このお話の設定としては、キル姫は元の持ち主の顔は覚えていません。名前だけが頭の中にある、という状況です。
「ここは・・・?カルデアでは無いようですが・・・」
見渡す限りの白い景色。それはカルデアから見た山上の雪景色ではない事は確かだった。何と言うか、この世に存在する場所でも、あの世に存在するような場所でもないと思った。
「おや、あれは・・・」
何か無いかと探していると、遠くに一つ人影が見える。ここの住人だろうか、それとも私と同じ、迷い人だろうか。彼女はその影へと歩いてゆく。
しばらく歩いているうちに、それは人だということが分かった。私と同じような金色で長い髪。女性だろうか?・・・カルデアには男とも女とも取れるような英霊が一定数いるので、あまり見た目では判断しないようにしている。
「すいません、そこの御人」
その言葉に反応したのか、こちらを振り返る。白い服装に麗しい顔立ち。間違いない、女性だ。
「申し訳ないが、ここが何処だか知っているのなら教えて頂きたい」
「すいません、私もここが一体なんなのか、把握できていないのです」
申し訳なさそうに彼女は答えた。
「あぁ、マスターをお守りしなければならないのに・・・」
「マスター?貴女も召喚されたサーヴァントなのですか?」
カルデアに彼女は、いや彼女じゃないにしろ、彼女とよく似ている人間は居なかった。ということは、私のマスターとは別の魔術師が居るのだろうか。まぁ本来の聖杯戦争ならばそれが普通で、さらに言えば、人理は守られたのだから、マスター以外の人間が英霊を召喚することはなんら不思議ではない。
でも彼女からは予想もしない一言が帰ってきた。
「サーヴァント?召喚?それはいったい・・・」
まさか、彼女は現代に生きる人なのだろうか。ならばあまりこの事は話さないほうが良いだろう。
「いいえ、お気になさらず」
そして詮索をされない為に、すぐに話を変える。
「ところで、貴女は何処から来たのですか?」
当たり障りの無い話題を投げかける。これは私のマスターがカルデアに来た英霊全てと親密な仲になるための手段だと教えてくれた物だ。
「何処から・・・ですか。出身はブリテンです。アーサー王物語をご存知ですか?信じられないとは思いますが、私はかのアーサー王の持っていた聖剣なのです」
笑顔で続ける。
「自己紹介をしていませんでしたね。私はエクスカリバー。皆が良く知る聖剣のキル姫なのです」
キル姫、という知らない単語が出てきたが、今はそんな事どうでもよい。彼女は私の剣、エクスカリバーだというのだ。
「どうしたのですか?そんなに動揺したような顔をして・・・」
「いえ、自分の剣が人で、さらにこんなに美しい人でありましたから、驚いてしまって」
「え・・・?では、まさか貴女は・・・!」
「私は、ブリテン王国の王であり、貴女の持ち主・・・いや、人に向かって持ち主というのもおかしな話だ。貴女とともに戦場を駆けた、アルトリア・ペンドラゴン・・・」
そう言うや否や、彼女が飛びついてきた。ほのかな人肌の温かみを感じる。
「あなたが、私の持ち主だったのですね・・・!会いたかったです。そして、謝りたかった」
彼女に触れたとき、あの時の事を思い出した。聖剣を抜いたときから始まった、王としての人生。最後に裏切りによって終わった人生を。
「・・・いいえ、謝る必要なんてありません。悪かったのは、私の王としての有り方なのだから」
「でも・・・!」
「そして私は、ある人と出会って変わった。だから、泣き止んでください、エクスカリバー。私の剣に涙は似合わない」
ハンカチを取り出し、彼女の涙を拭う。恥ずかしかったのか、顔が真っ赤になったが直ぐに笑顔に変わった。
「そうです。その笑顔、綺麗ですよ?」
そこから私たちは色々な話をした。私がお世話になった人々の話。私が出会った、私の鞘を持っていたマスターの話、世界を救うために戦った話。そのお返しにと、彼女からは私たちとは違う世界の話を聞いた。天文台に住む老人の話。彼女のマスターの女たらしっぷりの話。・・・余談だが、この話にはとっても共感を覚えていた。
そうこうしているうちに、体から金色の光が漏れ始める。それは、目の前の彼女にも。
「アルトリア、これは・・・」
「別れの合図のようなものですよ、エクスカリバー。心配する必要はありません」
「別れ、ですか・・・」
彼女は悲しい顔をする。だから私は、召喚の可能性を示唆した。
「もしかしたら、貴女の世界の召喚でも、私を呼べるかもしれません。そのときの私はきっと、この時の事を覚えていないでしょうが・・・」
手を差し出す。
「武器とその持ち主、という関係ではなく、長年連れ添った友人として共に戦わせてくださいね?」
その言葉は彼女にまた涙を誘わせた。でもその涙はきっと悲しいものではなかったはずだ。だって、私の差し出した手を笑顔で握ってくれたのだから。
「もちろんです。アルトリア、また会いましょうね、きっと・・・」
「えぇ、いつかまた、きっと」
そうして、私たち二人は金色の光に溶けていく。
目覚めると、そこはカルデアの自室。
「どうやら、戻ってこれたようですね」
立て掛けてある約束された勝利の剣に目線を向ける。いつかまた、会えますよね、と。
この後、ファンキルにて。彼女のマスターは無事にセイバーを引き当てたのであった・・・。
という事でこのお話は終わりです。一応次回はランスロットとアロンダイトのお話を予定していますが、リクエストがあればなるべく答えようと思いますよー。