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轟 焦凍、特待生で推薦入学。
オッドアイに右が白髪、左が赤髪になっている左右非対称な姿が特徴。また、赤髪の下には火傷の痕がある。
この体育祭で見る限り冷静沈着で大人びた性格。
事件解決数史上最多を誇る燃焼系ヒーロー「エンデヴァー」の息子で、兄弟構成は分からない。
しかし、自身は父親の事を「親父(あいつ)」と呼んで、激しく憎んでいる、何で知っているかという疑問があると思うけれども今朝盗聴していたおかげでその手の情報はリーク済みだ、朝テンションが高かったのはこの情報が知れたからである、付け込む隙があればあるほど私にとっては有利なのだから。
体力テストでは八百万さんに次ぐ2位を記録。期末テストでは5位(あくまで噂だから詳しい順位かどうかは定かじゃないけれども)身体能力も頭脳も優れている。
ヒーロー科の特殊授業の一環である対人戦闘訓練では、建物全体を凍らせ尾白猿夫くんと葉隠透ちゃんを戦闘不能にしあっさり秒殺で勝利している(体育祭でも瀬呂範太くんに対してしている)。
USJで敵急襲の際は、動じずに冷静に状況を分析し、多人数の敵を一瞬で制圧したらしい、まぁこの場で見ても戦闘慣れしていることが窺える。
「おまえの左側が醜いと、母は俺に煮え湯を浴びせた」
「使わず“一番になる”ことで、奴を完全否定する」
これは、彼の言葉だ。
今朝の件から絶対に何かあると予想して雀に精神干渉をかけ従わせ軽く盗聴してみたのだけれど、私が眠っている隙に「これ聞いちゃって大丈夫なの?」というレベルでの重く、哀しい話を、情報を入手できた。
実力・家柄共に優れた、ヒーローとなる素地を全て持って生まれたきた筈の彼……轟くんだが、その人生は決して幸福なものではなかった。
長らくNo.2ヒーローに甘んじてきたエンデヴァーは、オールマイトを超えさせるため「都合の良い個性を持っていること」だけを理由に女を選び、誕生したのが轟君らしい。
最近問題にもなっている個性婚の話題だけれど、轟くんが最たる例というだけで探せばいくらでもいるだろう。
個性さえよければ成りあがれる、ヒーローとなっていい生活ができるという社会なのだから仕方がない。
結果として優れた能力を持って生まれたものの、父親には道具扱いされ、精神を病んだ母親には熱湯を浴びせられて顔の左半分に火傷を負うことになる。
そんな壮絶な幼少期を過ごした彼がヒーローを目指す理由はただ一つ。受け継いだ力を一切使うことなく母の個性でNo.1ヒーローになる事で、父であるエンデヴァーを「完全否定」することである。
ようやく腑に落ちたというか、半分しか個性を使わない理由が分かった。
もし半分を奥の手として温存していたり自分の中で相当厳しい自分ルールとかで強力な個性にしたくないみたいな制約を掛けられていたらもう、たとえ私が追い詰められたとして最後の最後で全部使われたらヤバいと考えたりはしたけどそれはないのでだいぶ安心だ。
個性は『半冷半燃』、右で凍らせ左で燃やす、温度も範囲も規格外。
そして、まだまだ底が見えない。
丸ごと凍らせたビルを一瞬で解凍する等、遺憾なくその規格外ぶりをVTRでみた。
まさに炎と氷のカーニバル。
対人戦闘訓練では葉隠さんと尾白くんの二人がなすすべもなく彼に敗北してた。
欠点といえば欠点なのかもしれないけれど個性を片方だけ長時間使用すると体温に影響が出るらしいが、炎の後は氷、氷の後は炎を使えば体温を調節できるらしい。
彼が本気になれば、戒めにも近いこだわりを捨てるのならば私に勝ち目はない。
万が一すらもあり得ない。
まぁ敵の情報はいったん置いといて、私自身を再び見直さなければいけない時間でもある。
今はちょっとした小休憩で保健室から無事帰還した私は爆豪くんと常闇くんの戦いを見ている、多分このままだと爆豪君が勝つだろう、常闇くんも悪くがないが個性である体から出ている黒い鳥がビビり気味だ。
さて、思考を切り替えよう。
私が持っている能力の中で使えるものは、念動力、発火能力(発火したためしがない)、精神干渉、瞬間移動、空中浮揚、残留思念感応、未来予想。
これらを組み合わせて、否、個性と個性を架け合わせて派生した能力が未来観測と絶対領域と名付けられた――名付けた、か――という能力だ。
このように組み合わせが上手くいくと混じり合って相乗効果が表れ突然変異のような現象を起こすことがある。この組み合わせは私の中の数ある個性の中から私の感覚的なものや気分、その日の体調など様々な要素が偶然を生み出すと時たまうまくいくことがある、未来観測と絶対領域については相性が良くそこまで苦労しなかったけれども、ここから先の能力は体育祭の内に作り上げることは難しいだろう。
