんな表情が私に向けられるのは初めての事で。

 

「…っ、うん!」

 

 また、泣きそうになってしまったのは雪乃ちゃんには内緒だ。

 

 

 

「えーっと。雪乃ちゃん?これは?」

 

「み、見て分からないかしら?た、たた…誕生日パーティーよ」

 

「そ、それは…見て分かるけど、ね?」

 

 雪乃ちゃんの部屋はなんというか、こう、変だった。

 

 机の上には沢山のお皿。そこには唐揚げにハンバーグ、その他諸々、簡単に言えば子供が好きなメニューが多過ぎるくらいに並べられていた。

 

「なんというか…料理、子供っぽくない?」

 

「し、仕方ないじゃない…!姉さんの好きな料理なんて、子供の頃のメニューしか知らないんだもの」

 

 そう言う雪乃ちゃんの顔は真っ赤に染まっていて。

 

「ふふ。ありがとうね、雪乃ちゃん!じゃあ、食べよっか!」

 

「ええ、そうね」

 

 なんだ。こんな簡単な事だったんだ。

 

 きっと私達は不器用で、少しの捻れが、溝が、少し見る角度を間違えた所為で、どうしようもなく大きく見えていただけなのかもしれない。

 

 切っ掛けさえあれば、変われるのかもしれない。

 

 真っ赤な横顔でこちらをちらりと見る雪乃ちゃんを見て、そんな事を思って、なんだか、やっと気が晴れた気がした。

 

 

 

「姉さん。料理、多過ぎるのだけれど」

 

「いや、雪乃ちゃんが作ったんだけどね…」

 

 おいしいけど、もううんざりだよ…

 

「私、少しお手洗いに行ってくるわ」

 

「うん、いってらっしゃーい」

 

 とてとてと歩いていく雪乃ちゃんを見ながら、「あ、今の姉妹っぽいやり取りだなー」なんて思って頬が緩む。

 

 それにしても、まさか雪乃ちゃんと二人でどうしようもない雑談しながらご飯を食べる事になるなんてな。ふふ。

 

 ふと、部屋を見回して目に入ったのは、パンさんのぬいぐるみ。けれどそれは、少しだけ違っていて。

 

 パンさんがその手に手に持っているのは笹の枝葉。その葉には一枚の短冊がかかっていた。

 

 見ていいものだろうか。ええい、見てしまえ。こんなに面白そうな物を見ないなんて雪ノ下陽乃じゃないし!

 

 ぴら、と短冊をめくり、雪乃ちゃんの願いを盗み見る。

 

『姉さんと仲良くなれますように』

 

 何度も消した跡がある短冊には、短く簡潔に、それだけが書いてあって。

 

 それで全て納得がいった。今日、雪乃ちゃんがここに呼んでくれた理由も、何もかも。

 

 本当に、雪乃ちゃんを変えてくれた二人には感謝しないといけない。こんなにも素敵な誕生日プレゼントを貰う事ができたのだから。

 

 だからきっと、次は私が変わる番なのだろう。

 

「だったら、姉さんも願ってみればいいじゃない」

 

「なんだ雪乃ちゃんか。いたんだ」

 

「人の願いを勝手に見ておいて、よく言えたわね」

 

「あー、面白そうだったから。つい、ね?」

 

「はぁ…まぁいいわ。それで、姉さんも書いてみればいいじゃない」

 

 そう言って雪乃ちゃんは一枚の短冊を渡してくる。

 

「願い。願い、かぁ」

 

 考えた事もなかったなぁ。

 

「難しく考える事ないのよ。きっと。私も姉さんも。すごく遠回りをしてしまったけれど、これからじゃない。だから私は、姉さんと仲良くなりたいと、そう願ったのよ」

 

 全く、いつの間にこんなに成長したんだろうなぁ。我が妹ながら、感心するしかない。

 

「…うん。そっか。そうだよね。ありがとう」

 

「ええ。だから、これからよろしくね。姉さん」

 

 そう言ってこちらに笑いかけてくる雪乃ちゃんは、とっても素敵だった。

 

 

 

 

「では、とりあえず何か書いておいたら?」

 

「んー、そうだねぇ。じゃあ、こんなのはどう?」

 

「どれどれ『雪乃ちゃんが大好きなお姉ちゃんの為に勢い余って作りすぎた大量のご飯を無事に食べきれますように』?……姉さん?」

 

「あははははっ!だって〜!本当の事だもんっ!」

 

「全く…姉さんは…。ふふふ」

 

「あはは。本当に、ありがとね。雪乃ちゃん。短冊だけどさ、いいや!」

 

「あら、なんで?」

 

 

 

「だって私ね、雪乃ちゃんとこうやって笑い合うのが、ずっと夢だったんだもん!」





というわけで、雪ノ下陽乃誕生日記念SSでした。
たまにはこんなのもありでしょう!

ところで、ツイッターやってます。
@ponzuHgirです。

よければどうぞ。
では、ありがとうございました!


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