本選開始までは余興やら一般生徒のまぁ……悪く言えば本選前の前座という事だろう、どういう訳かヒーロー科の女の子達がチアリーダーの格好で踊っていたのは謎ではあったけれども私の自分の能力とコンディションを確認するには必要な時間である。
能力の限界はまだ猶予がありそうでうれしい誤算の内に入る、知らない間に手に入った機能再生のような能力のおかげで目の方は何とかまだ使えそうだ。
「にしても……凄い量食べているけどお腹は大丈夫なの?」
「ん?あー、大丈夫じゃない?それよりもっとカロリー取りたいから何かしら買ってきてくれない?お金は渡すから」
「こんなに食べてその体はずるいでしょ……同じ高1とは思えないよ」
「何か言った?」
「何も……」
比較的仲がいいクラスの子がこうやってサポートしてくれているものだからほんの少しだけではあるけれど楽にはなっている。
これからヒーロー科の猛者たちと戦うとなると先が心配ではあるけれど、勝敗が戦闘不能と判断された場合か、指定された範囲から出てしまえば負けという事らしいので基本的な戦術は変わらない。
私の全部を彼ら、彼女らは知らないし、私はヒーロー科の人達は本選に出場するであろう人達に大体の目星はつけていたため対策は万全だ、後は組み合わせの問題だけれど、そういえば私はあの後何故か目が開けられなくなってしまったために見れてはいない。
棄権する人が出て少し組み合わせは変わったらしいけれども私は気にする間もなく栄養補給に入ったために未だに組み合わせを見ていないのだ。
とはいってもここ雄英高校体育祭は近代オリンピックに代わるイベントなためスマートフォンさえ見れば組み合わせは容易にわかる、ひとまず今周りにある食べ物は胃の中に収めたのでとりあえず見てみることにしよう。
……………………なるほど、なるほど。
オッケー、上等、かかってこい。
予想していた通りとまではいかないけど想定内の範疇だ。
出来れば、あわよくば轟君と爆豪君は潰し合いをしてほしかったけれど学校側もそうはしないか、セミファイナルが一番面白いとよく言うのに決勝を面白くさせようとする采配には恐れ入る、偶然であれば面白いけどそれは無いだろう。
いづれにしても彼らはきっと上がってくる。
どちらにせよ……避けては通れない道だ、轟君も爆豪君もその他の皆も私より数段上なのだ、最近敵との実戦、言わば命を懸けた戦いを経験したのなら尚の事。
能力と個性という点で大きな差があるし、更に経験が重なれば厳しい戦いになる。
それを分かったうえでこの戦いに身を投じたはずだ、今更怖気づいてどうする、もう引き返さないと決めただろう、引き返す道なんていらないと決心してこの勝負に臨んだのに……この寒気と震えはどういうことだ?
考えている暇じゃない、今は体を休めることに集中しなければ勝てる戦いを落としかねない、先ずは飯田君。
そして、芦戸さんと青山君のどちらかの勝者でおそらく次は……轟君。
緑谷君には悪いけれど勝ち上がってくるのは轟君だろう、VTRを見たところ緑谷君の個性は非常に大きいリスクを伴なっている。
それこそ使えば一発で使用箇所がボロボロに破壊されてしまうほどに負担が大きい、もし仮に緑谷君が轟君に勝ったら嬉しすぎる誤算ではある、なんだって私ですら満身創痍の緑谷君に勝つことなんて造作もないのだから。
先を見据えるのもいいけれど足元を見ないと不味い、思ってもいない能力が土壇場で、しかもほしくて仕方のないものが手札に入って浮足立っているのかも。
初戦の相手、彼の持ち味は速さと身体能力の高さ、そして奥の手を隠しているところだ。
加速以外にも使い方はあるはずだ、間違った使い方という名の奥の手が、何にせよ私にも同じようなことが出来る限り、全部の能力とまではいかないが負担のかかる多重発動をするかもしれない。
それとさっき気付いたことではあるが私の未来観測……ほんの少し先の未来を見る能力は便利で精神干渉の副作用でもある感情の感受性が敏感になる効果を使えばより正確性を増すためこう呼んでいるけれども、見えるからと言っても避けられる訳ではない。
未来観測を使えばコマ送りをしたような感覚に陥ってどんな攻撃でも避けれそうな気がしたけど私自身の身体能力はその時間に合わせて向上するはずもなかった、詰まるところ見えたとしても避けれないものは避けられない。
しかも解除した後は直ぐに元の時間の流れが流れるのではなく徐々に戻っていく、乃ち痛みも継続するという事だ。
使う時と場合を選ばないと肉体にも精神にも負担がかかる諸刃の剣、使いどころを見誤れば死に直結する可能性もあるのかもしれない、どんどん進化ならぬ深化していく能力は便利かつ危険なものへと成ってゆく。
ハイリスクローリターンから超ハイリスクハイリターンへと変わった能力にうまく付き合わなければならない、私は私の存在を示すためにここにいる。
普通科の落ちこぼれが熾烈な競争を潜り抜けエリート共を蹴散らして頂点を取れば歴史と記憶に私は残る、その後のことは何も考えてはいないけれど私という存在を示す、という強迫観念が私をつき動かしていた。
会場の熱気は驚くほどに冷めている、時刻は2時過ぎて一番熱い頃合いなのにも関わらずに今か今かとその熱は影を潜めているようにも思える。
負けたくないんじゃない、負けられないんだ。
私は自分を落ち着かせるように一文字に縛られた唇を歪ませた。