Chap.1
血のような、火のような
零れて、揺れる
涙と、怒り
<祭り>5年前、霊夢10歳、
1、人間の里、神社境内、霖之助と三珠
霖「10年前、君が戦火の中から救い出し、今日まで共に暮らし育ててきたあの子が、霊夢が人間の里で笑って友達と遊んでいる。これは君が望んだ未来かい?」
三「そうね。妖怪大戦争の時よりはいくらか平和になった里と山だけれど、後に続くあの子たちが笑顔でいられることは幸せよ」
霖「三珠、君が起こした大地震で戦争は喧嘩両成敗で仲裁された。だけどその損害は計り知れず君は身を隠した。人知れず生きてきたはずなのに、こうやって里の豊穣祭にお忍びで顔を出し、あまつさえ君の1人娘は祭りを楽しんでいる。僕の師匠の愛娘、魔理沙とね。これは理想的な結末だと僕は思うよ」
三「やれることはやった。でもまだ足りないの。人間と妖怪の絆はまだ結ばれていない。紫が作った理想郷には、まだやり様がある。戦争を終わらせて、人間と妖怪との仲持に自分の人生を懸けたとしても、私が望んだ結末は、まだ先にある、そう感じるの」
霖「巫女の勘ってやつかい?」
三「傲慢かもしれないわね」
霖「博麗の巫女の大活躍のおかげで、確かに八雲の理想郷は治安と健全さを取り戻しつつある。僕が自分の店を建てられたのがその証拠だよ。商売は平和の証さ」
三「香霖堂、霖之助さんのお店、完成したら私も行きたいわ」
霖「霧雨店からは睨まれているけどね。僕が魔理沙と仲良くしていることも含めて、ね」
三「霊夢も連れていくわ。あの子も行きたがっていたから。10歳にもなると好奇心も旺盛よ」
霖「霊夢と魔理沙、同い年の少女二人と、店を持った僕と、巫女の任に就く君とで、…互いを良く知る4人で、一緒に生きていけたら、まるで家族みたいに、幸せなんだろうな」
三「人間と妖怪が共に生きる理想郷、その時が来たら、きっと実現するわ」
2、屋台並木、霊夢と魔理沙
魔「待てよ!霊夢~!」
霊「あはは!魔理沙も飛べばいいのに~!」
魔「くっそう!魔法使いになれたら箒を使って追いついてやるのに!」
霊「そんなの無くても私は地面から浮けちゃうんだよ~」
魔「金魚すくいでも水風船でも霊夢が勝って私の負け…悔しい!」
霊「魔理沙は動きが硬いのよ~ほら、秋の神様の踊りだよ~」
霊「でっかい桜の木!」
魔「花が無いのに桜なのか?」
霊「ここまで登っておいで~」
魔「こうなったら意地でもよじ登ってやる……」
3、再戦危機、霊魔霖三、秋静葉と秋穣子、人間たち、少年
ヒュルルル・・・(何か飛んでくる音)
三「あら、何の音かしら?」
霖「花火じゃないかな。もうすぐ打ち上げるって…」
・・・ドガアン!(爆裂音)
霊「きゃあああ!」
魔「霊夢!大丈夫か!」
霊「あ、ありがとう、魔理沙、いきなり屋台が爆発してびっくりして落ちちゃった」
魔「良かった、怪我はないみたい。でもいったい何が…」
霖「魔理沙!霊夢!無事か!怪我は!?」
三「霖之助さん、二人とも大丈夫みたい。それより今はここから離れないと」
霊「母さん!霖之助!」
霖「さんを付けろとあれほど…今は良い、魔理沙、僕は霧雨店の方を見てくる。三珠と霊夢と一緒に逃げてくれるか?」
魔「な、何が起きているんだ???」
三「この爆発は事故じゃない。妖怪の山から人間の里に向けた攻撃よ。大砲を使った遠距離砲撃。それも特大の弾丸を飛ばせる戦争の道具を使っている。魔理沙ちゃんのお父さんとお家で働いているみんなが無事かどうか、今から霖之助さんが確認してくるから、霊夢と魔理沙ちゃんと私とで、博麗神社まで逃げるの」
霊「母さん逃げるの!?戦わないの?」
三「霊夢と魔理沙ちゃんを安全なところまで避難させてから、母さんは山に向かうわ。事の次第を突き止めてやる」
霖「さあ、魔理沙、三珠と霊夢と三人で行ってくれ」
