夢の中にて。   作:超高機動俺

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クー・フーリン ゲイボルグ

朝日が彼女の裸体に降り注ぐ。その暖かさで、彼女は目を覚ます。

 

「もう・・・朝」

 

彼女、ゲイボルグの1日は朝の決まった流れで始まる。

まず、いつもの服を着る。いくつか服は有るのだが、それは決して普段着ることは無い。然るべき戦い、自分が出るべき戦いの時にのみその服を纏い、戦場に赴くのだ。

そして服を着てすぐに鏡を見る。これは別に何気なくやっていることでは無い。ただ、朝に鏡を見るという行為に風水的な意味を感じていたからだ。

最後に、くじを一つ引く。くじの色でこの部屋から出る最初の足を決めるのだ。白なら右、黒なら左と。

 

だが、今日の朝は少し違った。引いたくじは白でも黒でも無く、灰色だった。当然彼女はそんな色をくじに入れた記憶は無い。

 

「どういうことだ・・・?」

 

他のキル姫、イタズラ好きなカドゥケウス辺りがやったのだろうかと考えたが、彼女ならこんな地味なイタズラはやらないだろう。彼女がやるならくじの中身を丸々入れ替えるだろうから。

 

そんな事を考えていたら、扉からノックの音が聞こえた。どうやらマスターがやってきたようだ。

 

「あ、あぁ、出る」

 

扉を開き、彼女の主に顔を見せる。

 

「おはよう。今日の色は?」

 

マスターは彼女の事をよく知っている。これはいつもの朝の挨拶なのだ。だが・・・。

 

「今日は・・・灰色だった・・・」

「灰色?そんなの入れてたの?」

「いや、入れた覚えは無い。あの箱に入れたのは赤と青の2つだけだ」

「寝ている間に・・・ってのは、ゲイボルグにはあり得ないよね」

 

そんな2人に近づく影。

 

「お皿、通りまーす」

 

おっとっと、などと呟きながら、この宿の従業員の1人が皿を運んでいた。仕事中だから邪魔してはいけないと、道を開ける。すると。

 

「ふわっ⁉︎」

 

木目につまづき、バランスを崩す。その人が持っていた皿の塔は真っ直ぐに彼女のマスターへ落ちていく。

 

「危ないっ!」

 

ゲイボルグはマスターを部屋の中へ引き入れる。マスターは皿の落下地点から離れ、無傷で済んだ。しかし、手を引っ張られたマスターは驚きのあまり彼女にぶつかってしまった。ゲイボルグは倒れ、頭を強く机に打ち付けた。彼女の意識は離れていく。

 

 

「腕が鈍ったかセタンタ?振りの速さが遅いぞ」

「俺が鈍ったんじゃなくてあんたがおかしいんだよ!師匠、あんたいったいどれ程の魔獣を影の国で狩ってきた⁈」

「はて、もう覚えておらぬ」

 

カルデアのトレーニングルームにて、全身タイツの男女2名が朱槍を用いて戦っていた。勿論殺し合いではなく、実戦を模した腕試し程度の物なのだが・・・。ある1人のサーヴァント曰く、「あれは腕試しじゃなくて、ただの殺し合いだよね?」との事。勿論あの槍に安全策なんてものは無い。そして2人の持つ槍は傷つけたらなかなか治らない、というかもう治らないというか呪いもある、絶望的に腕試しに似合わない代物なのだ。

しかし、だからと言って彼らに現代の槍術で使うような槍を持たせれば、30秒と持たずにぶっ壊す。これを投影したエミヤが考えた、アイアスを槍に張っておくという英霊のやる事とは思えない手段を使って守っても、いいとこ3分持つかどうかというとんでもケルト民なのだ。

 

「ところで、いつまでそこで見ておるつもりだ?私達とまでは言わんが、それなりには運動しておくべきだろう、マスター」

 

スカサハがそうマスターに尋ねた。ちなみにこの時のマスターはマシュに盾を借りて、もしもの時のために備えていた。

 

「師匠、マスター震えてるからよ、勘弁してやってくれ」

 