未来予測とアポート、精神干渉、恒温維持、念動力は比較的使っていたことと私自身の拒みが無くなりだいぶ馴染んだ感覚がある、精神干渉はより深く、未来予測はより明確に、アポートはインターバルの減少、念動力は負担の軽減による限界許容重量の増加が見込めた、恒温維持についてはまだどうかわからない。
内存している個性の数は有限だけれども組み合わせはほぼ無限、だから伸びしろという点ではすさまじい潜在能力を秘めていると言えるだろう、伸びしろなんていらないから今すぐ全部持ってきてほしい、確実に勝ちたいから。
私の中に本当の私自身の個性がまだあるのかもしれないけれども、今は探している暇はない、いずれまた現れるときを楽しみにしておこう、それに今は……轟くんに勝つために考えることが山ほどある。
それはそうと……さっきからやたらとうるさいなぁ。
「ねぇ、あれどうにかならないの?」
「無理無理、だって目がイってるもん」
「確かにすごいことをしたかもしれないけどさぁ、ここまでなる?客観的意見をどうぞ」
「普通科でパッとしない個性を持った容姿端麗な少女が苦しみながらもがきながら歴史を現在進行形で塗り変え勇気をもらったんだと思うよ」
注目されるのは嫌いじゃないけどさぁ、崇拝とかそういったことされるのはあまり好きではないんだよね……気持ち悪いじゃん、皆私のことみていないし。私の背景なんか見ずに私がしてきたことだけを見てきているわけだし。
それでもかまわないけど、直接的に関わられると結構だるい、私を人々の心に刻むのは望みの一つであるけれども優勝する前にこうなることは全く予想していなかった。
結果を残した末にこうなるであろうことは考えたけど、あまりにも早すぎて心の準備が整っていなくついうっかり動揺してしまったけれどまぁいい、利用できる人も少なからずいるだろう。
さて、もうじき控室に行かなければならないわけだけれども、轟くんにあんな過去があったとは驚きだ。緑谷くんとの戦いで炎を使っていたことに少し引っかかりを覚えるけれど、トラウマレベルの心の傷、もしくは過去があるのならばそこから切り崩させてもらおう。
精神干渉でどこを抉ればいいのか話しているうちにわかるし、精神面から削っていかないと本当に無理、あれには太刀打ちできない。
私は弱者だ、皆みたいに強い個性も持っていないし身体だって弱く身体能力も劣っている、だから、だからこそ小細工を弄するのを許してほしい、私には何に代えても何があってもやり遂げなければならないことがある、やり切れるのならばこんな命無くなってしまっても構わない。
君たちヒーロー科は明日を求めている、中には昨日を求めている人も、それでも私は今日が欲しい、生まれて初めて持った信念なのだから曲げたくないし、今日に全てをかけている私とこれから先がある人たちじゃぁ覚悟も思いも段違い、実力で負けるのも運で負けるのも今日だけは御免被りたい、もっともそうであったとしても決して屈するつもりはないけれど。
とにかく、もうじきはじまるVS轟くんに向けて下準備を整えなければ。
ほんっとうに酷いことを私は今からする、外道とも非道とも残虐とも言われても仕方がない、それでも勝ちたいから、勝っていうのは綺麗なものでも美しいものでもない、結果が全ての事象。
「んじゃ、行ってくる」
「あ、もう行っちゃうの?だいぶ早くない?」
「まぁ……ちょっとやることあるし、気持ちも早めに作っておきたいから」
目も見ないで淡々と言葉を連ねるけれど、体はだいぶ重く少しふらついた。
「そっか……頑張ってね」
大丈夫?と心配しないのは彼女の心遣いだろう、ようやく彼女も私の扱い方を分かってきたようだ、けれども……本当にだるいんだよね、マジで。
「頑張るよ、と言いたいけれど、流石にやばい」
いったん上げた腰をふらつく足取りの勢いを借りて近くの席に下ろす、先ほど手に入った少しだけ回復出来る程度の自己治癒では体のダメ―ジは抜けきらない、リカバリーガールもその辺は絶妙な加減で治しているらしいから身体は動くものの結局はどちらも私の体力を使っての回復、飯田君との戦い、芦戸さんとの戦いで想定していた以上に個性を使い、ほとんど全力に近い戦いをしていたから体にガタが来ている。
「珍しいね、私に弱さを見せるなんて」
彼女が何を言っているのか、何を意味してその発言をしたのか深く考えはしなかったけれど、その表情から窺うに相当な異常事態なのだろう。本気で心配されている、腹は立つが癇に障るが完全に先が見えた以上はなり振り構っていられなくなった。
戦いを始めた当初は全部自分でしようと、それを貫き通そうと考えていたけれど、今は勝利か全部自分でやって自己完結するかのどちらかを捨てなければならない。
