2部構成か3部構成かはたまた4部構成になるのかはわかりませんがお付き合いください。
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「個性を多く持たせるというのには成功した」
「それが脳無、しかしあれだけ多くの個性を持つと物言わぬ人形のようになってしまう」
「上手く混じり合う、弟がそうやってワン・フォー・オールを造り出したけれどもその後僕の知る限り個性を混ぜ合わせたやつはいない」
「ただ弱個性ならば多く持てるのかという疑問も残るが、それもほぼ不可能だと思っていた」
「ただの実験から始まった、無理だという事を知るためだけに始めた言わば道楽のようなものに過ぎない、しかし、けれども一人だけ僕の想像を超える女の子がいた」
「あの時は使うことはしなかったけれど、出来ていなかったけれど、彼女には多くの個性を持たせてみても普通に、何ともなく過ごしていて、強個性をひとつ、ふたつ渡してみようかというところであいつが何もかもを壊して僕から奪っていった」
「そして奪われた女の子は、今も生きていて、そして力を使いこなそうとし始めている」
「ヒーロー科を容赦なくどんな手を使ってでも勝ち上がる姿はなんとも言い難い健気さじゃないかい?」
「弔がいなくても、彼女がいるじゃないか。いや寧ろ彼女の体をもらうっていうのもありかもしれない、そうすれば……なんて冗談だよドクター。ジョークさジョーク、第一その個性はもうない、あの時取っておくべきだったなぁ。まぁ弔には僕になってもらわないと困るからね、しっかりやってもらうさ」
「ああ、懐かしいな。彼女を見るとつい考えてしまうよ」
「何をって?」
「もしかすると辿っていたかもしれない道の事、さ」
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顔を撫でる熱気が心地いい、そう感じているという事は心に幾分か余裕があるのだろう。
遂にここまでやってきた、決して前を向かずに足元だけ見て我武者羅に戦ってきたわけではないけれども、ふと見上げるとゴールまで険しいけれどもう少しで手が届きそうなところに近づいていて、後ろを振り返ると色々なものをたくさん溢してきた。
裸一貫、持っているのは自分だけ。そのままひたすら歩き続けて来た私は輪郭だけがしっかりしていて、内側がどうしようもなく空っぽだった。
自分が何なのか、ここにいていい人間なのか、分相応に与えられなかった能力は何なのか、色々考え尽くし、考えて考えて、悩んで悩んで私が辿り着いたのは記録上、記憶上で私の存在を……“時尾 花架琉”という人物の存在を残すという事だった。
我ながらバカみたいな発想だと思う、しかしこれでも暗闇に放り込まれ十数年で初めて見つけた光だと最初は思っていた。
太陽に近づきすぎたイカロスはその翼を溶かされたと聞くが私にとってその光とは決して太陽のようなものではなくって、寧ろ風前の灯火のように儚くて、弱くて、小さくて……その実態がはっきりと見えれば見えるほどにくだらないものだったのかもしれない。
それでもひたすら追い求めていたものだ、すぐ後ろにキラキラと輝くものは沢山落ちている、けれども、それでもこの選択が間違いだったとしても、もう引き返せない。
顔を撫でる熱気が心地いい、それはきっとこの張り付くような熱く湿度を帯びた私が一番好きな梅雨の夕暮れと同じような空気ととても似ているから。
相手は轟くん、半分だけしか個性を使わないとはいえそれでもここまで上がってきた人だ、私も半分程度しか使っていないけれども半分しか使っていないのと半分しか使えないのとでは大きく違う。
『お前らもっと盛り上がれぇぇぇぇええええええ!!!!やってきたぞ!ついにきた!正直決勝より盛り上がっているんじゃねぇかこのカ――――――――ド!!!!強いよ強すぎるよ、君!このまま頂点をつかみ取るか!?ヒーロー科、轟 焦凍!!!! VS規格外、予想外想定外!いったい何者なんだよ!?それに可愛すぎるぜ!頂点まで駆け上がるか!? 普通科 時尾 花架琉!!!!』
