01
豪華客船の中、展望のいいレストランの窓際の席で、1人の女性がノートパソコンのキーボードを叩いていた。
「陸奥さん、ホールに行かないんですか? 今話題のグループの公演があるのに」
左胸のネームプレートに「間宮」と書かれたウェイトレスの女性が、彼女のテーブルにコーヒーを置く。すると、彼女はノートパソコンの画面から顔を上げた。
「ええ。あくまで取材だし、他の所の原稿の〆切近くて」
「大変ですね。体、壊さないように」
「分かっているわ」
そして、彼女は窓の外を見る。
伊豆大島の南東40km、ここには〈超空間通路〉と呼ばれるワープトンネルが作られていた。深海棲艦と呼ばれる未知の敵が作った、日本侵略用のものだ。日本とて、黙っている訳が無かった。〈超空間通路〉の向こうに広がる、広大な海と少しの島しかない未知の惑星、フェアリィへと日本防衛機構・フェアリィ海軍を派遣した。
深海棲艦とフェアリィ海軍の20年に渡る戦いは、熾烈そのものだった。しかし、一般市民には実感出来ない戦いでもあった。
今も、この時もフェアリィでは戦いが続いているのだ。
売れっ子ルポライター・陸奥は、湯気の立つカップを手にし、コーヒーを啜った。
山吹色の空の下、同じ色の海が広がっている。そしてその上を、緑色の戦闘機の編隊が通っていった。
〔サクラリーダーより各機、シーケンスD6、敵機迎撃ラインに侵入、交戦準備〕
空対空索敵電探を装備した極光が警告を発した。
〔魔法使いよりサクラ、サザンカへ。タイプ1、3、いや5機。別方向よりタイプ2、8機。こいつらは囮だろう〕
〔サクラリーダー、ラジャー。ターゲット・インサイト。魔法使い、聞こえるか? サクラは降下してこれを叩く。各機続け〕
敵戦闘機、増槽を捨てて上昇を始めた。サクラリーダーがそれを確認する。
〔サクラリーダー、エンゲージ〕
そして、24機の戦闘爆撃機・彗星は主翼下の増槽を捨てた。サクラリーダーは敵機を正面で捕捉、照準器越しに睨み、操縦桿の爆弾投下ボタンを押した。
〔ロケット発射〕
彗星の主翼下の空対空ロケット弾が発射された。
同時に、3番機が敵の空対空ロケット弾を喰らう。
〔サクラ3が喰われた!〕
サクラリーダー機は上昇、敵戦闘機を追い掛ける。機銃射程内、トリガーを引く。が、外れた。敵戦闘機は水平飛行へ。サクラリーダーも続き、再びロケット弾を発射、命中した。
〔グッキル、グッキル!〕
〔サクラ4、エンゲージ!〕
4番機は右旋回、逃げる敵戦闘機を追い掛ける。照準器内、パイロットは爆弾投下ボタンに親指を掛ける。
が、敵戦闘機は主翼エアロブレーキを開いて急減速、4番機を追い越させる。4番機のナビゲーター(航法員)が13mm旋回機銃をぶっ放すも、敵戦闘機は空対空ロケット弾を発射した。
〔ブレイク、ブレイク〕
僚機の警告も間に合わず、4番機は空対空ロケット弾を喰らって木っ端微塵になった。
〔レンジイン(射程内)、ロケット発射〕
零戦 21型が主翼下の4発の空対空ロケット弾を全弾放つ。
〔グッキル、グッキル!〕
4発の空対空ロケット弾は敵戦闘機に命中する。が、零戦 21型は別の敵戦闘機の攻撃を喰らい、撃墜された。
〔ブレイク、ブレイク〕
彗星2番機の左主翼に空対空ロケット弾が命中、さらに数発の銃弾がエンジンに飛び込む。そして、エンジンから火を吹いた。
〔サクラ2、フュエル・カット(燃料供給停止)だ! 消火しろ、サクラ2!〕
僚機の警告虚しく、サクラ2は火達磨になって墜落した。
そんな空戦を、参加する事無く高空で眺めていた飛行機がいた。戦闘爆撃機・彗星にそっくりの、高速戦闘偵察機・二式艦上偵察機だ。
後席のナビゲーター・初風が、双眼鏡から目を離し、口を開く。
「2/3が撃墜……酷いものね。帰投するわよ、雪風」
「了解」
前席のパイロット・雪風が無線を開いた。
「こちら特偵戦 3番機丹陽、撃墜された機体の生存者、確認出来ず。コンプリート・ミッション、RTB」
二式艦上偵察機は右旋回、戦闘空域を離脱した。
彗星と零戦 21型の編隊が、二式飛行艇を囲むように飛ぶ。編隊に隙間が大量にあった。
そんな編隊を、遥か上空から1機の偵察機が追い抜いていく。フェアリィ海軍 フェアリィ鎮守府 戦術戦闘団 特殊偵察戦隊、通称特偵戦。彼女らに与えられた任務はただ1つ、「味方を見殺しにしても、情報を持ち帰ってくる」事。そんな彼女らに与えられた、フェアリィ海軍最強の翼、二式艦上偵察機。
サクラリーダー・武蔵は、二式艦上偵察機が残していった飛行機雲を見上げ、呟いた。
「死神め……」