運命よ、そこをどけ。   作:明鏡止水

18 / 21
頂上決戦 VS爆豪勝己 ROUND2

 

 

 3

 爆豪勝己は焦っていた、予想すらしなかった不可視の攻撃で急所を強打され体の自由を奪われた挙句ガソリンをかけられたことによって個性が封じられた。

 

 久しく味わったことのない種類の違う痛みに爆豪勝己は悶絶していた、予想以上に動きが鈍い時尾花架琉の攻撃にもうまく対処できずに更には個性も封じられた彼の頭の中は怒りを通り越して冷静になっていた。

 

 心は熱く、頭は冷静に……もっとも彼の場合心の中は怒りの業火によって埋め尽くされているが。

 

 そんな中、確かに爆豪勝己は時尾花架琉を評価していた。

 

―どういうからくりでここまで勝ち上がってきたかわからねェが実際戦り合ってみてよく理解った。純粋に戦闘センスが高けェ、こんなにふらつきながら俺に対する攻撃は的確、かつ効果的。

 流石に最初の金的は予想していなかったがそれ以上にガソリンをかけてきたのは驚いた、確かに想定はしていたが実際にやれるのはいいとこ育ちくらいだと考えていたが想像以上にきつい……ッたく俺が何やったってんだよクソが!!

 

 まだ残る下腹部の鈍痛に悶えながらも爆豪勝己は最善を尽くす、だがどんな対策をしたところで時尾花架琉は見通している、反射神経と反応速度が良すぎるがために時尾花架琉に有利に状況が動いていく。

 

 加えて決して速くはない動きと爆豪勝己自身の股間へのダメージが相まって互いにちょうどいい感じの速度になってしまっていた、しかしふらつく体で攻撃をしている時尾花架琉と急な痛みにより急な状況に対応しなければならない爆豪克己とでは時尾花架琉に些か軍配が上がる。

 

時間が経過すれば有利になるのは爆豪勝己だが金的の及ぼす影響は本人が思う以上に甚大であった、本来であれば数十秒地べたに這いつくばっていてもおかしくはない状況だ。

 

痛みと興奮と怒り、そして勝ちへの欲望が爆豪克己を奮い立たせている。

 

超人的なタフネス、勝ちへの強い意志でどうにか2本の足で立ち時尾花架琉の攻撃を防いでいるものの攻撃にまで回す余裕はない。

 

時尾花架琉も同様に攻撃こそ当てていて凶器を使っているからこそ何とか爆豪勝己にダメージは与えているが予想以上に踏ん張りがきかずに腰の入っていない攻撃を繰り返すたびに歯噛みして悔しがっていた。

 

精一杯の無酸素攻撃、本気でやっているそれは他から見ればじゃれているのではないかと思うほど足取りはおぼつかなくその姿は見ていて痛々しかった。

 

時折見せる座標移動と渾身の力を振り絞った打撃が爆豪勝己に確かに痛みを蓄えさせる、爆豪勝己にようやく下腹部の鈍痛以外の体の痛みを知覚できるようになるころには確実に、その猛攻は体をジワジワと蝕んでいた。

 

だがそれ以上に、無理を強いた特攻は爆豪勝己以上に時尾花架琉の体を苦しめる。

 

 ベストコンディションの時であれば大した影響を与えなかったのであろうが時尾花架琉の体は既に限界を超えている、脳内麻薬の分泌、気持ちの高ぶり、生存本能による痛覚の遮断により無理やり体を動かしていた状況から更に無酸素運動による体の酷使。

 

―あれ……何で目の前に地面があるのかな?

 

 糸の切れた人形のように立った状態から綺麗に膝を折る、細い腕で支えようと試みるも上手くいかずに遂には首を垂れたまま動くことが出来なかった。

 

 ここで爆豪勝己もしゃがみこんで下腹部の鈍痛から回復を図った、端から見ればこれまでの展開地味としか表現できないがモニターに映し出される互いの表情から派手さに欠けるもどれだけ厳しい戦いなのか窺えた。

 

 時尾花架琉は青ざめた顔と死人のように白い肌、焦点が合わず充血しており血走った眼だけは迫力があるものの、表情筋を動かす余力もない能面のような表情が一層その眼を際立たせた、誰かがもういいよと悲痛な声を上げる、もう十分だとそんな労いの声が飛び交った。

 