私たちはゆっくりと階段を上る、轟くんも私もゆっくり踏みしめるようにゆっくりとリングに上る、轟くんはもう殺気立ってはいない、覚悟も憎しみも戸惑いも全部混じって何が何だか分からなくなっているのだろう。
けれども戦うことを諦めた普通科の凡人共とは決定的に違う、信念を秘めた眼だ、半分の力でやれるだけやってみると言っていた言葉は嘘ではない。
轟くんは一回戦瀬呂くんは一撃で、緑谷くんとはもう、私の語彙力じゃ説明できない……なんかすごい規模と威力のぶつかり合いで勝っていた、使っていた2つの個性であれほどまでの人間兵器を演じるとは全く大したものだ。
まぁそこは置いといて轟くんは最初に大抵個性を放ち速攻、そして規模と強さにものを言わせた個性で仕留めにかかる、おおよそ瀬呂くんの時の規模が最大級、それを私につかってくるかどうかが問題だ。
私が轟くんであれば、大して情報のない相手に対して一撃必殺を使うのは愚策だ、もしかしたら何かがあるかもしれない、よってこれは却下。
次に考えられるのは緑谷くんとの戦いでの規模、一撃を狙いつつ最小限の威力、が一番堅実か、あの時少なくともあの威力で10回程度攻撃していたし、私相手にはあれほどまでの威力を使わなくとも仕留められる。
緑谷くんはハイリスクハイリターンの超パワーを持っていたためにあの規模ではあったけれど当然私はそんなの持ち合わせていない、でも確証がない、とするのならば最初は緑谷くんの時と同じ規模だと考えるのが妥当だろう。
そしてその後は最小限で私を行動不能にさえすればあっちの勝ち、氷で捕縛することは可能だけれど押し出すことは無理なようだ、飯田くんとの戦いのときに私は結果としてだけれども接近戦を制したために踏み込んでは来ないと思う。
最初が肝心、あの氷結をどう攻略するか、していくかが第一関門。
『それでは…………始めっ!!!!』
やはり来た、先制攻撃。
ピキキキキ、と氷ってこんな音がするんだなという余計な感想を抱えつつ私は左前方に思いっきり走り出した、よーいの時点で何回かピョンピョン跳ねていたために始めの合図がかかった瞬間に動き出すことに成功、しかし私が予想していたよりも轟くんの出す氷の規模が大きい。
速さも上から見るのと実際に目の前で見るのとでは大きく違う、反応できないわけではないけれども対応が出来ない、為すがままに、轟くんの出す氷にあっという間に体半分が覆われた。完全にとらえたと判断したのか顔以外を残して全身を凍らされる。
もしもし、あなたは誰ですか?という表現は可愛いく現実はそんな可愛いものではないけれどそんな私を試すような攻撃。
走って前に来ていたために轟くんとの距離はほんの5メートルにも満たない、伸ばした手が空しく凍てつかされ彼に届くことは無かった。
「受け攻め色々想定したが……それは悪手だろ」
確かに、身動きは取れない。このままいけば戦闘続行不可能とみなされて私の負けが確定する、けれどもミッドナイトの私を見る目はまだやれるでしょう?というあまりにも呆気なさすぎる終わり方を望んでいない風だった。
会場はあれほどまでに熱気に覆われていたのに今は少しざわついているだけで静かになっている。
おいおい、轟くんの氷が冷たいからって静かになるなって、まだ私は戦える、負けも宣告されていないしそう悲観的になるのは止めていただきたい。
轟くんが私に少しだけ失望したかのような言葉を、それはないだろうとため息交じりについた言葉のすぐ後に、私はテレポートを使い氷軽々と脱出してみせる、しかし轟くんは特に驚いた様子もなく腕を振り上げて私の行く末を止めようと割と大きめの氷の塔を生成して今度は完璧に仕留めにかかる、そのくらい気迫のこもった攻撃だったし垣間見えた眼は真剣そのものだ。
