Growth of Fighter   作:陽下 ノクト

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 急いだ。冷たい液体のなかからガラス越しに見た幻想を追って。姿、形は違えども、確かにあの人だったんだ。

 自身に何が起きていたのかなにもわからなかった。耳の形は変わっていたし、角も生えた。見える世界の色はバラバラ。体に浮き出た模様は、自分を極悪人の如く仕立て上げている。

 苦しい。走っていくうちに未熟な体が悲鳴をあげる。でも急がなきゃ届かない。立ち止まってしまえば終わりだ。

 走った。ただひたすら走った。街を越えて。夜を何度も何度も明かして。

 視界が霞む。前が見えない。

 足がもつれる。微かに判別できる地面に広がる赤色。

 世界が暗転した。

 

『……オ…………姉ちゃ………』

 

 

「おーい。ルーク起きろ~、早く起きないと…」

 忠告のあとの背中への物理的ダメージで目が覚める。なぜか、股関節のストレッチのような姿勢になっていた。顔だけなんとか上げると、そこにはイオ姉。つまり背中にいるのは…

「あはは……オハヨー少年。パティちゃんだよ」

 なんでだよ。たしか部屋は俺専用だったはず…

「いやーゴメンゴメン。起こしに来たつもりだったんだけど、ついついベッドが空いてたもんで…」

 いくらなんでも寝相が悪すぎるでは…。ベッドの近くで寝ていた俺も悪いが、癖はなかなか直せない。それが種族としてのものならなおさらだ。

「今日はずいぶんと寝坊したじゃないか。そんなに昨日はキツかったのか?」

 確かにここ最近は実戦の訓練も増えて、疲れがたまっていた。パティさんもなんやかんやでずっと面倒を見てくれている。特に昨日は、カタナを扱ったことがないと言った側からそれで殺されかけた。

「…それもあるけど、夢を見てたんだ。昔の記憶みたいな、そうでないような……」

「……夢を見るのは睡眠が浅い証拠だ。ベッドで寝れば多少はマシだぞ。」

「パティちゃんもそうおもう!だってすごく寝心地よかったもの!」

 ベッドは角で……と言おうとしたが、話が堂々巡りしそうなので止めた。ただでさえ寝坊している身で、これ以上の遅延は悦ばしくない。早急に支度を済ませ、今日の行程に向かった。

 

 今日を一言で表すならば『過酷』であった。それも超がつくほどの。寝起きのために霞む視界で狙い射ちした矢は、今までになく大きく外れてパティさんにひどく笑われたうえに、イオ姉には大目玉を喰らい、基礎トレーニングの量を大幅に増やされた。自業自得なのは分かっているが、なんとも辛いものだ。

 

……フォースの訓練も、こんなに大変なのだろうか。


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