二式艦上偵察機、パーソナルネーム・丹陽が飛ぶ。ダイムラー製液冷エンジンの音以外何も聞こえない。空は徐々に暗くなり、天の川ならぬ「血まみれ川」がはっきりと見えてくる。
雪風はシートに身を預け、先程の戦いを思い出す。
――サクラ4、エンゲージ!――
――サクラ4、後ろだ! ブレイク、ブレイク!――
――深海棲艦機は何処!?――
――ロケットだ! 危ない!――
フェアリイ海軍主戦力である戦闘爆撃機・彗星が如何に高性能であっても、それを操るパイロットの技能が追い付いていなければ死ぬ。それがこの海でのしきたりだ。なら、性能を生かし切られなかった彗星達は――
その時、ナビゲーターの初風が警告した。
「前方に不明機、接近中」
雪風は気を引き締める。エンジンの音は快調、武装は7.7mm機銃と主翼下の4発の空対空ロケット弾だ。
そしてすれ違った。
初風は急旋回するその機体を観察する。
「彩雲よ。友軍機」
しかし、雪風は操縦桿を倒し、二式艦偵を彩雲の後ろに回り込ませる。
「どうしたの雪風!?」
「何であの機はバンクしないのですか!?」
バンクとは、友軍機である事を示すために主翼を左右に振る行為の事である。
彩雲は右急旋回、二式艦上偵察機の追尾を振り切ろうとする。二式艦上偵察機も続き、機銃を撃つ。外れた。もう一度撃つ。弾切れ、ダメージは与えられなかった。
「雪風! あれは友軍機よ!」
「なら連絡を取ってください!」
「やっている! 応答が無い、回線を閉じているみたい!」
「なら、敵です……!」
爆撃照準器内に彩雲を捉える。雪風は操縦桿の爆弾投下ボタンに、親指を掛けた。
「止めて雪風! 気でも狂ったの!?」
「丹陽は、敵だと言っているのです……!」
そして、爆弾投下ボタンを押した。
二式艦上偵察機の主翼下から空対空ロケット弾が発射された。1発は外れるも、もう1発は彩雲に命中、粉々になった。そして、その破片の雲に二式艦上偵察機が突っ込んだ。
雪風は呻く。破片がキャノピーを突き破り、右腕に刺さる。エンジンは止まっているが、プロペラはかろうじて回転している。
「脱出しよう!」
「待って、丹陽は捨てられない」
「雪風!」
二式艦上偵察機が水平飛行を開始、その隙に初風はキャノピーを開いて脱出した。
フェアリイ鎮守府 第5滑走路に二式艦上偵察機が停まっている。周りには救急車や特殊消防車が集まっていた。
川内と救護班が駆け寄り、キャノピーを開けた。
「おい! 雪風!」
川内が雪風の肩を揺さぶる。が、反応は無かった。