魔「三珠姉ちゃん、妖怪の山、怖くない?」
三「私だって本当は泣き虫で弱虫よ?1人の女の子ですもの。だけど霖之助さんや霊夢や魔理沙ちゃん、みんながいるから、戦えるの」
魔「戦うためには、逃げることも必要ってこと?」
三「そうね。そういうこと」
霖「さあ、霊夢も」
霊「母さん」
三「どうしたの?霊夢」
霊「何か飛んでくる」
三「え?」
ドガアン!(再度爆裂音)
霖「間一髪ってところか!?」
三「霊夢が居なかったら全員三途の川を渡っていたわ!私の結界が間に合ってよかった!」
魔「霊夢すげえ」
霊「飛んでくる音が聞こえただけ。母さん、魔理沙、逃げよう!」
三「ありがと、霊夢。霖之助さん、また後で」
霖「うん。分かっている。君たちも気を付けて。三珠、死ぬなよ」
霊「人間の里が、燃えている」
三「これから魔法の森沿いを抜けて一気に博麗神社まで戻るわ。あそこが一番安全だから」
魔「やっぱ、三珠姉ちゃんの方が霊夢より飛ぶの速いな」
霊「べーっだ。魔理沙はそもそも飛べないじゃん!」
魔「なんだと!」
三「こらっ、二人とも、あんまり喧嘩していると閻魔様の…」
田と森の境
静「人間ども、貴様ら、私の妹に手を出して無傷で済むと、本気でそう思っているのか?」
人1「うるせえ!秋静葉!妖怪の山からの砲撃なら、報復は人間ならざる魑魅魍魎に向けるのが筋だろう!お前らは豊作の神だがなんだか知らねえが、農民じゃねえ俺達からしてみれば妖怪と変わんねえ!」
静「お前らが神と妖怪の区別も付かないほど信仰心がない不届き者であることは理解した。人ならざる我々へ向ける敵意も、10年前から何も進歩していない怠け様もな」
人2「里の祭りに先に火を放ったのはお前らだ!俺はあの混乱の中で恋人を亡くした!彼女を殺した妖怪も、暴れる奴らを放置した神も、俺は許してない!今この場でお前の妹、秋穣子を処刑する!使う道具は農民の鍬や鎌だ!」
三「これはマズイ」
霊「母さん、これって人間と妖怪の戦争がまた始まっちゃうんじゃ」
魔「そうなったらやばくないか?」
三「ええ、分かっているわ二人とも。あなたたち二人が生まれた頃に、私は妖怪大戦争に終止符を打った。再戦はさせない、絶対に」
霊「それで私たちはここに隠れていればいい?」
三「森の中なら見つからないわ。人間も神様も気が立っているから、博麗の巫女が両者の怒りを鎮めなければならない。この理想郷の平和を守るために必要なことよ、そしていつかあなたが受け継ぐ役目、知っているわね霊夢」
霊「うん!」
魔「…三珠姉ちゃん、巫女さん以外が異変の解決屋になるのは、だめ?」
三「うーん、だめってことはないけど危ないし怪我もするし悲しいこともあるし、大変な仕事だから、お姉さん個人としてはおススメはできないわね、魔理沙ちゃん、霊夢の手伝いをしてくれることは嬉しいけど、自分のやりたいことは自分で見つけなさいね」
魔「…わかった!」
三「二人とも良い子ね。戦争の解決かあ…10年ぶりだわ」
穣「ね、姉さん…静葉…!私の責任です…私が油断したから…こうなってしまったの…姉さんまで表に出ないで…この人たちは私が説得してみせますから…事を荒立てないで…」
人3「黙れ、小娘!神だが知らんが今のお前は人質、立派な交渉道具だ」
静「諦めろ、妹よ。人間はお前のことを道具だと罵った下に見て虐げた。故にこれは信仰の崩壊、人間と神との絆の欠落の証だ。今一度、神への恐れを人間に知らしめろと、時が来たと、天の声がそう高らかに叫んでいる。田と森の境、里と山、私の怒りを今この場で、燃える色の森と共に開放してみせよう」
人1「な、なんだ!?魔法の森が赤く…紅葉か!?」
人2「い、いや違う!紅葉なんてものじゃない。まるで木々が、全ての葉が燃えるような赤色だ!」