個性と向き合って、色々なことがわかった、それは認識の違いでもあるし木を見て森を見ていなかったのもあるし、ありのままを受け入れていなかったからでもあるけれど、ともかくひとつひとつの対話……私の中にあるそれぞれの何かに問いかけるとイメージで何かを伝えようとしてくれる。
そしてテレポートに関しては、結構面白い事実を知ることになる。
この移動は座標移動、しかし条件付きではあるけれども3回連続での移動が可能であることが判明した、移動距離が延びるとかそういうものではなくて判断力がものをいう確かに扱いづらいピーキーな能力だけれども……私なら未来を予想することが出来る。
x軸、y軸、z軸の3方向への動きならば一回ずつ連続で、2.5mの範囲内ならば動くことが可能になった。
瞬時に視点が変わりこのまま突っ込むか否かの判断に駆られるけれども判断をする時間はあまりない、とっさの反応で轟くんは私から見て左から右へ腕を跳ね上げる。
私はさっき縦と高さ、つまりy軸、z軸を一回移動、残りの横への移動が一回残されている状態で轟くんは腕を振り上げて軸はy、zの方向への氷結、残ったx軸の動きとは相性がいい、未来予想を発動しつつテレポートで右側へ抜ける。
私から見て右側……轟くんの左側に向かって移動が成功、つまり私の移動個所に何もなかったことを意味する、正常に移動が成功したため一気に空中浮揚を軽く(気分が悪くならない程度に)使って体を軽量化、そのままの勢いで右足のハイキックを頭に目掛けて叩き込んだ。
しかしこれは打ち抜いた感触ではなく止められた重く痛い感触、ヤバい結構痛い。
脛のあたりを肘に当てられた、当ててくんなよ!せめて腕で受けようよ、私女の子なんだから!
そうは言っても轟くんは「俺は男女差別しないから……」とか目を逸らしながら言うんだろうけど。
とにかく鈍痛が襲う前に足を戻しつつ腰の全く入っていないパンチを左側に、叩き込む。
普通の人ならば避けているだろう、しかし攻撃した左側、つまり轟くんにとっての右側は立ち入り禁止の危険領域。
案の定、拳を凍らされる、触れただけだったから肘のあたりまでしか……って触れただけなのにこんなに凍らせれるの!?ちょっと待て、強すぎないですかねぇ?
なんて感想はともかく腰の入っていない攻撃で轟くんと接触をしたのは2つの理由がある、一つ目は毎度毎度お世話になっている未来観測の条件を満たすため、これがないと私はここに立つ事は出来なかったとても大事な力の一つだ。
そしてもう一つ、二つ目の理由は轟くんと対戦するにあたって決定的な何かが足りない私の穴を埋めるための仮説検証の意味合いが大きい。
絶対領域は使いどころを考えなければ決勝まで持たない、出し惜しみするつもりはないけれども無暗に乱発するのは避けたい能力である、私の中で切り札になっているこの能力は守りでなく攻撃に使いたい、決定力というものがない私にようやく手に入った強力なものを適材適所で使いたいというのが本心。
使い方もまだよく分かっていなくて体への負担が大きい、非常にリスキーで正直あと1回か2回使えば……というよりかはそれくらいしか使えないと考えている、いくら体力があっても体の状態が万全でもあの蝕んでくる感覚からは逃れられない、前にはハイリスクハイリターンと称したがそうではなく超ハイリスク超ハイリターンの力、体力や精神力といったものではなく命そのものを削られる感覚にはあらがえない。
話はそれたけれども私が検証したかった一つの疑念、恒温維持が通用するのかどうかという事、だからわざわざ無理な体勢からの無理な攻撃を当てに行って腕を差し出したのだ。
まぁこうやってつらつらといろんな考えをまとめている状況なんだけど、実際問題結構ヤバめなんだよねぇ。
「お前の個性が瞬間移動だってことは分かった、それ以外にももう一つくらいあると思うが最初の俺の攻撃を避けたのもその個性だろう、それが座標移動なのか入れ替わりなのか俺には見当がつかない、だからこうした」
私の周りには雪まつり開くんですか?とでも言わんばかりに氷が周囲を囲っている、上下左右氷で覆われていて私も顔以外は埋められていた。
