照明の落ちた格納庫で、雪風は二式艦上偵察機のコクピットで本を読んでいた。傍らには、沢山の本がうずたかく積まれている。
「まだやってたのか?」
川内がやってくる。
「どんなに答えを探したって、見つからない事がある。この丹陽も、もう人間には制御できない化け物になってしまったのかもしれない。深海棲艦の正体だって、未だに分からない。なら、もう人間に戦う意味なんて無いんだよ」
その時、再び警報が鳴った。見れば、隣に見た事の無い戦闘機が運ばれてきた。プロペラが後ろにあり、コクピットは無い。
「……無人機?」
「そうだ。震電無、新型無人戦闘機だ。雪風、お前は、パイロットを辞める時が来たんだよ」
すると、雪風は本をバタンと閉じ、川内を睨んだ。
「切り捨てたいんですか?」
「切り捨てる、だと? 私が今そんな風に言った訳じゃ――」
雪風は立ち上がり、語気を強める。
「いつだって、丹陽とずっと一緒にやってきたんです。これ以外、何も無いんです」
それには、川内も言い返した。
「それじゃあ、深海棲艦には勝てない!」
「他に何も無いんです!」
そして、二式艦上偵察機から雪風が降りた。が、川内がその腕を掴んだ。
「お前、この戦いに意味は無いとでも言うのか?」
すると、雪風は川内の手を振り払いながら言った。
「そうです。関係なんて無いんです」
そして雪風は、走っていった。
翌日、川内はブリーフィングルームで机に座っていた。
「川内さん、後ほど伺います」
「報告書を忘れるなよ?」
天津風が出て行き、秋月が持ってきた書類に目を通す。
「大本営コンピュータがそう言った? なんでアカギーのボーキサイト代が、ここの予算から引かれるんだ」
「それを私に言われても――」
そこへ、雪風と朧がやってきた。川内は秋月に一旦話を止めるようジェスチャーし、2人を見る。
「川内さん、飛行計画の最終チェックをお願いします」
朧が口を開いた。川内は一旦呼吸を置き、返した。
「計画に、変更は無い。いつも通りだ。必ず生きて帰ってこい。これは、命令だ」
2人は敬礼する。それを見て、川内は「他人行儀だな」と呟いた。
二式艦上偵察機が牽引車でエレベーターへと運ばれる。朧は海図を片手に航法を確認、雪風は武装と燃料を確認する。
特偵戦ブリーフィングルームの電話が鳴り、川内は受話器を取った。
「特偵戦の川内です……ああ、海軍航空技術廠? 震電無の試験飛行計画なら――」
何かが落ちた。川内が拾い上げてみると、それはあの時のコルクだった。
二式艦上偵察機がエレベーターで地上へ運ばれる。整備員がプロペラを手動で回し、エンジン始動。ダイムラー製液冷エンジンが唸り、機体が震える。
キャノピーを閉めると、整備員が「翼を広げろ」というサインを送った。別の整備員が手動で主翼を広げ、滑走路へと向かう。
川内はコルクを弄ぶ。
「――えっ? はい、聞こえてますよ。計画に、問題は無い」
〔R-3, clearance for takeoff.〕
二式艦上偵察機は飛び立った。