静「妹が、穣子が傷つけられた怒りで森の精霊たちが怒りに燃えている。お前たちの慢心を焦げ炭に変える魔力の炎だ。今更後悔しても、お前たちは超えてはならない一線を超え、入ってはならない領域に入ってしまった、既にもう遅いのだ。人間ども、お前たちは見るに50はいるだろうか…だがこちらの精霊の数は、その一千倍だ」
人1「何も考え無しで突っ込んできたと思うな!霧雨の術式を使った障壁武具だ!」
静「ふん、人間どもの抵抗ごときがどこまで続くのか興味がある、私の精霊の火炎に耐えてみろ!」
三「止めなさい。秋静葉。あなたは神々の中でも穏健派だったはずだ。しかし今のあなたはまるで過激派の妖怪と変わらない。自らの狂気に呑まれて人々に害をなす神に堕ちるなら、博麗の巫女の手で滅するのみよ」
静「博麗三珠…お前が起こした大地震の名残りを私は、私の精霊たちは忘れていないぞ。森の大地を割られた禍根を、木々の根を割かれた記憶を、魔法の森はしっかりと覚えている」
三「戦争を終わらせるのに必要なことだった。今のあなたは過去の自分が許した事実でさえ忘れ暴走している禍つ神。木々の傷は10年でも癒えないが、今日この日秋穣子を傷つけられ悲しみを負ったあなたの心だけは、せめて癒しを受け入れるに足る度量を持っていることを願うばかりだ」
静「神の度量を疑うなど、巫女にあるまじき蛮行だな。最も信仰に深く準じるべき人間が、敬い讃える存在の強さを信用しないとは」
三「理解に頂き、言葉もない」
少年「博麗の巫女…神様を言いくるめたって、俺はそうはいかないぞ」
静「お前は何者だ。少年」
少年「巫女は人間の味方か敵か。そんなの答えは決まっている。巫女は人間の敵だ、妖怪の味方だ。巫女が人間のために妖怪を根絶やしにさえすれば、俺は両親も兄弟も亡くして天涯孤独にならずに済んだ!どうして山に囲まれた人間の里以外で生きる術がないんだよ!どうして生まれたときから妖怪の恐怖に憑りつかれて怯えて暮らさないといけないんだよ!どうして俺は家族を妖怪に殺されたんだ!答えろよ!理想郷の巫女!」
三「あなたは、あなたの家族や友人は、運が悪かった。きっとあなたは、この理想郷で生きても、外の世界で生きても、同じ分だけ、不幸な人生を歩んでいた。家族のことは諦めて」
少年「…分かった。俺は俺の家族のことは諦める。…ただしお前の“家族”には執心してやるよ」
静「なっ」
三「霊夢!」
霊「こんのお!放せえ!」
人4「おら、ガキ、こっちだ」
魔「三珠姉さんごめん、こいつらがいきなり襲ってきて」
人5「減らず口を叩くな。霧雨さんのところの娘だから加減はしてやるが、暴れたらただじゃおかねえ」
人4「へへへ、巫女の娘だから飛べるらしいがなんだ?まだ全然へなちょこじゃないか」
霊「うっうるさい!」
魔「そうだ!霊夢はすげえんだぞ!」
三「霊夢!魔理沙ちゃん!口を閉じてなさい!」
霊「母さん…」
魔「ぐっ仕方ないぜ」
少年「どうだ?博麗三珠の娘、博麗霊夢が人質だ。巫女、お前に選択肢をやる。乗るか?」
静「三珠よ、耳を貸すな」
三「…一つ聞かせて。どうして人里にそんな拳銃があるの?」
少年「これか?これは魔界からの流れ物だそうだ。なんでも術式を破壊する術式を込めた弾丸を撃てるとか。良いモノだろ?」
三「なるほどね。いいわ。あなたが私に選択肢を与えると言うのなら、霊夢と魔理沙ちゃんの安全を保障するのなら、喜んで乗りましょう」
少年「ははは、乗っちまったなあ。言っちまうぞいいんだな?今この場で秋静葉を殺害するか、自分の娘を見捨てるか、どっちか選べ!どっちにしろお前は生き残る!秋静葉を殺したら秋穣子から一生恨まれて暮らせ!神殺しをためらい、自分の娘を見捨てたら、一生自責の念に駆られて苦しみの中で死ね!これが俺の家族を見殺しにした“理想郷”への復讐だ」
三「秋静葉、霊夢…安心して。二人とも死なないし傷つけさせない。約束するわ」