―何がもういいだ、諦めろって?ふざけんな……まだやれる、やれるから這い蹲ってんじゃねーよ

 

幸か不幸かその声援が時尾花架琉を再び動かした、その姿が更に大衆の感情を動かすがその歓声は彼女の中で確かな力になっていた、声援という形ではなく怒りという形で。

 

 労いという形の声援は時尾花架琉を奮い立たせる、過程などどうでもいい彼女にとって今までの軌跡に対して放たれた言葉など意味をなさない、逆にそうさせてしまっている自分自身が情けなく不甲斐ない自分に対しての怒りで立ち上がった。

 

 一方爆豪勝己はいつもは釣りあげている目を極限まで見開きクソがぁぁぁあああと叫びながら内股で立ち上がる、その様子を見てヒーロー科の面々は一部を除いて下を向き笑いをこらえていた。

 

―痛ェ、クソ!!クソが!!!ふつう狙ってくるか!?いや、急所への攻撃は警戒を怠った俺が悪い。それよりも今あいつが倒れている間に終わらせる。認めるしかねェ、もしあいつが万全の状態だったらもう決着はついていた、だが状況は違う。今は、現時点では…………

 

「時尾花架琉、そのままでいいからよく聞けや……」

 

膝に手をつきながらどうにかして立っている時尾花架琉に爆豪勝己は語りかけた、爆豪勝己の方も下腹部の鈍痛は残っているもののある程度普通に動けるほどにまで回復していた。

 

 だからこそ時尾花架琉には爆豪勝己の行動が、話しかけてくるという行為が理解できなかった、本来であればこの大きな隙を見逃すはずがない、時尾花架琉が分析した結果では爆豪勝己は相手の弱点を突くのが上手い、だから弱点や隙は見逃さない筈だった。

 

「はっ、寝言は寝て言えっつーんだよ!この隙を逃すなんて馬鹿じゃないの?」

 

 だからこそこの状況を受け入れられずに口調を強めて言い返す、動けるならば殴りかかってやりたいがそれも出来ない、私情も交えた怒りを含めて叫ぶ。

 

「ベストコンディションじゃないお前を倒しても意味無ェと思っていた、けど認めてやる……テメェの方が俺より強ぇ!!」

 

 会話のキャッチボールなんて成り立ってなどいない、だが爆豪勝己の言葉には嘘はなかった、成立などしていないけれど互いに言葉は受け取っている、だから時尾花架琉は覚悟を決めた。

 

「そりゃあ、どうも」

 

―明日なんていらないだなんて思いながらこの期に及んで明日を望んでこの後の事考えている。やっぱ怖い、でもやっぱり……これしかないなぁ。

 

 時尾花架琉の表情が変わった、空気が変わった。

 

 その貌は恐怖と悲しみが入り混じった笑顔で、儚く、脆く、何より綺麗に咲いていた。

 

 

 

4

 

 

「でも……そんなに過大評価すると足元掬われるよ。ねぇ爆豪くん、聞こえているこの声援」

 

 踏み込むのに勇気がいる、口と頭では思っていても実際そうなると怖い。

 

 知らず知らずの内にそうなっていったり、不治の病とかどうしようもない要因なら諦めもつくっちゃあつくけどさ……。

 

「お前が主役で俺はヒールってことか、でもなァ知ってるか?……一番スゲェヒーローは 最後に必ず勝つんだぜ」

 

 私に出来ることは私の中にある何かを架け合わせることだけだ、でも今回ばかりは賭けなければならない。

 

 ベットは私の命、勿論惜しみなくオールイン。

 

 この数分間に私の時間全部賭ける。

 

 その代償は重いけれど効果は絶大、皮膚の下に虫が這っているような嫌な感覚が全身を襲う、体の感覚が無くなる、宙を浮いているような浮遊感、倦怠感や疲労感なんて嘘のように消え去った。

 

 ヤバいのは私が一番よく分かっている、でも今なら本当に壊れてしまうまで動くことが出来る、今までは痛みや脳の体を守ろうとする枷で倒れたり意識跳んだりしてたけど色々と越えたおかげでぶっ飛んだからかもしれない。

 

 絶対領域……常時発動、調整が利かない広範囲じゃなくてあくまで自分の周り最小限に止める、これで体の不自由はなくなった、思い通りに……いやそれ以上に体が動く!気がする。

