「お前、初めて会った時、白玉餡蜜と羊羹を混ぜて食っていたんだ。感に障る食い方だと思ったよ。あれは食べる時の顔じゃない、何を考えていた?」
スーパーマーケットにて、川内が発泡酒をカートに入れた。その腕には、オレンジがぎっしり入った紙袋がある。
「ずっとそれが知りたかったな」
雪風は天井を見る。
「……覚えてません」
「だろうね。そう言うと思ったよ。行くよ」
そして2人は、特偵戦ブリーフィングルームにやってきた。川内の手には、シャンパーニュがあった。雪風は、それに驚く。
「言ったろう? お前の全快祝いだよ。ちょっと奮発した」
川内は、コルクを抜こうと力を込める。そして、ポンという音を出してコルクが飛び出し、シーリングライトに直撃した。ぱらぱらと破片が粉雪のように降ってくる。
「……始末書ものですね、川内さん」
「始末書が怖くて、この仕事がやってられると思うか?」
それを聞き、雪風は小さく笑った。グラスにシャンパーニュを注ぎながら、川内が不満そうに言う。
「何で笑うんだ?」
雪風は、牢屋の前にうずくまっている。
その牢屋の中には、1人の女性が横たわっていた。長い金髪、ふくよかな胸部装甲。
雪風は、ゆっくりと自身の右手を開く。そこには、1つの鍵があった。
雪風は顔を伏せる――
雪風は跳ね起きた。辺りを見渡すと、ここは川内の部屋だった。雪風はソファに、川内はリクライニングチェアで寝ている。部屋には、作りかけのブーメランやその削りかす、食べかけの冷凍ピザが散乱していた。
雪風は、自分の右手を開く。そこには、何も無かった。
そして、雪風達はブリーフィングルームに来ていた。そこには、雪風と川内だけでなく、絆創膏のある少女もいた。
川内が言う。
「後任の朧だ。こっちは3番機 丹陽のパイロット、雪風だ」
朧は軽く礼をした。
「戦略偵察隊では、彩雲を?」
「ターボチャージャーを付けた改造型ですが、特偵戦では――」
その時、警報が鳴った。「航空機移動中」という意味の警報だった。雪風は椅子を蹴散らし、ブリーフィングルームを出ていく。
「あ! ちょっ雪風!」
川内の忠告を聞かず、雪風は階段を駆け降りる。
エレベーターのシャッターが開かれ、牽引車によって1機の戦闘偵察機が運ばれてきた。キャノピー枠に「丹陽」と書かれた、特偵戦3番機 丹陽だった。
「あれが、君に乗ってもらう機体、丹陽だよ」
川内が指差した。朧は運ばれてきた二式艦上偵察機を見ながら口を開いた。
「丹陽……いい名前ですね」
「うん。いい名だよ……」
ごめんね、朧ちゃん