「こんな芸当が出来るとは」
明かりが灯る中、加賀が言う。
「感謝しますよ、長門」
「感謝、などと」
長門が一笑する。
「生き残るための最良の手段を取ったまでだ」
「その最良の手段が、日本への全軍撤退とはね」
加賀は窓の外の二式艦上偵察機を見た。
〔R2 トムキャットよりアマギー、加賀さん一行をお連れしました。着艦許可を要請〕
〔アマギー、了解〕
加賀達を載せた零式輸送機は、4機の二式艦上偵察機の護衛と共に、空中空母アマギーへアプローチした。
不審に思った霧島は、一式半装軌装甲兵車に積んだコンピュータを弄る。そして、全ての情報が、特偵戦格納庫に集まっているのを突き止めた。
直ちに2両の一式半装軌装甲兵車と隊員が向かう。64式7.62mm小銃を手にした陽炎がハンドサインを出し、突入態勢を整える。
その時、突然特偵戦格納庫のシャッターが開き始めた。そして、震電偵が垂直離陸用ロケットブースターを使い、浮き上がる。
そして、飛び去っていった。陽炎達は64式7.62mm小銃で攻撃するも、シャッターが開ききり、仕掛けられた爆弾が起爆した。
そして地下居住区に、震電偵が姿を現した。反乱軍の隊員達は64式7.62mm小銃で迎撃するが、震電偵はひらりひらりとかわす。そして、反乱軍隊員達を捕捉、主翼下のディスペンサーを切り離した。
切り離されたディスペンサーは炸裂、大量の子爆弾を投下する。
空中空母アマギーの艦橋では、様々な人が右往左往していた。そんな中、長門と扶桑は話す。
「兵員の収容も順調に進んでいる」
「だけれど、あんなダミーデータだけで大丈夫かしら?」
「少なくとも時間稼ぎにはなる」
「ですが、R-3は残したまま……」
「けりは、付けなくてはならないからな」
羽黒がコンソールを操作し、川内が覗き込む。
「通信がつながった! 現在、R-3は地下居住区で交戦中!」
雪風は、震電偵からリアルタイムで送られてくるデータを見る。
「心配?」
そう尋ねた千歳に、雪風は応える。
「平気です」
フェアリィ鎮守府 地下居住区に、深海棲艦戦闘機が突入してきた。震電偵は反転、ハードポイントに積めるだけ積んだ空対空ロケット弾を発射する。深海棲艦戦闘機は緊急回避、震電偵とドッグファイトを開始する。
その戦闘の最中、地下居住区の天井の一部が崩落し、真下の一式半装軌装甲兵車を押し潰す。
その衝撃で、霧島は吹き飛ばされた。
地面に倒れた彼女は起き上がり、メガネを探す。手探りで、レンズにひびが入ったメガネを見つけ出し、それを掛ける。
周りは、酷い有り様だった。反乱軍隊員の粗方はやられ、死体が転がっている。上空では、空中戦が終わったらしく、震電偵がゆっくりと飛んでいる。
「そうか……」
霧島が呟く。
「そういう事だったのね……どうして気付かなかったのかしら」
霧島はふふっと笑う。そして、近くに転がっていた無線機を手に取った。
空中空母アマギーのディスプレイに異変が起こった。
【FROM R-3. I CATCH A SIGNAL.】
突然そう表示され、いきなり霧島の画像になった。そして、霧島の声が響く。
〔あなた達は戦いを続けなさい。深海棲艦にとってこれは、初めから艦娘と深海棲艦の戦いでは無かった。深海棲艦にとっては、あくまでもモデル試算であり、追の試験に過ぎなかった。ならば私達は――〕
霧島は九四式自動拳銃を取り出し、自分の左手首に銃口を向ける。
「その試算を、乱してやればいい」
パァン!
銃声が響き、霧島の左手からボタボタと血が流れ落ち、九四式自動拳銃が地面を転がる。
霧島は痛みに震え、脂汗が滲む。そして、足元の血溜まりから、人成らざる物――深海棲艦の作ったコピー――が湧き出てくる。霧島はそれを踏みつけ、座り込んだ。
「いつまで……深海棲艦に抗えるかは分からない。けれど、彼らが艦娘を理解出来ていない間は、抵抗する事が出来る。生きる時間を戦いで支払い続ける事、それが――」
霧島は最後の力を振り絞り、手榴弾の安全ピンを抜いた。
「――答えよ!」
空中空母アマギーのディスプレイが静止した。扶桑は、静かに敬礼をした。
霧島の周りに、反乱軍隊員達が集まる。
そこへ、震電偵がやってきた。
雪風が手にした情報端末に、震電偵からのメッセージが表示された。
【Target insight. RDY FAE×1.】
「ターゲットロック。攻撃用意」
雪風が呟く。千歳が口を開いた。
「待って! だって、彼女はまだ――」
「そうです。彼女は、艦娘です」
震電偵が胴体下の燃料気化爆弾を切り離す。減速ユニット展開、正確に霧島へと向かう。そして――