まぁあんな戦いを見せられれば当然こうもなる。だって現時点で朱槍のカケラがいくつか壁に刺さってるし。

 

「先輩、お怪我はありませんか!」

 

みんなの頼れる後輩、マシュ キリエライトがマスターの元に駆け寄る。

 

「心配すんなお嬢ちゃん、俺たちも最大限の気遣いはしてたからよ」

「あ・・・すいません!失礼でした、クー・フーリンさんやスカサハさんが先輩を傷つけることなんて無いのに・・・」

「気にするなマシュ。好意を抱いている者に気を使うのは、私達乙女の特権だぞ?」

「え?乙女?師匠がぁ?歳考えろよ」

 

ゲラゲラと大笑いする青タイツ。だが空気はメチャクチャ、寒かった。

 

「・・・セタンタよ、言いたい事はそれだけか?」

「え?あっ、しまっ・・・」

「ゲイボルクッ!」

 

朱槍が、ランサーの胸を貫く。

 

「ランサーが死んだ!」

「先輩⁈え、えっと・・・このひとでなし!」

「案ずるな2人とも。そのうち戻ってくる」

 

クー・フーリンはそのまま光と散っていった。

 

 

ここは影の国、数多の亡霊が闊歩する土地。そんな中に青いタイツの男が1人。

 

「ちくしょう、また面倒な事に・・・」

 

以前とまた同じ光景だった。違うのはマスターがここに居ないこと。これならある程度好き勝手できるし、また城にでも戻ればなんとかなるだろう、まぁすぐに戻れるだろうと思って居た。

 

まぁ城にはすぐに戻れたのだが・・・。問題はそこからだった。

 

「・・・誰かいるな」

 

前回の影の国巡行の時、スカサハが居た立ち位置にはまた別の女性が立って居た。その女性は何故だか、スカサハの面影があった。

 

「何者だ?」

「ほぉ、俺が見えるって事はアンタは今回の俺の敵って訳でいいんだな?俺の名は…まぁ、ランサーでいい」

 

クー・フーリンはそう言いながら朱槍を右手に取り出す。

 

「私と戦うのか・・・ならば、容赦はしないぞ」

「はっ!いいねぇそうこなくっちゃなぁ!」

 

2人の槍が激突する。

 

 

「ふんっ!」

「はぁっ!」

 

ランサーは焦っていた。

 

(妙だな・・・この女の戦い方、何処かで・・・)

「考え事をしている暇があるのか?」

「チィッ!」

 

どうしてもあと一歩届かない。どうしてもあの女が一歩先を行く。守ることはできるが、攻めることは出来ない。気になるのだ、彼女の使う槍は全くの別物ではあるが、槍術はそっくりそのままスカサハなのだ。動きどころか声や口調までもが瓜二つ。

 

「ふむ、その朱槍…成る程。ランサー、貴方の名前を見抜いたぞ」

「ほう、そうかい。ならば言ってみな。正解で俺の槍をプレゼントだ」

 

彼はこの女に宝具無しでは勝てないと悟った。ならば宝具を使うまで。彼は体勢を低く下げ、発射状態に入る。

 

「名前は、クー・フーリン、だな?」

「ご名答!では手向けと受け取れ…!」

 

後ろに跳び上がる。腕に魔力が込められて行く。

 

「突き穿つ死翔の槍(ゲイボルク)ッ!」

 

その槍は必中の槍、投擲されれば最後、外れることはない真の意味での必殺技。しかし彼女は口角を上げ、つまり…笑っていた。

飛んで行く槍はまるで赤い光線のようなスピードで彼女に迫る。そのまま彼女へ直撃、粉塵が舞い上がる。

クー・フーリンには疑問があった。何故だ?何故笑っていた?避けないのはわかる。避けられないと諦めたのか?しかしあの笑い方は自嘲の笑いではなかった。

粉塵が晴れる。見えたのは地面に突き刺さったゲイボルクと、無傷のままの彼女であった。

 

「直撃したよな?」

「まぁ、直撃コースではあったな。しかし、今の私はどうやら不確かな存在らしい。ほら、見てみるがいい」

 

