「仮に?」
陸奥が聞き返す。
「仮にって――」
「ですから、陸奥さんの本を――」
「なるほど。よく出来たファンタジーとして私の本が売れた、と言う訳ね」
そう言う陸奥に対し、メモを取っていた青葉が言い返す。
「そういう見方もあるんですよ。ところで、東映から映画化の話が来てるって、本当ですか?」
すると、陸奥は腕時計をちらりと見た。
「ごめんなさい、もう時間なの」
「一体どちらに?」
「また取材なの。南の方へ」
特偵戦ブリーフィングルームの扉がノックされた。
「入ります」
本を読んでいた川内は、声だけで誰か分かった。
「千歳か? 何か用?」
「川内さんがお呼びに」
「私が? 私が呼んだのは雪風だけど――」
「ええ、『カウンセリング中』の雪風を。こちらも、スケジュールに沿って行動しているので、こういうのは困るんですが」
すると、川内は読んでいた本を机に投げ出し、プロジェクターの電源を入れた。
「出動命令さ。文句があるなら長門さんに言ってくれ」
千歳は黙る。
「空中空母アカギーが、いかれちまったんだ。突然、全てのシステムがこちらの指示を聞かなくなった。事の発端は、接近してきた深海棲艦機に対し、アカギー飛行隊が緊急発進、撃墜した所からだ。その後、帰投しようとした飛行隊を、全て撃ち落とした」
「深海棲艦ですか?」
雪風が初めて口を開いた。
「まだ分からない、ってのが現状だ。そこで、空技廠のシステムエンジニアが調査に行くそうだ」
川内は雪風にクリップボードを手渡す。
「つまりお前は、そいつの運転手って事だ。まあ、そんな訳で、悪く思うな、千歳」
そう言われ、千歳は敬礼して部屋を出ていった。
そして、川内と雪風はエレベーターに乗り、機体整備区画へ向かった。
「報告のあった戦線基地だけどな、とっくに全滅していた。つまり、初めて深海棲艦と会話した事になるのかもね」
雪風は黙っていた。
やがて、整備区画に着いた。川内は震電偵を指差しながら説明する。
「空中とはいえ、相手は空母だ。一応、機体各所にワイヤ射出拘束装置を着けた。あと――」
しかし、雪風は震電偵のコクピットへ向かった。
「あ! 雪か――」
川内の制止を無視し、雪風はコクピットにいた女性を睨んだ。
「何をしてるんですか?」
女性は顔を上げた。
「えっと――」
「降りてください!」
「す、すみません!」
女性は慌てて震電偵のコクピットから降りた。
「おい雪風! 相手は上官だよ!? すまない、明石。こいつはこの震電偵のパイロットの雪風。こっちは空技廠エンジニアの明石だ」
川内がそう紹介した。明石は雪風に手を差し出した。
「よろしく」
しかし、雪風は無視した。明石は肩をすくめる。そこで、川内が明石に話し掛けた。
「怪我は?」
「大丈夫ですよ。やっぱり、慣れない事はすべきではありませんね。エンジニアがテストフライトなんて」
「雪風、この人は震電偵や丹陽を開発した人だ」
「開発しただなんて。射撃管制装置や自律思考回路の基礎部分に携わっただけですよ。私1人ではない」
初めて雪風が明石を見た。
「丹陽を――?」