運命よ、そこをどけ。   作:明鏡止水

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時尾 花架琉

 

 いやな感じがした、そう思ったら頭に霧がかかったように何も考えられなくなった。体の支配権を奪われたとでもいうように知らないうちに体は動く、何か強制された力で動かされ私はされるがまま従う他出来ることなんて一切ない。

 

 そうしていくうちに頭の中にかかった霧はどんどん濃くなっていって怖くなった、自分がいなくなってしまいそうで、誰かに取って代わられてしまわれそうで。

 

「おい、早くそこに座れ」

 

 白昼堂々なんて命令をするんだ、私に何をさせる気なんだ?ナニをさせる気なのか!?

 

 その声がとどめを刺していたようで私の意識は完全にその霧に囚われた、何もできない、しようと思っても意味がなく立ち尽くすしかなかった、そのまま時を止められた。

 

 

 不意に手を引かれる、そこまで強くつかまれたわけではないのに状況についていくことが出来ず少し頭の中がこんがらがっていたのと恐怖で警戒していたのもあって条件反射的に手を引いてしまった。

 

 するとしばらく間をおいて指先のようなものが少しだけ私に触れた。

 

 大丈夫だから怖がらないで、とでも言いたげに優しくゆっくりと手を引かれた、けれども私にはそれとは別にお願いだからついてきてと強く訴えかけてくるようにも感じる。

 

 伝えたいことがあるとでも言いたげに、手を引かれて速度はどんどん早くなっていく、リズミカルに触れれる私の手を見て少しうれしくなった、きっとスキップしているのだろう、この子がこんなに喜んでいるのだなと思うと私も釣られて気持ちが躍る。

 

 霧がだんだん薄くなって視界もだいぶ開けているのに景色が見えないのに変わりはない、最初に気付いた小さな違和感は私の手を握る小さな手がほんのりと体温を持ち始めた時だった。

 

 初めは本当に怖かった、私は何に引っ張られているのだろうと考えると振り払いたくなった。

 

 けれどそこでどうして考えることが出来始めたのだろうとようやっと気づき、この手のぬくもりが初めてではなく不思議と思い出せそうで思い出せない懐かしさと感触だったからその正体について知りたくなった。

 

 次から次に興味が移るのは本当に困ったものだけれどこれは生き方なので仕方がない、探求心というのか好奇心というのかそういう類のものが私は今でも尽きないのだ。

 

 いやそれはそれで構わないけど、どういう訳か思い立ったらそうしないと気が済まなくなるという悪癖までついてしまっているのだから性質が悪い、もう少し自制心を持った大人に憧れているのだけれどこの分では少し厳しいかな。

 

 そのおかげで楽々悠々とこの雄英高校普通科に来ることが出来たのだけれど……別にそこまでは感謝していない、振り回されることの方が多いし自分の世界に入ってしまうあまり遊んでくれる友達なんてあんまりできなかったから。

 

 そんなこんなで考えているうちに辿り着いたのはメルヘンチックというか子供っぽいというか、そんなところ。

 

 いやよくよく見渡すと燃え盛る家があったり(……何で家?)大きな氷があったり朝があったり夜があったり夕方があったりと何を言っているのかきっとわからないだろうけれど本当に目の前にはそんな景色が広がっているのだ、カオスの権化だ。

 

「久しぶり!……と言いたいところだけどカケルはそうじゃないよね。こんばんは初めまして」

 

 不意にそんな声が聞こえた、目線を映す場所は不思議と体が知っていてその声の主に辿り着くまでそんなに時間はかからなかった、見たことあるようで見たことない、でもどこか懐かしくてそれがとてもうれしくて……私は痛いくらいに口角を引き上げて目からあふれる何かを止められないまま笑っていた。

 

 きっとその表情はくしゃくしゃになっていたのにも関わらず過去最大級の笑顔だったのだろうと直感的に思ってしまった。

 

 

 

 2

 

「こんばんはじゃないよ、今はこんにちは……なんでだろう、初めて会った気もするけれど、すごくたくさんあった気もする。久しぶり、だよね?」

 

「何回かあったことはあるけどこんにちはって初めてだなぁ、今日は特別な日だよ!やったね!」

 

 バンザーイと朗らかにぴょんぴょんと跳ねる、年相応にはしゃぐ姿は見ていて微笑ましい、ただ少し気になるのはなんでこの子がこんなところにいるのか、つまりなぜ私の中にこの子が存在するのかという事だ、私の幻覚、幻聴の類の可能性はどうだろうか。

 

「また幻覚幻聴の類とでも思っているんでしょ?感動的な再会はしてくれるのにいつもいつも疑り深いんだから」

 

 私自身の心の反映か、まぁここに来た経緯を含めてそれもありうるか。

 

 まぁ面白半分で確認しとこうか、この子が一体何者なのか。

 

「君は一体何なの?っていうつもりでしょ?」

 

「え、なんでわかったの!?」

 

「毎回このくだりだもん、分かっているから」

 

 驚いた、これは信じてみてもよさそうだ。

 

 けど、状況が状況ここに長居するのもなんだし今考える力が戻っているうちに戻してもらわないと。

 