 

 感覚なんてどこかへ飛んで行ってしまったようだ、今は本当に絶好調。

 

 アポートで鉄扇を両手に移動させる、個性が使えない以上爆豪くんは素の身体能力の身で戦うことになる、私が使える借りものの力を全部使っておそらく同等レベル、もしくはそれ以上。

 

 絶対領域を使っているうちは念動力は使えない(私が思うに念動力や他のものの組み合わせによるものだと思うから)ために最初にやってみせた奇襲は通用しない、この状況で使えるのはこの力のみ、未来観測も未来予測も使えないけれども私だけが違う時の中を動けるこの力であれば未来予測の下位互換程度の動体視力はあるはず。

 

 これで攻守ともにある程度自由に戦いをコントロールできる、戦況はまだ私に分がある、このまま優位を保って勝ち切れたら私の勝ち、もし勝つまでに私の体がもたなければ爆豪くんの勝ち。

 

 いいね、わかりやすくて。

 

「最後に勝つ、か。でも君にとってこれって別に最後じゃないでしょ?」

 

 私は、本当にこれが最後だ。

 

 一番凄いヒーローが最後に勝つらしいけれど、私の考えとしては最後に勝ったからヒーローと言われるのではないか、と思う。

 

 要は勝利が全て、勝ちさえすれば英雄だ、正義だ。

 

 どれだけ人を殺そうがどんな汚い手段を使おうが勝てばいい、歴史を見てもそれは証明されている。

 

 話はそれるけど、正攻法で市民を守っているヒーローの方たちは素晴らしいと思う、正々堂々、真正面からどんなことでもする相手に立ち向かい勝つのはそれなりの力と覚悟が必要だから。

 

 そんなヒーローに、それこそ本当に最高のヒーローに君ならなれるかもしれない。

 

 しかしそれは未来の話だ、今年だけで構わないから私に譲ってほしい……そんなことは言ったしても絶対に通じないから力ずくでもぎ取るつもりだけど。

 

 今現在本調子にも近い状態を無理やり手に入れたわけだけれども、どう考えても体がある程度動く状態というのを長時間維持できるとは思えない、全身の感覚がほとんどないのは事実、それでも喪失感というかそういう類のものは感じてしまう。

 

 徐々に魂抜かれてしまうとかちょっとスピリチュアルな感覚、私が内側から壊されていく感覚というものが確かにある、自分自身と他の何かとの境界線が取り払われていく感覚、もしこれが完全になくなってしまうと……多分もう、お終いだ。

 

 悠長なことはやっていられない、あと1分でこの戦いを終わらせる、爆豪くんも準備は出来ていそうだ、ならばさっさと始めよう。

 

 っとその前に一つ確認。

 

「ミッドナイト先生、爆豪くんが唐突に火達磨になったら私の勝ちでいいですか?」

 

「爆豪くんにかけた液体はまさか……」

 

「可燃性の液体ですよ、そこら辺に行けば100円ちょっとで1L買える代物です。とにかく爆豪くんが個性を使った瞬間彼は火達磨になります。嘘だと思うならそこにある液体を調べてください」

 

「……爆豪くん、彼女の言ってることは本当なの?」

 

「俺は火達磨になってもやんぞ」

 

「…………火だるまになったら流石に止めるわ」

 

 爆豪くんは火達磨になっても戦うと言うがあれは結構な可燃性を持ってる、使えるとしても最後の決め手として一回だけ、火だるまになったら止めるという言葉が本当であれば爆豪くんがいくら覚悟を決めようが決定打を貰わなければいいだけの話。

 

 ミッドナイト先生との話が終わり3秒ほど経過した、私達はその3秒間睨みあっていたけれど私には時間がないから攻めるしかない、短い時間のたった一回きりの勝機、短期決戦で、ここで決める。

 

 私は結局明日を求めていた、今日さえ生きれれば明日なんてなんてどうでもいいと言いながらも結局は大切なものを再び拾いに行くための明日が欲しいと思っている。

 

 全く、私という人間は強欲だなぁ。

 

 大切なものを捨ててきた、拾いたいと思っているけれどそれに気づくのにはこの決意を実行したからだ、故に私の選んだ道は正解でなくとも間違いではなかった、だからもう十分……。

 

 さぁ私の命の灯火よ、燃え尽きるまで暴れてくれ。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。