自らの槍の矛先を自分の胸に向ける。それは彼にはよく見た…というか、悪夢のような光景。

 

「おい待て!何し・・・!」

「えい」

 

ドスッと、身体を槍が貫いた。一瞬の静かな間。確かに、背中から矛先が見えていた。だが、まったく血は出ていない。

 

「どうなってんだ?」

 

彼女はピンピンしている。それどころか抜いたり差したりしている。

 

「どうやらすり抜けてるようだ。おそらく今の私に実体は無いんだろうな」

 

槍を抜き、矛先を下ろす。

 

「まぁこれくらいが良き所か。時間切れだな」

 

彼女の身体からほのかに黒い煙が漂い始める。

 

「待て、お前結局何者だ?変なヤツを相手取るのは何もおもわねぇが、影の国となると話は別だ」

「私か?私の名前は、ゲイボルグ。よく知る名だろう?」

「は?お前が、ゲイボルクだと?っておい、まだ話は!」

「ではな、私の持ち主(マスター)。いつかまた、会えることもあるだろう」

「待て!戦いも話もまだ終わって・・・!」

 

腕を掴もうとしたのだが。

 

「えい」

「ぐふっ!」

 

また、ランサーが死んだのだった。

 

 

目を覚ますと、そこは自分の起きたベッドの上。そうだった、あの時頭をぶつけていたのだった。

 

「大丈夫ですか?すいません、私の所為で頭を・・・」

「いや、大丈夫だ。逆にありがとう。どうやら君のおかげで面白い夢を見れた」

「え?は、はぁ・・・」

「さて、ではあの力を再現してみるかな」

 

 

カルデアにて。

 

「色々と酷い目にあった・・・」

 

彼は自分の部屋の寝床で目覚めた。二度の死を乗り越え、影の国より戻ってきたのだ。スカサハ曰く、ノーヒントでよく帰ってこれたな、さすがは私の弟子だ、と。・・・死が影の国から帰ってくる方法の一つとか、師匠まじ鬼畜だわ。

で、まぁ気になることがあるんだが、どうやら人理修復を終わらせてから、サーヴァントの中で俺みたく夢の中・・・いや、俺の場合は夢じゃなかったが、どうやら何かきな臭い物を感じる。

 

「花の魔術師、いるか?」

「おや、光の御子が私に何かようかい?」

 

この白髪の胡散臭い、ともすれば詐欺師とも勘違いされてもおかしくないこの魔術師の名はマーリン。グランド・・・とかの話は割愛するが、まぁとんでも魔術師だと思えばそれでいいのだろう。

 

「少し聞きたいことがある。夢の話だ」

「おやおや、ケルトの有名な英雄が、この僕に夢を話すのかい?」

「いいや、これは俺だけの話じゃねぇ。オリオンにあのセイバー、そんでランスロットの野郎にも共通する話だ」

 

セイバーの名前が出たからだろうか、彼の目は真剣な眼差しに変わる。

 

「聞こうか。何があったんだい?」

 

俺はセイバーやオリオンから聞いていた。夢の中で出会った、自分もしくは近親の者が持つ武器の名を冠するうら若き女性達。そしてその中で出てきたいくつかの謎の単語、キル姫とキラーズ。それらの事をマーリンに伝えた。

 

「ふむ・・・キラーズに、キル姫ねぇ・・・」

「少し気がかりでな。夢ならアンタが精通してるんだろう?」

「まぁそうだけど、今回の件については僕に言えることは無いよ。仮に予測を立てるとするなら・・・そうだね。修復が行われたパラレルワールドにおいて、それを行ったのが僕達サーヴァントではなくキル姫、という存在だった。そして同じ名を持つモノが今、特異点に残った聖杯の力の残滓によって同じ場所に呼び起こされる奇跡、と考えれば、納得もいくんじゃない?」

 

僕もわからないからどうとも言えないけどねーと言い残し、マーリンは何処かへ歩き去っていく。

 

「ふーん」

 

俺はその言葉に頷くことしか出来なかった。

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