運命よ、そこをどけ。   作:明鏡止水

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時尾花架琉は希う

 

 

 

 体が熱い、頭も痛いし吐き気もする、脳をかきむしられたような嫌な感触が残った体の力をも奪い私の体はまるで他の誰かの体みたいに自分の意思では動かせない、そういえば飯田くんと決着をつけた後もこんなんだったっけ。

 

 そんな自分の事ながらどこか客観的にみている自分がいた。

 

 私を支えていた強い芯のような何かは抜け去ってしまい、取り繕うことのできない本当の弱い自分がむき出しになっていた、その理由は多分この痛みに耐える力なんて残っていないからだと思う。

 

 あの時は歯を食いしばってまだ意識の手綱を握る力があったけれども、今の私にはそんな余力なんて残されていない、剥がされた鍍金は一部がはがれてしまうともう元には戻らない。

 

 突然、急に視界が変化し、聞いたこともないような鈍い音が丁度左頬から聞こえて嫌な感触のようなものがある気もするけど、何が何だか分からない。

 

 体を動かす力はもうほとんどなくて脳は軋み心臓は馬鹿みたいに飛び跳ねている。

 

 あと一つ、届かないまま終わっちゃうのか。

 

 何ならここで本当に終わっても、それはそれで私は記憶に残り続けられる、私が生きていた証を刻むことが出来る、それならもう…………。

 

 そんな気持ちと共に体の大事な何かが抜け出していくような気がした、生暖かい何かが顔に触れるけれどもそんなのはもう些細なことだ。

 

 何かがやばい、そんなことを頭の片隅でも考えることなんて出来ずに、何度目かの意識消失に何の抵抗もなく引きずられていった。

 

 

 

 意識が戻ると、声が聞こえた。

 

 声は聞こえたものの内容を把握するまでには意識が回復していない、騒がしいのまではわかるけれどそれ以外は何も分からない。

 

 とにかく戻った意識を手放さないように今にもまた深く眠りに落ちそうな状況をなまりのように重たい瞼を開くことで阻止する、天井は何度か見たおなじみの出張保健室、聞こえてくる声はリカバリーガールと誰だ……?聞いたことのあるような男の人の声だけれど私の検索結果に結局その声は引っかからなかった。

 

 まずは意識をある程度覚醒させないと体も動かせない、話の内容ももうそろそろ聞き取れるまでに回復はしているだろう。

 

「……は………ね!」

 

「しか……か……じ……に…………です」

 

「あん………の……ることが………のかい!?い……に……ることなんだよ!」

 

「わたし……、けれども…………は……ないのです!だから……て、あと10…………まって……」

 

「あ……でおきら………わけ……だろ!ほんと……らすぐに……もせいみつけん…………だってのに!」

 

 なにやらとても大事なことを話しているようだ、騒がしいというのは間違いである程度聴覚の戻った今でははっきりとわかる。

 

 これは怒鳴り合っているわけでもなくて私に気を使いながら精一杯小さな声で主張をぶつけ合っているだけだと。

 

「やぁ!目が覚めたかい?」

 

 えっと…………鼠?でも喋って……あぁ校長か。

 

 確かこの学校は超知能を持つ動物が経営しているんだった、皮肉な話だなぁ。

 

 というかこの鼠は人間に散々いじくりまわされて臓器や脳の何%かを提供してようやく自由を勝ち取ったみたいな紹介がされていたけれども人間に復讐するつもりはないのだろうか?もしかしたら、私が最初なのか?

 

「私、美味しくないですよ?」

 

「うん!何でそんな回答が出てきたのか僕の優れた頭脳を使ってもろくでもない答えしか出てこないけれど僕は君が想像しているようなことは考えていないよ、まぁとりあえず驚異的な回復力だね!折れた頬骨も修復してるし、運ばれてきた時よりもずっと元気そうだ、全く君の体は不思議だねぇ。行くとこに行けばいい実験体になれるよ、それはそうと「運ばれて、来た?……っ!!!そういえば決勝は!?時間は!?」

 

 ぼーっとしていた頭がようやく回転を始める、やっと火がついて通常運転にまでは至らないけれども最低限のことは考えることが出来た。

 

