震電偵が出撃する。前席には雪風、後席には明石の姿がある。エレベーターへと震電偵は牽引され、地上へ上がる。
「極秘ミッション、ですか?」
特偵戦司令センターにて、千歳は長門にそう尋ねた。
「そうだ。詳しくは、川内に訊くように」
そこへ、大淀がやってきた。
「長門さん、1番にお電話です」
千歳は敬礼し、離れる。長門は千歳をチラッと見、受話器を取った。
「私だ……これはこれは、霧島さん」
長門と、空技廠 諜報課の霧島が話す。
「本来は私達の任務なんですが、長門さんにはお手数をお掛けします。ええ、是非現地での情報を」
モニターには、震電偵が地上へ上がる様子が映っている。
霧島は受話器を置き、モニターを見てニヤリと笑った。
「狸め」
千歳は、特偵戦司令センターを見下ろす部屋にやってきた。そこでは既に、川内が準備していた。
「こんな所でですか?」
「一応、極秘だからね。診察ツールは?」
千歳は、川内にノートパソコンを見せた。
「この中に……対象は?」
「あの2人と、丹陽だ」
川内がモニターをいじる。すると、滑走路へタキシングする震電偵が映った。
「戦闘機を心理分析ですか!?」
「丹陽はただの戦闘機じゃない。高度な自律思考回路を持った、『考える戦闘機』なんだ」
そして、震電偵は離陸した。
明石が、眼下に広がる海を見ながら呟く。
「綺麗ですね。深海棲艦さえいなければ、絶好の観光地なんですが」
「気は確かですか? それに、フェアリィにしろ地球にしろ、人間の物ではないと思います」
「……そうですね」
千歳がキーボードを叩く。
「何かに怯えているような……」
「明石が?」
「いえ、丹陽です」
川内は頭の上で腕を組む。
「『艦娘と機械と深海棲艦の戦い』、か」
「読んだんですか? あの本」
「ああ。ちょっとは、いい事書いてあったけど」
「技術屋?」
雪風が訊く。
「ええ。皆そう呼ぶんです。でも、嫌じゃないんですよ。私の取り得はそれくらいですから」
「深海棲艦も、それぐらい分かりやすければいいんですけど」
「まさかアカギーで? あれはただのシステムエラーですよ」
「もうすぐ分かります」
やがて、肉眼でアカギーを捉えた。そして、監視していたR-6 ヴィッカースと交信する。
〔R-6からR-3、交信不能な点を除けば異常はナシデース〕
〔だが気を付けろよ?〕
〔これよりReturn to baseデース〕
「R-3、ラジャー」
震電偵と二式艦上偵察機がすれ違った。そして、震電偵はアカギーの周りを飛ぶ。
「すごい、とんでもなく大きい……!」
「嫌な感じです。静か過ぎます」
「考え過ぎですよ。どこにも異常なんて無い。まずは、降りてみないと」
「分かってます」
雪風はアカギーに連絡を取る。
「こちらR-3 丹陽、着艦許可を請う」
すると、艦尾の着艦誘導灯が点いた。どうやら着艦していいらしい。
フラップダウン、ギアダウン、アレスターダウン。ゆっくりと降下する。
そして、アレスターが着艦制動索を捕らえた。震電偵は甲板に叩き付けられる。無人牽引車が近付き、震電偵をエレベーターに載せると、エレベーターが自動で降下する。雪風はシートベルトを外し、座席の下から一〇〇式機関短銃を取り出した。そして震電偵を降りると、無人牽引車へ向かって撃った。
銃声が響く。薬莢が格納庫の床を転がり、無人牽引車は永遠に沈黙した。雪風は一〇〇式機関短銃の弾倉を交換した。
耳を塞いでいた明石が、顔を上げた。
「何だって、こんな……神経質になり過ぎでは?」
すると、雪風はある物を明石へと投げた。
「え? うわわっと」
明石がキャッチする。それは、九四式自動拳銃だった。
「使い方は?」
「こんな物、必要ありませんよ」
しかし、雪風は歩き出した。
「あ! ちょっと待ってくださいよ!」
格納庫から出る扉を、雪風は開けようとする。が、開かない。ロックが掛かっている。すると、明石が道具を取り出し、ピッキングで開けた。
明石は雪風を見る。が、雪風は無言で一〇〇式機関短銃を構え、開いた扉の向こうを警戒していた。
2人は艦橋への階段を登る。
「とても静かですね。まるで飛んでいるなんて思えないくらい。古いけど、アカギーのはいいエンジンですよ」
明石が喋る。
「機械には、それを作った人の理想が込められている。そう思うと、とても機械弄りが止められないんです」
雪風が振り返る。
「丹陽も?」
「……あれは、特偵戦の経験が作り上げたスペシャルモデルですよ。単なる機械を超えた、自律思考兵器、それが震電偵です」
「一時的な意識の共有、及び共感があります」
千歳の言葉に、川内はドキリとする。
「別に、私は……!」
「雪風と丹陽の事ですけど」
「……当たり前だ」