ランスロットは円卓最強と呼ばれた騎士である。しかし最強とはいえ完璧ではない。彼の女性関係はとてもだらしない。故に、マシュから、最低ですとか近寄らないでくださいとか厳しい言葉をよく受ける。
彼はそんなマシュとの関係に悩んでいるようだった。
「・・・はぁ」
彼は自室のパソコンの前に座りため息をつく。画面には『娘との付き合い方』と書かれている。
「娘、か」
私には息子が居た。その名はギャラハッド。聖杯探索を成功させた騎士であり、円卓の13番目の席の呪いを跳ね除けた男。だが私は、彼を認めることが出来なかった。彼を見ていると、とても強い何かが私を押し潰そうとしてくるからだ。
そして私は、彼を認めることなく、彼とはもう二度と会うことは無かった。もう謝ることなど、父として接することなど無いとも思っていた。だが、どうやら私たちは数奇な運命を辿ったのだった。
うっすらと記憶している。あの最果ての砂漠で、マスターとマシュを相手に戦った事。そして、彼らと共に獅子達と戦った事。そのとき、私は確信した。ついに、謝る時が来たのだと。
ギャラハッドはマシュに自らの力を譲渡した。彼女の中に彼の霊基が見える。彼女はギャラハッド本人ではないが・・・それでも、なんとか謝りたかった。私の自己満足なのは分かっているのだが。
「おっと、もうこんな時間か」
時計は12時を指している。マスターはもう眠る頃だろう。カルデアの資源問題は解決されたとは言え、夜遅くまで電気を消費するのはあまり良くないだろう。ダウィンチ嬢から怒られてしまう。・・・やぶさかでもないと思ってしまった自分を呪いたい。
ベッドに横たわり、目を閉じる。
「む・・・?」
起きるとそこは、見覚えのある湖だった。幼少期から青年期までを湖の乙女と過ごした、あの湖。そこにはひたすらに剣を振るう一人の乙女。だが彼女は、この湖の乙女ではない事ははっきりと理解できた。私は、何故だか彼女に旧友のような親しみを覚えていた。
そういえば、何故私はここにいるのだろうか?先ほどまでカルデアで寝ていたはずだったのだが。まぁいい、彼女が何か知っているかもしれない。ランスロットはゆっくりと静かに、修練の邪魔をしないように近づいていく。
「二百六十一、二百六十二ッ!」
「レディ、少し聞きたいことが・・・」
彼女の肩に手を載せたその時。
「きゃあっ!」
「ぬおっ!?」
剣が百八十度回転。ランスロットの腹の部分を掠め、軽い金属音が湖畔に響く。
「あ・・・すいません!お怪我は・・・?」
「いや、謝らなくていい。剣の修練中に邪魔をした私が悪かったよ」
鎧が無ければ軽く斬れていたかもしれないなと思いつつも、目の前の女性に心配を掛けさせないように振舞う。
「君があまりに美しく剣を振るうので、すこし見惚れていたようだ」
頭にある言葉がよぎる。お父さん、また女性を誑かしているのですか最低です。
「ぐっ・・・」
「本当に大丈夫ですか?顔色が優れませんが・・・」
「後悔しているだけだよ。私の手元に剣があれば、君と少し手合わせ出来たのにな、とね」
彼女の心配そうな言葉に笑顔で答える。すると彼女にも笑顔が伝わる。やはり女性は笑顔が良く似合う。
ところで、何故彼女がこの湖にいるのだろうか?彼女のような英霊は見たことも、聞いたことも無い。
「あの・・・失礼な事をお聞きしますが・・・」
「ん?あぁ、構わないよ」
「私たちって、何処かでお会いしました?貴方の事を見ていると、どうも他人とは思えなくて・・・」
「奇遇だね。私も君に何故だか、不思議な感情を持っている」
どうやら彼女も、私と同じ疑問を持っていたようだった。
「名前を聞いたら、互いに思い出すかもしれません」
「ふむ、いい案かもしれないな・・・」
咳払い。
「私の名前はランスロット。クラスは・・・どうかしたのかい?」
「ランス・・・ロット・・・?」
彼女は私の名前を聞いて止まってしまった。・・・もしかしたら私がいつか出会った女性なのかもしれない。冷や汗をかきながら彼女の反応を待つ。
「こんな所で出会えるなんて・・・。私のもう一人の主人(マスター)」
そう言うと彼女は膝を付く。
「ちょ、ちょっと待ってくれたまえ!私は君のマスターではないし・・・!」
「アロンダイト、私の名前はアロンダイトです!貴方と共に王と仕えた、貴方の剣です!」
その言葉で一つの糸が紡がれる。
「君が・・・アロンダイト・・・。なるほど、だから・・・」
あの不思議な感情は、我が剣への信頼。彼女は間違いなく、私の剣アロンダイトなのだ。
「会えてよかった。ランスロット卿」
「あぁ、私もだ。アロンダイト・・・いや、レディ・アロンダイト」
彼女は私の剣であるとは言え、今は人。ならばレディと呼ぶのは必要な礼儀であろう。
「この前、エクスカリバーが言っていたのです。夢の中でアーサー王と出会ったと。もしかしたらと思っていましたが・・・」