 轟くんとやり合って勝ったのは覚えている、しかし、絶対領域を使った後の独特の後遺症が出た後で何とか自分の足で保健室に向かおうと思ったのまでは覚えているけれど、あくまで考えただけでその後何をしたのかなんて全く覚えていない。

 

 ただ、ほんの僅かな達成感が胸の中を満たしているのが腹立たしくて仕方がなかった、体の不調に伴って弱い部分がみっともなく剥がれ出てきたのだろう。

 

 急いで体を起こそうと試みるもそれよりも想定外の疲労感と今にも発火しそうな体温に驚いて数瞬体が動いてはくれなかった、左側を見ると2本ほどの管が腕に繋がっていてまぁある程度自分の状態の把握は出来た。

 

 先ほど発した声はどうやら声にはなってなかったらしく、私は鼠が何やらせわしく話しているのを無視してベッドから起き上がった、点滴の針を抜くのは恐いからなんか吊るされている棒をもってひとまず外に出る。

 

 静かに開けたつもりのカーテンは思いの外大きな音を立てて開き、頭がまだ通常回転していない私にもわかるほどに空気が凍てついたのを感じ取った。

 

「「…………」」

 

「あの、リカバリーガールと……がいこ……そう、スリムな人。死人を見るような眼で私を見るの止めてもらえますか?」

 

「いや……あり得ないよよそんな事、だってあんたは……」

 

「何ですかその死にかけの人を見るような目は?残念ですけど何とか天に召される前に戻ってこれましたよ、まぁ普通に目が覚めただけなんですけど」

 

「何はともあれ、私は意見を変えるつもりはないよ。時尾花架琉悪いことは言わない、あんたを私は決勝に送り出すことなんて出来ないよ、たとえどんな事情があろうともね」

 

「えっと、そこの凄くスリムな黄色いスーツを着た人。貴方はどうしてリカバリーガールと揉めていたの?」

 

「それは「それは私が本部にドクターストップを言い渡すのを必死に止めていたからさ」」

 

 なるほど、決勝戦まではまだ時間があるのか。

 

 いや~よかった、寝ていて不戦敗だなんて絶対いやだったから。

 

 念のため確認しておこう。

 

「……まだ連絡は伝わってないんですよね?」

 

「雄英の生徒ならこの状況から推測できるだろう?」

 

 なんでそんな棘があるいい方されなければいけないんだろう?確かに体は重いし頭もまだ働いていない、体も燃えるように熱いけれど今更それがどうしたという話だ。

 

「すいません、まだ頭がちゃんと回転してないので。でも良かった、本部に通達されていたらそれこそ私は死んでいましたから」

 

 死んでいた、その言葉にリカバリーガールは一層怪訝そうな表情を見せた。

 

「私はあんたの戦い方を、傷付き様を、見て来たよ、今日一日ずっとね。このまま頑張れば、あんたは確実に死ぬまでその頑張りを止めないだろう。何に駆り立てられているのか、何に囚われているのかは全くわからない、だけどリカバリーガールとしてあんただけは絶対にもうこれ以上の無茶はさせれない。……一教師としてもね、この男と校長があんたの肩を持つのにも私は理解できないよ」

 

 睨まれた二人の男は(正確には男性と雄?)気持ち小さくなっているような印象を受けたけれどもそんなことはどうでもいい、なんでこの二人が私の肩を持つのかはわからないけれどこの二人のおかげで私の首の皮が繋がったのは間違いないのだから。

 

 分かってもらえなくてもいい、けれども私は言葉を伝える必要がある、ここまで来た道のりを確かめる意味でも、自分に薄っぺらい鍍金を張る意味でも。

 

「今あるもの全部捨ててでも、手に入れたい何かはありますか?それを手に入れるためならば、自分の命を差し出してでも手に入れたい何かを見つけたことはありますか?」

 

 そうだ、私は何をしてでもこの体育祭で頂点を獲りたいんだった。

 

 ここまで来たからもういいなんて甘い思考を一切許してはならない、自分の願いを確固たる現実にするために心を強く持ち直せ。

 

「……哲学を語っている余裕はないよ、オールマイトそこをどきな。本部に連絡する」

 

