運命よ、そこをどけ。   作:明鏡止水

10 / 21
未来への架け橋

 1

 

 

 

 どうやら私は歴史が変わる瞬間とやらに立ち会ってしまったらしい、立ち会ってしまったと言うか、それを成し遂げた本人なのだが実感というものはほとんどない。

 

 何故かというと最後の方は特に何をしたか思い出せないし、起きたらまたベッドの上、ミッドナイトの個性により眠らされてしまったらしいけれどその当時の記憶も、何が決め手になって勝ったのかも全くと言っていいほど覚えていないのだ。

 

 最初に油断したのは覚えている、不意を突かれ意表を突かれ、偶然か必然か定かではないけれど心の隙間に剣を突き立てられ不覚を取った。

 

 我ながら学習能力の低さに呆れるけれども、それでも相手が誰であろうと例え子供であろうと絶対に手加減なんてしないということを心に決め、全身全霊をかけ彼女を潰しに行ったのまでは覚えている、ただその後の記憶は本当にない、かけらも覚えていない。

 

 ベットの上で目覚めた時虚空を思い切り殴りつけていたことから完璧な決着ではなくてもし勝っていたのならば先生の判断によるものだろうと、負けているならば最初に心の隙間を見せた私が悪いのだと覚悟はしていた。

 

 違うと分かったのは起きてすぐのことで、雪崩のように保健室に殺到する生徒たち、マスコミの人たち彼ら彼女らの祝福の声を聞き、手応えはないままに私は自分が勝ったのだと知ることができた。

 

 日本中が私に注目している、私のためにこれだけの人が動いている私はこれが見たかったのか?いや違う、この騒ぎは手段にすぎない、この程度のことで驚いていたら大きな混乱に巻き込まれることになるだろう。

 

 今までのことを思い出す。

 

 この体育祭が始まる前ずっと死んでいた私自身を、無力な屍のくせに生きてるって嘘をついて。

 

 何もしない人生なんて、ただあのまま生きているだけの人生なんて死んでいるのと変わりはない。

 

 そうあの時私は誓ったんだ私から人生を自由と尊厳を奪った意味のわからぬ運命に抗おうと、誰かわからなくなった私自身も証明しようと、そのためにも目に見える結果を残し全てを変える。

 

 

 

 そのための算段は整っていた、体育祭で幾度となく自分自身と向き合ってきて、それはつまり自分の中にある個性と向き合ってきたということだ。

 

 これらの個性がなぜ私の中にあるのか、どうして私の中に存在しているのか、理由がわからないけれど原因は分かっている。確か小学校4年生あの時私が行った施設に、入れられた施設に真実は残っているけれども全て置いてきた、それを探しに行こうなんて愚かな真似を私はしない、それはもう過ぎたことで大事なのはこれから先だ。

 

 話がそれてしまったけれど、私がこの体育祭で自分自身に向き合ってきた時間は今までの累計よりもずっと多い。質も量も桁違いだ。だからこそようやく見えてきた……私自身の私の中にある力の使い方。

 

 

 

 

 本質が全く見えていなかった、絶対領域と名付けた能力も未来観測もそもそも全部違う能力、違う個性だったはずだ、私はそれを重ねて使っていた。

 

 はっきりと詳しいことはわからない10あれば6ぐらい、その程度の認識しかまだわかっていないけれども、ただ漠然と自分が、自分の個性が見えてきた。

 

 それに耐える体に馴染んできた、超能力超能力ほざいてはみたものの、やはりこれは身体機能の一部、例えそれが別の人のものだったとしても私の中にあるということは使えば使うほど馴染んでくる、馴染んでいなかったから副作用が強かったのだ。

 

 だから散々ゴミ能力と馬鹿にして、自虐したけれどもこの能力は決してゴミなんかではない、経緯がどうであれ私が使うなんておこがましい他の人の素晴らしい個性なのだから。

 

 この体育祭が終わったらすることなんて見えていなかったけれど、こう考えると、振り返るとやりたいことというよりかはやらないといけないことの方が多く目立つ。

 

 ただこの道だけは私が選んだんだから譲れない、自分が正しいと思って選んだ道が全て間違いでもいい、失くしたものをを見つけられたのだから。

 

 信じたものを貫き通せるのだから。

 

 

 

 2

 

 とある某所、隠れ家的な雰囲気の二人の男が静かにテレビを見つめていた、全身を黒いもやで覆われたような実体があるようでないような不気味な男と、体のあちこちに手首から先をつけた奇妙な男がカウンターを隔てながらじっと親の敵でも見るような目で忌々しげにテレビを見つめていた。

 

 時折回線を通じて先生と呼ばれる男は、その二人とは確実に違うところに目を向けていた。

 

 自らの体をも破壊する超パワーの少年、半熱半冷ナンバー2ヒーローのサラブレッド、強力な個性に強力なタフネスを兼ね備えた将来有望な少年も、その男の目に留まってはいなかった。

 

 ずっと薄ら笑いを浮かべてテレビを見ていたその男は、初めて唇を歪に歪ませて笑っていた、負けん気を物語る切れ長で力強い眼力を備えた女、一際目立つ真っ赤な髪、その男にはそんな力強い姿ははっきりとは見えてはいないが、それでも分かっていた。

 

「そうか君が、あの時の……少女なのか」

 

 その静かな言葉は、喜びにも悲しみにも怒りにも憂いにも聞こえる不思議な響きを持って誰にも届かず消えていった。

 

 運命の歯車は時尾 花架琉が望まなくても動き続ける、それでも少女はその道が間違っていたとしても決して折れることは無いだろう、記憶になくとも心に残る個性との対話とありがたさに気付いたのだから。

 

 どんな壁が待ち構えたとしても越えてゆくだろう、そのための架け橋を彼女は持ち合わせているのだから。

 

 





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。