「我が王も自らの剣と会っていたのか!」
あの方も話してくれればよいのに・・・と苦笑いする。そうだな、戻ったらこの事を話してみよう。
戻ったら、か・・・。そういえば、マシュとの付き合い方も考えねばならないな。年頃の女の子の気持ちは難しいが・・・。友人にそんな気持ちが分かる女性がいたらいいのにな。
「あの・・・どうかしましたか?」
そうだ、ここに居るじゃないか。信頼のおける仲の、年頃の女性が。
「アロンダイト、君に聞きたいのだが・・・」
「なんでしょうか?」
「年頃の生娘の喜ばし方を教えて欲しい」
「ハァッ!!」
「ぐふっ!」
迷い無くわき腹に剣をぶつけられた。
「そういうことですか。私はてっきりまた女性関係のいざこざかと」
「君もマシュみたいなことを言うんだな・・・イテテ」
あの後、事細かに訳を話した。ギャラハッドの力を受け取ったマシュという女性の話と、彼女への接し方がわからないという事を。
ちなみに彼女の剣の速さは、その一瞬だけ私のものよりも早かった。
「簡単ですよ。彼女がギャラハッド卿に似ているというのなら」
「簡単なのか?いつもお詫びの品を送っているのだが・・・」
「そんな逃げ腰だから、嫌われるのではないですか?謝りたいのならしっかりと面と向かってするべきです!」
彼女の真剣な眼差し。あぁ、そういうことか。私は逃げていたんだな。・・・騎士でありながら、情けない事をしているものだ。マシュやギャラハッドが避けるのも、当然の事か。
「あぁ、わかったよ。アロンダイト、こんな相談に乗ってくれたこと、感謝する」
「いえ、貴方の剣として当然の事ですから。良い報告を、お待ちしています」
突如、私たちの身体を光が包んだ。
「退去が始まったか。アロンダイト、これでお別れだ」
「そうですか・・・。名残惜しいですが、仕方ありません」
ゆっくりと身体が薄くなり始めている。彼女も同じく、足元はもう見えない。
「また会えたなら、互いの事をゆっくりと語り合いたいものだ。特に君の、今の持ち主に会ってみたい」
「私も、マシュさんに会ってみたいものです」
「叶うと、良いな?」
「叶いますよ、きっと」
そのまま二人は、その湖を後にする。
後日、カルデアのマシュの私室にて。
「マシュ、居るかい?」
ドアを軽くノックし、彼女の名前を呼ぶ。すると彼女はいつものように礼儀良く返事をする。
「ランスロット卿ですか?今開けます」
ドアが開いて、いつもの姿の彼女が目に入る。さて、気合を入れよう。
「マシュ、今日は・・・その・・・いい天気、だな?」
「そうですね。山の上では珍しい、一つの雲も無い素晴らしい快晴です。でも何故そんな事を?」
マシュは不思議そうに首をかしげる。あぁ、だめだだめだ。今言わなければ、また同じだ。
「・・・謝りにきた。本来なら、ギャラハッドに直接謝るのが先であり、筋なのだろうが・・・。」
彼女はそのままじっと、私の紡ぐ言葉に耳を傾ける。
「だが今は、君に。・・・本当にすまなかった。この通りだ」
頭を下げる。何秒経ったのだろうか。彼女の口が開いた。
「許しません」
・・・まぁ、そうだろうとは思っていた。しかし、心には来る物が・・・
「だってそれは、ギャラハッドさんに直接言うべき言葉です。私への言葉としては、間違っています」
分からなかった。もう、何も。だから私は、彼女に問う。
「申し訳ない、マシュ。私はこれ以上どうすれば良いのか分からない。だから、教えてほしい」
彼女はくすりと笑い、しょうがないお父さんですね、と私に耳打ちをする。
「・・・そうか、なるほど」
やっと理解できた。我ながら察しの悪い男だな。
咳払いをして、居住まいを正す。
「マシュ、私は・・・ギャラハッドの父親だ」
「そして、ギャラハッドは間違いなく、私の息子だ」
目の前の娘は笑顔で私の言葉に答える。
「私、マシュ・キリエライトはギャラハッド卿の力を借り受けた者として、貴方を許します」
マシュが求めていたのは、彼女への侘びではなく、ギャラハッドを息子と、はっきりと宣言するということだった。
「まったく、お父さんは察しが悪すぎますよ」
「返す言葉も無い・・・」
そういう彼女は少し怒ったように言うと、私の手を掴んだ。
「おっと、なんだい?」
「もうすぐ12時です、お父さん。一緒に昼食を食べましょう?」
「わかった。行こうか、マシュ」
「はい!」
手を引かれながら、ランスロットは思う。アロンダイトに感謝を、と。
その頃一方、ファンキルの世界では、アロンダイトが縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)というスキルを手に入れたのであった。
ということで終わりです。今回は僕が思うマシュとランスロットの関係性を書いてみました。
次回はアスカロンかバルムンク辺りを書いてみようかなと思います。