あの時とは決定的に私のメンタルは変わっている、ほんの数時間前、私は負けるならば全部自己責任で負けても何の言い訳もなく敗けたい、そう思っていた。
でも、今は勝ちたい、勝たなければならない。勝つために何をすべきか、何をすればいいのかしか考えていない、数時間前は先も見えなく不安しかなくて、負けることを前提に戦っていたようなものだ。でも今はきちんとした道が険しいけれども鮮明に映っている。
悔しくてたまらない。私にもプライドがある、くだらない信念も、つまらない意地もある、けれどもこの際そんなのはどうでもいい。
勝つためならば泥水をすすろうが靴をなめようが辱められようが構わない、今はその覚悟で臨んでいる。カッコ悪くて結構、言っていることが矛盾しているでも結構、どんなにひどいことをしていようとも戦争で勝てば全てきれいごとに出来るのは歴史が示している。
使えるものはフルに使って勝ちに行く。
「ようやくゴールが見えてきたからね、なり振り構ってられないよ」
いやだけど、気色悪いけど、私は精一杯の笑顔で、猫撫で声で、周りを取り囲んでいる愚か者たちに頼み込んだ。
「あの……誰か私を助けてくれる人はいませんか?」
隣で彼女が気持ち悪と呟いた、私もそう思う、実際に私が話しかけるとみんなは一瞬にして凍り付いた。
いやーな静寂が暫く流れる、すっごく気まずいけど、笑顔だけは崩さないでニコニコと周りを見渡す。
「おい、今花架琉ちゃんなんて言った?」
「助けてくれませんかって言わなかったか?」
「俺もそう聞こえた」
「私も!」
「私達が花架琉さまのお力に!?」
「声も顔もかわいいとか最高かよ」
わぁお、想像以上の信仰ぶり、なにその恐れ多くて何も話しかけられませんみたいな雰囲気は?私普通の人間なんですけど、神にも教祖にもなった覚えはないんですけど?
怒りは抑える、頭は冷静にしなければ。
「回復系の個性の人とかいたら凄く助かります……ちょっと疲れちゃって、次絶対に勝ちたいから、助けてもらえませんか?」
「うわ、あざと……」
うるさい、だまれ。私だって好きでやっているんじゃないんだよ。ここまで来て負けたくないから自分のプライドだとかそう言ったものを捨てて頼んでいるんだ、人に頼って後悔するなんて最初は思っていたけどここからは頼らなかったおかげで後悔すると思う。体調を万全に出来るのならそれは頼んだ方がいい、第一轟くんには私の体調がいくら良くてもそもそもが勝てるかどうかも分からないのだから。
「で、花架琉はどんな個性を求めているの?」
すると、驚くほどすんなりと、彼女は私に助け舟を出してくれた。こういう事でしょと目配せしてくるのは腹が立つが、背には代えられない。ありがたく受け取るものは受け取ろう、借りを作るのは癪だけど仕方がない、今大声も出せずに疲れ果てているのだから。
「出来れば……回復系の個性で自分の体力を使わずに回復できる個性があれば」
「誰か回復系の個性の人はいない!?人の力を借りずに自分で治療できる人!」
まぁ、そんな都合のいい個性の子いないだろうなと半分諦めのような願望だったけども、彼女の呼びかけにすんなりと見つかった、話を半分以上聞いていなかったからいきなり「噛んで」と言われたのはびっくりした、どうも噛むことによって身体エネルギーのようなものを分け与え治癒力を上げる個性の子らしい、消化が追いつかなくなってきた栄養分等が流れ込んで来るのが分かる。
『花架琉さま!もっと強く!ほら、遠慮なんてせずに!!』と言われたときは流石に恐怖を覚えた、なんか違う怖さを堪能した。
次に力を貸してくれた個性の男の子は私自身の力を使っての回復だったけれども条件付きだったので受け入れた、ツケが回ってくるのは明日以降らしい、全く問題ない。
体のメンテナンスは整った、あとは轟くんのメンタルを抉りに行くだけ、身体は本当に軽くなった、明日以降相当ひどいことになるみたいなニュアンスの説明だったけど全然いい。私が欲しいのは今日だけだから寧ろありがたいくらい、未来からの前借なんて相当良い個性だなと感心した。
信者には手を振ってありがとうと言って席を立つ。
「ありがと、この借りは絶対返すから」
そうやって一方的に告げて控室に向かう。
「借りとか、貸しとか、別にそんなのいいんだけどなぁ」
悲しみに満ちたその呟きは私には届いたけど、あえて聞こえないふりをした。返す言葉が見つからなかったし、どうしていいのか分からないという事がとても大きかったから、でも相澤先生の言っていた大切なものっていうものなんだろうなとは考えた。
私はそれを振り切って前に進む、欲しいものがあるから、そのためにはどんな対価だって払うと決めているのだから大切なものなんて必要ない。
……さぁお話をしましょうか、轟クン。