「しかし!」

 

 黄色いスーツの骸骨が必死に食い下がる、しかし私の言葉を聞いてただでさえ堅い意志が更に強固なものになったような気がする。

 

「しかしじゃないよ」

 

「まぁまぁ、リカバリーガール少し話をしようじゃないか」

 

「長話に付き合っている暇はないよ」

 

 打つ手はただ一つしかない。

 

「リカバリーガール」

 

 私は受話器に手をかけるリカバリーガールの肩を掴んでこちらを振り向かせ声を掛けた。

 

 これは、願いだ。

 

 空っぽの私がようやくスタートラインに立つための最後の試練のようなものかもしれない、勿論勝ちたいけれど相手が相手だ、けれども勝敗が決まったわけではない。

 

 だから私は進まなければならない、大事なものを投げ捨てようやく見つけた道なのだから。

 

「言っておくけど、私は何を言われようとも気を変えるつもりはないよ」

 

 懇願しようと伸ばした手は叩き落とされた、だが精神干渉を発動させる条件は整った。

 

 伝わってくるリカバリーガールの意思はとてつもなく堅い、本当に私が何かを言ったところで何かが変わるわけではないだろう。

 

 それでも私は、今日が欲しい。

 

 今日を生きて、しっかりと足跡を残し、進んでいきたい。

 

 その邪魔をするなら、誰であろうともそこをどけ。

 

「私の進む道を止めないでくれませんか?」

 

 確証はない、昔使ってみて人間相手には効かなかったことがある。

 

 思い出したのは黒歴史で肌寒い思いがするけれども今は懐かしく恥ずかしい思い出が突然として思い出される。

 

 けれども何故か上手くいく気がした、それは私が捻じ曲げる……上書きするものが実験要素を含んだ軽いものではなく、何をしてでも叶えたい私の願いそのものなのだから。

 

 

 

 

「あ゛!?何でここに?……ってここ2のほうか!クソがッ!」

 

 デジャヴ、または既視感とも言う。

 

 ぎりぎりまで保健室で直接的な栄養補給とあの二人と少し話をさせて貰ったけれども時間が10分を切ったのでもたつく足で何とか控室に辿り着くことが出来た。

 

 そして机に突っ伏して最後の仮眠をとろうとしたとき、勢いよくドアがけ破られ、なんと懐かしい来客がやってきたのだった、もっともこの前来訪したのは爆豪くんでなくて私の方だったけれども。

 

「ていうか赤女、お前体の方は大丈夫なのか?」

 

 え、心配?あの爆豪くんが!?

 

 君ってそういうキャラだったっけ?

 

「どうして?心配なんてらしくないじゃん」

 

 もっとも私は彼の事なんてほとんど全く知らないんだけれど、正直もっと過激な人を予想していた。

 

 満身創痍の体で俺の前に立つんじゃねぇ!とか本気出せねぇんだったらやる意味ねェんだよ!とかそういった類の言葉を全力投球してくるのかと思ったのに。

 

「大丈夫かって聞いてんだよ」

 

「……確かに君が心配するように満身創痍、体は燃えるように熱いし頭はボヤーっとしている、意識を保っているだけで精一杯だし体のあちこちは今まで蓄積されたダメージでどうにかなりそうだ」

 

「…………」

 

「躓いて転んだだけでも暫く起き上がれない可能性だってある、なんなら今すぐにでも目を閉じれば暫く泥のように眠ってしまうかもしれない、つまり……ベストコンディションだよ、安心しな爆豪くん」

 

「……なら全力でぶっ殺しに行っても問題ねぇな」

 

 ははは、いいねそういうの。

 

 死に物狂いでここまで来た凡才の少女に天災が一切の油断もなく本気で潰しに来る、私が最も期待していた光景だ。

 

 いつものように狂気じみた笑顔を浮かべるのでもなく、かといって睨みつけるわけでもなく、何とも微妙な表情を私に見せて爆豪くんは背中を見せた。

 

 まぁ間違って控え室に入ってきたわけだし自分のところに戻らないといけないからね。

 

「ねぇ、私が言ったこと覚えている?体育祭が始まる前にA組の前で言った言葉」

 