少年「何を言っている?お前がどちらか1人殺すことになるんだよ。秋の神様はお前自身の手で、次の巫女候補はお前の決断で俺の拳銃が殺すんだ。それ以外の選択肢なんてないんだよ」
三「霖之助さんには悪いことしちゃうわね。約束、守れないわ。…ところで大地を鎮める神を封印したらどうなると思う?」
少年「は?」
三「こうなるのよ。夢想封印!」
ドゴオ!グラグラグラ!(地震)
人1~5「うわあ!」
秋姉妹「きゃあ!」
少年「くそっ地震か!」
ダアン!(銃声)
三「霊夢!魔理沙ちゃん!」
魔「すっごい地震!これって三珠姉さんが…」
霊「母さん!後ろ!!!」
三「え?」
ダアン!(再度銃声)
グラグラグラ・・・(余震)
霊「母さん?」
魔「へ?三珠ねえ…」
三「かはっ…」
少年「この弾で俺の地面だけ揺れを止めたんだ、大地が安定したところで照準を合わせて撃つだけの簡単なこと……馬鹿な女だ」
三「霊夢…魔理沙ちゃん…逃げて…」
人1「巫女殺しだ」
人5「八雲の大妖怪が黙っちゃいない。まずいぞ」
穣「な、なんてことを…」
静「今更言葉もあるまい。再戦だ。巫女の息の根が尽きると同時に、それは開戦の合図だ」
霊「母さん?母さん?どうしたの?綺麗な巫女服が…真っ赤になっているよ」
三「霊夢…これはね…母さんの命の炎の色、赤く燃え上がる勇気の色よ…霊夢も好きでしょ?」
霊「うん、母さんの服、真っ赤な色だけど、暖かいから、好き」
三「でも霊夢、あなたがこの血の色に染まってはいけない、誰の血も見ないと、最後に見るのは母さんの血だと、約束して」
霊「うん、約束する。手も顔も母さんので血まみれだけど、私、誰の血も見ない、最後に見るのは母さんの血、…これでいい?」
三「霊夢は良い子ね、よくできました。母さんの自慢の娘よ」
魔「うえっ…ぐえっ…」
三「魔理沙ちゃんも、霊夢も、これからも涙を流すことはたくさんあるだろうけど、私も泣き虫で弱虫だったけど、男の子に負けない女の子になってね」
霊「母さん!」
魔「み、三珠姉さん!」
三「霊夢、あの少年を憎んだり恨んだりしないで……あんなに純粋な感情が込められた弾丸だもの……誰だって防げるわけないわ……秋静葉、私の名に免じて戦争は始めないで、八雲紫が起きてしまうから」
三「霖之助さん、ごめんなさいね…」
人2「里のご神木が焼け落ちたぞ!」
人4「大変だ、民家に火の気が回ったら大火事だ!」
人3「木は全部切り倒せ!風が強くて危険だ!」
<山>3年前、霊夢12歳
1、人間の里、あばら屋、小兎姫と霊夢、雨
小「大丈夫かな?確か山中を逃げ回っていて崖から落ちたんだって?里の人が山菜を取りに行っていたからすぐここまで運ばれてきたけど、妖怪どもから追われる今の君の身の上を考えたら、いつまでもここに長居することはできない」
霊「わかっているわ。母さんが死んでからはずっとこの調子だもの。神社を追われて寝る場所も食い物も奪われ、ゴミ捨て場や馬小屋を転々と逃げ続けてもう一年くらい経ったかしら」
小「…いつまでもここに居ていいんだと、言ってあげたいけど、これでも私は人間の里を取り締まり治安を守る警察だ。次期博麗の巫女1人の命よりも、8000人の人命の方を優先したい。酷なことを言うけど、君を匿うことは、今の理想郷において安全なことではないし、数百の家族を危険にさらすことはできない」
霊「こうやって隠れ家で怪我が治るまで看病してくれたことには、本当に感謝している。雨風がしのげるだけで嬉しいのよ」
小「君はまだ子供なのに逞しいね。…明日の夜、妖怪の山中腹、建設途中の風見の城を攻撃する、里の警察が一斉に武装蜂起する。妖怪による人間の統治開始を何としてでも食い止めるんだ」
霊「魔力が少し扱える程度の人間たちが束になってかかったって、妖怪たちには勝てっこないわ。返り討ちで皆殺しが目に見えている」
