2人は艦橋に到達した。
「誰も……いない?」
一〇〇式機関短銃を携えた雪風が見回すが、艦橋は完全に無人だった。
「きっと、エラーに驚いて脱出したんでしょう。今頃海に浮かんでますよ。わたしは電算室に行ってバグ取りしてきます。雪風は?」
しばらく雪風は艦橋にいた。操舵輪を回そうとするが、回らなかった。暇な雪風は試しに早期警戒レーダーを弄ってみた。アカギーにある自衛用の12.7cm高角砲や25mm連装機銃、12cm連装対空ロケット砲等は全て、この早期警戒レーダーによって管制される。
その時、雪風の情報端末が短く鳴った。見れば、アカギー艦底の機関室が表示されている。
「丹陽……?」
アカギー 電算室――
「はい? こちらは順調です。え? 艦内をですか? 了解です」
明石はエンターキーを押した。
雪風は階段を降り、機関室へ向かう。
内部には、複数のボイラーが並んでいた。雪風は警戒しながら進む。
その時、アカギーが揺れた。
「方位、変わります。020へ転進。絶対防空圏突入可能性、93%」
「防空軍団の迎撃ラインへ、あと200kmです」
筑摩と香取がそう報告する。長門は、ただ無言だった。
「内部はまだ調査中なんだ! ……発射命令は中止出来ない!? ふざけるな!」
川内は受話器を叩き付けた。そして千歳に指示を出す。
「今すぐ雪風に連絡を!」
「極秘だったのでは?」
「いいから!」
千歳は通信システムを弄る。
「雪風、聞こえるか!? 雪風、応答しろ! ……繋がらないぞ! どうなっている!?」
羽黒がびくびくしながら応える。
〔ら、雷雲の中に入ったようです!〕
「何でもいいから繋げろ!」
〔は、はい!〕
雪風は、目の前の光景に言葉を失う。ボイラーの中から出てきたスライムらしき何かが、徐々に人間になっていくそれに。
〔雪風、聞こえるか!? もうすぐV-2が発射される! 急いで退避しろ!〕
「せ、川内さん……」
「何!? 何だって!?」
〔深海棲艦は……アカギーの乗員のコピーを、作ってます……〕
「コピー……?」
川内は言葉を失う。そして、千歳に指示を出した。
「大本営コンピュータに、検索してくれ」
「条件は?」
「前の破壊工作について、深海棲艦が艦娘のコピーをフェアリィ海軍内に潜入させていた場合……」
しばらくして、千歳のノートパソコンの画面に変化が出た。
「出ました。『深海棲艦が艦娘のコピーを生成していた場合、利用するのは――』」
千歳は言葉を飲む。
『何かに怯えているような……』
「『前線で、一定期間行方不明だった人物――』」
「何だって!?」
川内は画面を覗き込む。
「『なお、現在特偵戦の作戦に関わっている、当該条件を満たすのは、以下の2名。特偵戦 3番機パイロット・新三菱 雪風、海軍航空技術廠 航空電子システム開発部エンジニア・鶴見 明石』?」
そして、川内は眼下の長門を見る。その手には、雪風と明石のプロフィールがあった。
「全部知ってて……っ!」
窓ガラスが割れた。右手から血を流す川内がマイクをひっつかみ、叫ぶ。
「雪風、気を付けろ! 明石は以前、テスト飛行中に一度消息を絶っている! 状況から考えて、明石は深海棲艦の作った、コピーだ!」
フェアリィ鎮守府から、V-2長距離ロケットが発射された。
「防空軍団、V-2発射。着弾まで、あと8分です!」
雪風は人間もどきに向かって一〇〇式機関短銃をフルオートでぶっ放す。そして機関室を飛び出して階段を駆け上がった。
「明石さん! 緊急事態です! 第1格納庫で合流しましょう!」
無線でそう呼び掛ける。が、返事が無かった。
そして、雪風は第1格納庫の下、第2格納庫で明石を見つけた。
「明石さん! 何で返事をしないんですか!?」
明石の背中へ、そう怒鳴る。第2格納庫の防火シャッターの右舷側だけ閉まっており、明石は左舷側に立っていた。
明石に近付く。そして、雪風は見た。
閉まった防火シャッターの向こうには、深海棲艦機のように怪しく光る彩雲――
「明石さん! そこをどいてください!」
雪風は一〇〇式機関短銃の銃床を脇で挟み、彩雲と明石に銃口を向ける。
そんな中、明石はゆっくり雪風の方へ振り返る。その目には、精気が宿っていなかった。
「明石さん、それは深海棲艦です! 分からないのですか!?」
雪風の怒鳴り声に、明石ははっとした。そして振り返ると、彩雲は消えて無くなっていた。
雪風は無言で階段に向かう。明石は、雪風を呼び止めた。
「雪風! ここで、わたしは何をしていたの!? ねぇ、答えてよ!」
しかし、雪風は歩くのを止めなかった。
「雪風……」
「連れて帰るのが任務だから、それだけです」
雪風は、それだけ言った。
2人は第1格納庫へ戻ってきた。雪風が震電偵のエンジンの暖機をする中、明石はエレベーターと非常電源を接続、緊急コマンドでマニュアル操作する。
「よし……!」
閉じた防火シャッターが強く叩かれる。既に、人間もどきはすぐそこへ迫っていた。
エレベーターが動き出す。が、明石は乗ろうとしなかった。
「明石さん! 早く乗ってください!」
「さよなら、雪風……」
「明石さん! 何を言ってるんですか!? 乗っ――」
震電偵の乗員保護プログラムが作動、雪風はきつく締め上げられたシートベルトによって拘束される。
「明石さん! エレベーターを止めて! 明石さぁぁぁん!」
明石さんは壁に寄りかかって座る。防火シャッターがぶち破られ、人間もどきが第1格納庫へ濁流のごとく流れ込む。そして、明石を取り囲んだ。
ねぇ、雪風……
飛行甲板に出た震電偵は、フラップを下げて浮き上がった。自動でスロットルレバーが前進、最大出力でアカギーから離れていく。
わたしは――
アカギーへ、ダイブアタック航路でV-2長距離ロケットが接近する。フェアリィ鎮守府から無線操縦で飛ぶV-2は、アカギーの飛行甲板を貫通、第2格納庫へ達した所で遅延信管が作動、アカギーは爆散した。
雨降るフェアリィ鎮守府へ、震電偵が帰還する。後席は空白、前席の雪風は俯いたままだった。
キャノピー越しに、雫が伝う。
わたしは、艦娘よね――?
“丹陽……素晴らしい機体だわ”
“今まではフェアリイ鎮守府のサーバーだけを敵とみなしていたのが--”
“目標を艦娘に定めた? まさか--”
“今の日本人は、皆あんな感じよ”
“警戒空域に向かっている!”
“総員、対空戦闘よぉーい!”
“対空砲、撃ちぃ方始めぇ!”
“まるであなたは、日本人じゃないみたいですね”
“そう言う貴女こそ、まるで宇宙人みたいだったわ”
戦闘艦娘雪風 Operation4、11月25日公開。
日本人は、忘れていた脅威を目の当たりにする。