 その背中に私はさらに言葉を投げかける。

 

 どこかやるせない、私がここまで上がってきたことは認めているけれども既に死に体の私との決勝、おそらく自分の勝利が見えているけれど相手は全力を出すことが難しい状態、全力で戦ったとしてもその全力は本来の力全てでない可能性が高い。

 

 けれどもそんなのいいわけだって両方とも分かっている、ここまで上がってきたら互いにベストコンディションでやり合うのは難しいのは分かっている、しかも相手は普通科で自分が倒したかった奴らを破ってきたやつだ。

 

 それなりの疲労やダメージは溜まっているのは分かっている、全力で戦う意思も見えている、だがそれは本当に相手を完膚なきまでに叩きのめしたことになるのだろうか。

 

 そんな懸念があるのだろう。

 

「『頂点もぎ取る』ってやつか?」

 

「そそ、現実になったね」

 

「そうだな」

 

「爆豪くん、私に勝ってもその一位に納得できないって思ってる?客観的にみてここまで上がったことだけでも賞賛され、満身創痍で今にも倒れそうな女の子を倒したところでそれが価値のある一位だと思ってる?思ってないでしょ」

 

 図星をついたのか爆豪くんの足が止まった、ドアにかけた手は心なしか力が入っているようにも見える、きっと色々な思いが渦巻いているのだろう。

 

「さァな、内容次第だろ」

 

 そうは言っているけれど私には本心で言っているようにも見えない、もし私と爆豪くんが逆の立場であれば、この時点で完全な一位は諦めてせめてここまで上がってきた対戦相手に敬意を払って全力で戦った勝つことだけが決勝をやる意味だ。

 

 そう思っているから今の爆豪君には燃えるような闘争心はない。

 

 せっかくの最後だ、言わば私の最後の最高で至高の舞台だ、それなのに相手がしみったれていたのでは話にならない。

 

「安心しなよ、だって一位を獲るのは私だから。大したやる気もないやつなんかに絶対一位は渡さない、勝手に勝った気になって自己完結すんな馬鹿野郎!」

 

「んだとてめェ!」

 

「ま、一位は私が獲るから関係ないけど。表彰式私を見上げて悔しがるのが今の君にはお似合いだよ!」

 

「ああ゛そうかよ!らしくない心配なんてして損したわ!本ッ気で叩き潰しに行くから覚悟しとけよ赤女!」

 

「時尾花架琉!名前くらいちゃんと言え!」

 

「うるせえ!!……マジでどうなっても知らねェぞ」

 

「そっちこそ公共電波で醜態さらさないように気を付けて」

 

 私たちはしばらく睨みあってその後声は出なかったけれども不敵に笑いあって爆豪くんは自分の控え室に戻っていった、

 

 限界なんて遠の昔に超えている、リカバリーガールは必死で私を止めてきて(能力でどうにか捻じ曲げたけど)私は気付かないふりをしていたけれども自分の体のことは自分が一番分かっている。

 

 怖くないといえば嘘だ、この先どうなるか未来があるかなんて本当にわからないし最悪今日で私は幕を閉じるかもしれない、それでもそれ以上に自分の願いを叶えられない方が嫌だった。

 

 私は、どうしようもなく愚かで馬鹿だ。

 

 こんな事よりも大事なもの、大事なことは沢山見つけることが出来たのにそれを見ないふりして自分の願いを優先してしまっているエゴイストだ、だからこそ自分の行動には責任をとらなければならない。

 

 結果という目に見える形で。

 

 無茶なのは分かっている、無謀なのもわかっている。

 

 だけど……だから、あと少しだけ、せめて爆豪くんと戦い終わるまでは私の体……もってくれ。

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ勿体ない」

 

「もっと馴染ませて使えば長く持ったかもしれないのに」

 

「これじゃあすぐ使い物にならなくなるよ」

 

「ずっと拒絶したものを一日で順応させれるわけがないじゃないか」

 

「でも、まぁ仕方ない」

 

「それが君の決めた道なら僕は見守るしかないからね」

 

「しかと見届けよう」

 

「君の選んだ道の果てを」

 

 

 

 

 

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