 時間がないと言うのは分かっている、もしかしたら向こうに意識が戻った時にはこのことを覚えていないのかもしれない、懐かしいような初めてのような歯の奥に何かが詰まっている小さな違和感のようなものが私にそのことを感じさせていた。

 

「そうなんだ、多分いつもの私ならもう少し疑ったりすると思うのだけれど何分今回は時間がないの、貴女には積もる話もあるのだろうけど早速本題に入らせてもらう」

 

 すると目の前の女の子は、大きく目を見開いて唖然とした表情を浮かべた。

 

 しかし私はためらわずに質問を投げかけた、こんな状況信じるに値しない、あの男の個性かもしれないし迂闊に動けないけど今はそれでも自分の中にもどかしく残る種火のような僅かな心残りにかけてみたかった。

 

「あなたは誰で、何なの?」

 

 私が今知りたいことの全てを簡潔に表した短い問いかけだった。

 

 その少女の顔は驚きから急にご機嫌になり、何かを懐かしむような表情を見せながら再び満面の笑みを浮かべてこういった。

 

「私はあなた、でも私は私」

 

 

 

  ………………はい?

 

 

 

「まぁ説明すると長くなるしいくらでも話しちゃうから大事なことだけ説明するよ、カケルが超能力だと思っている力はうすうす気づいているんじゃないかなって思うんだけど個性なんだよ」

 

 そうだ、個性は身体機能の一部。

 

 だから次々発生する特殊な現象を裏付けるには個性だなんてくくりにすべきではなかったのだ、しかし目の前の少女はそれらすべての現象をひっくるめて個性という、さっきとは打って変わり真剣な表情でどことなく哀愁を漂わせながら。

 

「それじゃあ答え合わせも兼ねたディスカッションを少ししようか……最初に異変に気付いたのは何時だったか覚えている?」

 

「確か小学校、3年のときくらい」

 

「気付いたときの前後に何か大きな出来事はあったんじゃない?」

 

「半年くらい病院に入院していた、気がする。でもあんまり思い出せない」

 

「そうだよね、まぁ……そのくらいは当然やるか」

 

「何の話?」

 

「いや、なんでもないよ。じゃあ個性を発現してから何か自分の中で変化とかは無かった?」

 

「わからない」

 

 わからない、この会話が何を意味するのか、少女が結局何であるのかもこの空間が何であるのかも何もかもが意味不明で摩訶不思議、頭の中にクエスチョンマークが絶えない。

 

「じゃあ質問を変えましょう、どうして自分の個性をそうでないと思ったのかな?」

 

「それは、発現したものが一つじゃなかったから」

 

「でもその力はノーリスクで使えるわけじゃないよね?」

 

「でも個性が複数あるなんて前例がない、二つ三つならともかく二桁に迫りそうなのに交じりもせずに存在するなんてありえない」

 

「それは誰が決めたのかな?前例がないだけでそれが正しいとは限らないのに」

 

「…………」

 

「それにおかしいと思わなかった?急に個性の発現が起きるなんて、一度ではなく何度も何度も」

 

「この力たちは、私のものではないということ?」

 

「それは少し違うよ、カケルのものではない時期もあったけど今はカケルのもの。そこは間違えないでほしいな」

 

「だったら誰が、何のために?」

 

「何のために、は分からないけど、“誰が“はカケルも知っている筈……本題はそこじゃないから本筋に戻すけど、私はあなた、私は私。この言葉の意味がそろそろ分かったんじゃないかな?」

 

 そんなことはあり得ない、前例も科学的根拠も常識でもそんなことなんて叶わないのにそうだとしてもそんな法則なんて無視してこの現状を理解するために十分な仮説を立てればありえない話がいくらでも作れる。

 

「ありえない、そんなの絶対に」

 

 いつの間にか口に出ていた。

 

「私はあなた、だからカケルの考えていることもわかる。だけどそれもまた現実で可能性のある事象として受け入れることそれも大事なんだよ」

 

 まぁ真実なんて私にも分かんないけど、と彼女は意地悪く唇を歪ませて付け加えた。

 

 その少女と会話を重ねるうちに、少女との別れが近づいているのが分かっていた、幾度となく繰り返している、記憶は覚えていないけど精神は覚えている。

 

 それがどういう事なのか、何を意味するのか。

 

「そっか、だから私は」

 

「そんなことは言わないで、カケルが今もそうやって皆の個性を使えるってことはカケルのためにしてくれたことなんだから、そうでなければカケルは今頃物言わぬ植物人間になっていたんだよ?」

 

 マジか、植物人間になるかならないかの綱渡りずっとしていたのか……

 

「そんな引きつった顔をしない!まぁカケルには何か特別なものがあるのかもしれないけどそうならなくてよかったじゃん」

 

 よくねぇよ、よく無事だったな。

 

 おなかを抱えてゲラゲラと転がる愛くるしい姿は毒気を抜かれる、小悪魔というか憎むに憎めない可愛い子だ。

 

 だから、この子に会えて本当にうれしいのにこの出来事全部がとても悲しい、こんなに可愛く愛くるしい少女との思い出はここから出れば無くなってしまうのだから。

 