小「ははは、物騒な言葉を使う女の子だ。…理想郷が終わるのに、正義の味方が何もしないわけにはいかないからね?」
霊「私も飛べさえしたら参戦できるのに、巫女の力が使えるのなら小兎姫さん、あなたと一緒に戦えるのに、飛べない巫女で、ごめんなさい」
小「身寄りの宛てのない君を匿った程度で、そこまで恩を感じる必要もないんだよ?止まない雨はないんだ」
霊「あなたの名前は?」
小「私は小兎姫、正義を信じる少女だ。自分で言うのもなんだが。今夜はゆっくりお休み」
霊「明日までに、私が、博麗の巫女が、全部なんとかしてみせるから、母さんみたいに」
2、香霖堂、霖之助と霊夢
霊「霖之助さん、いる?」
霖「うおりゃ!捕まえたぞ!座敷童め!」
霊「汚いのは認めるけど、私!霊夢!」
霖「なんだ霊夢か脅かすな、というか久しぶりだな一年くらいか、というかどうしてここに来た、三珠が亡くなって以来君は確か妖怪たちに追われていたはずだ、なのにどうして」
霊「聞きたいことが山ほどあるのは知っているわ。でも今夜私が風見幽香を倒さないと人里の警察がみんな死んじゃうの。霖之助さん、力を貸してほしい」
霖「…人里の連中が一斉攻撃を仕掛けるってことなのか?」
霊「ええ。その前に風見の総大将を倒してしまえば、警察も動く必要がなくなる」
霖「待て霊夢。相手は理想郷でも最強と名高い大妖怪、風見幽香だ。それにお前に奴が倒せるならどうしてこの一年逃げ回っていた連絡しなかった僕に顔すら見せなかったんだ、三珠の忘れ形見の君を僕がどれだけ心配していたのか、それを考えようとはしなかったのか?」
霊「ごめんなさい、霖之助さん、でも今夜何も行動しなかったら私はきっと後悔するから、理想郷のためにできることをしたいのよ」
霖「血のつながりは無くとも親子か。じゃあ、これを持っていくと言い。名付けて座敷ワラジ。履いているだけで人の匂いは消えて妖怪扱いになる優れものだ。認知系の術式が組まれているんだとか…これさえあれば半分完成している城への侵入も容易いに違いない」
霊「やった!ありがとう霖之助さん!大好き!」
霖「…お代は出世払いでいい。それと最近僕から八卦炉という便利グッズをかっさらっていった泥棒が魔法の森に隠れ家を構えているんだが…って、っ行動が早い所も親子そっくりだ」
3、城建設中、霊夢、風見幽香とリグル、妖怪たち、少年、魔理沙、脱出
霊「辺り一面妖怪だらけね。だけど霖之助さんからもらったワラジのおかげで誰も私を博麗の巫女だと思わないのね」
妖1「おいそこのちっさいの!こっち来て柱立てるの手伝えよ!」
霊「えっ、あっ」
妖2「おい邪魔だチビ!丸太の下敷きになりたくなきゃとっとと地下の運搬班に回りな!」
霊「ち、地下?」
妖1「あん?なんだと赤鬼野郎!そのちっさいのは俺達の下っ端だ!勝手に配属変えていんじゃねえよ!」
妖2「こんな作業員入り乱れた現場で配属も担当もあるかってんだ!あんな非力そうなやつがここに居られても迷惑だから、親切に退かそうとしてやってんのに、文句があるとは頂けないな?青鬼風情が」
妖1「おう、やんのかこら」
妖2「望むところよ、久々に相撲ができるとなると血が騒ぐってもんだ」
霊「あっ、私、地下に行きます!」
妖1「おらあ!」
妖2「こいや!」
霊「物騒な建設現場すぎて疲れるわね…兎にも角にも城内部への潜入は成功ね」
リ「おやおや?こんなところでちびっ子が何をしているのかな?道にでも迷ったかな?」
霊「あっ、はい、私、ここの現場では新人なもんでして、どうやったら戻れますかね?」
リ「うーん、ちびっ子はちびっ子でも人間の、しかも博麗の巫女の娘と来たら、ここから戻るのは難しいんじゃないかな?ねえ、幽香?」
霊「なっ!」