あの後、攻撃?をしたあと一目散に背を向けて逃げたわけだけれどもあっさりと捕まった、腰を入れてないパンチはほとんど逃げ腰で放っていたから蛇行すれば何とか逃げれると踏んでいたのに量にものを言わせて捕まえに来た。
「口も目も鼻も耳もまだ動く、勿論やれるよ」
「いや……絶体絶命じゃねぇか」
失敬な!まだ戦えるって、本当に。
轟くんの氷を私の恒温維持で対処できるかどうか、という問題だが結論としては問題ない。
むしろ相性が良すぎて困っているくらいだ、轟くんの氷はある一定の温度になると気化するために一瞬で溶ける、地面から、接触している場所から生成される氷は恐くはない、もし空中とかから飛んでくるのであれば対処しようがなかったけれども未来予測だけでも対処可能。
ちょっと相性が良すぎて使うのを躊躇しているくらいだ、轟くんを全否定するようなものだし。
『時尾さん、まだやれる?』
「あ~はいはい、全然大丈夫です!」
「そこからどう動くんだ?もう詰みだ、諦めろ」
『いや、轟くんの言う通り全く大丈夫には見えないんだけど……10秒数える間にその氷から抜け出さなければ行動不能と判断します』
ったく、轟くんを疑ってないんだから、まぁ私は弱い、だから色んな小細工を許してもらいたい。
「はいはい、わかりましたー」
体が抜け出せる分は氷を解かせる、しかしそれでは派手さに欠ける。
先生が10秒間数える間、私は神経を研ぎ澄ませ出来るだけ広い範囲で使えるように模索する、先生のコールに釣られて観客がカウントダウンを始める、ふと見上げると信者たちが死にそうな顔で手を目の前に合わせ祈っていた。
すっごく怖いんですけど。
ともかく準備完了、あとは1まで待機っと。
『4・3……2…………1』
「いいことを教えてあげようか、轟くん」
恒温維持を発動、一瞬にして氷を解かす、どちらかといえば一瞬にして消えてしまう、消滅という表現が一番合っているかもしれない、霧散する、跡形もなく私を縛る枷は消えていった。
冷気だけが霧のようにフィールドを覆っている、さぞ幻想的な景色になっていると思う、神秘的で幻想的な雰囲気だ、その輪の中心にいる私は綺麗だなと、こんな時にもかかわらず思ってしまった。
これからは仮説は正解、検証も問題なし、これからは心を鬼にして弱点を徹底的に突く。
「私に勝ちたいんだったら、場外に弾き出すか殺すつもりで来ないと」
「お前は一体、何なんだ……!?」
お前は一体何なんだ、か。
分からない、だから探し始めた、けれどもまだ見つかってない。
しかし、答えるとするのならば
「時尾 花架琉。雄英高校普通科1年、何の変哲もない超人社会に埋没した器用貧乏な超能力者、かな」
ふざけるな、と轟くんは悪態をつく。
でも、私はこの力を……確かに個性ではあるが相対的には超能力だと思っている。
超能力とは、通常の人間にはできないことを実現できる特殊な能力のこと。今日の科学では合理的に説明できない超自然な能力を指すための名称だ、超人社会のなかで埋没はしているもののこれだけ多くの力を使いこなしているのは私しかいないだろう。
戦闘において、左側は使わない、ならば右側が使えなくなった時、忌み嫌っている個性しか使えない場合轟くんはどうするのだろうか?
個性だけでなく判断力も身体能力も優れている轟くん相手に私は小細工を使って互角の状態に引き戻せた、これからは精神と気持ちの削り合いで意地の張り合い、鬩ぎ合い。
「半分の力しか使わないで勝つ?やれるものならやってみろ」
半分の力、右側の氷の個性は使えない、忌み嫌っていた左側しか選択肢がない中、轟くんは確かに、でもどこか納得したように笑っていた。
「超能力といっていたが、それは個性だろ?お前にも俺の氷を消せる量には限度があるはずだ、確かに今はあらがう術はねぇ。けど俺が右側でお前のそれを上回ればいいだけの事だ、半分の力で勝つ、その言葉は曲げねぇ、だから時尾……全力でかかってこい!」
全く、カッコ良すぎるぜ轟くん。