「私の思いがカケルに伝わればいいのに、カケルからはよくても私からはダメなんだよね。そんなに多くは伝えられないから必要最低限だけ伝えておくね、私の個性は回復!再生とかは出来ないけどある一定量のダメージなら体力を使って回復することが出来るよ、使い過ぎには気を付けて!ほらカケルはすぐに無理するから、いつも一人で抱え込んでそれなのに自分を信用、信頼していないんだから」

 

「……大丈夫、きちんと信じるから。私の中の貴方達を、あなたたちの個性を」

 

「そういう事じゃないんだけど、まぁいっか!……最後に一つこれからもしかしたら凄く悪いことに巻き込まれたり酷い目にあったりするかもしれない、でもどんなことが起こっても諦めたりしないで、自分だけで解決しようとしないで」

 

「それはどういうこと?……心配しているの?忠告しているの?それとも脅しているの?」

 

「経験からくる予測ってやつかな、私こう見えてもカケルよりか年上なんだよ。精神年齢という点ではね、だいたいこんな異常事態に巻き込まれているんだからカケルだって何かがおかしいとは思っているでしょう?私もそんなによくは覚えていないけどとっても怖い思いをしてカケルの中に来たんだよ」

 

「そうなのね……確かに心のどこかでずっとどこか怯えて暮らしていたわ、こんなに目立とうだなんて思ったのも最後の思い出作りみたいなもの。でもあなたたちに出会えたことは感謝している、きっとこの後は覚えていないだろうけど」

 

「それは悲しいなぁ」

 

 そういってその少女と顔を見合わせながら思いっきり笑った後、華奢で強く握りしめたら折れそうな細い体を強く、強く抱きしめた。

 

 この子たちの個性を奪って自分のものにしていくくらいなら私の存在なんていらなかったのはないか、こうやって何回も同じことをしているのに目の前で起きたこと全部すぐにぼやけて消えていく。

 

 きっと繰り返すたびに後悔して、忘れている。

 

 忘れないように心に誓っても私は覚えていないのだ。

 

 だから、最後くらいは

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 謝罪ではなく感謝で終えるのが私に出来る最大限できっと彼女の立場に私が立っていてもそうして欲しいだろうと思うから。

 

 

 

 

 

 記憶のほとんどなかった騎馬戦では私に個性をかけてきた男の子が思いのほか頑張ってくれたおかげもあってか上位4組に難なく食い込んで私の描いた図とは少し違うけれど結果的には同じ光景が描かれた。

 

 お礼くらいは言っておこう。

 

「とりあえずありがとうと言っておこうかしら、あんたのおかげで消耗することは無くトーナメントに出られたんだから」

 

「そうかい、じゃあがんばれよ」

 

「ええ、そうするわ」

 

「っ!待て、何でお前!?」

 

「さあ?効かなくて残念だったわね」

 

 そういえば思い出した、あの時宣戦布告をした普通科の生徒『心操』くんだったはず、おそらく個性は精神干渉の系統だ。

 

 そうであれば対処法は自ずと見えてくる、精神干渉系の能力は基本的に早い者勝ち、だから自己暗示をかけていれば少しくらいなら大丈夫、もちろんレベルが違い過ぎるのでその気になられれば効かないのだが。

 

 騎馬戦は終盤ぎりぎりまでほとんどと言っていいほど記憶がない、何かにぶつかったような強い衝撃が解除となるトリガーになったが逆に私が精神干渉能力を展開さえしておけばそれは相殺され防ぐことが可能だ。

 

 酷使し赤く充血し傷ついたはずの体の治し方をなぜか私は知っていた、新しく能力が増えるのは本当に久しぶりの事だったがありがたい能力が増えたのは幸運だろう。

 

 擦り傷や打撲を体の中にあるエネルギー、カロリーを使い少しづつ直していく。

 

 確かに便利な力だけれどどっと疲れが押し寄せた、何とか競技場への出入り口に到達する事は出来たが思わずお尻をついて壁にもたれかかる。

 

 少し休んで階段を上ろうとしたけれどどういう訳か二重にも三重にもぶれて見えるものだからもう一回座りなおした、今度は何故か胸が苦しくなって嗚咽が漏れる、理由なんてないのに悲しいことなんてないのにどうしてここまで歯を食いしばっているんだろう。

 

 不定期に啜る鼻に塩辛い液体が入って痛い、目を開けるけど今度は全然前が見えなくて歯を食いしばるのをやめたら叫んでしまいそうだった。

 

 新しい能力が発現できて目標へずっと近づいたのにどうしてこんなにも心が苦しいんだろう、何にこんなに怯えているのだろうか。

 

 思い出したいのに思い出せない、心当たりすらもないのに感情の濁流は止まることなんて知らずに次から次へと溢れ出てくる。

 

 気丈に振る舞い続けてはねのけていた恐怖が体の自由を奪い私は丸くなって自分自身を抱きしめている、日の光が入らず薄暗い影の中で私は呪文のように「ありがとう」と「ごめんなさい」を繰り返し続けていた。

 

「頑張って」と聞こえたのは、きっと気のせいなのだろう。 

 

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