風「そうねリグル、まだ蕾だけれどきっと美しい花を咲かせる素質をこの子は持っているわ。ここで引き返してとっとと帰ろうだなんて、せっかくの私のお花のコレクションに加わるチャンスをみすみす失うことになる…そんな大それたこと、しちゃいけないってことくらいわかるお年頃でしょう?」
霊「どうして、どうしてこのワラジがあるのに」
リ「それは下級妖怪にしか通用しないような術式しか組まれていない粗悪品だよ。どこで手に入れたかは知らないけど損な買い物だったね」
霊「霖之助さんめ!」
風「それで?花咲き乱れる前の儚いあなた、博麗霊夢がどういう用件で私の別荘建築用地に足を運んだのかしら?」
霊「母さんが死んでから好き放題やるようになったあんたに、風見幽香に殺される人たちをこれ以上増やさないためよ」
風「あははは!すごい!すごすぎる!まさに理想郷の調停者!私の独裁支配を邪魔する者の代表!…そしてイデアを理解しない呪われた土くれと同じ!」
霊「何を言っているかは知らないし知りたくもないけど、今日まで私がただ妖怪から逃げ回っていただけじゃないってことを、分からせてやるわ」
風「封印術式を練習していたんでしょう私の部下で実験しながら、知っているわよ?」
霊「本当にそうかしら?」
風「それもこれも、蕾のあなたをあたしの茨で優しく包み込んであげたら、…あなたのめしべまで花弁をむしれるかしら?」
霊「針術式!」
風「あなたは全然だめね。針に仕込むとは、工夫が凝っていて感心するけど、決定打に欠ける。パワー、強靭さ、腕力。基礎が固まってこそ光るのが応用力。」
霊「うわあ!」
風「だから、いともたやすく私の鞭に絡まってしまうのよ。修業が足りてないんじゃないかしら」
霊「これならどうよ!霊力解放!」
風「嫁入り前の乙女が自分の肌を傷つけるのはご法度よ。針で自傷行為、血から霊力を霧状に拡散とは、やっぱり感心しないわね。」
霊「目くらましを喰らっておいてよく動く舌ね!」
ガキン!(激突音)
風「あら残念。私の傘、折れないの」
霊「…母さんが死んだことに便乗してこの郷の乗っ取りを企てる悪い妖怪、風見幽香」
風「龍神の加護も失ったあなたには博麗の巫女の資格も、この郷の未来に口をはさむ権利もないわ。…あなたに残された未来は、私の秘密の花園で、飾られ閉ざされ阻まれ着せられ包まれ撫でられ抱かれ愛される、人形のような暮らしだけ。あなたは私の計画や理想郷の未来なんか放っておけばいいの、ただ鳥かごの中で飛べない鳥として生きていきなさい」
霊「…どうして、私を殺さないの?」
風「博麗霊夢、あなたに見せたいプレゼントがあるから」
リ「連れてきたよ、幽香」
少年「かはっ…離せよ、この昆虫もどきの親玉野郎」
風「あら威勢がいいこと。あなたにそっくりね、霊夢」
霊「そ、そいつは…」
風「そう、忘れるはずもないわよね。この少年こそ、2年前、あなたの母親、先代巫女博麗三珠に凶弾を放ち殺害した犯人。捕まえたはいいけど、非力で矮小で臆病で腰抜けで卑怯者だから仕方なく、使い道に困っていたところなの」
霊「な、何故よ。何故母さんの仇を、お前が、悪い妖怪が、私の前に連れてくるのよ…?」
風「あははは、自分で言っていて分からない?そんなの悪い妖怪だからに決まっているじゃない?あなたの中には復讐心という種がある。そんな憎悪や悲痛や殺意を全部解放してあげようと思って、用意した大サービス。さあ?受け取るかどうかは、あなたが決めるのよ」
霊「私が、決めていいの…?」
リ「あの時、君の母親を撃ち殺した拳銃だ。この少年にそれを向けて引き金を引きさえすれば、君は過去の自分を捨てて新しい君自身になれるよ」
霊「…これを使えば、新しい私に…?」
風「ええそうよ。花を開かせることは、とても素晴らしいことなの」
霊「素晴らしい…?母さんにも褒めてもらえるかな…」
風「きっと大喜びだわ。誰かを殺めて傷つけて取り返しがつかないことをしてしまえばね」
霊「母さんのために、母さんの仇を、母さんを殺した奴を、娘の私が、この手で…」
風「さあ、蕾の霊夢?世にも美しい花を、自分の手で、咲かせて見せて?」
魔「待った⁻―――――!」
ドガシャン!(ガラスを割る突撃音)
魔「そいつらの口車に乗るんじゃねえ!霊夢―――――!」
リ「侵入者だ!」
風「鼠がもう一匹紛れ込んでいたってことかしら」
霊「えっ、ま、りさ?」
魔「星屑煙幕!」
リ「ゲホゲホッ!」
魔「掴まれ霊夢!あたしだ!魔理沙だ!さっさとこんなところからはトンズラするんだぜ!」
霊「で、でも、母さんの仇を、私が」
パチン!(ビンタ)
魔「バカ霊夢!目え醒ませ!天国の三珠姉さんが泣くぞ!」
霊「じゃ、じゃあ、この拳銃はどうしたらいいのよ」
魔「そんなもん、こうするに決まってんだろ!マスタースパーク!」
(マスパ音)
魔「ついでにお前らも吹き飛べ!」
風「うふふ、いいわ私もその名前気に入った。差し詰め私の術式を盗んだってところかしら、マスタースパーク」
(マスパ音)
魔「逃げるぞ、霊夢!」
霊「待ってよ、魔理沙!」
リ「二人が逃げるよ、追わないの、幽香」
風「今日は疲れたわ。リグル、追跡が必要ならあなたの管轄でお願い。私はもう寝るの」
リ「ううん、僕も無理だ。さっきの煙に殺虫成分が混じっていたみたいで最低4時間は動けないよ」
4、魔理沙と霊夢、箒の上
ヒュウウ・・・(夜風)
魔「霊夢、夜風寒いか?」
霊「気持ちのいい風よ…魔理沙、飛べるようになったのね、私と反対に」
魔「箒で空を駆けるのは魔法使いだからな。最近は股も痛くないんだぜ?」
霊「…さっきはありがとう。助かったわ。心も体も」
魔「…本気で少年を殺そうとしていたのか?」
霊「…ええ、風見幽香は言っていた。私の中には復讐心という種があるって。それが花を開いてしまえば、誰かを殺めて傷つけて取り返しがつかないことをしてしまうって」
魔「そんな自分を怖いと思うか?」
霊「ええ、怖くて震えて情けないけど泣きそうなの。人間でも妖怪でもない、本物の化け物になってしまいそうで」
魔「…人間と妖怪が仲良く暮らそうと、曲がりなりにも試みられているのは世界中でもここくらいだ。過去には伝説の大陸でも同じ目標が立てられたらしいが……外の世界は人間の領土、反転した裏の魔界は妖怪の領土。外の世界には行ったことはないが、この2年間、あたしは魔界を旅していたんだ。つまり、今は故郷に帰省中ってことだな」
霊「…魔界へ?魔理沙が?1人で?」
魔「ああ1人だ。だがあたしは出会って1人じゃなくなった。三珠姉さんと同じくらいに尊敬できる師匠に、あたしは魔界で出会った」
霊「師匠?」
魔「その方が行っていた。自分を突き動かす原動力は、復讐心だと。世界を変えるのも、世界への復讐心だと。霊夢、お前の中に埋め込まれた種はまだ芽を出しちゃいない。あの少年のために、お前の花は咲くべきじゃない。もっと力を溜めればいいんだ。理想郷を変えるのも、理想郷への復讐心だぜ。なーんてな、あたしの師匠ならこう言うと思う」
霊「私、もっと力を溜めたい。理想郷を変えるために、風見幽香を倒すために…そして、そのために、あんたの師匠に出会ってみたい」
魔「一緒に来るか?」
霊「私を連れていけるの?」
魔「飛べない巫女を箒に乗せて、なんて洒落た状況滅多にない」
霊「幼馴染の魔法使いに攫われるなんてことも、ね」
※理想郷……人間と妖怪が共に暮らす日本のどこかにある固有の世界、何重かの結界で囲まれ理想郷側と外の世界である普通の日本や世界側とは分け隔てられている、魔界やその他多くの異界と物理的な地理関係を無視して繋がっている、常識と非常識な論理的な結界のおかげで外の世界で忘れ去られたりした妖怪や事物が自然と流れ着き定着している、理想郷内の人間の数に対して妖怪の数は数十倍から数百倍居る